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少年少女の人型機甲戦闘機戦記 - Strong Armys of GigAntes  作者: ニコライ
第1部

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第48話「神雷」後編

 



「敵防衛線第1ラインの射程まで残り5分、戦闘準備はできてるな?」

「最大加速ならケラウノスまで10分だけど?」

『無理だろ、そんなの』

『見捨てないでよ』

「分かってるもん」

「変なことを言うな。メイも、煽るなよ」

「うん」

『ねえメイちゃん』

「なに?」

『これ、できるかな?』

「大丈夫」

『ほんと?』

「本当本当。ね、リント」

「できないと死ぬからな。死ぬ気で成功させる。クリス、怖かったら戻っても良いぞ」

『ううん、行くよ。みんなも一緒だから』

「じゃあ、頑張ろう」

「ああ」

『失礼。光学にて、敵防衛線の詳細データ取得に成功しました。転送します』

『第1防衛線には……バトラー、サラマンダー、ノーム、スターズ、がいるよ』

「リント!」

ハンター3(潤人)ハンター5(智子)ストライク1(アクト)、攻撃開始!」


 発艦から約50分後。ケラウノス後方に3つ確認された防衛線の内、最初の防衛線が凛斗達の前に見えてきた。

 その少し後、長大な射程を持つベルゼブブ、アスモデウス、レミエルは前進しながら攻撃を開始する。


「指揮官機を集中攻撃しつつ中央突破、ケラウノスへ向かうぞ。敵の追撃は引き離す」

『……できるか?』

「指揮官機を撃破すれば時間は稼げるはずだ。あの軌道なら、追いつくにはかなり時間がかかる。それとも、捨て駒になりたいのか?」

『凛斗が言うなら捨て駒でも良いよ』

『凛斗のためなら仕方ないな』

『やれます!』

「馬鹿言うな。そんなことしたら伯父貴に怒られるだろ」

『は?いや、何でそうなんだよ』

「パルチザンだったからな……俺達を生かすために、捨て駒になった人が何人もいる」

『すまねぇ』


 彼らは凄惨な戦場をいくつも潜り抜けてきた。むしろそれが当たり前の光景すぎて、誰もが捨て駒になる覚悟を決めていたほどだ。

 そんな覚悟を唐突に知り、エンジェルシリーズパイロットは誰もが無口になる。だがそれを無視し、メイはある提案をした。これ以上続けるのは地雷だと理解している故に。


「ねえ、これリントの方が良いよね?」

「そうだな。ブリューナクは任せて良いか?」

「うん、ユーハブ」

「アイハブ」


 彼女の言う通り、雑多な敵防衛線の突破は射撃優先の方が成功しやすい。メイができないわけではないが、指揮官機狩りも含めると凛斗の方が向いている。

 代わりに凛斗の負担が増えるものの……この面々なら指揮はあまり必要無い。


「射程に入った。全機、攻撃開始!」


 凛斗の号令に従い、ビームライフルやビーム砲、プラズマ収束砲が五月雨式に放たれる。それらは敵機に次々と命中し、火球を作り出していった。

 もちろん敵機も撃ち始めているが、センサーの性能差と技量差により命中率は格段に違う。


「ミサイルはまだ温存しろ!使うのは後だ!」

『了解!』

『おう!』

「リント!」

「任せろ、ハンター3(潤人)!」

『了解です』


 防衛線からのミサイルはベルゼブブが大口径プラズマ収束砲で薙ぎ払い、残りはスサノオがビームボーゲンとブリューナクで全て撃ち落とした。


「通信量解析、暗号強度解析……リント、出来たよ」

「よし。やるぞ、指揮官機狩りだ!」

『『『了解!』』』


 その直後、13機で数百機を超える防衛線へ突入する。

 防衛線は幅広く、直線上にいる敵機はかなり少なくなっている……というのは言い過ぎだが、額面ほど酷い戦力差ではないのが救いだ。


「突っ込め!」


 その中心をスサノオは駆ける。

 ビームライフルに付けられた2つの銃口。そのうち下にあるビームマシンガンで敵指揮官機を追い立て、隙ができた瞬間に上のビームライフルを放って打ち落とす。

 接近してきた敵機にはビームボーゲンの雨を浴びせ、展開したプラズマ収束砲で中隊長を護衛の小隊ごと消し飛ばした。

 さらに周囲をブリューナクが乱舞、狙われていないと油断した敵機を破壊していく。


「右下、左上、あと正面!」

「右は任せる!真っ直ぐ行くぞ!」

「ここも多いけど……うん!」


 凛斗達にとっては、いつも通りの日常。メイ達にとっては、いつも通りとなってしまった非日常。

 違う点があるとすれば、かつては機動力で一撃離脱を繰り返していたが、今は火力で無理矢理押し切っているところか。


『だー!薄いっても多いんだよ!』

『少ないぞ、これくらい』

『うん』

『何でマユちゃんも肯定するの!』

『本当、これくらい普通だからね』

『はい、いつもです』

『……やはり、凄まじいな』


 彼らも文句を言いつつ、手は止めない。

 サタンがビームライフルとブリューナクで牽制し、リヴィアタンの弾幕が敵機を絡めとる。

 それで崩れた敵集団へガブリエルとラファエルが突撃、クルセイダーで斬り捨てていく。

 ベルフェゴールとウリエルはスサノオに続いて吶喊、連携してビームソードを振るい、敵陣形に穴を開ける。

 マモン、ラグエル、ゼラキエルの3機はベルゼブブ、アスモデウス、レミエルを守りつつ、的確な射撃で近づく敵機を撃ち落としていく。守られている3機はその火力を存分に発揮し、敵防衛線をズタズタに引き裂いていった。

 そして……


「第1ライン突破。ハンター3(潤人)、置き土産だ!」

『了解です』


 追いすがってきたバトラーにビームソード付きの蹴りを叩き込みつつ、凛斗はそう叫ぶ。

 直後、スサノオのプラズマ収束砲とベルゼブブの大口径プラズマ収束砲が照射され、追撃の用意をしていた敵機の多くを消し飛ばした。


「次の第2ラインは……ノームが多いな」

「弾幕大変そう」

「それはまだどうにかなる。問題は……」

「問題は?」

「多分、出てくるな」


 凛斗の懸念、恐らく当たるだろう。

 それ以前に第1ラインを突破したものの、まだ1つ目だ。次はすぐに迫っている。


『ちっ、こんなところまで……』

『行ける?』

『このままは少し厳しいです』

『狙撃、する?』

「安心しろ。このまま行けば……」

「うん」


 ノームは拠点防衛を主目的として開発された機体だ。

 大型ビームガトリングと高出力ビーム砲は既にスサノオ達へ届き、前面に展開した大型実体盾が高い防御能力を誇る。

 だが、故に……


「死角だ」


 接近してしまえば脅威度は大幅に下がる。


「ハッ!」


 スサノオはミサイルを迎撃した直後、プラズマスラスターの出力を上げ、勢いのままにノーム小隊の中央へ飛び込む。そして、四肢から発振した固定式ビームソードで4機とも斬り裂いた。

 さらに側面を晒していた隣のノーム小隊をプラズマ収束砲で吹き飛ばす。


「行け!」

『たり前だ!』

『やります!』

『行くよ!』

『うん!』


 そしてスサノオへ目が向いた瞬間、デーモンシリーズとエンジェルシリーズが飛び込んだ。

 格闘戦が得意なガブリエル、ラファエル、ベルフェゴール、ウリエルが先陣を切り、クルセイダーやビームソードで敵機を斬り捨てていく。

 続いて突入したサタン、リヴィアタン、マモン、ラグエルの射撃が敵陣形を乱れさせ、乱れを直そうとした指揮官機を撃破する。

 ベルゼブブ、アスモデウス、レミエルが砲撃と狙撃を行い、向かってこようとする遠方の敵機を減らしていった。


『行けんぞ!』

『行けそうね』

「油断するな」


 このままやれば第2ラインも簡単に突破できる。

 しかし、そうは問屋が卸さない。


「リント!下!」

「ちっ、やっぱりか!」


 月面の方から近づいてきたのはジャッジメントの編隊。総数24機。

 凛斗の予想通り、防衛線の周囲で待機していたようだ。


「俺達が迎撃する。ハンター6()ストライク6(クリス)、ついてこい」

『了解』

『はーい』

「他はこのまま穴を開けろ」


 対応のため、スサノオはベルフェゴールとウリエルを引き連れた。

 24機対3機だが、この程度なら楽なものだ。


「メイ、ユーハブ」

「うん、アイハブ」


 スサノオは両手の得物をビームライフルから大太刀型クルセイダーへ変更。

 それと同時に凛斗はブリューナクの制御を完全掌握、全てジャッジメントへ向かわせる。


「先手で1ヶ小隊を潰す。突入してからはメイが1ヶ小隊、繭とクリスで2ヶ小隊、俺が2ヶ小隊だ」

「えー?」

『リント君だけズルいよ』

『わたしもできるよ』

「なら、競争だ」


 ちょうどそのタイミングでブリューナクが敵集団に到達し、乱舞した。

 ジャッジメント部隊は対ブリューナク用の訓練を受けていたのか、今までの敵機より動きが良いが、その程度だ。障害になどなれず、凛斗は宣言通り1ヶ小隊(4機)を撃破する。

 その混乱の最中に突入しようとしたスサノオ達だが、残念ながら態勢を立て直すのが早く、ビームライフルやビームマシンガン、ミサイルで迎撃してきた。


「弾幕か。けどな……」

『薄いよ!』

「これなら!」

『行ける!』


 しかし、そんなものに当たるような面々ではない。というか、この程度では少し物足りないほどだ。

 容易く掻い潜り、ジャッジメント部隊の近くへ飛び込む。ジャッジメントもビームランスやビームソードを構え、正面から迎え打つ形を取る。


「遅い!」


 まあ、その程度しかできないとも言えるが。

 スサノオはプラズマスラスターの出力を上げて突撃、ランチャーシールドごとジャッジメントを叩き切り、返す刀で奥のもう1機も叩き斬った。

 その合間合間にビームボーゲンが放たれ、軌道変更を強要し、回避の甘い機体は蜂の巣になる。


『マユちゃん右!』

『左お願い!』

『うん、行こう!』

『もちろん!』


 ベルフェゴールとウリエルは背中合わせに舞うように飛び、ビームソードで敵機を的確に斬り裂いていった。

 要所要所でベルフェゴールがビームを放ち、敵機を牽制。隙を見せた機体は撃ち落とす。


「俺の援護、いらなかった……かもな!」


 最も奥にいた4機のジャッジメントへは凛斗が操るブリューナクが攻撃を仕掛け、射撃と近接のコンビネーションで瞬殺した。

 挙げた戦果はメイが5機、繭が4機、クリスが3機、凛斗が8機だ。


「ほぼ言った通りだな」

『取られちゃった……』

「競走じゃないよ。リント、ユーハブ」

「アイハブ。急ぐぞ」

『うん』

『りょーかい』


 元の戦場を見ると、10機は第2ラインに穴を開けることに成功し、現在は突破の最中だ。

 スサノオ、ベルフェゴール、ウリエルはスラスター出力を上げ、牽制射を放ちつつ、穴が閉じる前に飛び込んだ。


『追いついたか』

「速い機体だけで行ったからな。そっちは?」

『全機無事です』

『問題無かったよ』

『何とか抜けれたね……』

「もしかして、疲れたの?」

『当たり前でしょ!』

「柔だな、まったく。けど、良い感じだ。このまま第3ラインも……っ⁉︎」


 しかし、間もなく防衛線第3ラインというところで……


『せんぱぁぁぁぁぁい!!』


 その声が通信に入った。

 それを察知した凛斗により、スサノオは右腕エネルギーシールドの出力を上げ、範囲を絞り、固定式ビームソードと重ね合わせる。

 それで長剣型クルセイダーの側面を叩くことで、回避に成功した。


「リント!」

「任せる、ユーハブ」

「アイハブ!」


 そして大太刀型クルセイダーを抜くと再度の突撃を受け止め、鍔迫り合いへ繋げる。


『凛斗!』

『メイ!』

「大丈夫、リント!」

「周りに邪魔はさせない」

『先輩先輩!また会えましたね!もう逃しませんよ!』

「邪魔しないで!」

『さあさあ!』


 ヘルとの出力差は前と変わらず……いや、専用調整を済ませたスサノオの方が高くなっているようだ。

 しかし、この程度ではあまり大きな差とは言えない。技量で埋められるレベルであり、凛斗とメイにとって厳しい戦いであることは間違いない。

 その上、スサノオのセンサーが最悪の熱量変化を捉えた。直後に入ってきた皇女派艦隊からのデータリンクも同じ現象を示している。


「なっ、メイ!ケラウノスのエネルギーチャージが始まったぞ!」

「もう⁉︎じゃあ早く……」

『行かせません!わたしは、わたしは!』

「この、ミーフェル!」

「時間が……!」

『オレに任せなぁぁ!』


 このままではマズい。2人の思考がそこへ達した時、ラファエルが斧槍型クルセイダーを振り回し、叩きつけた。

 ヘルはそれを長剣型クルセイダーで受け止め……遠心力が込められた一撃により大きく後退させられる。


「トラン!」

『ハッ、行けよリント!メイ!』

『俺もやる』

「レックス、大丈夫か?」

『任せろ』

「分かった、任せる」

「お願い」

『邪魔しないで!先輩!』

『行かせるか!』

『ここで静かにしてろっての!』


 ガブリエルとラファエルがヘルの相手をし、押さえ込んでいる間にケラウノスを破壊する。2機のサポートをするサタンとリヴィアタンも残り、第2ラインからの追撃警戒も行ってくれるらしい。

 スサノオ以下9機はベルゼブブ、アスモデウス、レミエルを内側に囲んだ蜂矢隊形を組むと、防衛線第3ラインへ向けて進む。


「最後だ、早く突破するぞ」

『うん!』

『了解です!』

「メイ、このまま行け」

「了解!」


 スサノオはプラズマスラスターに点火、隊形から突出した。


「斬り込め!」

『突撃ー!』


 そして、再度の蹂躙。今回のメインパイロットはメイだが、結果は変わらない。

 他の機体もスサノオが開けた穴へ飛び込み、押し広げていく。


『抜けた!』

『やった!』

「各機反転、ミサイル斉射!」


 そして突破後、ミサイルを搭載していないレミエルを除く、7機が持つミサイル全てが放たれた。さらにベルゼブブの砲撃、アスモデウスとレミエルの狙撃も行われる。

 結果、第3ラインから追撃してこようとした敵機が飲み込まれ、壊滅した。


「足止めは頼む!」

『凛斗!1機なんて……!』

「大丈夫だ。メイ」

「行けるよ!」


 唯一それに参加しなかったスサノオはケラウノスへの吶喊を続ける。ケラウノス周辺には50機程度の敵機がいるようだが、スサノオなら蹴散らせるだろう。

 それより、間に合うかが問題だ。


「時間は?」

「推定……あと3分。行けるか?」

「行く、絶対!」


 しかし、間に合わなければならない。

 メイはレバーとペダルを操作し、プラズマスラスターの出力を一気に上げる。イナーシャルキャンセラーで相殺できなかったGがコックピットを襲ったものの、2人は耐えた。


「ぐ、ぅ……」

「もう、少しっ」

「敵機は全部落とす。そのまま進め!」

「うん!」


 その代わり、敵機との接触を可能な限り抑えることができる。スサノオの加速はとても速く、後方や側面からでは追いつけない。ビームやミサイルも火器管制の問題で命中コースのものはほとんど無かった。

 正面にいる敵機が運良くインターセプトできても一瞬で薙ぎ払われ、道は開かれ続ける。


「姿勢制御、できた!」

「測敵良し、照準良し、エネルギーチャージ良し!」


 そして、ケラウノスの正面に到達した。レーザーの発振準備中だからなのか、ケラウノスの各部からは使い終わった冷却剤が放出されている。勿体ないが、効率は高い。

 とはいえ、大勢の命がかかっている状況だ。悠長に観察している暇はない。


「チャンスは1回……」

「リント!」


 プラズマ収束砲のコントロールが凛斗の手に渡り、すぐさま展開される。


「当たれぇぇぇぇ!」


 そこから、最大までエネルギーが高まった4つのプラズマ奔流が放たれ……


「よし!」

「やった!」


 見事命中、内部から爆炎が上がった。さらに命中箇所以外からも火が吹き出し、ケラウノスは崩壊し始める。

 これでどうにかできたと、2人はホッと一息を吐く。


『すまん、リント!』

『抜かれちまった!』


 しかし、レックスとトランの声で現実に戻された。

 ディスプレイを確認すると、ヘルがかなりのスピードでこちらへ向かってきている。


「メイ」

「大丈夫」

『先輩、』

「絶対勝つから、絶対」


 ケラウノスを破壊し終えた後、時間制限はもう無い。

 スサノオは大太刀型クルセイダーを構え、ヘルを迎え撃った。


「リント、機体は?」

「オールグリーン、暴れ足りないみたいだな」

「何それ。それで、私がメインのままだよね」

「射撃と周辺敵機の排除は俺がやる。軌道計算はOSに任せればいい」

「勝手にやってくれるもんね。でも、微調整はお願いしていい?」

「ああ」


 宇宙空間での戦闘は互いの軌道を読み合うことが重要になる。SAGA(サーガ)はプログラムによって宇宙でも大気圏内と同じように飛ばせるといえど、エース同士の戦闘であれば気にする必要があった。重力の安定したラグランジュポイント近郊ではなく、月という高質量体の近くであればなおさらだ。

 しかも、そんな中でプラズマスラスターの大出力は、容易に軌道を変えることができる。月の引力に引き摺り込まれないギリギリから、逆に地球の周回軌道から逸脱しかねないレベルまで、3分もあれば余裕で軌道の遷移が可能だ。

 つまりプラズマスラスターを搭載し、それに習熟した2機の戦いは……大気圏内戦闘以上に異次元の軌道を記録した。


『せんぱあぁぁぁぁい!』

「そんなの!」

『そこです!』

「甘いな」


 2機の軌道が交差しなくとも、近くを通っただけでビームボーゲンが放たれ、ブリューナクが飛び交う。

 どちらも当たるとは思っていない牽制射だが、威力は本物だ。スサノオもヘルも回避行動を取り、軌道を変える。


「やぁぁぁ!」

『ハァァァ!』


 そして交差した瞬間、スサノオの袈裟斬りとヘルの横薙ぎが衝突し、弾き合う。

 直後に反転したヘルが上手く軌道を調整して追いかけてきたため、スサノオは減速しつつバレルロール、ヘルの頭上を取るとそのまま斬りかかった。


「そこ!」

『流石、先輩っ!』

「ミーフェル、は……!」

『まだまだです!』

「話聞いて!」


 大太刀型クルセイダーは横に構えた長剣型クルセイダーに防がれたが、衝撃でヘルの軌道を変えることに成功した。

 しかしヘルも諦めておらず、非常に速い動きでプラズマ収束砲を展開し、1秒とかからずに発砲する。

 そんなことをされては回避機動を大きくするしかない。スサノオは追撃から射撃に切り替え、ビームボーゲンで弾幕を張る。


『先輩は!何で、わたしを!』

「私はこれを止めたかっただけ!たくさんの人を殺したんだよ!」

『そんなのぉぉ!』

「ミーフェル……!」


 パワーのスサノオと機動性のヘル。その構図は以前と変わらない。

 メイとミーフェルの技量の差はあるものの、蹂躙になるような極端な差ではない。

 しかし……


『くっ、また……!』

「威勢のいいこと言って、この程度か?」

『ケンザキ!お前が、お前がぁ!』

「っと、油だったか?」


 この戦いは2対1。機体操作、特に射撃の面でスサノオの有利が顕著だ。周囲には邪魔をする敵機がほとんどいないため、尚更。

 それに、スサノオの側には色々と変化があった。機体各部の調整といったハード面以外にも。


「メイ、このまま押し切るぞ」

「うん。でも……」

「分かった。好きにやれ」

「ありがと、リント」


 前に東京で戦った時、メイはまだスサノオに乗ったばかりだった。機体に慣れておらず、性能を十全には引き出せていなかった頃だ。

 しかし、今は違う。その時に互角だったミーフェルと、その時よりも機体の性能を引き出せるようになったメイ。どちらに軍配が上がるかは自明の理と言える。


『ケンザキ!お前はぁ!』

「どうした?この程度か?」

『この、引きずり出して殺してやる!』

「させない!」


 さらにビームボーゲンとブリューナクの技量差、性能差もかなり出ていた。スサノオよりも操作の難しいルシファーのビームボーゲンを操り続けていた凛斗の技量は、コンピューター任せのミーフェルを大幅に上回るものだ。

 ヘルのビームボーゲンはビームボーゲンで相殺されるか、盾型ブリューナクで防がれている。しかしスサノオは防げず避けられないレベルの弾幕を展開している。

 ブリューナク同士の戦闘は数の差もあり、スサノオが有利に進め、ヘルにはそちらからの攻撃も浴びせられていた。

 直撃こそまだ無いが、弾幕は装甲を削り、サブスラスターを消滅させていく。


『何で、先輩、何で!っ⁉︎』

「そこ!」

『先輩!』


 今もスサノオの短剣型ブリューナクの1基により、翼端のサブスラスターが破壊された。ヘルは破壊しようとするも、短剣型ブリューナクは離脱した後だ。

 その上、それによって隙が出来た瞬間に、スサノオは突っ込んだ。クルセイダーの打ちつけによる衝撃はパイロットにも伝わり、判断が一瞬遅くなる。


「注意散漫だな」

『うそ……』


 その瞬間に、ヘルの左肩にもビームボーゲンが直撃した。脱離こそしなかったものの、動きは悪くなっている。


『このっ!』

「甘い」

「そこ!」


 ヘルは無事な右腕でビームブーメランを投擲するも、ハイビームボーゲンで簡単に撃破された。

 反撃として投擲されたスサノオのビームスローイングダガーはビームボーゲンの援護もあり、ヘルの足や翼に突き刺さり、スラスターをいくつも破壊する。

 同時に放たれたビームボーゲンにより、胴体のサブスラスターやビームボーゲンも消滅した。


『あ、あ……あああぁぁぁぁぁ!』


 ほとんど勝敗は決したようなものだが、ミーフェルは諦めない。いや、ヤケになったのだろう。

 残ったスラスターの出力を最大にし、長剣型クルセイダーを突き出した。


『先、輩……』


 しかし、それが通る相手ではなかった。

 スサノオは下に潜ると大太刀型クルセイダーを振るい、ヘルの両腕を斬り落とす。


「ごめん」


 そしてスサノオは大太刀型クルセイダーから左手を放し、固定式ビームソードをヘルのジェネレーターへ突き刺した。

 それによってヘルは動かなくなり、スラスターも出力がゼロになる。しかし、それ以上のことをスサノオはやらなかった。

 むしろ寄り添い、ヘルの頭へ手を伸ばしている。


『先輩、何で……』

「殺したくない、ってのは変だけど……でも、私は嫌だったから」

『だって、わたしは、殿下は……先輩、の……』

「私も色々と考えることはあるよ。けど、あの人の考えには賛同できない。無理矢理従わせるなんてダメ。それに私は……リントと離れ離れなんてもう嫌だから」

『そんなのって……!』

「でも、私はミーフェルに感謝してるんだよ?」

『え……?』

「私のことを慕っていてくれたのは本当だから。リントにキツく当たってた時も、私のためを思ってだったんでしょ?そう思ってもらえて、嬉しかったことは確かだから。怒らなかったわけじゃないけど」

『そう、なんだ……』


 凛斗は気付いた、彼女の我儘。自分を慕ってくれるミーフェルを容赦なく殺せるほど、メイは割り切れていなかった。

 しかし、凛斗としてもその方が良い。自分のように擦り切れた感情、メイ以外では絶対に殺したくないと思える相手がいない現状に、陥ってほしくなかったから。


『そっか……先輩、ありがとうございます……』

「大丈夫。もう大丈夫だよ、ミーフェル」


 メイの心がある程度伝わったのだろう。ミーフェルの顔からドス黒いものが晴れ、前のような笑顔に戻る。

 その光景にメイは、そして凛斗も喜んだ。


『そうか、お前はそこまでか』


 しかしそんな時、謎の通信が入る。

 それを聞いた瞬間、凛斗は脳内で最大クラスの警鐘が鳴った気がした。


『でん……』

「この声って……」

「っ⁉︎」


 凛斗が受けたその感覚に従い、プラズマスラスターを使って慌てて後退したスサノオ。

 初期加速代わりにヘルを蹴り飛ばしたが、気にしない。気にする余裕が無い。


『放て』


 直後、先ほどまでいた場所を大量のプラズマが駆け抜けていった。

 スサノオは何とか無事だったが……プラズマが晴れた後、そこにヘルの姿は無い。


「え……う、うそ、そんな……」

「バカな、どこから……月面か!」

「ミーフェル、ミーフェル!」


 凛斗が視線を向けた先には月面の偽装ハッチがあった。ハッチは大きくなく、少数のSAGA(サーガ)しか出られないだろう。

 しかし、出てきた影は巨大だ。その異形に、否応にも警戒を強める。


「ミーフェル!」


 メイの叫びは届かなかないまま、最後の戦いが始まった。












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