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第三章 始まりの火花⑫

 今回も再び模擬戦のところから始まり、その日が終わってた翌日の朝。目を開けてフリントライズはホッとする。

 あの朝ではない。

 重く沈んだざわめきも、血の気を含んだ気配もない。代わりにあるのは、いつも通りの学院の朝の音だった。遠くで鳴る鐘、廊下を行き交う足音、誰かの笑い声。

 四度目の始まり。

 フリントはしばらく天井を見上げたまま動かなかった。呼吸を整える。身体の感覚を確かめる。傷はない。痛みもない。すべてが巻き戻っている。

 だが、記憶だけは残っている。


「(……女子寮で死亡)」


 フリントはゆっくり起き上がる。拳を握る。思考が一気に回り始める。


「(学院の中だけじゃない)」


 前回で分かったことはそれだ。誰かが学院の外と繋がっている。

 もしくは、学院の外から動かしている。


「(アイシード……)」


 自然と浮かぶ。

 セリウス・ハルバート。

 あの男は白だった。少なくとも、直接手を下す側ではない。だが所属はアイシード本部。装置開発の中枢。

 そして。

 死体の回収。外部の人間。金が動く仕事。

 そこに繋がるのもまた——アイシードの影。確実ではないが、候補には上がる。あれだけ堂々と大立ち回りをしながら周囲に一切疑われない手際。雇ったにしろ何にしろ隠蔽工作が出来る程の大きな組織であり、大金を投入する財源もある。何よりシエラクロスと言う若き天才を遺体にしてまでも欲する機関。今となればかなりきな臭い。

 フリントは息を吐いた。


「(上か)」


 現場じゃない。

 もっと上。命令を出す側。そこに何かある。

 だが同時に、分かっていることもある。


「(調べるだけじゃ足りねえ)」


 前回、かなり動いた。それでも届かなかった。

 なら、もう一つ必要だ。


「……勝つ」


 小さく呟く。

 シエラクロスに。準決勝で。あの時点で流れを変える。それが出来れば、少なくとも「決勝前に死ぬ」という形は崩せる可能性がある。

 彼は立ち上がった。


「両方やる」


 調査と、強化。

 どちらも中途半端にはしない。

 扉を開け、廊下に出るその足取りは迷いがなかった。


———


 午前。

 時間はいつも通り進む。

 代表選抜戦の対戦表。

 組み合わせ。歓声。何も変わらない。

 フリントはそれを流しながら、周囲を観察していた。

 教師の動き。外部関係者の出入り。見慣れない顔。些細な違和感を拾う。

 だが、この段階では決定的なものは見えない。


「(……今はいい)」


 焦らない。

 本命はその先だ。

 昼。講義が終わり、院内の中庭に人が広がる時間。

 彼は人の流れから外れた。向かう先は決まっている。

 講義棟の裏。人の少ない通路。

 そこに、赤い短髪の少女がいた。

 オルタディナ。

 壁にもたれ、腕を組みながらこちらを見ている。すでに気付いていたらしい。


「……何か用?」


 ため息混じりの声だった。

 フリントはまっすぐ歩いていく。


「頼みがある」


 オルタディナの眉がわずかに上がる。


「いきなりね」

「時間ねえんだ」

「それ、いつも言ってる気がするけど」


 軽く流される。

 だが視線は真剣だった。

 金髪の少年は止まらない。


「俺を鍛えろ」


 沈黙。

 風が一瞬だけ通り抜ける。

 オルタディナは数秒、フリントの顔を見ていた。

 探るように。確かめるように。


「……理由は?」


 少年は即答した。


「勝つためだ」

「誰に?」

「シエラクロス」


 その名前が出た瞬間、オルタディナの目がわずかに細くなる。


「本気?」

「最初からそうだ」


 オルタディナは少しだけ口元を歪めた。


「無理だと思うけど」

「分かってる」

「じゃあ何で?」

「それでも勝つ」


 間を置かずに言う。

 迷いはなかった。

 赤短髪の少女ら小さく息を吐いた。


「……前と違うわね」


 彼は何も答えない。

 オルタディナは壁から離れ、短く言う。


「いいわ。付き合ってあげる」


 フリントの目がわずかに動く。


「ただし」


 人差し指を立てる。


「手加減はしない」

「望むところだ」


 彼女はそのまま歩き出す。


「じゃあ来なさい」


 振り返らずに言う。


「まずは、今のあなたがどれだけ“無駄に動いてるか”教えてあげる」


 フリントはその後を追った。

 足取りは速く、迷いはない。


「(……これでいい)」


 調査は続ける。

 アイシードの影も追う。

 だが同時に強くなる。

 シエラクロスに届くために。

 そして。その先の未来を、壊すために。

 四度目の時間は、もう始まっていた。

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