093 ホラー映画……?
ディガルさんに続いて、カイルさんまで倒れてしまい、冒険者たちは明らかに動揺していた。
だけど息つく暇もなく、彼らの周囲の地面が次々と光り始める。
そして、あの澄んだ音とともに、光の柱が続けざまに落ちてきた。
「──すごい、見ずに避けてる……!」
モーリー像からは目を離さない。
でも、足元の光を頼りに光の柱を避けないといけない。
そんなの私には絶対無理。
……というか、私の身体能力的に足元を見てても無理かもしれない。
それなのに、冒険者たちは何とかやってのけていた。
誰かの声に合わせて動いている人もいれば、ほとんど勘みたいな動きで光を避けている人もいる。
どうやってるのか全然分からないけど、とにかく凄い身体能力だ。
「やっぱり上位の冒険者ってすごい……絶対、私にはまだ早いよ……」
『ハハ、サキには僕たちがいるから心配ないさ。──実のところ、彼らがイントロで退場してしまう可能性も少し考えていたんだ。そうならなくて良かったよ:)』
でも、冒険者たちの状況は、どんどん悪くなっているように見えた。
最初は一つ、二つだった地面の光が、少しずつ増えているからだ。
「モーリー、これ……段々と激しくなってない……?」
『うん。だって曲というものは、サビに向かって盛り上がっていくものだよね:)』
「曲?」
『ほら、光の柱を曲になるように落としているんだ:)』
「……言われてみれば、曲に聞こえるかも」
そういえば、モーリーは自分のことを“奏者”とか言っていた。
奏者ってそういう意味だったんだ……。
そしてモーリーの言う通り、光の柱が落ちてくるテンポはどんどん速くなっていった。
冒険者たちも何とか避けているけれど、段々余裕がなくなっていき……。
「アッシェ!」
アッシェさんの足元が光るのを見て、レグさんが叫ぶけど、もう遅かった。
もう避ける時間はなさそう……。
するとアッシェさんは諦めたのか、心を決めたのか、大盾を地面に叩きつけるように構えた。
そして腰を落とし、真正面から受け止める姿勢を取る。
「──来てみなさいよ、化物」
アッシェさんのその言葉に、私は思わずモーリー門の方を見た。
「……モーリー、化物って呼ばれてるよ」
『ハハ、化物か。正直、完全に間違いとも言い切れないのが難しいところだね。僕は神に造られし存在だから、人間から見れば化物なのかもしれない:|』
モーリーには表情がないから分からないけど、
浮かび上がった文字からは、少しだけ寂しそうな感じがした。
──そして、アッシェさんの体に、光の柱が直撃する。
「ぐっ……あああああっ!!」
絶叫とともに、アッシェさんの身体が大きく吹き飛ばされる。
……のだけど、やっぱりアッシェさんもゆっくりと吹きとばされていった。
そんなアッシェさんを、モーリー像が静かに見る。
そしてまた全力疾走で、吹きとばされ中のアッシェさんに追いついた。
横に並んだモーリー像は、拳を振り下ろす。
鈍い音が響き、アッシェさんの身体は地面に叩きつけられた。
……でも流石なのは、アッシェさんが最後の最後で盾を間に滑り込ませていたことだ。
そのおかげか、あれだけの一撃を受けても、アッシェさんはまだ意識を保っていた。
「……この、やろう……ッ!」
アッシェさんは絞り出すようにそう言って、強気な姿勢を崩さない。
あんなにダメージを受けてるはずなのに……。
だけど、そんなアッシェさんの背中の下で、無慈悲にも光が灯った。
……つまり、そこにこれから光の柱が落ちてくるってことだ。
「……光の落ちてくる場所って、モーリーが決めてるの?」
『ある程度はね:)』
「じゃあ、アッシェさんに追撃したのもモーリー判断?」
『ハハ、実のところ、化物と呼ばれたお返し……かもしれないね:)』
え、実は根に持ってたんだ……。
「アッシェ、そこから離れろ!」
レグさんが叫ぶけど、もう間に合いそうにない。
──トーン。
アッシェさんに光の柱が落ち、大きく吹きとばされた。
こうなると、どうしてもモーリー像から目を離してしまうことになる。
そうなるとまた、モーリー像が全力疾走で追いついてきてぶん殴られる──というわけだ。
「……これ、冒険者側から見るとどう見えてるんだろう」
『おそらく、彼が瞬間移動しているように見えているんじゃないかな。実際には、彼がかなり速く走っているだけなんだけどね:)』
「なにそれ、ホラー映画……?」
像から目を離したら、一瞬で近寄ってきて襲われる──そんなホラー映画、ありそうだよね。
そんな何気ない私の発言に、モーリーは凄く興味を持ったみたいだった。
『ホラー映画……? なんだろう、それは少し気になる言葉だね。今度、よければ教えて欲しい。僕らのような存在が登場するものなのかな:|』
「うん、”像が動く”って結構ホラーの定番ネタかなーって。ホラー映画って、要するに怖いものを見たい人用の映像作品なんだけど……ほら、動かないはずのものが動くって怖いし?」
『ハハ、僕にその話で同意を求めるなんて、かなりクールだよね。僕たちってその代表格だと思うんだけど:)』
「あ、ごめんね? モーリーがその、化物だって言いたいんじゃなくて……」
『大丈夫さ、分かっているつもりだよ。君が僕を化物だと言いたかったわけではないこともね。それよりも、そのホラー映画というものにはかなり興味があるんだ。いつか見てみたいな:)』
うーん、映画ってこの世界にもあるのかな?
天影鏡があるくらいだし、映像を残す技術自体はありそうだけど……。
……って!!!
「モーリー、前、前!!」
なんと、冒険者の一人──ソノイチさんが、いつの間にかモーリー門へ迫っていた!!!
ソノイチさんは、もうモーリー像から目を離していて、天界の試練のペナルティで時の流れが遅くなっていた。
それでも、かなりのスピードだ。
たぶん、私の全力疾走よりもずっと速いくらい。
その足には、緑と黄の光の線がまとわりついていた。
あのマギド・ゼブラスのときみたいに、魔法の力で速さを上乗せしているんだろう。
『ああ、君との会話に夢中で完全に忘れていたよ。それにしても彼、正直かなり速いね:)』
「褒めてる場合!? 辿り着かれちゃうよ!?」
『じゃあ、彼に少し急いでもらおうかな。あと、曲のテンポも少しだけ上げておくよ:)』
その瞬間、モーリー像が慌てた様子でソノイチさんに向かって走り出した。
同時に、光の柱が落ちるテンポも上がる。
まるで曲が転調したように、ソノイチさんの前方の地面が次々と光っていく。
でも、ソノイチさんは止まらなかった。
光った地面をギリギリでかわし続けて、どんどんとモーリー門へと迫ってくる。
『へえ、すごいね! 正直、あの速度でまだ避け続けられるとは思っていなかったよ。人間もなかなかやるね:)』
「ちょっとちょっと、大丈夫!?」
『大丈夫さ。ほら、もう彼が背後まで迫っているよ:|』
──見ると、モーリー像がソノイチさんの背後から飛び掛かっていた。
……恐怖映像だよ。どこからどう見ても。
『これも、君の言うホラー映画というものに近いのかな:)』
「うん、まさに! って感じ……」
そして、モーリー像の拳が、ソノイチさんの背中を殴りつけた。
「──ッ!」
ソノイチさんの身体が、前方──モーリー門の方へ吹き飛ぶ。
だけど、その前方では、すでに地面が光っていた。
──トーン。
落ちてきた光の柱にぶつかり、ソノイチさんの身体が再びモーリー像の元へと吹きとばされる。
そして最後は──待ち構えていたモーリー像が、おかえりなさいと言わんばかりに拳を振り下ろした。
ソノイチさんの身体が、地面に叩きつけられる。
──ソノイチさんのうめき声と、どぉんという大きい音が試験場に響いた。
「だ、大丈夫ですか!?!?」
ソノイチさん、モーリー像に二回も殴られてたよね……。
脳震盪とかになってないといいけど……。




