113 完全食ニョキモチ
【完全食ニョキモチ】──『アイテム』の説明欄には、そう書かれていた。
完全食……って、あの茶色いブロックのバーとか、そういうやつだよね。
これ一つ食べておけば大丈夫──みたいな。
つまり、この【完全食ニョキモチ】も、一粒食べるだけで一日分の栄養を補える……ってこと?
しかも、腹持ちも良いオマケつき──らしい。
「あの、これ……やっぱり異常個体みたいです……!」
「そうなんですの? どこで分かったのでしょう?」
「アイテムの説明を読みました」
「……アイテムの説明……なんですのそれ?」
「アイテムをアイテム欄に仕舞うと、そのアイテムの説明が見れるんです」
「ど、どういうことですの……? その"説明"は誰がしてるんですの?」
「さあ……?」
「さあ、って……。そんな正体不明の説明、信用してよろしいんですの?」
「まあ、たぶん」
「適当ですわね……」
言われてみれば、この説明は誰がしてるんだろう? ノヨカ様……?
気にしたこともなかった……。
「でも、いいですわねー……。未知のアイテムでも簡単にどんなアイテムか分かるなんて、冒険者なら誰でも欲しい能力ですわ。わたくしもほしいですわね、そういうの」
確かに、今まで当たり前に使ってたけど、アイテムの説明が見れるって結構良い能力なのかもしれない。
考えてみれば、いわゆる『鑑定』みたいなものだ。
まあ、私の能力っていうより、ノヨカ様の力なんだけど。
──っと、それより今はニョキモチ、ニョキモチ。
とりあえず、一粒食べてみることに。
アイテム欄からさっきの一粒を取り出すと、そのまま口へ放り込んだ。
──もにゅっ。
……うん、味はまあ、おもちだね。
ものすごく普通のおもち。
だから何もつけないと、ほとんど味がないから美味しくはないかな。
でも、なんだろう。
ちっちゃなおもちを一粒食べただけなんだけど……。
それだけなのに、凄い満足感。
……というか、結構お腹いっぱいだ。
これ、もしかしてダイエットに良かったりする!?!?
私が念願のダイエット食を見つけたとばかりに喜んでいると、隣ではリンドールさんも興味深げにニョキモチを眺めていた。
「サキさん、わたくしも一粒、食べてみてよいでしょうか?」
「はい、こんなにありますし、一粒くらい全然大丈夫だと思います!」
「ありがとうございます。では──」
リンドールさんはニョキモチを一粒とると、ぱくっと口に入れた。
「もぐ。……まあ、見た目通りニョキモチですわね。味付けなしの。もぐもぐ。……んん?」
飲み込んだところで、リンドールさんがぱちくりと目を見開いた。
「な、なんでしょう……。一粒しか食べてないのに、もう十分って感じですわ……!」
「やっぱりリンドールさんもですか? なんかこれ、説明によると『完全食』らしいんですよ」
「完全食? ああ、ダンジョン用のあれかー?」
ソヨゴさんは聞き覚えがあったみたいで、口を挟んできた。
「……逆にそれはなんですか? ダンジョン用?」
「ダンジョンに深く潜る際に用いられる食事のことですわね。ダンジョンの魔物は倒しても消えてしまうので、食料の現地調達が安定してできませんの。ですから、深く潜るのであれば食料は基本的に外から持ち込むわけですが……その食料がかなりの重荷になってしまうのです」
「その問題を少しでも解決するために作られているのが、完全食と呼ばれる携帯食ですね。実は、我々緑ギルドが製造しているんですよ。肉や穀物、乾燥野菜などを加工して、一日に必要な栄養とエネルギーをできる限り一つに詰め込んだものです。小型化は進んでいますが、それでも一つで拳ほどの大きさはありますね」
「ま、味は期待しない方がいいけどな。あれ、飯っていうより補給だぞ、補給」
「そこは現在も改良中です」
トネリコさんが苦笑する。
うん、話を聞く限りマズそう……。
「それにしても、もし本当に、この一粒が完全食になりうるのであれば……我々緑ギルドの完全食にとって、かなり強力な商売敵になりそうですね」
「い、いや、売るつもりはないので!! 安心してください!!!」
慌てる私を見て、トネリコさんはくすっと笑うと、話を戻すように続けた。
「それなら安心です。とにかく、これでガルムたちのお腹も満たせそうですが……ガルムは肉食性です。いくら完全食とはいえ、ニョキモチをそのまま食べてくれるかは分かりませんね」
「あ、そうかなと思って、実は──」
そう言って、私はアイテム欄からミルちゃん用のごはんを取り出す。
「これをちょっと混ぜれば、食べてくれるんじゃないかなって思ったんです!」
「なるほど。肉の匂いをつけるわけですね。それなら、ガルムたちも食べてくれる可能性は高そうです」
ということで、早速試してみることに。
【完全食ニョキモチ】からおもちを一粒取って、その上にミルちゃん用のごはんを少しだけまぶす。
──これで、ニョキモチセット一個完成。
同じものをいくつか作って、試しにガルムたちに食べてもらうことに。
まずは、ガルムロードだよね。
警戒されないように、あらかじめソヨゴさんに説明してもらった上で、一応アルテミス同伴のもと、ガルムロードに近づいていく。
……ソヨゴさんのときみたいに、ガルムガードに止められるかなと思ったんだけど……。
「わふぅん……」
二匹のガルムガードは揃ってミルちゃんに釘付けで、それどころではないらしい。
……それでいいの、ガルムガード……。
ちょっと心配になりつつも、ニョキモチセットを手に、ガルムロードの前まで進む。
改めて近くで見ると、やっぱり大きいな……。
私、そしてミルちゃんを目の前にして、ガルムロードはぐっと四本の脚に力を入れ、胸を張り、気丈に振る舞う。
さすがはガルムたちの王、威厳たっぷりの立ち姿──なんだけど……。
よく見ると、脚が小刻みに震えてる。
やっぱり、無理してるだけだよね……。
早く食べて、元気になってもらおう。
私はニョキモチセットを、ガルムロードの石の玉座にそっと置いた。
「た、食べてみてください……!」
「…………」
ガルムロードは、まずは威厳たっぷりの顔で私をじっと見た後、ミルちゃんをチラッと見てニヘラと破顔し、すぐに元のキリッとした顔へ戻る。
そして、ニョキモチセットへ視線を落とすと──。
パクっと一口でいった。
ガルムロードの大きな口に対して、ニョキモチ一粒はあまりにも小さい。
何度かもぐもぐと噛んだかと思うと、そのままごくんと飲み込む。
「…………ウォゥ……」
「『久しぶりに満たされた』って。……いや、一粒で? その図体で?」
「ワォゥ……」
「マジか。一粒で十分だって。どうなってるんだー?」
──どうやら、とりあえず満足してくれたみたい。
良かった……!
私がほっと胸をなで下ろしている間に、リンドールさんとトネリコさんもニョキモチセットを作ってくれていた。
「サキさん、こちらもいくつか用意できましたわ。ガルムガードやギガントガルムにもあげてよろしいでしょうか?」
「ありがとうございます! はい、もちろんです! お願いします!」
「では──」
トネリコさんとリンドールさんは二匹のガルムガードへ、
ソヨゴさんはギガントガルムのもとへ、
それぞれニョキモチセットを持っていく。
「ほら。いつまでも白もふさんを見ていないで、こちらを食べてくださいな」
リンドールさんに声をかけられ、ようやく我に返ったらしいガルムガードが、差し出されたニョキモチセットへ顔を近づける。
くんくん、と匂いを嗅いだあと──ぱくり。
もう一匹も、トネリコさんからもらったものを一口で食べた。
そして二匹揃って飲み込んだその直後、ぴたりと動きを止めると……。
──ぶんぶんぶんっ!
二匹の尻尾が、大きく左右に振られ始めた。
「大きく尾を振っていますね。かなり気に入ったようです。どうやらこの子たちも、一粒で満足したようです。……これ、いいですね。魔獣の食費がものすごく浮きそうです」
「確かに……。一粒で済みますものね」
「エサ代、バカにならないですからね。本当に……」
何だか苦労がにじみ出ているトネリコさんをよそに、ソヨゴさんはギガントガルムにニョキモチセットを差し出す。
すると、ギガントガルムはその大きな顔をぐっと近づけると、ソヨゴさんの手のひらからニョキモチセットをなめとった。
……あんな大きな魔獣相手でも、そのまま手のひらからごはんをあげるの、流石だ。
「流石にお前は一粒じゃ足りないだろー?──って、え、もういいの? マジか!」
ギガントガルムは一粒食べ終えると満足したらしく、ズンッと地面を揺らしながら、その場に腰を下ろした。
……そうか。
【完全食ニョキモチ】の説明って確か、『一粒で一日に必要な栄養を補えるモチ』。
つまり、食べた子の大きさに関わらず、誰が食べても一粒で十分なんだ……!




