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2943  作者: 平野むら
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1-1

畑さん行っき(はたけにいって)来る。」

「気をつけて行ってきないよ(てね)。」

「今日もがまだせ~(がんばるぞ~)。」


「えらいあちーわ(暑いわ)。」

「…」

がんたれ(小僧)うちんげで何しちょる(うちの家で何してる)!」

「…グゥ~…」

「腹減っちょるとか(へってるのか)。」

「…」

おらん家来んね(おれの家に来ないか)。」

「…」


「あら~もじょか(可愛い)!」

「…」

うちん嫁じょ(おれのよめさん)。おい、飯。」

いっちゃが(はい、そうですね)。」

わい、名は(お前 なは)?」

「…」

知っちょる(しってる)子?」

だいや(いいや違う)。」

はぶてるのかね(機嫌が悪いのかね)?」

うんにゃ(いいや)、そうじゃねえ。」

「…」

「うめぇか?」

「…コクッ。」

「そら~いかったいかった(よかったよかった)!」


私は…人として生きているようだ。しかし…手も足も小さいな。これはまだ子供ということか。

腹が鳴っている…人間とはこうも腹が減るものなのか。

口も乾いてきている…そこの川で満たそう。ゴクッ…ゴクッ。腹は満たせんようだな。

さて…赤子の頃の記憶はないが、朝から記憶が蘇ってきた。どうやらこの山に置いて行かれたようだ。

ここまで育って捨てられてしまうとはな…やはり人間とは勝手なものだ。

産みの親は記憶にない…昨晩からこの山に居るのはわかっているが…そんなことはもうどうでもいい。

この人生は、彼女に会えないような人生なんだろうか…現状を見ても困難な事は確かだな。

まずば腹を満たさねばどうにもならん…足というのは動かしにくいものだな…だがどうだ、この長い腕はなかなかに役に立ちそうだ。

人間の動き方は目にしている、しばらくすれば(さま)になるだろう。

それにしても草木だけでは腹を満たせんな…人間の歯では木の枝をしゃぶることしかできない。

味覚というのも、ここまで過敏になるものなのか。さっきから口する物すべて、渋いの苦いのなんの…もっと美味いものはないのか。

なんだ、土が盛り上がって草が均等に生えている…人間の仕業か。ということは、これを育てているのだな?どれ、口にしてみるか…

「がんたれ!うちんげで何しちょる!」

おぉ、人間に会えたぞ。なにやら三叉(みつまた)の武器を抱えているな…ここは様子を見ながらいくとするか。

「…グゥ~…」

この状況でも腹は鳴るのだな…さて、どう動くか。

「腹減っちょるとか。」

どうもこの人間には浾湧と同じものを感じるな…

「おらん家来んね。」

…おらんげこんね、とは呪文か何かか。まぁいい、敵意は消えたようだ。ついて行くとしよう。

「あら~もじょか!」

今度の呪文はさっぱりわからんな。

「うちん嫁じょ。おい、飯。」

ほぅ、嫁が居たのか。おまけに何か食べさせてくれるようだな。

「いっちゃが。」

「わい、名は?」

名…私に名などあるのだろうか。あの生みの親に名を呼ばれた記憶も残っていない。

「知っちょる子?」

「だいや。」

「はぶてるのかね?」

「うんにゃ、そうじゃねえ。」

腹も満たした…ここからどう動くべきか…

「うめぇか?」

あぁ、うまかった。世話になったな。

「そら~いかったいかった!」


うち、山ん下りてくる(私 山を下りてきます)。」

ほーか、頼んじゃい(そうか 頼んだよ)。」

山を下りる…その方が良さそうだな。ついて行ってみるか。

「おい、清厳。」

「…!」

「案ずるなかれ、わしじゃ。」

「…龍王様!」

「うむ。」

「なぜこの様なことが…」

「わし位になると、人の身体を(かい)して念でなんとでもできるのじゃ。」

「そうでしたか…」

「して、お主もとんでもない始まりを強いられておるな。」

「予想外と言いますか、その、記憶が今朝あたりから蘇っていましてね。」

「ふむ。実はな、お主が産み落とされた辺りから様子を伺っておった。」

「過保護ですね…」

「龍界から初の人生じゃからな。どう転ぶか見ておったわい。」

「こんなところに転がり込みました。」

「まぁ、まずまずと言ったところか。」

「産みの親の記憶がないのですが、問題ないでしょうか。」

「問題とは?」

「その…親が彼女だったりとかしなかっただろうかと…」

「ないな。」

「即答ですか。彼女を知りもしないのに…」

「フォッフォッ、そう焦るな清厳。」

「あと、私は名を付けられたのでしょうか。」

「おぉ、そうであったな。清厳とは青龍だったころの名。今生の名は染一(そめいち)じゃ。」

「染一…」

「して、これからどうする気じゃ。」

「わかりません…先程の嫁について山を下りようと思っていたのですが…」

「山を下りるか…それもいいかもしれんな。」

「…何かあるので?」

「行けばわかるじゃろう。」

「わかりました。」

わい、なした(お前 どうした)。」

「…山を下りてくる。」

「お~、喋れんのけ!行って来い!」

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