097 ただいま、ギルドルーム①
今回短めです。
ギルドルームに戻ってきた私たち。
クランクさんたち黄歯車団の面々がカンカンやってるかな──と思ったんだけど……。
「あれ……工事、やってない?」
「そのようですね、マスター」
私はアルテミスと顔を見合わせた。
ギルドルームの前から塀沿いにかけて地面が掘り返されていて、溝の中にはいくつか部品も置かれている。
二階の窓や屋根まで届く足場も組まれてるし、入口の脇には工具や部材の詰まった箱がいくつも積まれてる。
明らかに工事中の見た目……だけど、肝心の黄歯車団の人たちが、どこにもいない。
私が不思議に思っている横で、モーリー像はモーリー門をいつもの場所にどしんと置くと、その隣でぴたりと固まった。
『サキ、昇格おめでとう。君の試験に同行できて、かなりクールな体験だったよ。正直、ゴーレムと会えなかったのは残念だけどね:|』
「モーリーも戦ってくれてありがとう! ちょっとピンチもあったけど、モーリーの強さがよく分かったよ!」
『ハハ、実のところ、今回の試練の難易度はかなり控えめに設定しているんだけど──いや、ここでそういうことを言うのは、あまりクールじゃないね。とにかく、役に立てたなら何よりだよ。さて、午後は本でも読んで過ごそうかな:)』
「分かった、また読みたい本があったら教えてね。……って、像が自分で買いに行くか」
『そうだね。彼は僕の手足だけど、実のところ、かなり自由だからね:)』
というわけで、モーリーを入口に残し、私たちはギルドルームの中へ。
中では、リンドールさんとザラ、それからゴブリンズが優雅にティータイム中だった。
リンドールさんは、相変わらずティーカップを持つ所作までお嬢様。
ザラも、普段のゆるい感じに反して、こういうときの所作はきっちりしている。
そしてゴブリンズは、やっぱり無表情のまま、手の中でやけに小さく見えるティーカップのお茶をぐいっと流し込んでいた。
でもムキムキの大男二人が無言でお茶を飲んでいるのも、これはこれで映画のワンシーンみたいかも。
「皆さん、ただいまです!」
「苦っ……って、サキさん。戻ってきたのですね。おかえりなさいませ」
「にが~……。あっ、マスターお疲れさまです~!」
二人とも優雅なティータイムとは思えない、苦い顔をしていた。
「……何飲んでるんですか?」
「マナエーテルですわ」
ああ、マナエーテル……だからあんな顔をしてたんだね。
改良されて飲みやすくなったとはいえ、苦いものは苦いよ……。
でも、どうしてわざわざマナエーテルを飲んでいるんだろう。
そう思っていると、リンドールさんが苦い顔のままティーカップへ目を落とした。
「マナエーテルをさらに改良しようと思いまして、こちらはその試作品ですの。……味的に失敗してしまったようですが」
「マスター、これほんと苦いです~……。よく毎日飲んでますね、尊敬します……」
「まあ、改良前を知ってるからね。これでもだいぶマシになったんだよ、リンドールさんのおかげで。改良前は……ううっ……」
やば、あの生命活動が止まるほどの苦さを思い出したら、気持ち悪くなってきた……。
……マナエーテル改良品のお試し会にザラたちも付き合わされてたってことか。
全然、優雅なティータイムじゃなかった。どちらかというと治験……。
ご愁傷様です……。
「例の魔狼の眼球を使った監視用魔術具を作っていたのですが、どういうわけか色々と錬金の着想がわいてきたのです。それで、いてもたってもいられなくなり……」
「なんで魔狼の眼球からマナエーテルの着想が……?」
「さあ、わたくしにも分かりませんわ」
リンドールさん自身も不思議そうに小首を傾げた。
でも、ゲームの錬金だとあるあるだよね。
全然関係ないものを作っていたのに、錬金レベルが上がった途端、全く関係ない新しいレシピを思いつく──みたいなの。
「マナエーテルはどういう改良をするつもりなんですか?」
「味の面、効果の面、両方思いついてますの。どうしようかしら」
「味の面でお願いします!」
「まあ、考えときますわ。……それよりも、昇格試験はどうでしたの?」
「はい、色々ありましたけど……モーリーとアルテミスのおかげで無事合格できました!」
「まあ、おめでとうございます!」
「流石マスターです~! お姉さまも流石です♡」
「お姉さまと呼ぶな」
パチパチと拍手してくれるリンドールさんたちに「ありがとうございます!」と頭を下げて、
帰ってきてからずっと気になっていたこと──クランクさんたちのことを聞いてみる。
「ところで、黄歯車団の皆さんはどこへ行ったんですか?」
「それが……体調を崩してしまったそうですの」
「えっ、そうなんですか!?……でも確かに、クランクさん昨日から具合が悪そうでしたよね……」
「ええ。作業を中断することになって、随分と悔しがっていらしたそうですわ。しかも、クランクさんだけではなく、黄歯車団の何人かも、同じような症状を訴えているのだとか」
「えええ!? それって……何か変な病気が流行ってるとかじゃないですよね!?」
「そこまでは分かりませんけれど……今ごろ皆さん、診察を受けているはずです」
「じゃあ、工事は……めっちゃ途中のままですけど……」
「少なくとも、このまま予定通りというわけにはいかないでしょうね。詳しいことは、パンさんとクランクさんがお話しになると思いますけれど」
「マジですか……」
そんな話をしていると、入口の扉が開いた。
帰ってきたのは、パンさんとペールルージュさんだ。
どうやら、朝から出席していた評議会がようやく終わったらしい。
「おお、サキはん! もう帰っとったんか」
「はい、おかえりなさい!」
「ただいま、サキちゃん。その感じだと聞くまでもなさそうだけど、試験はどうだったの?」
「はい、無事に受かりました!」
「おおおおっ! 流石やなあ!」
パンさんは両手を上げて喜んでくれた。
「これでグランベルジュには第五天位が一人、第四天位が一人──これ、すごいことやで?」
「そうよ。五大ギルド所属じゃない第四、第五天位って少ないしね。……ほんの一か月くらい前まで、パンと私しかいなくて解散しそうだったのにね」
「ほんま、信じられへんわ。そのぶん、仕事もぎょーさん忙しなったけどな!」
そう言って嬉しそうに笑うパンさん。
確かにパンさんは評議会やらギルドマスターの仕事やらで、ずっと忙しない。
まあ、最初からパンさんはずっと忙しない──って言ったら怒られるかな。
【第10回アース・スター ノベル大賞】
金賞&コミカライズ賞 を受賞しました!(2回目の報告)
イラストなど、楽しみにしてもらえればと思います!
毎日投稿中!
次話は、7月18日投稿予定です!(おそらく12時、それか18時)




