↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王様!ちょっと待ってください!~ネット小説の暴君王に、主婦のツッコミが届いてしまいました~  作者: だしのもと
第2章 ツッコミ主婦、過去と疑念とデート指導で大忙し

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/65

第9話 神官長の罠?それとも救済?浄化儀式の誘い!②

 ――― 異世界 王宮 執務室(夜)―――


 レオンは、一人窓の外を見つめていた。

 月明かりが、彼の横顔を照らしている。

 しかし、その表情はいつになく険しかった。


 シグルは彼の後ろで息を潜め、王の決断を静かに待っていた。


「シグル」


「はい」


 レオンは窓から目を離さず問う。


「お前は、どう思う」


 レオンの問いに、シグルは慎重に答えた。


「……神官長の懸念は、理解できます」


「そうか」


 レオンの声は、どこか疲れているように聞こえた。


「ただ……」


 シグルは言葉を選んだ。

 一瞬、躊躇するような間があった。


「創造神(カヤ様)を『異質なもの』と呼ぶことには、抵抗があります」


 レオンは小さく笑った。


「お前は、カヤを信じているんだな」


「もちろんです」


 シグルは即答した。

 その声には、一点の迷いもない。


「陛下を、ここまで導いてくださった方です。私は、カヤ様を信じております」


 レオンは、窓の外に広がる星空を見上げた。

 無数の星が、静かに瞬いている。


(カヤ……お前は、どう思う?)


 レオンは目を閉じ、心の中でカヤに語りかけた。


 レオンは、息を止めて数秒待った。

 やがて——由奈の声が響いた。


『……うん、聞こえる』


 レオンの肩から、わずかに力が抜けた。


(神官長が、お前のことを「異質なもの」だと言っている)


『……そうだね』


 由奈の声は、少し震えていた。

 不安と、何か決意のようなものが混じっている。


(浄化儀式、というものを提案された。お前はどう思う?)


 由奈は、しばらく黙っていた。

 レオンは、その沈黙を待った。

 彼の手が、無意識に窓枠を握りしめている。

 やがて、由奈の声が聞こえた。


『……王様。浄化儀式受けて』


(何?)


思いもしない返答に、レオンの眉が上がった。


『ここで拒否したら、きっと神殿が敵に回る。セレスからの信頼も失って、民衆もあなたを恐れるようになる』


 由奈の声は必死だった。

 まるで、何かから守ろうとするような強い意志が感じられた。


『こういう場合、そういう展開になりやすい。特に国を担う人が浄化を拒否すると、「悪神」と揶揄《やゆ》されて、味方が次々と離れていくわ』


 レオンの表情が、複雑に歪んだ。


(だが……)


『お願い、信じて。この先の事は大体読めてる』


 由奈は続けた。

 その声は震えながらも、どこか確信に満ちていた。


『浄化儀式を受ければ、神殿やセレスも民衆も安心する。そうすれば、あなたは確実に信頼を得られる』


 レオンは、迷った。

 窓の外の星を見つめたまま、動かない。

 しかし由奈の声には、確信があった。

 レオンは、今までの事をゆっくりと思い出していた。


(カヤは、俺を何度も救ってくれた)


 后候補たちとの面談。

 シグルとの信頼関係の回復。

 すべて、カヤがいなければ、乗り越えられなかった。


(ならば、今回も信じるべきか)


 レオンは、目を開けた。

 その目には、決意の光が宿っていた。


(わかった。浄化儀式を受けよう)


『……本当に?』


 由奈の声が、わずかに揺れた。


(ああ。お前を信じる)


 レオンは、力強く答えた。

 由奈の声が、少しだけ安堵したように聞こえた。


『ありがとう、王様』


 レオンは、窓の外を見つめたまま、静かに頷いた。

 シグルは、その後ろ姿を見つめながら、深く息をついた。


(陛下を……どうか、お守りください)


 シグルは、心の中で創造神カヤに祈った。


***


 ―――翌日 王宮 執務室―――


 朝の光が、執務室の窓から差し込んでいる。

 レオンは机の前に座り、書類に目を通していた。

 シグルが、そっと扉をノックした。


「陛下、神官長がお見えです」


「通せ」


 レオンは書類から目を上げた。

 扉が開き、オズワルドが入ってくる。

 彼は恭(うやうや)しく頭を下げた。


「陛下、お呼びとのことで参上いたしました」


 レオンは立ち上がり、オズワルドを見下ろした。


「神官長。『浄化儀式』受けよう」


 オズワルドの指先が、跳ねるように動いた。


「陛下……本当ですか?」


 彼の声には、驚きとわずかに興奮が滲んでいた。


「ああ。ただし、条件がある」


 レオンは冷静に続けた。


「条件、ですか」


 オズワルドは、ごくりと唾を飲み込み、即座に表情を引き締めた。


「儀式はシグルの立ち会いのもとで行う。それから、儀式の内容を事前に説明しろ」


 レオンの声は冷静だった。

 その目は、オズワルドを真っ直ぐに見据えている。


「俺は神殿を信じたい。だが、盲目的に従うつもりはない」


 オズワルドは深く頭を下げた。


「……承知いたしました。陛下のお心遣い、痛み入ります」


 しかし伏せられた顔には、誰も見ることのない、ひそかな笑みが浮かんでいた。


***


 謁見の間から出たオズワルドは、廊下を数歩進んだところで立ち止まった。

 周囲の人気を確認し、無人であると分かったオズワルドは、口元を歪めた。

 それは、獲物を捕らえた獣のような、邪悪な笑みだった。


(ついに……あの『力』の正体が明らかになる)


 彼の胸の内では、期待が渦巻いていた。

 そして、オズワルドは懐から一つの小さな水晶を取り出した。

 透明な水晶は、廊下の光を受けて鈍く輝いている。


「しかし、保険は必要だ」


 オズワルドは、水晶を手のひらに乗せじっと見つめた。


「陛下は近々、北国の姫との会合が控えていると聞いた」


 彼は親指で、冷たく滑らかな感触の水晶を撫でた。


「儀式だけでは不十分かもしれん。確実な証拠をつかまなければ」


 水晶を撫でていたオズワルドの親指が、ふと止まった。


(……確か北国には、使える者がいたはずだ)


 彼は水晶を懐にしまうと、神殿へ帰る道とは反対の方向——王宮の奥、侍女たちの詰所がある方角へと歩き始めた。

 足音は静かだが、その歩みには明確な目的があった。


***


 ―――王宮 侍女詰所の付近―――


 オズワルドは、人目につかない廊下の角で立ち止まった。

 そして、通りかかる侍女たちを観察している。


 やがて—— 

 一人の侍女が、廊下を歩いてきた。

 北国風の服装に、ひときわ気品ある所作に鋭い目つき。

 エルザだ。

 オズワルドは、わずかに口元を緩めた。


「エルザ殿」


 彼は静かに声をかけた。

 エルザは、驚いたように振り返った。


「神官長殿……?」


「少し大事なお話がある。よろしいかな」


 オズワルドの声は低く、そしてどこか甘い誘いを含んでいた。

 エルザは一瞬躊躇したが、やがて頷いた。


「……何でしょうか」


 二人は、人目につかない小部屋へと入った。

 オズワルドは、扉を閉めると懐から水晶を取り出した。


「これを、あなたに預けたい」


「これは……?」


 エルザは水晶を見つめた。


「霊的な波動を感知する水晶だ」


 オズワルドは、静かに説明した。


「もし、王の周囲に異質な力が働いていれば、この水晶が反応する」


 エルザの目が鋭くなった。


「……なぜ、私に?」


「あなたは、直々にリディア様に仕えておられる」


 オズワルドは、意味深に微笑んだ。


「近々、陛下とリディア様の会合があると聞いた。その際、もし王の動向に何か異変があったら……この水晶を見ていただきたい」


「異変、ですか」


「ええ。きっと、この水晶が反応するはずだ」


 オズワルドは、水晶をエルザの手に押し付けた。


「これは……リディア様のためでもあります」


 彼は、声のトーンを落とした。


「もし、王が何か邪悪なものに憑かれているとしたら……リディア様が危険に晒される」


 エルザの表情が強張った。


「リディア様が……?」


「ええ。判然としない今こそ、あなたの目で確かめてほしい」


 オズワルドは、真摯な表情を作った。


「これは、リディア様を守るためです」


 エルザはしばらく水晶を見つめていたが、やがて——


「……わかりました」


 彼女は水晶を握りしめた。

 オズワルドは、満足げに頷いた。


「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」


 彼は恭《うやうや》しく頭を下げると、部屋を出た。

 廊下に出たオズワルドの口元には、再び邪悪な笑みが浮かんでいた。


(これで、儀式と北国の姫の会合、両方から情報を得られる。どちらかで、必ず『力』の正体を暴いてみせる)


 オズワルドは、神殿へと戻る道を、満足げに歩いていった。

 その後ろ姿を見ていたエルザは目を細める。


(神殿も何やら動き出した様子。我々も手を打たなければ……)


お読みくださりありがとうございます!

ブックマーク、評価、コメントを頂けると大変嬉しいです!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。