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王様!ちょっと待ってください!~ネット小説の暴君王に、主婦のツッコミが届いてしまいました~  作者: だしのもと
最終章 ツッコミ主婦と暴君王、それぞれの世界を最後まで諦めません

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第28話 縋る夜

 謹慎中の部屋に、ノックの音が響いた。


 返事をする前に、扉が開く。

 立っていたのは、ガルドだった。

 以前とは違う、覚悟を決めた者の顔をしている。


「兄上……?」


 カリナは、寝台から身を起こした。

 今までこんな夜更けに、顔を見せることなどなかった。


「手短に話す」


 ガルドは、部屋の中に踏み込みもせず、扉のところに立ったまま言った。


「北国が、お前の身柄を要求してきた。七日以内に引き渡さなければ、開戦だそうだ」


 息が止まった。


「俺が、代わりに行く」


「――え?」


 カリナの声が、裏返った。


「何を、おっしゃって……」


「もう決めたことだ」


 取り付く島もない声だった。


「陛下にも話した。支度も始めている」


「待ってください!」


 カリナは、寝台から立ち上がった。


「私のせいで、兄上が――!」


「お前のせいじゃない」


 二度目の同じ言葉だった。

 だが今度は、それだけでは足りないと、カリナ自身が分かっていた。


「団長として、当然の判断をしただけだ」


「当然なわけがありません!」


 カリナは、初めて声を荒げた。


「捕虜になるということが、何を意味するか分かっていますか。北国が、兄上をどう扱うか!」


「......分かった上で行く」


 ガルドは、遮った。


「お前が姫の護衛になった時から、こうなる予感はあった。今さら驚くことじゃない」


「予感があったなら、なぜ止めてくれなかったんですか。私が申し出た時、なぜ――」


「止めれば、お前は納得したか?」


 カリナは、言葉に詰まった。

 答えは分かっていた。

 止められても、聞かなかっただろう。

 リディアを守ると決めたのは、自分自身の意志だった。


「……っ」


「それに免じて、今度は俺の我儘を通させろ」


 ガルドの声が、わずかに和らいだ。


「妹一人、守れなくてどうする」


 それだけ言うと、ガルドは背を向けた。


「兄上!」


 呼び止める声に、足だけが止まる。

 振り返らないまま、ガルドは言った。


「――達者でな」


 扉が閉まる。

 カリナは、その場に崩れ落ちた。


 ***


 謹慎は、ガルドの決定と同時に解かれていた。

 誰の温情かは、聞かずとも分かった。


 気づけば、執務室の扉の前に立っていた。


「陛下!!」


 扉を開け放つと、レオンが顔を上げた。

 驚いた様子はなかった。

 むしろ、来ることを分かっていたような目だった。


「カリナ……」


「兄上を、止めてください!」


 膝から崩れるように、カリナはその場に跪いた。


「お願いします! 兄の代わりに私が行きます。もともと、私が招いたことです。私が――」


「それは、できない」


 静かな、しかし揺るがない声だった。


「もう決まったことだ。ガルドが、自分の意志で選んだ」


「そんな……」


 カリナの目から、涙がこぼれた。


「私は、止めました。それなのに――」


「俺も、止めようとした」


 レオンは、カリナの前に膝をつき、目線を合わせた。


「だが、あいつの覚悟は、俺の言葉より固かった」


「陛下……」


「一つだけ、言えることがある」


 レオンの声に、静かな熱がこもった。


「ガルドは、お前を守るためだけに、行くわけじゃない」


「――え?」


 カリナが、顔を上げる。


「詳しくは、言えない。あいつの覚悟だからな」


 レオンは、それ以上を語らなかった。

 ただ、カリナの肩に、そっと手を置いた。


「必ず、取り戻す。お前の兄を……必ずだ」


 その言葉に、迷いはなかった。

 カリナは、何も答えられなかった。

 ただ、溢れる涙を拭うこともせず、レオンの言葉を、何度も心の中で繰り返していた。


 涙の乾く頃には、東の空が白み始めていた。


お読みくださりありがとうございます!

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