098 ただいま、ギルドルーム②
「それで、評議会の方はどうでしたの? また舐められました?……にがっ」
リンドールさんがマナエーテルを一口飲んで、パンさんにそう尋ねた。
「それがやな、今回は全然扱いがちゃうかったんや」
パンさんは、どこか得意げな顔だった。
「そうなんですの?」
「180度違ったわね。540度かしら」
「気持ちとしてはそれくらいちゃうかったな。前に初めて参加したときなんか、何しとるかようわからん、うさんくさい成金ギルドや思われとったからな。それが今回は、目に見えてわかる看板があるからな」
「看板?」
私が尋ねると、パンさんとペールルージュさんは、示し合わせたようにザラへ視線を向けた。
「怪物──ザラスト・ザラメイヤの存在や」
「まあ、ですよね~」
当のザラは、予想通りといった顔をしている。
「第五天位まで一気に昇格して、剛体種ゴブリンを二人も連れて、指名依頼も大量にこなして……今のグラン=ラフィースで、ザラちゃんの名前を知らない冒険者はほとんどいないもの」
「怪物ザラストがいるギルド──っちゅうだけで、もう下手なことは言えんやろしな」
ザラが有名なのは分かってたけど、評議会の空気まで変えちゃうほどなんだ……。
毎日一緒にいるから忘れそうになるけど、ザラって外ではめちゃくちゃすごい冒険者なんだよね。
「マスターとお姉さまの役に立ててそうなら良かったです~! 何かご褒美ください~!」
「ご褒美……そうだよね、いつも頑張ってもらってるし。何かプレゼントしたいんだけど、欲しいものある?」
「お姉さまとマスターが欲しいです!!」
「ええっ!?」
「おいザラ、マスターは私のものなのだが」
「分かってますよ~! ボクは第二夫人枠です!」
「あ、言っとらんかったけど、グランベルジュはギルド内恋愛禁止や」
「そんな~!」
「そ、そんな……バカな……」
「パン、そんなルールなかったでしょ」
パンさんはケラケラと笑う。
「冗談はさておきやな。なめられなくなったんはええんやけど、今度は責任が伴いだしてやな」
「結局、面倒ごとが減ったわけではないのよ。押しつけられるんじゃなくて、正式な役目として回ってくるようになっただけで」
「な、なるほど……」
要するに、正式に面倒ごとが回ってくるようになったんだね……。
「あと、ちょっとヒヤッとした話もあったで」
「ヒヤッとした話?」
「黒ギルドの件や」
「えっ!?……もしかして、マギド・ゼブラスの件ですか……?」
黒ギルドの件で心当たりは一つしかない。
アルテミスがマギド・ゼブラスを空の彼方へ吹き飛ばして、十五万ギルドポイントくらい奪っちゃった、あの件……。
「いや、黒ギルドがギルドランキングの首位から落ちた件や。内部で何か大きな問題が起きたらしいっちゅうことで、評議会に出とるギルドへ一通り、何か知らんか聞き取りがあってな」
「そっか、あの件は知られてないから……」
「ギルドポイントでバレてもおかしくなかったのだけど、私たちのギルドポイント、上下が激しすぎるでしょ? それがいいカモフラージュになったみたい」
確かに、私たちって大量に稼いでは一気に使ってるから……
今回もギルドの防衛費にほとんど使っちゃったもんね。
「それで、なんて答えたんですか?」
「知らん──それで通したわ。話す必要ないしな」
「黒ギルドと揉めてるってなると、厄介なギルドに見られかねないもの」
ペールルージュさんの言う通り、厄介者扱いは避けたい。
黒ギルドがあの件を表に出さないつもりなら、そのままひっそりとなかったことにしたい……。
「まあどっかで、黒ギルドとは話せなあかんかもしれんな。……それよりもやな」
パンさんはそこで話を切り替えると、入口の方を振り返った。
「クランクはんはどこ行ったんや? だいぶ途中みたいやけど、あれで明日までに終わるんか?」
「ああ、それなんですけれど……」
リンドールさんが、黄歯車団の体調不良について伝えると──
「はあ!? マジかいな!!」
パンさんの大声が、ギルドルームに響き渡った。
「はい。今朝は普通に作業を始めていたのですけれど、途中から一人、また一人と体調を崩しまして……。最後には、まともに動ける方がいなくなってしまったのです」
「揃って同じような症状って、なんや嫌な感じやな……」
「クランクさんだけは最後まで『自分一人でも作業を続けますぞ!』と仰っていましたが……」
「あのオッサン、何考えとんねん……」
「最終的には、団員の方々に抱えられて帰っていかれましたわ」
「想像できるわね……」
『まだできますぞ!』と悔しそうに手足をばたつかせるクランクさんの姿が、簡単に想像できちゃった。
工事を三日で終わらせるって話してたから、責任を感じてるんだろうな……。
「じゃあ、やっぱり明日には終わらないんですかね?」
「そら無理やろな。まあしゃーないわ。元気になるまで工事は中断やな」
パンさんは迷うことなくそう言った。
魔法障壁が完成するのは少し先になっちゃったけど、今まで通りモーリーがいてくれるし、数日くらいなら大丈夫だよね。
──と、そこで私は、もう一つ聞きたかったことを思い出す。
「そうだ、リンドールさんのお父さんって、魔獣主なんですよね?」
「突然ですわね。ええ、それがどうしましたの?」
「実は、前に召喚したガルムちゃんをペットみたいな感じでちゃんと召喚したいなと思ってて……。飼うときに必要なものとか、知ってたりしませんか?」
私がそう言うと、リンドールさんがぱっと目を輝かせた。
「まあ! あの白もふさんを、このギルドルームで?」
「し、白もふ?」
「白くてもふもふしていたではありませんか!」
「そのまますぎる!!!」
「おおっ、あの白いもふもふか! ええやん、ウチはペット可やで!」
「パンさんまで……! でも、ペット可でよかったです!」
じゃあ、白もふもといガルムちゃんを正式に召喚するというのでよさそう。
後はリンドールさんが何か知ってるかだけど……。
リンドールさんは少し考えるように指先を顎へ添えた。
「んー、申し訳ありませんが、父が飼っていた魔獣の世話は、専属の魔獣使いの方々に任せていましたので、わたくし自身はあまり詳しくありませんの」
「やっぱりそうですよね……」
「ですが、緑ギルド系のお店でしたら紹介できますわ」
「本当ですか!?」
受付嬢さんが教えてくれたのも、きっとそのお店だ!
リンドールさんが場所を知ってるなら、話が早い。
「もし明日、お時間がありましたら、一緒にお店へ行きますか?」
「はい! お願いします、リンドールさん!」
というわけで、明日はリンドールさんとお店に行くことになった。
【第10回アース・スター ノベル大賞】
金賞&コミカライズ賞 を受賞しました!(後2回報告します)
やったね!
毎日投稿中!
次話は、7月19日投稿予定です!(おそらく12時、それか18時)




