074 昇格試験の準備!
翌日。
今日の午後から黄歯車団の人たちが来て、早速魔法障壁とかの工事が始まるらしい。
パンさんとペールルージュさんは、例の評議会に参加するため、早朝から出かけていて不在。
どれくらい時間がかかるか分からないらしく、工事が始まる午後には、念のため私にはギルドルームにいてほしいとのことだった。
……ということで、今日は午前中にちょっとした用事を済ませにいこう。
その用事とは──第四天位への昇格試験について、受付嬢さんに話を聞きに行くこと。
……正直、ちょっと不安はある。
だって、第三天位の昇格試験のとき──ガルムたちが私を狙ってきたときなんて、かなりヒヤッとした。
あのときはジョンソンとブルースのおかげで何とかなったけど、第四天位の試験となると、たぶん相手はもっと強い。
私のステータスは相変わらずほとんど1のままだし、油断したら普通に危ない気がする。
でも、パンさんも早く昇格してほしいって言ってたし……頑張ろう。
というわけで、朝起きてまずは外出の準備。
ささっと身支度を済ませて、一階へ降りる。
朝ごはんは……聖脈果かな。
一日一回、魔力の最大値が1上昇するんだし、食べない手はないよね。
カロリーはちょっと気になるけど、フルーツは朝に食べると良いって言うし。
それに、昇格試験に備えておきたいし。
……色々理由を並べたけど、結局は美味しかったからまた食べたい、という気持ちが一番大きかったりする。
そんなことを考えながら、聖脈果を取りに裏庭の方へ向かうと、
何故かモーリーの像がリュバンス樹に水をやっていた。
片手でじょうろを高く掲げ、もう片方の手を優雅に胸元へ添え、腰を少しだけ捻ったポーズ。
その姿勢のまま、細い水の筋をリュバンス樹の根元へ静かに注いでいる。
朝日を受けた白亜の身体がきらりと輝き、手元から落ちる水まで妙に綺麗に見えた。
……何これ、美術館?
「モーリー、おはよう! 水をあげてくれてたんだ、ありがとう!!」
……モーリーの像は何も言わず、静かに水やりを続ける。
そうだよね、モーリーは像が喋るんじゃなくて、門に浮かび上がる文字で喋るから。
というかそのじょうろはどこから持ってきたの……?
モーリー像の自由さに驚きつつも、私は裏庭の壁際に立てかけてあった高枝切りばさみを手に取ると、
リュバンス樹の前に立ち、枝先に実った聖脈果へ向けて、ぐいっと刃先を伸ばす。
……んだけど、ちょっと届かない……。
ジャンプすれば届きそうな気もするけど、残念ながらジャンプして枝を上手いこと切れるほど、私の運動神経は良くない。
何か足場になりそうなものはないかな……。
そう思ってあたりを見回していると……。
──すっ。
と、いつの間にかモーリー像が私の横に立っていた。
「うわぉっ!? モーリー!?」
さっきまでリュバンス樹の根元にいたよね!?
ほんの少し目を離しただけなんだけど!?
モーリーの像は、驚く私に構わず、片手を差し出した姿勢でぴたりと静止している。
……もしかして。
と思って、高枝切りばさみを差し出すと、モーリーの像はそれを受け取り、
まるで舞台の上で剣を掲げる役者みたいに、すっと高枝切りばさみを構える。
そのまま刃先を枝先の聖脈果へ伸ばし──
ぱちんっ!
という小さな音とともに、黄金色の果実が枝から離れた。
落ちてきた聖脈果を、モーリーの像はもう片方の手で優しく受け止める。
……所作がいちいち優雅すぎる。
「ありがとうモーリー!」
私が両手で受け取ると、モーリーの像は高枝切りばさみを壁際へ戻し、そのまま片手を胸元に添えたポーズで静止した。
「……モーリーも食べる?」
試しに聞いてみると、モーリーの像はゆっくりと首を横に振り、再びじょうろを手にリュバンス樹の方へ戻っていった。
……本当に自由だなぁ、モーリー。
◇
朝食後、私はアルテミスに声をかけ、ギルド集会所へ向かうことにした。
すると、ちょうどザラとゴブリンズも出かけるところだった。
「あっ、マスタ~! お姉さまも、おはようございます~!」
「おはよう。お姉さまと呼ぶな」
「ザラ、おはよう! ジョンソンとブルースもおはよう! 今日は指名依頼?」
「はい、まあ……なんか今日のは特に面倒なやつなんですけどね~」
「そ、そうなの……?」
確かにちょっと声のトーンが低いし、いつも明るいザラの顔が心なしか暗い……。
「ところでマスターはどこにお出かけなんですか? お姉さまとデートですかね♡」
「その側面もある」
「うーん、その側面はないかな。今日は第四天位の昇格試験について、受付嬢さんに話を聞きに行こうと思ってて。だからギルド集会所に行くつもり!」
「あっ、マスターも第四天位を受けるんですね! ボクたちもこれからギルド集会所に行くので一緒に行きましょう~! ちなみに、お姉さまも一緒なら楽勝だと思いますけど、一応ボクが受けたときの話をしておきますね~」
ザラが受けたときは、ワイバーンやバジリスクなどが試験対象だったらしい。
どちらも灰焔の地下溶岩洞で見たことがある魔物だ。
知ってる分、気持ちは楽かも。
ということで、私とアルテミス、ザラ、ゴブリンズの五人でギルド集会所へ向かうことになった。




