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王様!ちょっと待ってください!~ネット小説の暴君王に、主婦のツッコミが届いてしまいました~  作者: だしのもと
第1章 ツッコミ主婦、暴君王と高圧旦那の再教育を始めます

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第2話  作家のクセを読め!②

 ―――異世界・アルカディア王国―――


「陛下、昨日の外交はお見事でした」


 執務室に入ってきた宰相シグルの表情は、珍しく柔らかかった。

 普段は穏やかで、あまり感情を表に出さない彼が、今日は違う。

 その顔には、明らかな安堵と、わずかな驚きが浮かんでいた。


「最初はどうなることかと思いましたが、途中の発言で完全に関係を修復されました。さすがです! 条件もこちらにとって、とてもいいものでしたね」


 シグルの声には、純粋な賞賛が込められていた。


「……うむ」


 レオンは書類を捲りながら、小さく頷く。

 その動作は、いつもの無愛想なものだったが、胸の奥では小さな安堵が渦巻いていた。

 書類の文字を追いながら、昨日のことを思い返す。


(確かにあのまま最後まで聞かず、あの者を返していたら、また戦争だったな……)


 謎(・)の(・)声(・)がなければ、前世と同じ道をなぞっていた。

 だが、あの声が自分を止め、道を変えさせた。


「……シグル」


「はい」


 シグルは姿勢を正した。

 主君に向けたその目には、いつもの忠誠が宿っている。


「もし……俺に助言をする謎の声があるとしたら、お前はどう思う?」


「……は?」


 シグルの表情が、一瞬だけ固まった。


「例えば、だ。姿なき誰かが、俺の行動を正そうとしているとしたら?」


 レオンは、シグルをまっすぐ見た。

 その目は冗談ではなく、本気で聞いている。

 シグルの顔には、困惑と心配が浮かんでいた。

 彼は慎重に言葉を選び、口を開く。


「陛下……。それはつまり……日々の疲労またはご病気では?」


 シグルの目が、心配に揺れる。

 その声には、主を案じる気持ちが滲んでいた。

 レオンはその言葉に、ぴくりと眉を動かした。


「そんなわけがあるか」


 短く、鋭い否定。

 声のトーンに苛立ちが混じっていた。

 レオンの目が、すっと細くなる。


(病気? この俺がありえん。それより……あの声が俺の行動を止めようとしている。この不可解さ、不快感……。俺を諌めるなど、許せん)


 その時。


『だから幻聴扱いされるって言ったじゃん!』


 まただ。

 今度はさらに鮮明な、怒った女性の声。

 まるで、すぐ隣で誰かが話しているかのように、はっきりと耳の奥で響く。


「——!?」


 レオンはその声に思わず目を見開き、頭を抱えた。

 両手で頭を押さえる。

 頭痛とは違う。

 幻聴? 

 いや、そんなまさか。

 しかし、この前と同じ声の主が、今もはっきりと響き渡っている。


(お前は何者だ!?)


 レオンは心の中で叫んだ。

 その声は、明らかに怒りと、恐怖が混じっていた。


『え、聞こえてるの!?  ホントに!? うそでしょ!?』


 驚きと、喜びと、困惑が混ざり、焦る声の主。


「……陛下?  大丈夫ですか? お顔がすぐれません」


 シグルが不安げに近づく。

 それに、手を挙げて制す。


「あぁ、大丈夫だ。問題ない。それより水を持ってきてくれ」


 その言葉にシグルは「ただいま持ってきます」と慌てて部屋を出た。

 レオンは深くため息をつき、声の主に問いかける。


「お前は、一体何者なんだ。俺は神などという不確定なものは、絶対に信じないぞ」


 相変わらず高圧な態度で、臆することなく問う。


『あはは……神様信じないとか、ほんとそういうとこそっくり過ぎるんだから』


 どうやら相手は苦笑いをしているようだ。


『神様じゃないけどさ。王様がとても私の身近な人に似てるから、なんか放っておけなくて』


 レオンは鼻で小さく笑い、ほんの一瞬だけ冷ややかな一瞥をくれてやった。


「お前の身辺の情報など知らん。助言もいらな……」


『おっと、そんなこといっちゃう?この前のやつ、私の助言でうまくいったことを忘れちゃった?』


 その返しにレオンは言葉を詰まらせる。

 確かにあの制しが無かったら、間違いなく前回と同じ道を歩んでいたはずだ。


「……お前、名前は――」


 そこで、ノックと共にシグルが戻ってきた。

 両手に水差しと杯を持ち、王の様子を心配そうに見つめる。


「陛下……本当に大丈夫ですか……? 」


 シグルの声は、主人のただならぬ雰囲気に震えていた。


(やばいやばいやばい、王様の怪しい態度で幻覚疑惑かけられてるじゃない!)


 声の主が、慌てた様子で叫ぶ。


『ちゃんと説明して!  信頼関係の基本は説明・共感・感謝! まず彼があなたを心配してる理由を考えて!』


 説明・共感・感謝


 その声に圧倒されながら、レオンは頭の中の助言をブツブツと呟き繰り返した。

 深く息を吸い込み――


「シグル。お前が心配するのも当然だ」


 シグルの目が驚きに見開かれる。

 今までにかけられたことのない言葉に、信じられないという表情が浮かんでいた。


「……実は昨日から妙な現象が起きている。この俺に助言をする謎の声が聞こえるんだ」


「陛下……それは……」


「だがその声は昨日、外交を成功させた。あの声がなければ、大変な過ちをしていただろう。」


 宰相の目が変わる。

 冷静な観察者の顔に、鋭い洞察の光が宿った。

 シグルは、数秒間沈黙し、そしてゆっくりと口を開く。


「つまり……陛下には、『導き手』がいるということですね?」


『導き手! シグル、いいぞー!  理解が早い!』


 声の主が、明るく弾んでいた。


「そう解釈してもらって構わない。……すまなかった、不安にさせて」


「そんな、陛下……謝罪まで……」


「お前の忠誠に感謝している」


 レオンは、静かに言った。

 いつもの冷たさがない言葉に、シグルの目がさらに潤む。


「……身に余るお言葉です、陛下。この国は……まだ救われます」


 レオンは黙って頷いたが、その表情は複雑だ。

 強がりな王の仮面の裏で、胸の奥では小さな波紋が広がっていた。


 そして。

 なぜか頭の中では、喜んでいる声の主と小さな拍手の音が鳴っていた。



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