117 ガルム軍 vs オロデュラス③
ガルムロード、ガルムガード、そして、ギガントガルム──ガルム軍の中でも、明らかに別格な三種の個体が、戦場に現れた。
それを見たガルムたちは、遠吠えを上げながら、再びオロデュラスたちに牙を剝く。
さっきまで押されていたのが嘘のように、ガルム軍はまた士気を取り戻した……!
「一気に空気が変わりましたわね……」
「そりゃそうだろー。自分たちの王様が前線に出てきたんだぞ。下の連中も、黙ってられないよなー」
確かに、社長が現場に出てきたら、社員もいつも以上に気合い入るか……。
「士気だけではありません。ガルムガードとギガントガルムまで前線に立ったことで、純粋な戦力も大きく上がっています。ガルムたちにとっては、これ以上ないほど心強いでしょうね」
トネリコさんの言う通りなのか、ガルム軍はこれまで以上に果敢にオロデュラスたちへ攻め込んでいく。
……そんな中、ガルムロードが小さく吠えた。
それを合図に、一番最初に動き出したのは、ギガントガルム。
真正面を見据え、巨体を低く沈める。四本の脚が地面へ深く食い込み、一気に地面を蹴った。
──ズドドドドッ!!
「えっ、思ったより速っ!?」
私は思わず声を上げる。
あれだけ大きな身体なのに、想像以上に速い……!
一歩一歩、踏み込むだけで、大地が大きく揺れる。
それほどの巨体が、見る間に速度を上げていく。
進行方向にいたオロデュラスの幼体たちは、慌てて左右へ飛び退くけど、その巨体と速度を前に、何匹かは避けきれなかった。
「ギャッッ!?」
まるで車にはねられたみたいに、次々と宙を舞い、そのまま草原を転がった。
だけどギガントガルムは、一切速度を落とさない。
その目は真っすぐ、一匹のオロデュラスの成体だけを捉えていた。
対する成体も逃げようとはせず、ギガントガルムとの衝突に備える姿勢を取る。
──ドゴォォォンッッ!!!!
巨体と巨体が、真正面から激突した。
凄まじい衝撃音がパラグナ湖盆全体に響き渡る。
衝突地点を中心に、銀白色の波が一息に草原を駆け抜ける。
「ひいっ! アルテミス!」
まるで大きな地震でも起こったかのような揺れに、私は思わずアルテミスに抱きつく。
「……マスター、しばらく揺れが続く可能性が高いです。そのままでお願いします。その方が私もマスターを守りやすいですし、マスターも安全ですので」
「ありがとう! うん、お言葉に甘えるね!」
妙に早口なアルテミスに、私はしっかりしがみつく。
まるで、怪獣映画のワンシーンがそのまま現実になったような光景……。
ドキドキしない人はいないよ……。
アルテミスにしがみついたまま、私は再び戦場に意識を戻す。
ギガントガルムの突進を真正面から受け、オロデュラスの成体は大きく体勢を崩しかけていた。
それでも何とか踏ん張っているけど、ぶっとい後ろ脚は地面をずるずると削り、草原に二本の長い溝を作っていく。
ギガントガルムは、さらに体重をかけるようにぐいぐいと押し込んでいく。
このまま押し倒そうとしているようだった。
成体も負けじと、顎を大きく開き、ギガントガルムの首元目がけて噛みつこうとする。
けれど、その前にギガントガルムは自身の身体を持ち上げ、その巨大な前脚を成体の頭へ叩きつけた……!
「ギャアッ!?」
成体の頭が地面へ沈む。
「す、すごい……! ギガントガルムが押してる……!」
「まさにガルム軍の切り札なのでしょう。小細工なしの正面突破──あの巨体ですからね、単純な力だけでいえば、魔獣の中でも最高峰でしょう」
「ライバル出現だなー、ルドルフ?」
ソヨゴさんにそう言われ、ルドルフくんは心配そうにミルちゃんをチラリと見た。
「ライバルというのは、恋のライバルってことですのね……。確かに白もふさんも釘付けですわね」
私もミルちゃんに視線を落とすと、ミルちゃんは抱っこ袋から頭だけ出して、戦場をじーっと見つめていた。
「……ソヨゴさん。ミルちゃんは何か言ってますか?」
「──『大迫力』だってさ」
「あ、楽しんでるんですね……」
相変わらずのんきすぎる……。
……そんなミルちゃんは置いといて、またまた戦場へ目を向ける。
ギガントガルムが正面突破している一方、ロードとガードは何をしているのか……と見ると、まだ戦場の後方から動いていなかった。
戦況を見定めてるのかな──と思っていたら、突然、ガルムガードの姿がふっと掻き消えた……!!
「え!? ガルムガードが消えた!?」
「消えたってより、速すぎて見えなかっただけだなー。ほら、あそこ」
ソヨゴさんの指差す先に目を凝らす。
そこには、確かにさっきまで後方にいたはずの二匹のガルムガードが、もう戦場のど真ん中に立っていた。
い、いつの間に……!?
「ガルムガードは、体内に蓄えた魔力を使って、瞬間的に身体能力を引き上げることができるんです」
「そ、そんな魔法みたいなことまで……」
「魔物だって体中の魔力を利用できるって。それを使って炎を吐いたり、電気を起こしたり、身体を強くしたりするやつもいる」
「そ、そうなんですか……」
言われてみれば、元の世界にも電気を発生させる生き物とかいたもんね。
魔力がこの世界に普通に存在するエネルギーの一つなら、それを利用する魔物がいるのは普通か。
そんなことを考えている間にも、ガルムガードはすでにオロデュラス成体の真横まで迫っていた。
成体も、突然現れたガルムガードに気付き、後ろ脚で踏み潰そうとする。
──でも、もうそこにガルムガードの姿はなかった。
次にガルムガードが姿を現したのは、成体が身体を支えている、もう一方の後ろ脚のすぐ横。
そのまま大きく顎を開き、その後ろ脚へ食らいつく。
あんな分厚そうな鱗がへしゃげて、その下から赤い血が噴き出した。
「えっ、攻撃が通ってる!? ガルムガードなら成体にも牙が通るんですか!?」
「先ほどの身体強化と同じですね。噛みつく瞬間だけ、体内の魔力を牙へ集中させているのでしょう。……さすがですね。この大きさの群れで、ガルムガードを務めるだけのことはあります」
トネリコさんも、感心したようにそう呟いた。
成体は悲鳴を上げ、ガルムガードを振り払おうと尾を振り回す。
けれど、やっぱりそこにはもういない。
その隙を逃さず、今度はもう一匹のガルムガードが飛び込んでくる。
狙ったのは、さっきもう一匹が牙を突き立てたのと全く同じ場所だ。
「ギャアアアアッ!」
たまらず成体の後ろ脚が崩れ、その巨体が片膝をついた。
傷口を狙った攻撃……あれは痛い……。
私もさすがにオロデュラスに同情してしまうよ。




