073 クリスマスツリー……?
聖脈果のちょっとした試食会が終わった後も、クランクさんは明日からの作業に向けて、ギルドルーム内外の確認を続けていた。
ヴィオラさんも弓使いの視点から気になる場所をいくつか見てくれたみたいで、二人は最後まで真剣にあれこれ話し合った後、帰っていった。
……ちなみに、二人とも聖脈果のことはかなり気に入ってくれたみたい。
特にヴィオラさんは、「……これ、いくらで売ってくれるかしら」って真顔で聞いてきたほど。
私としては、全然タダでいいからいつでも食べに来てください! という気持ちだったんだけど、
そう伝えると、ヴィオラさんは少しだけ目を細めて、「そんなこと言われたら、毎日来ちゃうんだけど」──なんて言っていた。
そんなに気に入ってもらえるのは嬉しい……んだけど、肝心の聖脈果は、今のところ木に実っている分しかない。
次にいつ実るのかも分からないし、さすがに毎日来られると困るかも……!
それに、魔力の最大値が上がるんだし、私もカロリーの許す限りは毎日食べたいくらいだしね。
そして、その日の夜。
みんなで夜ご飯を食べ終え、ふかふかのソファーでのんびりしていたときだった。
「おーい! ちょっとみんな来てや!」
庭の方から、パンさんの声が。
そういえば、「召喚したばっかやしリュバンス樹の様子見てくるわ」って言ってたけど、
木に何かあったのかな?
そう思って、みんなでぞろぞろと庭へ向かうと……。
「え……なんか、光ってる……?」
なんと、召喚したリュバンス樹が、淡く光を放っていた……!
青白い光が、まるで薄いオーラみたいに木全体を包み込んでいる。
幹から枝へ、枝から葉へと、何かが流れていくみたいに、すっと光の筋が走ることもあった。
さらに、その周囲には小さな光の粒がふわふわと漂っていて、まるでホタルみたいに飛んでは消えて、また別の場所にぽっと現れる。
「綺麗~♡」
「あら、いい感じじゃない」
一緒に庭へ出てきたみんなが、思い思いに感想を口にする。
うん、みんなの言う通り、とってもキレイ……!
昼間は立派な大木という感じだったけど、夜になると一気に神秘的に見えるね。
「やろ? 様子見に来たらなんや光っとってな。めっちゃキレイやろ!」
「本当……綺麗ですね……!」
「やっぱり昼間も薄く光っていたのかもしれませんわね。明るくて気付きにくかっただけで」
「そういうことでしょうね。……光る植物といえばテルルスとかヒカリユリが思い浮かぶけれど、親戚かしら?」
ペールルージュさんがそう呟くと、リンドールさんはリュバンス樹を流れる光を目で追いながら答える。
「どうでしょう……テルルスやヒカリユリは、いわば蓄光に近い性質ですわ。昼間に受けた光を魔力として蓄え、それを夜間に光に変えて少しずつ放出するのですが……この木は、昼間にも光っていましたし」
テルルスやヒカリユリは錬金の素材になるらしく、めちゃくちゃ詳しいリンドールさん。
流石、錬金術師……!
「なるほどな……。でももしリンドールはんの見立てが当たっとるなら、少し不安やな」
「えっ、どうしてですか……?」
「ずっと光っとるんやったら、当然、ずっと魔力を消費しとるっちゅうことや。多分やけど、この木の本来の自生地やったら周囲に十分な魔力があって、そこから補充できとったんやろな。やけど、ここにはそない強い魔力はない。このままやと、蓄えとる魔力をどんどん消費して、最後には枯れてまうんやないかと思ってな」
なるほど……。
そもそもこの場所が、この木に合ってない環境かもしれない、ってことだよね。
「可能性はあるわね。どうする? 魔力肥でも買ってくる?」
「魔力肥……?」
「読んで字のごとく、魔力を含んだ肥料やな。普通の植物やったら別にええんやけど、魔力が必要な植物もあってやな」
「それこそ、ヒスイノキなんかがそうね。魔力をしっかり与えないと育たないどころか枯れちゃうの」
「え、でも育つのに何十年もかかるんですよね……!? その間ずっと魔力肥が必要なんですか!?」
「せやで? やから、そもそも育つ場所がめっちゃ限られとるんや。まあ、金に糸目をつけずに魔力肥をぶち込み続けて、無理やり他の地域で育てとるところもあるにはあるけどやな」
へえー、植物も奥深いね……。
何も考えずに召喚しちゃったけど、植物に合った環境じゃないと枯れちゃうかもしれないのか。
「とにかく、念のため明日にでも魔力肥を買いに行っといてくれ、ルル」
「はいはい」
「それにしても、強い魔力を宿し、極上の果実を実らせるリュバンス樹……。やはり普通の個体ではないですわよね。ただ、それがどういった性質なのかは分かりませんけれど」
うーん、リンドールさんの言う通り、この木も”剛体種ゴブリン”とか”極限環境スライム”みたいな異常個体なのかな。
でも、どういう種類の異常個体なのかはまだ分からない。
今のところ分かっているのは、魔力の最大値が上昇する聖脈果を実らせて、夜になると光って綺麗な木……ってこと。
「うーん……聖なる木──クリスマスツリー種とか?」
「なんやそれ……。まあ、単なる高級種っちゅうだけではなさそうやな。……てかこれ、なんや目立っとらんか?」
……確かに。
よく耳を澄ませると、塀の向こう側から「なにこれ、きれい~!」とか、「ちょっと待って、天影鏡持ってくる!」とか聞こえてくる……。
「……目隠しの意味合いで植えたはずですのに、これでは逆に人目を引いてしまっていますわね」
「ご、ごめんなさい……! まさか光るとは……!」
「直接覗かれてるわけじゃないし、いいんじゃない? 通りの人たちも綺麗だって喜んでるみたいだし」
「まあルルの言う通り、目隠しとしては機能しとるわけやし──って、うわっ!? ビックリした!?」
──パンさんのすぐ横には、いつの間にかモーリーの像が立っていた。
しかも、片手を顎に添えて、木をじっと見上げる鑑賞ポーズまで取っている。
「い、いつの間に!?」
「……全然気配がなかったわね」
「ちょっとしたホラーだよ!?」
振り向いたらそこにはさっきまでいなかったはずの像が……って、怪談でありそうだよね……。
というか、よく考えたら像が動いてる時点でかなりホラーなんだけど……。




