118 もう一つの戦い……!?
ギガントガルムと二匹のガルムガードの活躍、そしてガルムロードの登場により、崩れかけていたガルム軍が再び一つになっていく。
成体はギガントガルムとガルムガードが対処し、残るガルムとハイガルムたちは、数の力で何とか幼体を一匹ずつ仕留めていく。
だけど、それでも……。
オロデュラスの数が多すぎた。
一匹一匹の強さが、違い過ぎた。
再び、成体が竜息を繰り出す。
炎が草原を真っすぐに薙ぎ払い、そこにいたガルムたちがまとめて吹き飛ばされていった。
「ギャアアアアッ!」
そこへ、オロデュラスの成体が突っ込んだ。
炎によって空いた前線の穴へと、強引に成体が入り込んでいく。
「あれってまさか……ガルムロードを狙っていますの?」
「どうやら、そのようですね。……オロデュラスたちも、ただ闇雲に攻めているわけではないようです」
成体が向かう先。
そこにいるのは、ガルムロード。
ガルムたちも必死に飛び掛かるが、成体は気にも留めない。
振り落とすことすらせず、ガルムたちを身体にぶら下げたまま、ただひたすらに前へと進んでいく。
ギガントガルムと二匹のガルムガードもそれに気付いたみたいだけど、遠くで別の成体に足止めされていた。
とても助けに入れる状況じゃない。
成体は背中や脚に噛みついたガルムたちをずるずると引きずりながら、それでも足を止めることなく進み続ける。
「ねえアルテミス! ガルムロードが……!」
「私はマスターのそばを離れられないので」
「ちょっとなら大丈夫だって!」
「いーや、そういうわけには」
「もう!」
これが、生存競争なのは分かってるつもりだ。
弱肉強食の世界だし、ガルムたちがオロデュラスに負けて、この湖盆を追われることになったとしても──それは本来、私たち人間が口を出すようなことじゃないのかもしれない。
オロデュラスだって生きるのに必死で、別に悪いわけじゃないんだ。
……だけど、今回のオロデュラスたちはどう考えても普通じゃないらしい。
もし、人の手によって生み出された人為種なんだとしたら──私たちが少しくらい助太刀したっていいんじゃないか、とも思う。
……また指輪を大量に装備して、パートタイムゴブリンくんを召喚する?
でも、この距離だと……。
そんなことを考えていたとき、トネリコさんの言葉が耳に入ってきた。
「サキさん。……ガルムロードを見てください」
「……え?」
「ガルムロードなら大丈夫そうだぞー。ほら、よく見てみろ」
トネリコさんとソヨゴさんの言葉を受け、私はガルムロードに目を凝らす。
ガルムロードは、あんなに大きなオロデュラスの成体の進撃を見ても、逃げることも身構えることもせず、じっと動いていなかった。
……いや、そもそも、迫り来るオロデュラスを見てすらいない。
その視線は、ずっと別の一点へ向けられている。
…………こっちを見てる?
こっち、というか……。
「あれ? ミルちゃんを見ていませんか?」
「えっ!? あ、本当ですわ……!?」
ガルムロードの視線の先は、多分だけど私じゃない。
私の抱っこ袋から顔を出している、ミルちゃんだ……!
まさか、『見てろ』ってこと!?
「あれほどの難敵を前にして、あの落ち着きですか……。さすがは、ガルムの王と呼ばれるだけのことはありますね」
「さすが、なんですかね!?」
"のんき"だと私は思っちゃうけど!?
「というか、その白いの、どんだけ美人なんだー?」
本当にそうだよ……。
当のミルちゃんはというと、やっぱりぼーっと戦場を眺めていた。
……ミルちゃん、ガルムロードの見せ場みたいだから、ちゃんと見ててあげてね?
──一方、オロデュラスの成体は、なおも前進を続けていた。
進路上のガルムを跳ね飛ばし、身体にしがみつくガルムを引きずり、勢いそのまま──ついに、ガルムロードの目前まで迫る。
そこで、足を止めた。
大きく息を吸い込むように胸を膨らませる。
その喉元が、赤く光った。
「──竜息……!?」
一撃で、ガルムの群れを消し飛ばす、あの破壊力抜群の必殺技。
それを、ガルムロード一匹だけに向けて放とうとしている。
だけど、ガルムロードは避ける素振りさえ見せず、やっとミルちゃんから視線を外すと、正面にいるオロデュラスの成体を静かに見据えた。
そして、ただ静かにその場に佇む。
──次の瞬間。
大きく開かれた口から、赤黒い竜息が一気に吐き出された。
一直線に走る炎が、真正面から、ガルムロードに迫る。
──ガルムロードの頭から伸びる、二本の漆黒の角。
その根元に、白い線が浮かび上がった。
細かな白い線が複雑な紋様を描きながら、根元から先端に走っていく。
そして、二本の角が強く輝いた。
──ヴォンッ!
ガルムロードの正面に、巨大な光の盾が展開された。
光が左右へ大きく広がり、ガルムロードを包み込む巨大な円弧状のシールドを形作る。
──ドゴォォォォンッ!!!
竜息と、巨大なシールドが、激しく激突した。
凄まじい勢いの炎が盾の表面で荒れ狂い、行き場を失った炎が左右へ真っ二つに分かれる。
ガルムロードの両脇を炎が駆け抜け、パラグナ草を一瞬で黒く焼き払っていった。
やがて、炎が途切れる。
立ち込める煙が消え、姿を現したのは、傷一つなくその場に佇むガルムロード。
その目は再び、ミルちゃんをじっと見つめていた。
「すごっ……!」
「……そして、やっぱり白もふさんを見つめていますわね……」
「……気のせいでしょうか。どや顔しているような……?」
「……ルドルフ。頑張ろうな」
ソヨゴさんの隣で、ルドルフがガルムロードとミルちゃんを交互に見つめ、何だか焦っているようだった。
……別の戦いが始まってるよ、これ。




