108 第一ガルム発見……!
街の人たちから「ヴァルプニルだ……!」なんて声が聞こえてくる中、私たちはグラン=ラフィースの街を出て、目的地のパラグナ湖盆へ向かって進んでいく。
そして、実際に乗ってみてすぐに分かったんだけど、ヴァルプニルの乗り心地……想像以上に良い!
速度もめちゃくちゃ速くて、まるで特急電車に乗っているかのように進んでいく。
なのに、不思議なくらい揺れが小さいのだ。
その理由はおそらく──ヴァルプニルの足元の青い光。
あれが魔法なのかなんなのか私にはよく分からないけど、
地面を蹴るたびに光が広がっているところを見るに、たぶん衝撃を吸収するクッションみたいな役割をしてるんだと思う。
めっちゃ爽快感あるのに快適──そんなヴァルプニルの乗り心地に、私は少しハマり始めていた。
さすがは、グラニルの上位種だ。
……まあ、そもそもグラニルどころか普通の馬にも乗ったことないんだけど。
街を離れてしばらくすると、道中の景色も少しずつ変わり始めた。
最初は整備された街道の両脇に見渡す限りの草原が広がっていたのが、徐々に畑や牧草地が増えていく。
そんな景色を眺めていると、今度はちらほらと野生の魔物らしき姿まで目に入るようになった。
「あっ、スライム! あれイノシシ!? あっ、こっちにはなんか飛んでる!?」
ヴァルプニルが速すぎてどれも一瞬しか見えないけど、目に入るたびについつい声を上げてしまう。
「あれはタラプです。飛んでいるのはアルガルーダですね」
前を走るトネリコさんが、何でもないことのように教えてくれた。
流石……って言うほどのことか分からないけど、やっぱり翠環府のメンバーなだけあって詳しいね。
それにしても、アルガルーダ──ガルーダの親戚かなにか?
ガルーダ自体は色んなゲームによく登場するあのガルーダだと思うんだけど……。
気になったので、聞いてみることに。
「あの、せっかくなので教えてほしいんですけど……アルガルーダってガルーダと関係あるんですか?」
そんな私の疑問にも、トネリコさんは嫌な顔ひとつせず、丁寧に答えてくれた。
「はい。アルガルーダは、ガルーダが大型の獲物が少ない地域に適応した結果、小型化した亜種です。通常のガルーダと比べれば戦闘能力は大きく劣りますから、我々にとって脅威になるような魔物ではありませんね」
「へえー……教えていただきありがとうございます! じゃあ、やっぱり普通のガルーダもいるんですね!」
「……? そうですね。ガルーダは第六天位相当とされる大型の魔物です。ただ、この辺りには生息していませんね」
第六天位相当……。
それってつまり、今のザラよりもさらに一つ上。
五大ギルドの最上位層に届くような冒険者と同じくらい強い魔物、ってことだよね。
……そんなのがこの辺りを普通に飛び回ってなくて良かったよ。
というわけで野生の魔物見学ツアーみたいな感じでパラグナ湖盆へ向かう私たち。
両脇に低木が並ぶ林道っぽい場所を抜けると、今度は草木が減り、大小さまざまな岩が転がる岩場が広がっていた。
こんな場所で万が一落馬すると危険なので、ヴァルプニルたちにも少し速度を落としてもらって、先に進んでいく。
そんな中、ルドルフだけは、目の前に現れる大きな岩から岩へと、軽々と飛び越えていって見せた。
「相変わらず、とんでもない身体能力ですわね……」
リンドールさんがどこか呆れたような表情を浮かべる。
一方のソヨゴさんは、「いいぞー、格好いいぞー」と楽しそうに褒めていた。
……これはあれかな。ルドルフくんはミルちゃん意識であんなことしてるのかな?
そう思いミルちゃんを見ると……特に感動した様子もなく、ぼーっとしていた。
……ルドルフくん、もうちょっとがんばろっか。
そんな岩場をしばらく進んでいると、先頭を走っていたソヨゴさんルドルフペアが速度を落とした。
この辺りがパラグナ湖盆から出てきたガルムたちの目撃情報があった場所なんだとか。
「……あ、いた。あれだな」
ソヨゴさんの目線の先には、五、六匹のガルムが集まっていた。
「なるほどね。確かに、湖盆から出てきた連中っぽい。ちょっと話してくるから、ここで待っててくれ」
そう言うと、ソヨゴさんはルドルフの背中から飛び降り、そのままガルムたちのもとへ近づいていった。
……しばらくして戻ってきたソヨゴさんの顔からは、さっきまでの楽しそうな雰囲気が消えていた。
「……これ、思ったより面倒なやつだ」
「やはり、原因は外来種だったのですか?」
トネリコさんが尋ねると、ソヨゴさんは頷いた。
「たぶん。少し前から見たことのない魔物が縄張りに入り込んできて、タラプとか、その辺の獲物を片っ端から食ってるらしい」
「パラグナ湖盆には、広く群生するパラグナ草を餌に、草食の魔物が多く生息しています。そしてガルムたちは、そうした草食魔物を主な獲物にしているんです」
「なるほど……」
パラグナ草を草食魔物が食べて、その草食魔物をガルムたちが食べる。
──そんな食物連鎖の中に突然、外からやってきた魔物が割り込んできたわけだ。
「前なら少し歩けば獲物が見つかったのに、今は何日探してもほとんど見つからないってさ。それで、腹を空かせた群れから順に、仕方なく湖盆の外まで餌を探しに来てるらしい」
「では、餌を求めて人里の近くまで下りてきていたのですね」
「そうっぽい。ただ……こいつら、なんで戦わないんだ?」
改めて草むらに集まっているガルムたちを見るけど、みんな身体中が傷だらけ──というわけではなさそうだ。
縄張りに知らない魔物が入り込んできたのなら、普通は戦って追い払おうとしそうなものだけど……。
もしかして、戦おうとすら思えないほど強い相手だったとか?
……それって、外来種は私が思っていたより、ずっと危険な魔物ってことなんじゃ……。
「とりあえず、群れの長に会わせてもらえることになった。詳しい話は、そいつに直接聞くぞ」
「なるほど、分かりました……!」
野生の魔物見学ツアー気分はここまでみたい。
私たちはガルムたちに案内してもらい、その長がいる場所へ向かうことになった。




