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第二話 ドラゴンという生き物➁

 ドラゴンの定義はこうである。


――背中に二対の翼を持ち、前脚と後ろ脚の四足歩行で歩く。


 その生態や種族は実に様々で、毛に覆われたものもいれば、大きなウロコを有する者もいる。


 だが、彼らは皆プライドが高く、群れを嫌い、弱肉強食の世界に生きる。

 戦争の兵器として用いられることもあり、全ての生物の頂点に立つ、畏怖の対象。


 最も、この地球下において比較的強く、数も多い種族――人間族は、長年彼らと敵対していたが。


 高潔で、己の家族のみを愛し、全ての生物がその目前にしてひれ伏す。

 一頭のドラゴンのみで国を滅ぼしたという伝説は嘘か誠か。


 それがドラゴンという生物であり、ドラグ山脈に住まう神々なのである――。





――ぐるるるうるるる


「あーら可愛いねェ……おこげちゃん……そうねそうね……うーん……口は(くちゃ)いねぇ」


 尻尾を振り、前脚でじゃれつくおこげに舐められながら起きる。


 幸せな一日の始まりである。


 俺はリュックサックからコーヒー豆の入った缶とカップを出し、湯を沸かす為に落ち葉をよそった。


「ふぁーぁ……おこげ、ファイア!!」


 俺の掛け声と共に、おこげが――くちゅん!!――と鼻を震わせた。

 それと同時に小さな小さな火が漏れ、落ち葉に点火する。


「まだ眠いなァ」


――ぐるるる?


 さらにリュックから大きめの干し肉、パンを取り出すと、パンは自分の側に置き、干し肉を右手に持ち上げた。


「ほら、いくぞー!」


 おこげがこちらを向いた。


 そして俺が干し肉を投げると、口先で上手くキャッチする。

 餌やりは一日三回、最初の一回は朝起きてすぐの日課だった。


 おこげは一度も咀嚼することなく、そのまま肉塊を飲み込む。


 彼らは狩りにおいて噛み付くことはあっても、肉を食べる際はあまり咀嚼をしないようだった。

 ご機嫌な時は、もっと大きな肉をそのまま飲み込むこともある。


 だが、彼らの食性は肉の身ではない。

 ドラゴンは獲物を一切残さず、まるまる一匹食べきるからだ。

 骨をゴリゴリと噛み砕いて食べ、内臓は一飲みにする。


 この音が戦時中のトラウマとなっている人もいると聞くが。


 おこげは美味しそうに目を細めると、口の周りをぺろりと舐めた。


――ぐるるるるるる!


 どうやら満足したようだ。


 一方、自分で食べる分のパンはカチカチで、見るからにまずそうだった。

 だが、旅も終盤。

 もう少しで村に着きそうな予感はしている。


「今日までの我慢かな……」


 落ち葉がパチパチと音を鳴らし始める。

 火が大きくなってきた。


 俺は焚火の上に水の入ったカップを置き、空を見上げた。




 おこげの正式な名前はサウロプテリクス。


 “トカゲの翼”という意味だ。


 毛に覆われた姿が特徴の種類で、口からは炎を吐く。

 大陸中央部の低地にて、中型ドラゴンのニッチ(住む場所)を支配し、二頭一組で狩りを行う。


 典型的に大陸全土でみられる中型ドラゴンそのものだった。


――だが、この“おこげ”は違う。


 足に傷を負い、パートナーに捨てられたところを俺が見つけたのだ。


 それは、俺の竜の試練(ドレイクドテスト)の時。


 俺も孤独で尖り、同じくまだ警戒心の強くて、高圧的だったおこげは――




 回想にふけっていたその時、水がジュウジュウと蒸発する音で我に返る。


 コップの水が沸騰し、落ち葉の上に溢れていた。


「あっ――まずい!!水はもうこれで最後だよ!!」


 だが、困ったときには時すでに遅し。

 コップを取り出した時には、既に中身は半分を切っていた。


 おこげは素知らぬ顔で自身の前脚に顎を乗せ、耳をぴくぴくと動かしていた。


「そういうとこは犬っぽいんだよなぁ……」


 俺がそう言うと、おこげは自分のことだと気づいたのか、嬉しそうに尻尾を立てて首を傾げた。


「斜めにこっち見てくるのは鳥だね……」


――ぐる?


「……」


――??


「……いやぁ、そんなに見つめられると、撫でたくなっちゃうよねぇ……ほら、おいで!」


 俺が手招きすると、おこげはその巨体を全力で動かし、飛び乗るようにして俺に近づいた。


 一トンの体重が、宙を舞ってから俺に降り注ぐ


 だが、おこげは何年も一緒にいる相棒。

 力加減は分かっていた。


(何度肋骨を粉砕されたことか……)


 俺はもふもふの腹の下敷きになり、腹を撫でてやる。

 暫く撫でて、おこげが満足したかな――と思ったとき、彼の顔を見上げた。


 そこにいたのは、さも当然のように俺の上へ居座るおこげ。

 彼は俺の膝の上に載っているという認識なのだろうが、サイズ的に収まり切れてなかった。


 俺は手を広げ、再びおこげの腹を撫でる。


 おこげの顔を見上げると、満足そうに目を瞑っていた。


「そういうとこは猫……さすがに重い……おこげ……」


 名前を呼ばれたおこげは少し目を開けたが、気にすることなく首をもたげた。


「ふてぶてしいとこも可愛いけどな……やっぱ重い!!」





 水が無くなったとなれば、早々に村まで行きたい。


 というか、そもそも目的の村に辿り着けなければ、ドラゴン達とのもふもふスローライフは始まらないのだ。


 何度かおこげに上空から見てもらっているものの、村らしき影はないらしい。

 

――それもそうだろう。


 村にはドラゴン避けの魔法がかけてあり、空からは認識できないようになっている。


 何故なら、そこはただの村ではない。

 龍狩り(ドラゴンハンター)の一族が住む村だからである。


 というわけで、俺はおこげに乗って探すこともできず、数日間この森の中を歩いていた。


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