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王様!ちょっと待ってください!~ネット小説の暴君王に、主婦のツッコミが届いてしまいました~  作者: だしのもと
第1章 ツッコミ主婦、暴君王と高圧旦那の再教育を始めます

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第5話 王様、完全に包囲されてます!①

 一方、王宮の別棟では三陣営の思惑が静かにうごめいていた。


***


―――北国陣営(リディア側)―――


 王宮の北棟、リディアに与えられた客室。

 窓から差し込む柔らかな光が、氷細工のように美しく繊細な彼女の横顔を照らしていた。


「リディア様」


 侍女のエルザが、静かに部屋に入ってきた。

 年は三十を過ぎているが、静かな足音と伸びた背筋には、貴族の教育を受けたであろう優雅さがある。

 窓の外を見つめたままリディアが静かに口を開いた。


「昨日の陛下との謁見……エルザ、あなたも隅で聞いていたわね」


「はい、リディア様」


 エルザは慎重に言葉を選んだ。


「陛下の態度の変化……正直驚きました」


「驚いた、では済まされないわ」


 リディアが初めて、侍女の方を向いた。

 その青い瞳には戸惑いと、そして僅かな希望の光が宿っていた。


「初回の謁見では、『お前たち』『感謝しよう』と……まるで物を扱うような口調だった。私(わたくし)は覚悟していたのよ、エルザ」


 リディアの声に、僅かな苦みが滲む。


「父上の命に従い、政略結婚の駒として冷たく扱われることをね。北国の姫としてのプライドを捨て、ただ国のために尽くすという任務を全うするために」


 あの時、彼女は心を凍らせた。

 感情を殺し、ただ役目を果たすと決めた。


「でも、昨日は……」


 リディアは自分の手を見つめた。


「陛下は私《わたくし》を『責任ある大役を担う方』と呼んでくださった。政略の道具ではなく、一人の人間として……敬意を、示してくださった」


 エルザは主人の横顔を見つめた。

 あの何にも感情を動かさないと云われる冷徹な氷の姫・リディア様が、心を揺らしている。


「あの瞬間、私(わたくし)は……初めて人(・)として見られたと感じたの」


「リディア様……」


 だがリディアの表情が、再び冷たくなり唇を噛んだ。


「でもどう考えてもおかしいのよ、エルザ」


「はい?」


「あなたはどう思う?  あの時の陛下の言葉は……本心だったと思う?」


 エルザは暫く沈黙した後、慎重に口を開いた。


「……恐れながら、『不自然』に感じました」


「不自然?」


「はい。初回と次の謁見の間は、わずか一日しかありません。傲慢と云われる人間がたった一日でここまで変わるものでしょうか」


 リディアの表情が眉を顰め(ひそめ)、端整な顔立ちがより冷ややかになった。


「つまり、演技だと?」


「可能性は二つあります」


 エルザは指を二本立てた。


「一つは、陛下が何らかの目的で演技をしている」


「目的……。もう一つは?」


「陛下が、誰(・)か(・)に操られているという可能性も」


 リディアは目を細めた。


「操られている……?」


「初回の後、宰相シグル殿が陛下を別室に連れて行きました。そして一晩の間に、陛下の態度が劇的に変化した。これは……」


 エルザの声が、さらに低くなる。


「誰かが裏で、陛下に『入れ知恵』をしているのでは、と」


 リディアは窓の外を再び見つめた。

 庭園では、アルカディアの騎士たちが訓練をしている。


「リディア様」


 エルザは深く頭を下げた。


「このままでは、我が国の計画が崩れます」


「計画?」


 リディアが眉をひそめる。


「私が知っているのは、父上からただ政略結婚をして、両国の関係を改善せよとのことだけ。それ以外の計画など……」


「それで十分です」


 エルザは言葉を遮った。


「リディア様は、ただ王妃として振る舞っていただければ。残りは、我々が」


「エルザ」


 リディアの声が、鋭くなった。


「あなた、私(わたくし)に何か隠しているの?」


「……いえ、出過ぎた真似を。失礼しました」


 エルザは表情を変えずに、深々と頭を下げた。


「ただ、陛下の周辺で何が起きているのか。調査が必要かと存じます」


 エルザの提案通り、態度の急な変化には何か裏があるに違いない。

 リディアは暫く侍女を見つめた後、小さく息を吐いた。


「……分かったわ。調べなさい。ただし……陛下を傷つけるようなことはしないで」


 その言葉にエルザの目が、僅かに揺れた。


「リディア様……まさか、陛下に……」


「っ! 違います」


 リディアは即座に否定した。その頬はほんのり紅潮していた。


「ただ……もし、あれが本心だったなら……」


 彼女は目を伏せ、言葉を飲み込んだ。

 自分は初めて、人として尊重される結婚ができるかもしれない。


「王の周辺で何が起きているのか……情報を集めなさい。ただし、慎重にね」


「承知しました」


 エルザは一礼し、部屋を出た。


***


 廊下を歩きながら、彼女は冷たくリディアのいた部屋を見据えた。


「リディア様は、優しすぎる」


 彼女の手には、北国からの密書が握られていた。

 そこには、こう記されている。


『婚約を破棄させよ。レオンハルト王の失態を演出し、アルカディアの国力を削げ』


 エルザにとって、リディアの幸せなどどうでもよかった。

 重要なのは、北国の利益だけ。


「さて……王の秘密を暴くとしましょうか」


お読みくださりありがとうございます!

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