075 ファンクラブ……!?
謎回。
ギルド集会所に向かう道中のこと。
……何だか、いつもより視線を感じる。
いや、ゴブリンズと一緒にいるときに視線を浴びるのは経験済みなんだけど。
こんなごっついゴブリンが二人も歩いてたら、そりゃ二度見くらいするよね。
でも、今日はそれだけじゃない気がする……。
そう思っていると、通りの人たちのひそひそ声が聞こえてきた。
「……あっ、ザラスト・ザラメイヤだ」
「すげー、本物だ」
「今日も綺麗……」
──ザラ、もしかしてめちゃくちゃ有名人になってる?
……いや、考えてみれば当然かも。
第五天位にとんでもない速さで昇格した、新進気鋭の冒険者。
しかも顔も超整っていて、立ち振る舞いも完璧。
さらに後ろには、剛体種ゴブリンを二人も連れている。
目立たない方が無理だよね。
「ジョンソン兄貴、仕上がってるな……」
「ブルース様……顔が良すぎる……」
んん? ジョンソンとブルースも有名人になってるの!?
……でも、これも当然のことなのかも。
ザラと一緒に毎日のように依頼をこなしているんだから、ゴブリンズだって名前が知られていてもおかしくない。
そもそも見た目のインパクトがすごいし。
「いやぁ、やっぱオーラあるな」
「ファンクラブ入ろっかな……」
……んんんんん?
なんか今、聞き捨てならない単語が混じってなかった?
『ファンクラブ』って聞こえた気がしたけど……
……いやいや、まさかね。気のせいか。
というわけで、道行く人たちからの視線を浴びつつ、私たちはギルド集会所に到着した。
中は、いつも通りの賑やかさで、朝から元気にガヤガヤしている。
だけど、私たちが扉を開けて中に入った瞬間──
「来た……!」
「ザラストと剛体種……!」
「うおおおおおおお」
明らかに、空気がざわついた。
えっ、何この反応!?
冒険者からもこんな感じなの……!?
私は少し狼狽えつつも、いつもの受付嬢さんの姿を探す。
「あっ、サキさん! ザラストさんたちも、おはようございます!」
受付カウンターの奥から、いつもの受付嬢さんがにこにこと手を振ってくれた。
その変わらない明るさに少し安心しつつ、私は受付カウンターへ向かう。
……ただ、その間も周囲からの視線がものすごい。
「サキさん、お久しぶりですー! お元気でしたか!」
「お久しぶりです! まあまあ元気でした!……それより、なんか凄く注目されてる気がするんですけど、どうしてか分かります?」
私が小声で尋ねると、受付嬢さんは「あー」と納得したように頷いた。
「それはもうやっぱり、ザラストさんたちを引き連れてるからですよ!」
「やっぱり……。ザラたちって結構人気なんですね」
「結構なんてもんじゃないですよ!! ”超絶”……いやもう人気すぎて滅って感じです!!! ファンクラブがあるくらいなんですから!」
「ファンクラブ!?」
思わず大きな声が出た。
やっぱり、さっき聞こえたのは聞き間違いじゃなかったんだ……!
めちゃくちゃ気になるので、詳しく聞いてみることに。
「い、いつからそんなことに……?」
「ファンクラブは最近できたんですけど、人気自体は第五天位に昇格したあたりから凄いです!」
「なるほど……。でも、第五天位ってすごいとは思うんですけど、他にもいるじゃないですか。なんでザラだけそんなに注目されてるんですか??」
「そりゃもちろん、強くて綺麗で礼儀正しくて、どの五大ギルドにも所属していないのに最強!──なんですから、人気が出ない方がおかしいです!」
「な、なるほど……?」
確かに、ザラみたいに綺麗な女性がとんでもなく強かったら、そのギャップにやられちゃう人は多そう。
それに五大ギルドに所属してないのも、「権力に靡かない孤高の冒険者!」──みたいに思われてるのかも。
受付嬢さんの話を聞いて、改めて周囲を見回してみると、黄色い声を上げている女性冒険者の姿もかなり多い。
というか、女性の冒険者の方が多いまであるかも?
もしかすると、ザラの外向けモードもかなり効いているのかもしれない。
いつもは軽~い感じなのにね……。
ザラの立ち回りに感心していると、
今度は別のところから黄色い声が聞こえてきた。
「ブルース様……!」
「ああ……あの背中、頼もしすぎる……」
「私、実はファンクラブの会員番号一桁台で──」
……ん?
「……受付嬢さん」
「はい」
「もしかして、ブルースにも……?」
「ありますね、ファンクラブ」
「ええええええ!?」
「ブルースさんは女性ファンが多いんです。まあいい身体してますからねー」
そう言われて、私は改めてブルースをまじまじと見上げる。
……うん、言われてみればブルースはめちゃくちゃ鍛え抜かれた身体をしている。
女性人気が出るのも納得かもしれない。
でも当のブルースは、何も気にしていない様子。
……というか、ブルースにファンクラブがあるなら、もしかして……。
「……ジョンソンにも、あります……?」
「もちろんありますよ!」
「やっぱり!?」
「ほとんどが男性ファンですが」
「なんで!?」
その瞬間。
「ジョンソン兄貴!!」
「今日も筋肉が神がかってます!!」
「その肩、どう鍛えたんですか!?」
「一回でいいんで力こぶ見せてください!!」
集会所の奥から、ムキムキの男冒険者たちがぞろぞろと集まってきた。
……えっ、何これ。
ジョンソンは無表情のまま、彼らを見下ろしている。
すると、そのうちの一人──腕が丸太みたいな男の人が一歩前に出て、真剣な顔で言った。
「ジョンソン兄貴。今日も仕上がってますね」
「…………」
ジョンソンは黙っている。
それでも、腕丸太男はまったくめげなかった。
「お願いです、ジョンソン兄貴……! 今日こそ、その力こぶ……見せていただけないでしょうか!!!」
そう言って、男たちが一斉に頭を下げる。
ジョンソンは何も言わない。
それでも男たちは一歩も引かず、頭を下げ続けた。
……これ、どうするの?
「ザラ、これっていつもどうしてるの?」
「いつも無視しております、マスター」
「あ、真面目モードのザラね。でもここまで必死だと、ちょっとやってあげたくなる……」
「サービス精神旺盛ですね、マスター」
いや、サービス精神というか。
なんかここまで真剣にお願いされると、断るのも申し訳ないというか……。
私はジョンソンを見上げた。
「ジョンソン、もし嫌じゃなければ、力こぶ作って見せてあげて?」
「…………」
ジョンソンは無言で頷くと、ゆっくりと右腕を曲げた。
その瞬間──
「おおおおおおおっ!!」
「すげえええええ!!」
「山だ! 腕に山がある!!」
「兄貴ィィィ!!」
地響きのような、低くて熱い歓声がギルド集会所に轟いた。
……いやいやいやいや、何これ。
「ジョンソンさんは、筋肉系冒険者から絶大な支持を得ています」
「筋肉系冒険者……」
「ファンクラブの名前もたしか、”ジョンソン兄貴と筋肉と俺たち”という名前だったかと」
「う、うーん、なるほど……」
ジョンソンは相変わらず何も言わない。
だけど、男冒険者たちはその無言すらありがたがっていた。
「兄貴……今日も背中で語ってら……」
「いや今日は上腕だろ」
「どっちもだ……」
……筋肉って、そんなに語るんだ。私知らなかった。
何だか無口なはずのジョンソンが、うるさく見えてきたよ。




