099 魔獣ショップ リーフェン①
昇格試験の緊張で疲れていたのか、ぐっすり眠った、その翌朝。
──というか昼前。よく寝た。
黄歯車団の人たちは、今日も体調不良で休みとのこと。
……クランクさんだけは来ようとしたらしいけど、今はベッドに縛り付けられているらしい。
というわけで、今日の私は、リンドールさんと緑ギルド系の魔獣ショップへ向かうことになった。
もちろん、アルテミスも一緒だ。
今回の目的は、ガルムちゃんをお迎えするための準備。
店員さんから話を聞いて、問題なさそうならガルムちゃんを召喚。
そして、ガルムちゃんに合った魔獣用具を一通り揃えるのだ。
前の世界では実家で犬を飼っていたとはいえ、基本的なお世話は親に任せきりだったし、分からないことだらけ。
ちゃんとお迎えするためにも、しっかり勉強しないとね。
◇
リンドールさんに案内されてやってきたのは、グラン=ラフィースの東門近くにある一区画。
ここは市街地の中心から少し離れてて、魔獣の鳴き声や臭いが問題になりにくいんだとか。
だからこのあたりには乗騎用の厩舎や預かり所も多くて、それに合わせて魔獣関係のお店が集まってる、というわけだ。
通りには、干し草を山ほど積み上げた飼料店や、鞍や手綱などを軒先にずらりと吊るした道具屋などが並んでいた。
時折、どこかから魔獣の大きな鳴き声が聞こえて、そのたび思わず振り返ってしまう。
歩いているだけでも、干し草の匂いに混じって、僅かに獣臭い。
……普通のお店が並ぶ通りとは、雰囲気が全然違うね。
そんな中でも、ひときわ目を引く建物があった。
緑色を基調とした、木造の、横に広い二階建てのお店だ。
大きく開かれた入口の上には一枚の看板が吊り下げられていた。
描かれているのは、大きな葉っぱの上で、翼と角を持つ魔獣が丸くなって眠っている意匠。
そして、その下に書かれているのは──『魔獣ショップ リーフェン』。
「着きましたわ。ここがリーフェン──魔獣ショップの中では、かなり名の知れたところですわね」
「ここが……」
開け放たれた入口の周りには、餌の詰まった樽とかが所狭しと積まれていた。
壁には、大小さまざまな首輪や胴輪が吊るされている。
魔獣関連のアイテムは一通り揃ってる、という感じだね。
そして、そのすぐ横には、
『魔獣用品・飼料・診療・調教・預かり・ステータス測定』
と書かれていた。
「すごい、何でもやってるんですね」
「そうですわね、総合的に扱った方が、当然儲かりますもの。診療に来たついでに魔獣用具を買って帰ったり、預けたついでにステータス測定してもらったり──というわけです」
「なるほど……」
リンドールさん、割とそういう経営的なのも詳しいんだね。
やっぱりお嬢様ってそういう勉強もするのかな。
……というか、ステータス測定ってなんだろう?
そう思って、リンドールさんに聞いてみることに。
「リンドールさん、ステータス測定って何ですか?」
「書いてある通りですわ。魔獣の能力を測定して、項目ごとにランク付けするサービスですの。生命力がA、膂力がB──といった具合ですわね」
「へえー、面白いですね! ガルムちゃんもやってもらおうかな……」
「いや、戦わせる気がないなら不要では……?」
なんて話していると、店の奥から──
「クルルルル……」
「きゅいっ!」
「グルルル……!」
──と、いろんな鳴き声が聞こえてきた。
「賑やかですね……! 色んな魔獣がいそうで楽しみ……!」
「そうですわね、わたくしもこの街のリーフェンには子供のころに何度か来たきりですので、ほとんど覚えていませんの。少し楽しみですわ」
「この街の……?」
「リーフェンは、大きな街であればだいたい店舗がありますの」
なるほど、チェーン店みたいなことか。
というか、リンドールさんはずっとこの街にいたわけじゃないのかな。
早速、店の中へ。
店内には、壁一面にブラシやら食器やら、魔獣関連のアイテムが並んでいた。
さらに奥には柵で仕切られた区画があり、その中で小さな魔獣たちが走り回っている。
「えっ、全部かわいい……! みてみてアルテミス、めっちゃ可愛い!」
「はい、マスターは可愛いです」
「いや魔獣の話ね」
リスのような魔獣。
丸っこい小鳥のような魔獣。
大きな耳と眠そうな目が特徴的な猫型魔獣。
そして、イヌとウサギを足して二で割ったような魔獣。
みんな、柵の向こうからこっちを見上げていた。
……まずい、全部飼いたい。
でも別の子まで連れて帰ったら、多頭飼育の始まり──いや、終わりです。
もう目を合わせないようにしよう……。
可愛すぎる魔獣たちから目をそらし、受付へ向かう。
すると、緑色の作業着を着た女性がこちらへ気付いた。
「いらっしゃいませ! 何をお探しでしょう?」
店員さんに、私は早速、ガルムちゃんの話をする。
「実は、白くてもふもふした小っちゃいガルムを飼いたくて……」
「白くてもふもふした小っちゃい──ペッコラでしょうか? こちらです!」
「あ、ここで買いたいわけじゃ──」
私がそう伝える前に、店員さんがすぐに案内してくれる。
……まあ、とりあえず見るだけ見てみようかな。
ペッコラがどんな魔獣か気になるし。
案内された先は、さっきの柵で仕切られた区画。
「こちらがペッコラです!」
店員さんが指差した先にいたのは、さっき見かけた、イヌとウサギを足して二で割ったような魔獣だった。
「あ、これがペッコラだったんですね」
「はい、小っちゃくて白くてもふもふです!」
「まあ、確かに小っちゃくて白くてもふもふですわね」
「いや、この子もめっちゃ可愛いんですけど……! 私の言っているガルムちゃんは、もっと真っ白で、もっともふもふなんです! ね、リンドールさん!」
「そ、そうですわね」
「え、そんな子、うちには……。──いやダメ、ここで引き下がったら、また先輩に小言言われる……! そうだ、せっかくなので他の魔獣も紹介させてください!」
「なんで!?」
「気に入った子がいれば買ってください!」
「いや、飼いたくなると困るから、さっきから目をそらしてたんですけど!!」
「じゃあ、目をそらさないでください! 魔獣たちからも、ご自分の『飼いたい』という本当の気持ちからも!」
「……何を言ってますの、あなたは」
──とりあえず、店員さんに魔獣を紹介してもらうことになった。
リスっぽい魔獣は、ポルリス。
店の商品を勝手に隠すらしく、いつも店員さんが探し回る羽目になっているらしいが、そこもかわいいね。
丸っこい小鳥の魔獣は、リルチル。
飼いやすいうえに、鈴のような声で鳴くため、人気なペットの一つなんだとか。
そして、大きな耳の眠そうな猫型魔獣は、ネムリネ。
一緒にいるとぐっすり眠れるらしく、不眠に悩む人から実用的な意味でも人気らしい。
いやー、どの子もほんとうにかわいいなぁ。
……って、やっぱり飼いたくなっちゃったじゃん!
どうしてくれるの、この私の気持ち!!
【第10回アース・スター ノベル大賞】
金賞&コミカライズ賞 を受賞しました!(後1回報告します)
いえーい!
毎日投稿中!
次話は、7月20日投稿予定です!(おそらく12時、それか18時)




