第2話 作家のクセを読め!③
―――現代・日本―――
「……すごい。本当に、リアルタイムで話してる」
スマホを握る手のひらに、汗が滲んでいた。
小説の中の人物と、会話が成立している。
夢でも、目の錯覚でもない。
ページを読み返すと、『謎の声』というワードと一緒に、自分が言ったままの台詞が本文に追加されていた。
「説明・共感・感謝」。
確かに、自分の言葉だ。
そして王様は、それを実行してみせた。
シグルにちゃんと説明して、感謝まで伝えて。
(……これ、私だ)
怖かった。
なのに、ちょっとだけ嬉しい自分がいた。
本文では、レオンが「名前は――」と尋ねかけたところで、シグルが戻ってきて途切れている。
次があるなら、間違いなく名前を聞かれる。
(現実の名前は、まずい。身バレでもしたら厄介だし)
匿名の呼び名がいる。
由奈は少し考えて、家族の頭文字を並べ替えた。
AKIRA、YUNA、KANAME、ASUKA――「KAYA」。
「カヤ、か。……うん、悪くない」
声に出すと、少しだけ気持ちが軽くなった。
(問題は、次ね......)
この作者のパターンなら、第三話は后候補イベント。
放っておけば、王様は三人まとめて傷つけるに違いない。
「……私が止めないと、この王様、前世と同じで死ぬんじゃ」
どこかで晃の顔がちらつくせいか、居ても立ってもいられなかった。
もう、ただ読んでいるだけの読者ではいられない。
(でも......)
と由奈は持っていたスマホの画面を見つめる。
(私なんかが、本当に役に立つのかな)
特別なスキルなんて一つもない。
夫にすら言いたいことを飲み込んで、喧嘩することさえ、とっくに諦めていた。
そんな自分が、王様を導く?
――けれど、ふと思い出した。
この間、息子の要に宿題を教えたときのこと。
いつもは適当だったのを、あの日は丁寧に、順を追って説明してみた。
それだけで、要は笑ったのだ。
『ママ、昨日すごくわかりやすかった!』
あの笑顔が、小さな自信をくれた。
自分の言葉が、誰かに届いた。
誰かを、少しだけ笑顔にした。
(もしかしたら、私の言葉でも――誰かを変えられるのかもしれない)
***
翌日、更新通知が来た。
『第3話 后候補との面談』
「やっぱり来た……」
由奈はフゥ、と深く息を吸い、第3話を開いた。
画面には、美しい3人の女性がレオンの前に立っている場面が描かれていた。
(王様……お願いだから、変なこと言わないで……!)
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