095 昇格試験の行方は……?
第四天位昇格試験、ついに終了です!
次話から、またサキたちの日常に戻っていきます……!
目を閉じていたせいで、レグさんたちに何が起きたのか、はっきりとは分からなかった。
でも、光の波動に吹き飛ばされたんだと思う。
立ち上がったレグさんは、こっちが不安になるくらいフラフラで、それでも剣を手放していなかった。
むしろ、柄を握る手にもう一度力を込めて、モーリー像をキッと睨みつける。
「……この、化物」
そんな呟きが耳に届いた直後、今度は地面を蹴る音が響いた。
レグさんが、モーリー像へ向かって走り出した音だった。
「おおおおおおッ!!」
その気迫に、私は思わず息をのむ。
全てをかなぐり捨てて、最後の力を一撃に込めるみたいな、そんな突撃。
そして、レグさんの剣が、モーリー像の首元へ叩き込まれ──
「……あぁ」
──ごぉん、と鐘を打ったような音が訓練場に響くとともに、刀身が折れた。
レグさんの手元には柄とわずかな刀身だけが残っている。
その瞬間のレグさんの顔を見て、私は胸がぎゅっとなった。
きっと、レグさんにとって大切な剣だったんだと思う。
毎日手入れしていそうな、すごく綺麗な剣だったから。
……ルーアンさんなら、修理できないかな。
「……こんな、もんか」
レグさんが、そうぽつりと呟いたとき、
かすかに、金属が擦れるような音がした。
そして、銃声が響き渡った。
──何が起きたのか、分からなかった。
反射的に音のした方を見ると、倒れていたはずのディガルさんが、地面に伏せたまま銃を構えていた。
銃口が向いているのは、モーリー像。
つまり、モーリー像に向けて、銃弾を放ったんだろう。
でも、モーリー像はびくともしていない。
相変わらず、エリーゼさんを叩き伏せた姿勢のままだ。
……その一方で。
「あ、アルテミス……?」
気付けば、アルテミスが再び私の前に立っていた。
片手を伸ばし、人差し指と親指で何かを摘まんでいた。
その指先に挟まれていたのは、細かな紋様が刻まれた、金色の弾丸。
……どういう状況?
「な、なに摘まんでるの……?」
「……あのハゲ、マスターを狙いました。殺してきます」
「いや一旦落ち着こ?」
そのままディガルさんの方へ歩き出そうとするアルテミスを、私は慌てて引き止める。
というか今、私が狙われてたの? モーリー像を撃ったんじゃないの!?
そう思い、改めてディガルさんの方を見ると……。
「…………」
ディガルさんは、最後の力を使い果たしたみたいに、またぐったりとしていた。
銃を構えていた腕が、力なく床に落ちる。
その拍子に、銃も手から離れ、地面に転がった。
そして、残ったレグさんも……折れた剣の柄を握ったまま、膝をついていた。
「こ、コナツさん!」
「……そこまで、ですかね」
これまで訓練場の端で、試験の行く末を見守っていたコナツさんが、ゆっくりと会場の中央へ歩いてくる。
「レグさん。戦闘続行は可能ですか?」
「……無理だ」
そう言って、レグさんは力なく項垂れた。
「……分かりました。それでは、冒険者六名、戦闘不能。よって、サキさん。第四天位昇格です。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
私は思わず頭を下げた。
……正直、私がやったことと言えば──驚いたり、怖がったり、モーリーと話したりしてただけ。
だから全然実感が湧かない……。
でも、これで私もついに、第四天位の冒険者になったということになる。
それはつまり、あの凄まじい身体能力を見せたソノイチさんや、最後まで戦っていたディガルさんと同じ階級になった、ということ。
……いやいや、まだステータスほとんど1ですけど。いいんですかね……。
──それよりも、みんな、吹きとばされたり殴られたり、結構ダメージを受けてるはず。
もしかしたら命に関わるような状態かもしれない。
「あの、昇格はとっても嬉しいんですが、みなさんに治療を……!」
私が慌ててそう言うと、コナツさんは冷静に頷いた。
そして片手を前へかざすと、足元に一つの白い魔法陣が展開される。
そこから現われたのは、真っ白でふわふわの兎たちだった。
子猫くらいの大きさの兎が、十匹くらい魔法陣から次々と飛び出してくる。
……か、かわいい……!!!
「ちょっとなんですかこれはコナツさん!!!」
「白羽兎を群召喚しました。キズを癒す力を持つんです、この子たち」
「めっちゃ優秀!? しかもめっちゃかわいい……!」
白羽兎──確かに名前の通り、羽毛みたいにふわふわした白い毛並みだ。
「一匹一匹の持つ力は小さいですが、重なることで馬鹿にできない回復効果を発揮するんです。まさに群召喚向きの魔物ですね」
コナツさんがそう言うと、白羽兎たちは一斉にぴょんぴょんと跳ね、倒れている冒険者たちのもとへ向かっていった。
ダメージの少なそうなレグさんのもとには一匹。
ディガルさんとカイルさんのもとには二匹ずつ。
そして、エリーゼさんやアッシェさんの周りには、三匹ほどの白羽兎が集まっていく。
どうやら、怪我の具合に合わせて向かっているみたい。
白羽兎たちは冒険者たちのもとに到着すると、倒れた冒険者たちの身体に前足をそっと置く。
すると、その前足から白い光が広がるのが見えた。
「……うん。みなさん、大丈夫そうですね。少しの間は安静にしてもらう必要があると思いますが」
「本当ですか! 良かった!」
出てくる魔物の特性をちゃんと理解してて、状況に応じた魔物を召喚して、指示を出す……。
なるほど、これが"召喚士"なんだ。
同じ召喚士──と言っていいのか分からないけど──として、私は改めて、コナツさんへの尊敬の念を深めた。
「……それにしても、皆さんよくここまで戦いましたね。これなら、第六天位でもいいんじゃないですか?」
コナツさんは倒れた冒険者たちを見回すと、どこかをジッと見つめてそう言った。
第六天位?
確かに、レグさんたちの戦いぶりは凄かったし、コナツさんから見ても第六天位くらいの力があるってことなのかな?
私が首をかしげていると、隣にいたアルテミスがモーリーを睨んで、いつもよりずっと冷たい声を上げた。
「貴様、先ほどの光──マスターに届く可能性を承知していたな」
『おっと。アルテミス、あれは君を信頼しての判断だったんだ。君なら問題なくサキを守ることができる、とね。実際、君は僕の門前払いを打ち消してみせた。本当にクールだったよ。ただ興味深かったのは、君のその力のことなんだけど──』
「黙れ」
『──ハハ、失礼。ここまでにしておくよ:X』
それっきり、モーリーに文字が浮かぶことはなかった。
……今、何の話だったの? アルテミスの力って……?
気になるところだったけど、今は深く聞ける空気じゃなかった。
白羽兎たちは、倒れた冒険者たちのそばで、今も小さな前足から白い光を流し続けている。
コナツさんはその様子を確認しながら、てきぱきと医療班への連絡を進めていた。
──こうして、色々あった第四天位の昇格試験は、無事、幕を閉じたのだった。
7月16日(木)から7月20日(月)までの5日間、毎日投稿予定です!(頑張る)
詳細は、木曜日に!




