090 あれ、ゴーレムじゃなかったの!?
遅れてすみません……。
試験会場の中央付近で待つこと、しばらく。
……ゴーレムは──まだいないみたい。
以前、パンさんが「ゴーレムは魔術具に近いもの」みたいなこと言ってたし、もう試験会場の端にでも置いてあるかな、と思ったんだけどね。
この後、試験官さんが連れてくるのかな。
……この待っている時間もドキドキだよ。
学生のころ、試験用紙を配られて開始の合図を待っているときみたい。
早く始まってほしいけど、不安でいっぱいなんだよね……。
なんて思っていると、誰かが転移してきたみたい。
現れた一団の中には、見覚えのある人が。
前回、私の昇格試験で試験官をしていたコナツさんだ。
そして、コナツさんと一緒に現れたのは、六人の──たぶん、冒険者の人たち。
だって、身に着けてるものが明らかに冒険者のそれだからね……。
大きな盾を持った全身鎧の人に、忍者みたいな服装の人、
魔法使いっぽいローブの人もいれば、巨大な銃のような武器を持つ人もいる。
まさに、いかにも、な冒険者の装備だよね。
一瞬、どうして他の冒険者が、って思ったけど、
あの人たちも第三天位で、一緒に昇格試験を受けるってことだよね。
前回の昇格試験のときのトルキルドさん、ハケミさんみたいに。
……知っているコナツさんもいるし、他にも受験者がいるんだと思うと、さっきまでの緊張や不安が少し和らいだ。
「これで全員集まりましたね」
「あっ、コナツさん! お久しぶりですー!」
「お久しぶりです、サキさん。ついに昇格ですね」
「いや、まだ昇格するか分からないですよ!?」
「そうですね」
コナツさんが何ともいえない表情で、短くそう答えた。
……どうしたんだろう。
何だか、コナツさんも緊張してる?
それに、他の受験者の人たちにも挨拶しようと思ったんだけど──全員、顔が険しい。
というか、鬼のように怖い顔をしている気が……。
試験前だから鬼のように集中しているのかもしれないけど、すごく話しかけづらい。
はじめましてー、とか言える空気じゃないかも……。
挨拶しようか悩んでいるうちに、コナツさんが説明を始めた。
「まあ、早速始めましょうか。……みなさん、本日はグラン=ラフィース冒険者昇格試験にお集まりいただきありがとうございます。改めまして、私は本日の試験担当のコナツと申します」
そう言って、コナツさんは訓練場にいる全員をぐるりと見回した。
「今日の受験者は──一名ですね」
「えっ?」
思わず声が出た。
どう見ても私の他に六人いるんだけど……。
いるよね?
私にしか見えてないとかそういう話じゃないよね?
私は怖い話は好きだけど、恐怖耐性は低いんです……。
「い、一名……?」
「はい。今日の受験者はサキさんだけです」
な、何を言ってるのコナツさんは……?
じゃあ、この怖い顔をした冒険者の皆さんは……誰ですか?
本当にお化けとかじゃないよね?
そう思って、恐る恐る聞いてみる。
「え、じゃあ、この方たちは……?」
「この後すぐ分かるので、ちょっと待っていてくださいね」
あ、良かった、コナツさんにも見えてるみたい。
ホッとしたその直後。
「それでは、説明を続けます。試験のルールですが、サキさんにはこの六名の冒険者と戦っていただきます」
六名の正体が判明。
そして、私の絶叫が響いた。
「ええええええ!? なんでえ!? ゴーレムは!? ゴーレムじゃなかったの!?!?」
「……そうなんです」
ホントに全く一ミリも聞いてないんですけど……!?
受付嬢さんからは、クレイゴーレム、ウッドゴーレム、ストーンゴーレムの三体と戦うって聞いてて……。
……受付嬢さんが間違っちゃってたってこと!?
「ごめんなさい、サキさん。ラウゼン様を止めることができず……」
すごく申し訳なさそうなコナツさん。
ラウゼン様……って誰?
「止めることができず」ってことは、その人のせいで試験相手がゴーレムから変わったってこと……なのかな。
コナツさんが様付けで呼ぶあたり、ギルド運営の偉い人なんだろうか。
──そんなことは、とりあえずどうでもよくて。
「え、でも、戦うって……そんな……」
チラッと六人の冒険者へ目を向ける。
……みんな複雑そうな顔をしていた。
怒っているような、困っているような、
可哀想なものを見ているような……。
一言で言うなら、「えぇ……」という顔だ。
私の相手は、ゴーレムじゃなくて、この六人の冒険者、ってことだよね。
ど、どうしよう……。
アルテミスは、たぶん私の周りから離れずに守ってくれる。
そうなると、実際に戦うのはモーリーが中心になるはず。
そうなると、一対六……。
いくら何でも、デビュー戦にしては相手が多すぎるよね……?
とりあえず、モーリーと相談してみよう。
「……ねえ、モーリー。いけそう……?」
『僕たちの相手がゴーレムから六名の人間に変更されたということだよね。正直、かなりショックを受けているよ:(』
「そうだよね、デビュー戦でいきなり六人も相手にするのは微妙だよね……」
『いや、そこではないんだ。実のところ、彼らを叩きのめすこと自体は、あまり難しい問題ではないと思う。それよりも“ゴーレム”に会えなくなったことがとても残念なんだ:(』
「あ、そっち……!? でも一対六だよ……?」
『うん、6という数字が1より大きいことは僕も理解しているつもりさ。でも、それだけだよ。正直、彼らは何が起きたか分からないまま、かなりクールに吹き飛ばされると思うよ:)』
……モーリーには表情が無いからわからないけど、自信満々そう。
「……分かった。そこまで言うなら!」
私は心を決めると、コナツさんの方へ向き直った。
「コナツさん! 突然のことでびっくりなんですけど、その昇格試験、受けさせてください! モーリーもやる気みたいなので!」
私がそう言うと、コナツさんは少しだけ肩の力が抜けたような顔をした。
「……分かりました。今度、ご飯奢らせてくださいね」
「なんでコナツさんが奢るんですか!?」
「ラウゼン様を止められなかった私にも、責任の一端はありますから。……それでは、受験するということで試験の説明を続けますね」
コナツさんは一度小さく咳払いをして、説明を続ける。
「今回の勝敗条件です。サキさん側の勝利条件は、冒険者六名全員を戦闘不能状態にすること。一方、レグさんたちの勝利条件は、サキさんに一撃でも入れられれば勝利となります」
「ええええええ!? 不平等すぎません……!!?」
「はい」
「素直!?」
数的にも不利なのに、向こうは私に一撃入れるだけで勝ち!?
つまり、相手はアルテミスやモーリーを倒す必要はないってことだから……絶対私だけ狙われるよね!?
ま、まあ、私の場合ステータス的に一撃入れられたら負けだろうけども……!
「当然ですが、サキさんの召喚獣への攻撃は可能です。ただし、勝敗判定はあくまでサキさん本人への有効打で決まります」
──そうか、アルテミスもモーリーも召喚獣だから倒す必要はなくて、召喚士本人に攻撃が通れば勝ち……ってことか。
理解はできるけど、納得はしたくないよ……。
それでもルールなら仕方ないので、私は渋々うなずいた。
「わ、分かりました……」
そのとき、冒険者の中の一人──少しチャラい雰囲気の男の人が声を上げた。
「なあ試験官さん、召喚獣ってのはどういう意味なんだ?」
「そのままの意味です。ここにいるアルテミスさんや、モーリーさん──その門と像は、いずれもサキさんが召喚した召喚獣です」
「なっ!?」
「召喚士だと!?」
なんだか急に、空気がピリついた。
そしてコナツさんがさらに続ける。
「さらに言うと……ザラスト・ザラメイヤさん、およびジョンソンさん、ブルースさん──剛体種ゴブリン二名も、サキさんの召喚獣です」
その瞬間、私でも分かるくらい、場の空気が冷えた。
──沈黙が落ちる。
「……待って、どういうこと?」
「今、ザラスト・ザラメイヤって……言ったか……?」
「はい」
「なん……だって……」
「そ、そんな馬鹿な……怪物ザラスト、だと……?」
「あ、ありえるのか……? そんなことが……」
「召喚獣が冒険者になって、第五天位まで上がるだと……? そんな話、聞いたことがないって……!」
六人の視線が、一斉に私へ集まった。
さっきまでの怖い顔よりも怖い顔で、私を見つめる。
というか、怪物って。
ザラってそんな二つ名で呼ばれてるの……!?
でも、ファンクラブがあるほどの冒険者ザラが、私の召喚した子となると、ビックリされるのも仕方ないかもしれない。
でも実際は私の【運】がいいだけで、たまたまザラが来てくれただけだ。
すごいのはザラであって、私ではない。
実際、私のステータスはいまだに直視したくないくらいで……。
そんなふうに私が心の中で必死に弁明している間にも、話は勝手に進んでいく。
「……え、そ、それってつまり……」
「はい。彼女は召喚士サキ──グランベルジュ所属の冒険者です」
そして、少しの間が訪れる。
……あれ、私の発言待ち?
今が絶好の挨拶タイム……ってことでいいんだよね!?
怖い顔のままの六人に対して、私は勇気を振り絞って、声を出した。
「は、初めまして、サキです! 今日はよろしくお願いします!……あの、お手柔らかにお願いしますね……?」
だって一対六だよ、本当にお手柔らかにお願いしたい……。
そんな私の精一杯の挨拶に、六人の冒険者たちは、茫然とした顔のままほとんど反応できていなかった。
……やっぱりザラって、冒険者の間ではそれだけすごい存在なんだね……。
ついに90話!
今後、良い報告もできそうです!




