096 ああ、愛しのガルムちゃん
昇格試験を終えた私たちは、模擬戦闘用訓練場を後にした。
コナツさんと、可愛すぎる白羽兎たち、そして後から駆けつけた医療班の人たちは、引き続き冒険者たちの治療にあたっていた。
そんな中で私たちだけ先に戻るのは忍びないけど、居ても邪魔になるだけだしね。
転移の魔法陣を抜けてギルド集会所へ戻ると、時刻はちょうど昼過ぎ。
広間は、多くの冒険者たちでにぎわっていた。
「……像?」
「なにあれ?」
「新種のゴーレムなんじゃない? モデルゴーレムみたいな」
──という、もはやちょっと慣れてきた反応を横目に、私は受付嬢さんの姿を探す。
あ、いたいた!
「受付嬢さん、昇格試験終わって戻ってきました!」
私がそう声をかけると、受付嬢さんは台帳へ走らせていたペンを止めて、パッと顔を上げた。
「お、サキさん! お疲れ様ですー! まあ、聞くまでもない気はしますけど……結果はどうでした?」
「はい、なんとか無事、第四天位に昇格できました!!」
「ですよね! おめでとうございますー! 流石ですねえ!」
「ありがとうございます!」
自分のことのように喜んでくれる受付嬢さんを見てると、やっと昇格の実感が沸いてくる。
第一天位から第八天位まであるうちの、第四天位。
つまり、半分くらいまで来たってことだ。
……改めて考えると、それって結構すごいことなのでは。
でも同時に、「本当にいいのかな」って気持ちもあった。
だって私自身は、未だに魔物と戦ったこともないんだから。
相変わらずステータスも1だし。
強い人に階級だけ上げてもらってるって……ブースティングみたいなものじゃない?
──なんて、一人で複雑な気持ちになっている間にも、受付嬢さんは昇格に必要な手続きを進めてくれていた。
どうやら確認する項目がいくつかあるらしく、私はカウンターの前で少し待つことに。
すると、受付嬢さんは管理簿のようなものをめくりながら、不思議そうに呟いた。
「あれ、訓練用ゴーレムの起動記録がない……。というか、利用手続きもされてないぞ? コナツさんにしてはめちゃくちゃ珍しいミス……」
「あ……それなんですが……」
私はかくかくしかじかと、今回の試験について説明すると……
「な、なぜにそんなことに!?」
受付嬢さんは、これでもかというくらい目を見開いた。
……やっぱり、試験内容の変更は受付嬢さんにも共有されていなかったみたい。
「しかも相手は全員上の階級……人数でも不利……勝利条件まで不利……。イジメかなにかですかね?」
「やっぱりおかしいですよね!?」
「はい、聞いたことないですもん。少なくともこのギルドでは異例中の異例だと思います」
良かった……受付嬢さんが「おかしい」って言ってくれて。
理解者がいるって大事だね……。
「なんかすみません……ゴーレムとか言っちゃって……」
受付嬢さんが申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
「いやいや! 受付嬢さんは何も悪くないですよ! 謝らないでください!」
強いて言えば、悪いのはあのラウゼンさんとかいう、たぶんギルド運営の偉い人。
何が目的だったのか分からないけど、私──というかモーリーからしたらいい迷惑だよね。
モーリーはゴーレムと戦いたがってたわけだし。
「とにかく災難でしたね……でも無事、第四天位昇格!──ということで、また行けるダンジョンも増えましたよ!」
受付嬢さんはそう言うと、何枚かの資料を見せてくれた。
これは……第四天位から行けるダンジョンの情報かな。
「第四天位になったことで、これまで行けたダンジョン──黒裂結晶の洞窟や灰焔の地下溶岩洞のさらに深い階層へ進めるようになりました。それだけじゃなく、新しく二か所のダンジョンにも挑戦できるようになったんです!」
一つ目は──響影迷走宮。
道がとにかく入り組んでいてまさに迷宮みたいなところらしい。
……うん、私には絶対向いてないダンジョンだね。
二つ目は──剥離する朽木樹冠。
そういえば、初めてダンジョンへ行ったときに、パンさんから少しだけ聞いたような。
地下へ潜るのではなく、上へ上へと登っていくタイプのダンジョンなんだとか。
正直、ダンジョンを本気で攻略して、最深部までたどり着いてやるぞ!──なんて気概はないのだけど、
新しいダンジョンに行くのはワクワクして楽しい。
もちろん魔物は怖いので、みんなとしっかり準備をして、安全第一で、だけど……。
というわけで、この二つも、どこかのタイミングで行ってみたいかも。
「そうそう、サキさんはダンジョン──というかレアドロップでギルドポイントを稼いでるので、あまり興味はないかもしれませんが……第四天位向けには、野生の魔物の討伐依頼なんかも増えてます。気が向いたら見てみてください!」
「野生って、ダンジョンに湧く魔物じゃない、ってことですか?」
「そうです、倒しても煙にならない方ですね! 森や山なんかに普通に生息してるんで、強い魔物がふらっと人里まで下りてきたり、採取場所に住み着いたりすると大変なんですよ! なのでそういうときには冒険者へ討伐依頼が出るわけです」
街の兵士でも対応できるようなレベルの魔物だったらいいんだけど、強力な魔物となると、やっぱり対魔物の専門家──冒険者に仕事が回ってくるんだとか。
ダンジョンと違って現地までの移動に時間がかかるし、冒険者からは敬遠されがちなんだけど、
街や国、人々の暮らしの安全を考えたら、これも冒険者の大事な仕事ってことなんだね。
そういえば私、これまで見た魔物って、ダンジョンの魔物か、召喚で出てきた子たちくらいだよね……。
自然の中で暮らしている魔物がどんな感じなのか、見ておくべきかも?
……あ、魔物で思い出したんだけど、ずっと考えてたことがあったんだった。
せっかくだし、受付嬢さんに聞いてみようかな。
「あの、全然話は変わるんですけど、一つ聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「実は、小っちゃいガルムを──ペット? みたいな感じで飼いたいと思ってて……。ペットショップみたいなお店って知りませんか?」
そう、これまで何度か【時短召喚術】で召喚した、あのガルムちゃんを、ちゃんと召喚したい……!
さっきの可愛すぎる白羽兎たちを見て、その思いは一層強くなっていた。
でも、前の世界でもそうだったけど、ペットは「かわいい!」という軽い気持ちで飼っていいものじゃない。
ちゃんと世話できるのか。
ご飯は? トイレは? 散歩は?
そのあたりを全部確認して、迎える準備を整えてからじゃないとね。
「ガルムの小さいの……ペッコラとかですかね?」
「ごめんなさい、あまり詳しくなくて……。召喚で出てきてくれた、ちっちゃな白い毛玉です」
「うーん、じゃあ違いそう。まあ、お店で見てもらえば分かると思います! 魔獣を飼う人向けに、緑ギルド系がやってるお店があるんですよ!」
受付嬢さん曰く、緑ギルドには魔獣使いも多く、そういうのに精通しているらしい。
だからペットショップ関連も緑ギルド系が多いんだとか。
「詳しい話は、そのお店に行けば店員さんから聞けると思います。いろんな魔獣もいると思うんで、見るだけでも楽しいです!」
「へえー、楽しそう! 今度行ってみようと思います!」
今日の帰りに行こうかと思ったけど、ギルドルームが絶賛改修中なわけだし、早く帰った方がいいよね。
ザラにもギルドルームで待ってもらってるわけだし。
そういえば、リンドールさんのお父さんは魔獣を飼っているって言ってたっけ。
帰ったら、リンドールさんにも聞いてみようかな。
そんなこんなで昇格の手続きも終わり、これで正式に第四天位になった私は、改修中のギルドルームへ戻ることにした。
【第10回アース・スター ノベル大賞】
金賞&コミカライズ賞 を受賞しました!
これからも長く続けていきますので、
書籍やコミカライズについても、よろしくお願いします!




