111 オロデュラス……?
恐竜種──ソヨゴさんの言葉を聞いて真っ先に思い浮かんだのは、元の世界で大昔にいたとされるティラノサウルスとか、そういうやつ。
それの魔物版……ってことかな?
「恐竜種なのは分かったけど、肝心の種類が分からないな。もうちょい詳しく聞くか。なあ、その外来種のこと、他に何か覚えてないか?」
そう言うと、ソヨゴさんは再びガルムロードと話し始める。
「ウォゥ……グルル……」
「……ん? 一匹仕留めた?」
ソヨゴさんが聞き返すと、ガルムロードは頷いた。
「お、しかも仕留めたやつを持ち帰ってるらしいぞ。助かるな。これなら、直接見れば何の魔物か分かりそうだ」
「……もしかして、食料にするために持ち帰ったのですか?」
「いや、食料じゃないらしい。ほら、壁際にいろいろ飾ってあるだろ? 強かった獲物とか、印象に残った獲物を持ち帰って飾るんだってさ。まあ、勲章みたいなものだなー」
「なるほど……ガルムたちにも、戦果を誇るような感覚があるのですわね」
「だなー。まさか、その習慣に助けられるとは思わなかったけど。じゃあ、どこにあるか教えてくれ」
すると、ガルムロードが部屋の端へ視線を向けた。
巨大な魔物の骨や牙が並べられた壁際の、そのさらに奥──よく見ると、そこに一つだけ、骨ではない大きな塊が横たわっていた。
「うわっ!? 魔物の死体!?」
黒い山のようなそれは、紛れもなく、本物の魔物の死体だった。
……今まで私が倒してきたのは、ダンジョンにいる魔物。
だから、倒せば煙のように消えて、後に残るのはドロップアイテムだけだった。
でも、そうだよね……野生の魔物は、倒したからって煙になって消えたりしない。
ちゃんとこうして、死体となって残るんだ……。
私が衝撃を受けている間にも、ソヨゴさんとトネリコさんはその死体に近づき、まじまじと観察し始めていた。
「……見た目はオロデュラスですが……いえ、これは……」
「そうだな。ぱっと見はオロデュラス……なんだけど……」
二人は死体のあちこちを見ながら、どこか歯切れ悪そうに言葉を交わす。
オロデュラス──それが、この外来種らしき恐竜種の名前なのかな。
「オロデュラスって、どんな魔物なんですか?」
「小型の恐竜種ですわ。単独なら第二天位相当で、通常は五匹から十匹ほどの群れで暮らしますの。大規模な群れを作ることはなく、人間や大型魔物との戦いも、基本的には避けますわね」
私の疑問に答えてくれたのは、リンドールさん。
流石、緑ギルドのお嬢様。こういう魔物の知識もしっかりあるみたい。
「……ですが、この亡骸を見るかぎり、本当にオロデュラスなのかは疑わしいですわね」
「えっ、どういうことですか?」
「わたくしの知るオロデュラスは、これほど大きくありませんわ」
「そうなんですか!?」
「リンドールお嬢様のおっしゃる通りです。オロデュラスは本来、ガルムを一回り大きくした程度の魔物です。それに、この鱗……」
トネリコさんはオロデュラスの亡骸の横にしゃがみ込むと、鱗の一枚にそっと触れた。
「これほど分厚い鱗を持つオロデュラスは、私も見たことがありません」
「顎もやたら発達してるし、牙も普通よりずっとでかいな、こいつ」
「ま、まさか……異常個体!?」
私が召喚したジョンソンやブルース──剛体種ゴブリンも、普通のゴブリンとは違う特徴を持って生まれた異常個体だったはず。
なら、このオロデュラスも異常個体なのでは!?
「……その可能性はありますね」
「じゃあ、異常個体のオロデュラスが何かの拍子に入り込んで、天敵もいないまま増えた……とか? なあ、こいつら、今どれくらいいるんだ?」
ソヨゴさんはそう言うと、今度はガルムロードへ外来種の数について尋ねた。
「ウォォ……グルル……ウォゥ……」
「最初は、そこまで多くなかったらしい。ガルムたちもなんとか群れで追い払えてたってさ。それが日ごとに増えて、とうとう手に負えなくなった、と」
「なるほど、天敵がいなくて、どんどん増えてるわけですね……!」
「……それは、おかしいですわね」
「おかしい……ですか?」
「日ごとに増えていった、というのはおかしくありません? オロデュラスはタマゴから生まれる魔物ですが、繁殖期は年に一度ほど。一度に産むタマゴも、二個から四個程度だったと記憶していますわ」
「リンドールの言う通り。そもそも、タマゴからいきなり成体が出てくるわけないからなー? 孵化して、そこから育つ時間が必要なはずだぞ」
「た、確かに!?」
ガルムロードの話が本当で──というか、ソヨゴさんが聞き間違えていないのなら……
外来種のオロデュラスは日ごとにどんどん数を増やしていったことになる。
でも、年に一度しか繁殖しなくて、その一度に産むタマゴも数個だけなら、もっと何年もかけないと増えていかないはずだ。
それも、異常個体だったり?
めちゃくちゃ繁殖する、大きくて強い異常個体……みたいな。
「ソヨゴの言う通りです。孵化した幼体が狩りに加われるまでには、数年を要します。少なくとも、緑ギルドで飼育しているオロデュラスはそうですね」
「オロデュラスも飼ってるんですね!?」
「緑ギルドでは、大抵の魔獣を飼育していますわ。それよりも……これはもしかしたら、もしかするのでしょうか?」
「……?」
「……このオロデュラス、人の手で改造された"人為種"ではありませんこと?」
"人為種"──リンドールさんの口からその言葉が出た瞬間、緑ギルドの二人が揃って肩を震わせた。
「人為種……人の手で、目的に沿った性質を持つよう改造された個体……」
「えっ!? そんなことができるんですか!?」
「まあ、できないことはないなー。他の魔物の特徴を、無理やり受け継がせたりしてな。先に言っとくけど、緑ギルドはやってないぞ」
「ええ。わたくしの父が強く反対していますから」
「……ですが、人為種は作ろうと思って簡単に作れるものではありません。もし本当にこの個体が人為種だとすれば、これほどの研究を行える組織は限られます。まさか、五大ギルドのどこかが……?」
そのとき。
──ぐうぅぅぅぅっ。
と、地の底から響いたような大きな音が、広い空間いっぱいに響き渡った。
「な、何の音ですの!?」
「……あー。今の、ガルムロードの腹の音だってさ。いや、でかすぎるだろ」
……見ると、ガルムロードが少し恥ずかしそうに視線を逸らしていた。
そうか、オロデュラスに獲物を奪われてお腹が空いてるのは、ガルムたちだけじゃなくて王様もなんだ。
ただでさえ老体なのに、満足に食べられてないなんて、ますます身体に悪い……。
何かアイテム欄に食べ物入れてなかったかな?
そう思って『アイテム』をタッチしようとしたとき、抱っこ袋から、ミルちゃんがひょこっと顔を覗かせた。




