第三章 少しずつ近づく心
二人が一緒に暮らし始めて数か月。リオネルは獣人国での生活にも慣れてきた。獣人国の料理を覚えた。城の使用人たちとも親しくなった。庭を散歩するのも好きになった。そして何より――
レオンハルトや他の獣人たちの姿にも慣れていった。獣人といってもいつも獣の姿をしているわけではない。普段は人の姿に獣の耳と尾があるだけで、リオネルたち人間と何ら変わりなかった。稀に本能に支配されたり危険が迫ったりすると完全に獣の姿になることがあるようだが、リオネルが王宮に来てからレオンハルトが獣の姿になったことはまだない。
ある日、リオネルは庭でレオンハルトの尾を見つめていた。大きくて、ふさふさしたそれが彼の後ろで揺れている。
「レオンハルト様。」
「前々から思っていたが、「様」と他人行儀に呼ばれるのは何だかこそばゆい。もっと普通に呼んでくれ。」
「え?でも……」
「お前なら構わん。」
「じゃあ、レオンハルト。」
「何だ?」
「……触ってみてもいいですか?」
「尾を?」
「はい。」
レオンハルトはしばらく黙った。その後静かに答える。
「……好きにしろ。」
リオネルがそっと触れる。人間国の書物で読んだ狼の毛は表面が硬くゴワゴワしていると書いてあったが、思っていたより柔らかい。獣人の毛質は普通の獣とは違うのだろうか。内側は綿のようにふわふわしており、しばらくその柔らかさを堪能するように撫でていた。すると。
ふわり。
彼の尾が、ふいにリオネルの腕に巻きついた。その尾はまるで嬉しそうに揺れている。
「わっ……」
「……」
揺れた尾から綿毛が舞い、尾に触れたリオネルの手や身体にもたくさんの綿毛が付いていた。
「レオンハルト?」
「……悪い。」
「え?」
「嬉しいと、勝手に動く。」
「はぁ……」
「それと、換毛期なので毛が抜ける。」
リオネルは笑った。
「ふふっ、かわいいですね。」
「かわいい?」
レオンハルトの耳がぴくりと動く。
「俺が?」
「尾がです。」
「……そうか。」
レオンハルトはどこか不満そうな表情を見せた。
リオネルは、レオンハルトにとって自分はただの政略結婚の相手だと思っていた。ゆえに二人の間に愛が芽生えることはない。そう思っていた。
だが、自分の言動でころころと表情を変え、その尾が彼の感情を如実に表している。彼は、自分で思っていた以上にリオネルのことを大切に思ってくれていたようだった。
言葉にされずとも尾を見れば彼が思っていることが分かるようになってきたリオネルは思った。レオンハルトは思っていた以上にかわいい。
その日。
レオンハルトはリオネルを腕に抱き込み、たくさん甘やかして何度も「かわいい」と言わせようとした。そんな彼の様子を見た側近のルシュルフは苦笑いを浮かべ、王太后・レベッカから雷が落ちたのは、また別のお話。




