091 モーリー、何言ってるの……?
「続いて、サキさんの相手をする冒険者六名について説明します」
そう言うと、コナツさんは一人ずつ名前と階級を読み上げていく。
レグ・ウォルツさん──野良ギルド灰狼の爪痕所属の第五天位冒険者。
アッシェさん──第五天位冒険者。
ベン・カイルさん──第五天位冒険者。
エリーゼさん──第五天位冒険者。
ソノイチさん──第四天位冒険者。
ディガルさん──第四天位冒険者。
──第五天位?
ちょっと待って、今、第五天位って言った!?
第五天位といえば、ザラと同じ階級。
そのせいで感覚がバグってるけど、本来は普通にめちゃくちゃ上澄みの冒険者だよね……。
だって第六天位からは、五大ギルドの最上位層レベルって話だったし。
しかも、残り二人も第四天位……。
いや、それって私が今から昇格しようとしている階級なんですけど。
それがどうして、昇格試験の相手なの……!?
そんな私の大混乱を置き去りに、コナツさんの説明は淡々と終わった。
「──以上が、冒険者六名です」
「いやいやいやいや!!! 全員私より階級上じゃないですか!?!? なのに何で私が不利な勝利条件なんですか!?!?」
そう叫んだ私とは対照的に、なぜか六人の冒険者たちは、誰一人として余裕そうな顔をしていなかった。
……なんで?
私だけならその辺でつまずいて負けるまであるんだけど。
「確かに勝利条件だけ見れば、サキさんが不利です」
「ですよね!?」
「でも、それだけ条件に差がなければ勝負にならない──そう判断されたということですよ」
「えぇ……誰がそんな判断を……?」
「ラウゼン様です」
「出た!! 誰なんですかそれ!?」
コナツさんは困ったように笑うだけだった。
◇
「──説明は以上になります」
コナツさんはそう締めくくると、訓練場にいるみんなを順番に見回した。
「開始前に、何か質問などはありますか?」
「一つ、確認させてくれ」
そう言って手を挙げたのは、魔法使いっぽい女性の冒険者──エリーゼさん。
「どうぞ、エリーゼさん」
「サキ側の召喚獣は、そのエルフと、その……門と像だけと考えていいのか? 彼女は召喚士ということだが、試験中の追加召喚も認められているのか?」
「はい、当然認められています」
そうだった。
今回はモーリーに戦ってもらうつもりだけど、いざとなれば私には召喚という手がある。
相手は六人いるんだし、こっちも数を増やした方が良いのでは……?
【時短召喚術】を使えば、今の私の魔力ならゴブリンを五体は召喚できる。
エルフなら二人。
……いや、でもエルフって今のところ癖が強いし、ここで何も知らないエルフを追加で呼んだら逆に混乱するかも?
その点、ゴブリンズは大人しくて、実績もあるから呼びやすいよね。
「モーリー、どうしようか? モーリーに戦ってもらうつもりだけど、念のためゴブリンズを二、三体くらい召喚しとく……?」
私はモーリー門に話しかける。
今回の主役に決めてもらおうというわけだ。
『ハハ、その必要は無いと思うよ。だって、彼らは(残念だけど)僕に近づくことすらできないだろうからね。手も足も出ないってやつさ:)』
「うーん、でも……」
私は当然だけど戦いのことなんて全然分からない。
でも、一つだけ知ってるのは、”戦いは数”ってこと、たぶん。
強い人でも、相手が多ければやっぱり不利だし。
対戦ゲームでも、かなりの実力差が無いと普通は一対六なんて勝てるわけがないし。
そんな私の不安を見透かしたように、モーリー門に新しい文字が浮かび上がった。
『大丈夫さ。実のところ、僕はこういう役目にかなり向いているんだ。神に誓ってもいいよ。それはつまり、僕を造ったおじさんにってことになるけどね:)』
……まあ、モーリーがそこまで言うならいいのかな。
それに、私にはアルテミスがいる。
そう思って横を見ると、アルテミスはいつも通り、私のすぐ隣に立っていた。
「問題ありません、マスター。近づく者は全て殺します」
「うん、殺しちゃダメなんだよね」
「徹底的にいたぶって」
「さらにダメだよ!?」
まあ、アルテミスはこう言いつつ(たぶん)まだ誰も手にかけていないはず。
……マギド・ゼブラスが生きていれば。
「……分かった。まあ、モーリーの頑張りも見てみたいし、今回はなしでいこっか」
私がそう言うと、コナツさんが確認するように頷いた。
「承知しました。開始前の召喚はしないということで。まあ、試験中の召喚も可能ですので」
「はい! 分かりました!」
私はこくりと頷く。
「それでは、両陣営は開始位置へ移動してください」
コナツさんの言葉に従い、冒険者六人が、私たちと向かい合うように距離を取る。
……すごい。誰かが声をかけたわけでもないのに、自然と前に出る人、少し後ろに下がる人、さらに後ろで構える人に分かれていく。
あれが、ちゃんとした冒険者の陣形なんだろう。
思わず感心していると、白亜の門に文字が浮かび上がった。
『サキ、申し訳ないんだけど、始める前に彼らへルールを伝えてもらえるかな:)』
「ルール? 昇格試験のルールならすでにコナツさんが──」
『うーん、それとは少し違うかな。昇格試験のルールじゃなくて、僕の"試練"に挑む者たちへのちょっとした案内なんだ。まあ、とりあえず読み上げてくれると助かるよ:)』
すると、モーリーの門に長々とした文章が浮かび上がる。
……え、なにこれ。
私が困惑している間にも、コナツさんは両陣営の位置を確認し、開始宣言のために片手を上げようとしていた。
や、やばい。
「あのー……」
私はおずおずと声を上げた。
すると、コナツさんの手が止まり、冒険者たちの視線も一斉に私へ集まる。
「なんかモーリーが先にルールを伝えておいてほしいらしくて……これを読むの?」
私は門に浮かんだ文章を何度か目で追う。
……全然、意味が分からない。
でも、読むしかないよね……。
「……えっと、じゃあ、とりあえず読みますね。モーリーからの伝言です──」
私は観念して、モーリー門に浮かび上がっている文章を読み上げていく。
えーっと……。
「彼を見ざる者、神速の接近あり。彼を見ざる者、裁きの拳あり。彼を見ざる者、一切の勝ち目なし」
……なにこれ?
「……我に挑む者、天より落つる光の柱あり。我は門であり、番人であり、天界を守る古き奏者なり。我に挑む者、光の律動を読み、我が門前へ至ってみせよ。ただし、片時も彼から目を離してはならない」
…………。
「目を逸らした者は──まあ、かなりクールな勢いで殴られると思うよ:)
──とのことです……!!」
──シーン。
訓練場に沈黙が落ちる。
「……な、なんだ?」
「意味が分からないわ……」
「…………」
いや、そりゃそういう反応になるよね!!?
私も意味分かんないし!!
何とも言えない空気に耐えきれず、モーリー門に詰め寄る。
「も、モーリー……!!! やっぱりいきなりこんなこと言っても変な人扱いされるって!!!」
『ハハ、良い宣告だったよ。ありがとう、サキ。僕の天界の試練は、挑戦者に宣告する必要があるんだ。そういうところ、かなり誠実だと思わないかい:)』
「もう、良く分からないけどこれでいいんだよね!?」
『ああ、十分だよ。これで挑戦者たちは、彼から目を離してはいけなくなった。宣告した以上、もう無視はできない。実のところ、かなり大事な手続きなんだ:|』
「え? どういうこと?」
『ハハ、見ていれば分かるよ。文字通り、彼を見ていればね:)』
私がモーリーとそんなやり取りをしていると、相手の冒険者の一人──一番後ろにいた大柄な男の人から声が上がった。
「──いいから早く始めねえか?」
ディガルさんの苛立ったような声が、訓練場に響く。
そうだよね。
相手からしたら、自分たちより下の階級の相手をしないといけないんだし、きっと面倒なんだろう。
さっさと終わらせたいはずだ。
「それでは、改めまして」
コナツさんは小さく咳払いをして場を仕切り直すと、再び片手を上げた。
そして、訓練場に響く声で告げる。
「第四天位昇格試験、開始です」




