104 ミルちゃんに決めた!
ステータス測定を終え、私たちは再び売り場へ戻ってきた。
二匹のハイガルムくんも当然のようについてきて、今は売り場の隅に並び、ガルムちゃんを見つめ続けている。
そのせいで小っちゃい魔物たちが怯えちゃってるよ……。
ここからは、ガルムちゃん用のアイテム選びの時間。
ようやく、本来の目的に戻ってきたわけだ。
ピルカさんとグレッタさんに手伝ってもらいながら、ふかふかの寝床、散歩用の引き綱、食事用のお皿、毛並みを整えるためのブラシなどを選んでいく。
もちろん、例のトイレへ自然と誘導してくれる魔術具も。
ごはんについては、とりあえず何種類かを少量ずつ買って試してみることにした。
「これで全部ですかね?」
「はい! たぶん!」
ピルカさんがそう言った瞬間、グレッタさんのげんこつが落ちる。
「いてぇ!」
「首輪がまだですね。お色はどうしますか?」
グレッタさんは何事もなかったように私たちへ向き直ると、カウンターの上へ色とりどりの首輪を並べていく。
「あ、確かに首輪……。うーん、迷う……」
私はコンビニで何を買うか数十分迷うタイプの人間なので、当然こういうときになかなか決められない……。
赤、青、黄色……おお、虹色まである……。
うーん、どうしよう。
ガルムちゃんは真っ白な毛並みだから、どの色も似合いそうなんだよね。
私がしばらく悩んでいると、見かねたのかリンドールさんが声を上げてくれた。
「白もふさんには、こちらの赤色が映えるのではありませんか?」
リンドールさんが指差したのは、細身の赤い革で作られた首輪。
正面には小さな金色の留め具が付いていて、派手すぎずかわいい。
「確かに! これにします!」
うん、ガルムちゃんに似合いそう!
決めてくれてありがとう、リンドールさん……!
私が赤い首輪を差し出すと、ピルカさんは元気よく受け取った。
「こちらですね! それでは、お名前を刻印しますので、この子のお名前を教えてください!」
……な、名前?
マズい、全然考えてなかった……。
「が、ガルムちゃんで」
「えっ、『ガルムちゃん』でいいんですか?」
ピルカさんがぽかーんと口を開けた。
……やっぱり、種族名そのままはナシだよね……。
「……リンドールさん。何かいい名前、思いつきますか?」
「えっ、わたくし?……うーん、そうですわね。マシュマロみたいなので『マシュ』とか、ミルクのように白いので『ミルフィ』とか……」
「す、すごい……! さすが錬金術師ですね!」
「関係ないですわ」
私、白いからシロくらいしか思いつかなかったよ……。
リンドールさんのネーミングセンスに脱帽しつつ、私はその中から名前を決めることにした。
「それでは、ミルちゃんにします!」
「分かりました! では、『ミルちゃん』としますね!」
ピルカさんが何やら魔術具を操作すると、首輪に『ミルちゃん』と刻印された。
それを受け取って、ガルムちゃん──改め、ミルちゃんの首へ、そっと首輪を巻いてみる。
本人は首輪を特に気にしてない様子だけど、やっぱり白い毛並みに赤色がよく映える!
これにしてよかったよ。ナイス、リンドールさん!
必要なものをすべて購入し、受け取った品を次々とアイテム欄へしまっていく。
「……えっ、え?」
「お、お客様……?」
目の前で品物が次々と消えていく光景に、ピルカさんとグレッタさんは揃って目を白黒させていた。
その二人をよそに、私がせっせとアイテム欄へしまっていると──背後からトネリコさんに声をかけられた。
「サキさん。先ほどの話ですが、少しだけよろしいですか?」
「サキさん、帰りましょう」
「リンドールさん!?」
すかさず私たちの間へ入ったリンドールさんが、私の背中を押して出口へ連れていこうとする。
「ははっ、妙な話をするつもりはありません。リンドールお嬢様について、少し聞いておきたかっただけです」
「リンドールさんについて……ですか?」
「はい。リンドールお嬢様は、グランベルジュでうまくやってますか? 私が言うのも何ですが……お嬢様は錬金の知識こそ昔から豊富でしたが、錬金自体はあまり得意とは言えなかったので」
「ちょっと、トネリコさん! わたくしはここにおりますわよ!?」
「本人には聞きづらいこともありますから」
「今、本人の目の前で聞いていますわよ!」
リンドールさんは不満そうだけど、トネリコさんは本当に心配しているだけみたい。
私は少し考えてから、素直に答えることにした。
「はい。リンドールさんには、すごく助けてもらっています」
「サキさん……?」
「私たちのためにいろんな魔術具を考えてくれたり……実際に、マナエーテルを作ってくれたりしていますし」
「マナエーテルを、ですか……?」
「ええ。素材なら腐るほど──こほん。たくさんありますので」
「そ、そんなことが……?」
「──とにかく! 今のわたくしはグランベルジュでちゃんと錬金術師としてやっておりますの! ね、サキさん」
「はい! それに、錬金しているときのリンドールさんって、本当に楽しそうなんです。あと、おびただしい数の失敗もしてます」
「最後の一言はかなり余計ですわ!」
でも、その失敗作を処理するためにガラスラくんを召喚して、そこから魔力の結晶体まで生まれたわけだし。
失敗も全部が悪いわけじゃない。たぶん。
「だから、リンドールさんは大活躍なんです。それに──錬金が得意かどうかなんて関係なくて、リンドールさんはグランベルジュに絶対必要!──だと思ってます!!」
私がそう言うと、リンドールさんは少しだけ目を見開いた。
それから、ふいっと顔をそらす。
「……当然ですわ。あれほど立派な錬金設備まで用意していただいたのですから。今さら出ていけと言われても、絶対に出ていくものですか」
そう言うリンドールさんの耳は、少し赤くなっているように見えた。
そんな様子を見てか、トネリコさんは安心したように目尻を下げる。
「ははっ、それを聞いて安心しました。……少なくとも、私の口からは何も話さないでおきましょう。ただ、今の勢いでグランベルジュの名が広まっていけば、いずれリンドールお嬢様のことも向こうの耳に入るでしょうけどね」
「……ええ。それは覚悟していますわ。わたくしたちは、五大ギルドに肩を並べようとしていますもの」
「ははっ、今後が楽しみです。……エンジュさんには、くれぐれもお気をつけくださいね」
「……その名前は、今は出さないでくださいませ」
リンドールさんが心底うんざりした顔をすると、トネリコさんはどこか楽しそうに頷いた。
そして、もう一つ思い出したように口を開く。
「それと、もう一つ。サキさん、是非いつか、アルボネアへいらしてください」
「アルボネア……?」
「緑ギルドの本拠地がある街ですわ。わたくしの生まれ故郷でもありますの」
「そうなんですか! ぜひ行ってみたいです!」
私がそう言うと、トネリコさんは私の腕の中にいるミルちゃんへ視線を落とす。
「魔獣に関する資料の量も、研究者の数も、ここグラン=ラフィースとは比べものになりません。この子の性質についても、何か手がかりが見つかるかもしれませんね。それに、翠環府には魔獣の言葉を聞き取れる者が──」
そのときだった。
──バキバキバキッ!!
店の入口の方から、木材がへし折られたような、派手な破壊音が響いた。
私たちは揃って振り返る。
開け放たれていたはずの入口は、枠ごとまとめて無残に破壊されていた。
そして、舞い上がる木屑の向こうから姿を現したのは──
とんでもなく巨大な魔獣にまたがった、一人の少女だった。




