第11話 戦場無敵王の『戦力扱い』発言を緊急修正せよ!②
――— 現実世界 小林家 リビング―――
由奈はソファに座り、スマホを見ていた。
画面には、『アルカディア王国戦記』の最新話が表示されている。
レオンとカリナの訓練場のシーン。
由奈は、指を素早く動かし画面をスクロールしていく。
そして——
レオンの「これなら戦力として、問題ない」という台詞が表示された。
由奈は目を見開き、手を止める。
「うわっ! 出た出た! 『人を駒でしか見ない男』発言!」
思わず声に出てしまった。
由奈は、スマホを握りしめたまま、大きくため息をしながら頭を抱えた。
「もー! それ、褒めてるつもりでも『人扱い』じゃなくて『駒扱い』だよ!」
由奈は、急いでレオンに呼びかけた。
彼女の声は、必死だった。
『王様! ちょっと待って! その発言は地雷!』
***
――― 王宮 訓練場―――
レオンは、突然響いたカヤの声に驚いた。
彼の体が、わずかに硬直する。
瞬時に周りを見回し、自分に視線が集中していないかを確認する。
騎士たちは、それぞれ訓練に集中している。
レオンは、いったん深呼吸をして落ち着かせ、バレないように心の中で話しかけた。
(地雷? 何がだ?)
レオンは、心の中でカヤに尋ねた。
その表情には、困惑が浮かんでいる。
『「戦力として問題ない」って言ったでしょ!?』
(……ああ。だが、褒めたつもりだが?)
レオンの眉間に、皺が寄る。
『もー! それが問題なの!』
由奈の声は、必死だった。
『剣だけで人を見るのは、いつも通りかもしれない。でも、今のカリナさんは「戦力」じゃなくて「人」として見られたいの!』
(「人」として……)
レオンは、その言葉を繰り返した。
『それに相手は后候補だよ! 剣だけじゃなく、「女性としてどう生きてきたか」まで見極めなきゃダメ!』
困惑を紛らわそうと、彼の手が無意識に剣の柄を握る。
(女性として……見極める?)
『そう!』
由奈は続けた。
『剣とか力の話だけじゃなく、怖かった瞬間とか「弱さ」を聞いてみて。強さだけじゃなく、「守りたいもの」とかも。あと、能力じゃなく、その人自身を肯定してあげよう!』
相次ぐ指導に、レオンは頭の中が混乱していた。
彼の目が、泳ぐ。
(……難しい)
***
しばらく訓練を見学した後、レオンとカリナは訓練場の中央近くに立っていた。
カリナが、レオンの方を向き、一歩前に出る。
「陛下、もしよろしければ……模擬戦を、お願いできますでしょうか?」
その声には、わずかな緊張と、同時に強い意志が滲んでいた。
「模擬戦?」
レオンは、カリナを見た。
「はい。陛下の剣技を、この目で見たく存じます」
カリナの目が輝いた。
それは純粋な、騎士としての興味だった。
レオンは少し考えてから、小さく頷いた。
「いいだろう」
その言葉に、カリナの表情が明るくなった。
***
訓練場の中央で、レオンとカリナが向かい合っていた。
周囲では騎士たちが訓練を止め、剣を下ろして息を潜めている。
訓練場の隅には団長ガルドが腕を組んで立ち、わずかな緊張を浮かべた表情で二人を見つめていた。
「では、参ります」
カリナは剣を抜いた。
シャキン、と金属音が訓練場に響く。
その構えは完璧だった。
足の位置、腰の落とし方、剣の角度、すべてが教科書通り。
レオンも剣を抜く。
同じ金属音が鳴る。
しかし、その構えはカリナとは違い、より自然で実戦的だった。
一瞬の静寂。
風が止まった。
次の瞬間——カリナが動いた。
電光石火の動き。
地面を蹴り、一瞬で距離を詰める。
ヒュン! と剣が、レオンに向かって振り下ろされる。
しかしレオンは、それを軽く受け流した。
ガキィン! 金属音が響き、火花が散る。
カリナはすぐに次の攻撃に移り、体を回転させて横薙ぎ。
レオンは体を後ろに反らせて避ける。
剣が、彼の目の前を通過する。
さらに、突きからの連続攻撃。
ザン、ザン、ザン!
剣と剣がぶつかり合う音が連続して響く。
(……前に出る覚悟は、本物だな)
レオンは、すべてを捌いていた。
その動きは流れるようで、無駄がなく、まるで呼吸をするように自然だった。
彼の足は常に最適な位置にあり、剣は常に最短距離で動く。
カリナはさらに前に出た。
その動きは大胆で、攻撃的だった。
彼女の目が鋭く光る。
「勝ちたい」だけではない、「証明したい」者の動きだった。
(強い……強いが、無理をしている)
レオンはカリナの刃を受け流しながら、柄元を叩いた。
手首に衝撃が走ったのが見えた。
カリナが歯を食いしばるが、それでも剣を離さない。
レオンはその動きを見て、わずかに眉をひそめた。
「無茶をするな」
レオンの声が、命令口調で訓練場に響いた。
「それより前に出れば、死ぬ確率が上がる」
その瞬間、カリナの動きが止まった。
彼女の体が硬直し、剣を構えたまま動かない。
そして、カリナはゆっくりと、力なく剣を下ろした。
彼女の目がレオンを見つめる。
「……陛下は、私を『守るべきもの』だと思っているんですか?」
その声にはわずかな怒りが滲み、彼女の手が剣の柄を強く握りしめる。
レオンは困惑し、目が泳いだ。
(何か、間違えたか?)
***
―――現実世界 小林家 リビング―――
由奈は画面を見て叫び、体がソファから半分浮いている。
「王様! 言い換え!」
由奈はスマホを震える手で握りしめた。
「その言葉だと『女だから下げたい』に聞こえる! 『頼りにしてる』って言い換えて!」
由奈の声が、必死に響いた。
***
―――王宮 訓練場―――
レオンはカヤの声を聞いて、慌てて言い直そうとしたが、言葉がすぐには出てこない。
「いや、違う……」
レオンは必死に言葉を探し、手がわずかに震える。
「戦力として、軽んじてなどない」
カリナはじっとレオンを見つめている。
その目は鋭く、何かを見極めようとしていた。
レオンは大きく深呼吸をした。
「前に出る覚悟があるのは、分かっている」
レオンはぎこちなく続け、視線がカリナの目を真っ直ぐに見つめる。
その瞬間、前世の記憶が蘇った。
戦場で敵陣に突っ込み、二度と戻らなかったカリナの背中。
(あの時、俺は『優秀な駒』として使い……死なせた)
レオンの手が、後悔でわずかに震える。
「だが、死なれると困る。俺は……あなたが、必要だ」
カリナの目が見開かれ、唇がわずかに開く。
「私が……必要、ですか」
彼女の声はわずかに震え、耳がわずかに赤くなった。
頬にも、うっすらと赤みが差す。
周囲の騎士たちも、ヒソヒソと小声でざわめいている。
後ろに控えていたシグルが、コホンと咳払いをした。
そしてレオンのすぐ横に一歩寄ると、小声で告げる。
「陛下。お言葉の意図は伝わりますが、今の言い方ですと、誤解されやすいかと」
その声は静かだが、明確な忠告だった。
レオンは、はっとして顔がわずかに赤くなる。
「……そういう事は早く言え」
レオンは照れ隠しのように、いつもより少し高い声で言った。
***
―――現実世界 小林家 リビング―――
由奈は画面を見て叫んだ。
「まったくもう! 伝え方! 相変わらずぶっきらぼうすぎるんだから!」
彼女は頭を抱えたが、その顔には笑みが浮かんでいた。
(でも……カリナさん、嬉しそう)
由奈は口元を緩めながら画面を見つめた。
そこには、照れるカリナの姿が描かれていた。
お読みくださりありがとうございます!
ブックマーク、評価、コメントを頂けると大変嬉しいです!!




