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少年少女の人型機甲戦闘機戦記 - Strong Armys of GigAntes  作者: ニコライ
第1部

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第45話「ラグランジュ1」後編

 



「リント」

「ん?」


 あれから2日後。

 外に出ようと大和艦内の通路を歩いていた凛斗は急に呼び止められた。


「今日はメイとデートですね?」

「ああ。知ってるんだな」

「メイの様子を見れば分かりますよ。それと、これを使ってはどうですか?」

「ん?ペアの特別チケット?」

「この前の埋め合わせですよ。用意してもらいました」

「させた、の間違いだろ」

「約束ですからね。もっとも、メイが好きなネズミの国ではありませんが」

「貰い物に贅沢を言うつもりなんて無い。というかこれ、ラグランジュ1の中でも1番の所だろ?ありがとな」

「ふふ、気にする必要などありませんよ」


 チケットを転送したマイリアはそれだけ言うと、レグルトと共にどこかへ行く。

 そして凛斗は再度歩き出したが、通路の交差部へ足を踏み入れる直前に止まった。双方共に。


「っと」

「あっ」

「丁度か」

「うん。リントにしては遅いね」

「メイが早いんだろ。集合の20分前だ」

「あ、本当だ。でも、そっちの方が良いよね?」

「まあ、そうだな」

「それで、今日はどうするの?」

「ここに行く」

「これって?」

「マイリアから貰った。埋め合わせって言ってたぞ」

「あ、あの時の……そっか」

「だから良いか?」

「うん」


 合流した2人は大和から降りると宇宙港前のバス停からバスに乗り、チケットが示す場所へ向かう。

 ただし、少し突っ込んだ会話をしつつ。


「なあ」

「なに?」

「メイもマイリアから何か貰ったのか?」

「えっ……うん、これ」

「ん?……いや、は?」


 当人にまだ言う気はなかったものの、凛斗はメイの態度から何かあったと気づいていた。

 隠していたかったわけではないが、バレてしまっては言わない方が無理だ。メイは端末を開き、内容を見せる。

 それを見た凛斗は……少し絶句した。


「最高級ホテルの最上級レストランの予約?何でこんなの……」

「マイリア、

 この後に行け、ってことかな?」

「多分そうだろうな……こんなレベル、行ったこと無いぞ」

「大丈夫だよ。私、慣れてるから」

「このブルジョワめ」

「これからは凛斗も、だよ」

「まあ、そうか……」


 実際、凛斗の将官への昇進はほぼ確定している。否が応でも、凛斗はそういった存在とみなされるだろう。

 もちろん当人がそのような行動をするかは別で、恐らくほとんどしないだろうが。


「っと、もう少しだな」

「あ、そうだね。どこで降りる?」

「正面で良いだろ。何か買うか?」

「ううん、そのまま入ろ」


 端末に入っているチケットでゲートを潜り、凛斗とメイはテーマパークの中に入った。

 ここには2人のように休暇を取った軍人や、仕事が休みの地元住民もいるのだろう。平日にも関わらずかなりの人だ。

 しかし、この程度ならキャパシティを圧迫するほどでは無いようで、アトラクションも買い物もスムーズにできるらしい。


「どこにいく?」

「どうしよう?ジェットコースターは面白くないし……」

「いつもそれ以上のことやってるからな」

SAGA(サーガ)って大変だもんね」

「メイが言うか?」

「リントもだよ?」

「まあ確かに。方向性が違うだけマシか?」

「どうだろ。みんなが驚くのは同じだもん」


 SAGA(サーガ)パイロットの中でも特異な機体に乗っている2人。どうやらジェットコースター程度のGでは満足できないらしい。

 というより、普段のような自由な飛行ができないことがストレスになりかねないようだ。


「メイ、これは?」

「食べる。だからこっちも……はい、リント」

「ん。ありがとな」

「良いよ。でも」

「あれか?買ってくる」


 そんなわけで何をするか悩んでいる凛斗とメイは、取り敢えずアイス、ドーナツ、ポップコーンなど、近くで売っている食べ物を購入した。

 売っている店も売られている物も多数ある上、2人とも佐官でパイロットだ。資金的な問題は一切無い。

 そしてどちらも18歳と若く、非常に体力を使う職業であるため、普段から食事量は多かった。メイも遠慮することなく次々と買い、次々と食べていく。


「ここ、こんなにたくさんあったんだね」

「前にも来たのか?」

「うん。でも、5歳くらいだからほとんど覚えてないかな」

「5歳……俺の1番古い記憶もそれくらいだな」

「あ、私も。というか、多分ここ」

「俺は水族館だ。かなり大きい所で、イルカのショーを見てた」

「良いなぁ。月にはほとんど無かったもん」

「だったら、また後で行けば良い。日本にはたくさんあるからな」

「連れてってね?」

「当たり前だろ」


 そんな風に食べつつ、話をしつつ……一瞬だけ、2人は目を軍人のものに変えた。


「で、メイ。気付いてるか?」

「うん」


 視線こそ向けないものの、凛斗とメイの意識は後方へ向けられている。


「やっぱりマイリアの差し金だよな」

「そうだと思うよ。でも……」

「でも?」

「多分、見てるよ」

「なるほど」


 さらに、2人が視線を向けたのは……


「マイリア、気にしてたから」

「チケット貰ったし、仕方ないか。けど、やられっぱなしは性に合わないな」

「撒く?」

「当然」


 こちらに焦点が合わされている監視カメラだ。






「ふふ、気付かれてしまったようですね」

「マイリア、レックス達が2人を見失ったらしいよ」

「では、こちらから指示を出しましょう。良いですね?」

「了解」


 凛斗とメイが睨んだ通り、監視カメラの映像が集約された部屋にマイリアとレグルトはいた。そのため、手下代わりに使っている面々が見失っても、こちらでは捕捉し続けている。

 レグルトが端末を用意すると、マイリアはそれへ一言二言呟いた。


「これで良いですね。では、戻りましょうか」

「自分でチケットを渡して、そのデータを使って追跡なんて……まったく、リントやメイに怒られそうだな」

「良いですよ、それでも。もっと関係を進めて欲しいですからね」

「本音は?」

「見ていると楽しいじゃないですか、あの2人は」


 そんなことも言いながら、ここの2人も楽しんでいる。






「もう、しつこい」

「諦めるか?監視カメラから隠れるのは無理だぞ」

「それは嫌。せっかくリントと2人きりなんだから」

「確かに」

「また撒く?」

「そうするか」


 と言いつつもこの2人、追いかけっこが楽しくなってきていた。

 というか、ちょうど良い場所にいた繭とクリスに写真撮影を頼んだり、トランにゴミを押し付けるなど、割と好き勝手やっていた。


「っと、こんな感じ?」

「とりあえず、あいつらは全員いないな。まあ、問題のアレ(監視カメラ)は残ってるけど」

「ううん、もうすぐ終わるよ」

「もうすぐ?」

「だってマイリア、1時から会議だから。戻らないと大変でしょ?」

「なるほど」


 どうやら、メイが勝手を許していたのはこういう理由のようだ。そして、やはり2人きりの方が良いらしい。

 ただし、こういったものは基本的に非公開情報だ。そういうのを知れるのはメイとマイリアの関係によるもの、口にした今も聞き耳を立てられていないか、最大限の注意を払っている。


「それなら、このまま撒いて遊ぶか。時間まで」

「うん。でも、その前に」

「またか?まったく」

「だって歩いたもん」

「確かに。じゃあ、俺の分も合わせて……」

「別々で買って」

「分かった」


 しかし、それはその話をした時のみ。今は気を抜いても良い時間だ。


「リント、楽しい?」

「当然だろ。メイは?」

「私も。だって……夢みたいだから」

「ああ」


 短いながらも、言葉に込められた想いは重い。

 状況に振り回され続け、状況を振り回してきた凛斗とメイ。しかし、この2人の心は常に同じだった。


「好きだ、メイ」

「大好き、リント」


 そして唇を重ねた後、微笑みながら歩いていく。
















「楽しかった」

「楽しかったな。けど、疲れてないか?」

「ううん、大丈夫。元気だよ」

「まあ、そうだよな」


 早めにテーマパークから出た凛斗とメイ。2人は散々はしゃぎ回り、遊びまわったが、疲労の色はほとんどない。

 しかし、それも当然だろう。この程度で疲れていてはSAGA(サーガ)のパイロットなどやっていられないのだから。


「それでホテルは……すぐそこか」

「反対側だね」


 そんな2人の次の目的地は道の反対側、その程度しか離れていなかった。そちらへ向かう道もあるため、すぐにたどり着く。

 玄関の扉が開いた先では、支配人らしき人物が待っていた。


「お待ちしておりました。リント・ケンザキ様、メイルディーア・ハイシェルト様ですね?」

「そうです。話は?」

「はい、殿下から全て伺っております。どうぞこちらへ」

「分かりました」


 その後、2人は案内に従ってホテルの中を歩いた後、ある部屋の前で立ち止まる。


「こちらの部屋に着替え一式が用意してあります。お着替えください」

「やっぱり、ドレスコードが?」

「はい、当然でございます」

「分かりました。じゃあメイ、後でな」

「うん、待ってるからね」

「メイの方が遅いだろ」

「うん」

「まったく」


 そんな風に言葉を交わした後、凛斗の方がひと足先に部屋へ入った。

 メイもそれに続くように、隣の扉を開けると……


「……え?」

「お待ちしておりました」

「準備はできています。どうぞこちらへ」


 中では2人の女性が待ち構えていた。

 そして彼女達はメイに有無を言わせず、部屋の中へ引き摺り込む。


「え、あ、その」

「では、始めましょう」


 残念ながら、メイに選択肢は無いようだ。






「レストランはそちらのエレベーターの先にあります。そちら自由にご利用して頂いて構いません」

「はい、ありがとうございます」

「では、お連れ様が参られるまでしばらくお待ちください」


 所有している中で最上級の服、日本国防軍の第1種礼装に身を包んだ凛斗。服もマイリアが用意したのだろう。

 彼はレストラン入り口まで案内されると、近くに置かれているソファに座った。


「はぁ……」


 部屋に入った後、シャワーを浴び、乾かしてから着替えたが、それでも30分も経っていない。もちろん、ここに来たのはメイより先だ。彼女に責められることは無いだろう。

 それにこういった高級店にプライベートで入るのは初めてなため、興味はかなりある。しかし、顔は明るいだけではなかった。


「こんな所、入ったこと無いぞ、まったく……」


 日本の名店にあるドレスコードとは方向性が完全に異なるシステム。戦場などとは全く違う状況に、かなり緊張していた。

 その上、待ち時間がある。女性の着替えが長くなってしまうことは凛斗も体験しており、今の精神状態では1時間程度でも厳しい可能性がある。

 幸い、実際にはその半分程度で済んだが……


「あの、リント?」

「来たか」

「おま、たせ」

「いや、そんなに……」


 凛斗は声を聞いて振り返り、そして言葉を失った。


「リント?」

「……」

「リーンートー?」

「えっ、あ、悪い」

「あ、起きてた。どう?何となく分かるけど」


 青系統のドレスは肩部分が完全に露出しており、胸元や背中も開いているが、不思議と過剰には見えない。各所の装飾や刺繍、ネックレスやイヤリングも含め、メイは完璧に着こなしていた。

 普段は真っ直ぐ下ろしているだけの髪も、軽くカールがかかった上に編み上げられ、少し変則的なハーフアップにまとめられている。

 また低い方とはいえヒールを履いているため、顔が普段より近くに見える。薄く化粧がされており、いつもとの違いも大きい。その美貌の魔力は、意中の男を撃ち落とすのに十分過ぎたようだ。


「凄く似合ってる。綺麗だ」

「ありがと。でも、何でこっち見てないの?」

「また見惚れそうなんだよ、目を向けたら。話ができないだろ」

「そっか。じゃあ、慣れるまで見て」

「え?いや、その……」

「ダーメ」


 それを向けられた凛斗は表情を隠すことすらできず、タジタジになっていた。思考停止しないように精神力を使い続けるのは初めてで、あまり上手くいっているとは言えない。

 しかし、普段からバディを組んでいる相手だ。しばらくすると多少は慣れ、会話ができるようになった。


「その服、どうしたんだ?持ってなかっただろ?」

「マイリアが準備してたみたい。スタイリストの人が2人もいて……私、聞いてなかったけど」

「完全に狙い撃ちだな。今も見てるんじゃないか?」

「そうかな?でも、リントが見るのは違うよね?」

「っ……やめろ」

「はーい」


 ワザとらしい動作にドギマギさせられつつも、凛斗はどうにか会話を続ける。

 とはいえ、ここに長居をするわけにもいかない。時間も決まっているのだから。


「さて、そろそろ行くか」

「うん」


 そう言うと2人は腕を組み、エレベーターへ入る。だが、そのエレベーターは凛斗やメイの予想に反し、下へ降りていった。

 そして扉が開かれると、2人の口から感嘆が溢れ出る。


「おお……」

「わぁ……」


 足下は星空だった。どうやら、強化ガラスの内側にレストランが作られているようだ。

 そして星の輝きを邪魔しないよう、店内の照明は最小限とされている。

 地球だけでなく月でもあり得ない光景、それに2人は圧倒されていた。


「円筒形コロニーならこういうこともできるんだな」

「うん……重力発生装置、無くても良いんだ」

「それは違うだろ。コロニーに合わせたここの人の工夫だ」

「あ、そっか」

「お褒めいただき光栄です。では、こちらへ」

「は、はい」

「分かりました」


 しかし、入り口で立ち止まられては迷惑だ。

 そんな、スタッフが言外に伝えてくる言葉を理解した2人は、慌ててついていく。


「こちらのテーブルです。本日のメニューはこちらになります」

「ありがとうございます」

「では、どうぞお楽しみください」


 そして向かい合って座ると、凛斗とメイはメニューに目を向ける。

 それによると、提供されるものはフランス料理系のフルコースらしい。しかも、材料から最高級クラスの。


「名前だけでも凄いな……」

「リント、緊張してる?」

「当たり前だろ。こんな所初めてだぞ」

「そっか。かわいいね、リントも」

「は?」

「だってそうでしょ?違う?」

「そうか?」

「そうそう」


 そんな環境、凛斗にとってプレッシャーでしかない。しかし逃げ出すということはできず、メイの気遣い的なからかいの相手になっていた。

 しかし、前菜やスープなどが運ばれてくる頃になるとそれも終わり、食事を始める。


「美味しいね」

「ああ」

「リント?どうしたの?」

「ああいや、その、口下手な自分が恨めしくて……美味いのに表現できない」

「美味しい、で良いんだよ」

「そうか?」

「うん。だってテレビじゃないもん」

「確かに」


 食事は楽しく、というのがメイの考えだ。それ以上は求めていないし、凛斗がいるだけで十分とすら公言する。普段通りに。

 そして、そんなメイの相手をするうちに慣れてきて、凛斗にも余裕が出てきた。


「そういえば」

「なに?」

「メイは御令嬢ってやつだよな?そういう知り合い、マイリア以外にもこっち側にいるのか?」

「うん、いるよ。というか、リントが知ってる人もいるんだって」

「同級生や先輩で、か。それは心強いけど、伝聞系?」

「私もニーネやマイリアから聞いただけだから。あの後、あんまり連絡してなかったし……」

「……ごめん」

「もう良いよ。だって、リントはここにいるもん」

「そうだな」


 そんな会話を交わしつつ、ナイフとフォークを動かす。そして食事を終えた凛斗とメイは、再び支配人にホテルを案内された。

 どうやら、マイリアは2人のために部屋も取っていたらしい。それを聞いて納得した2人、だったのだが……


「美味しかったね」

「ああ」

「ここも良い部屋だし」

「ああ」

「ねえ、リント」

「なん、っと⁉︎」


 その後の凛斗の反応は鈍い。

 しかし、それも仕方ないだろう。


「もう、今度は部屋?」

「当たり前だろ……」


 最高級のスイートルーム、マイリアが泊まっているのと同じ部屋だったためだ。1泊だけとはいえ、こんな部屋を()てがわれては、呆然とするだろう。

 庶民派とはいえお嬢様なメイとは感覚が違うのだから。


「いきなりこんな所に……はぁ、諦めるか」

「諦めるって何言ってるの?せっかく良い部屋なのに」

「値段を考えろ、値段を」

「え?」

「そういえばメイもそっち側だったな……!」


 それを自覚しながら笑うメイと、彼女を睨むように見つめる凛斗。

 そんな状態となり、流石にやりすぎたと思ったのか、メイは話を転換する。


「冗談はここまでにしよっか」

「メイが勝手に始めただけだろ。それで、そのドレスはどうするんだ?」

「これ?脱がしたいの?」

「冗談はやめろ」

「冗談じゃないよ。リントなら良いもん。これは私1人でも大丈夫だけど」

「それなら……」

「だって全部見た仲だよ?」

「ぐっ……ちなみに、いくらするんだ?」

「全部合わせてこれくらい」

「まあ流石に、はぁ⁉︎」


 軽い気持ちで端末を見た凛斗だったが、そこに表示された数字を見て、腰を抜かしかけてしまう。

 彼の想定と、桁が2つほど違っていた。


「いや、何でこんなに……」

「驚くこと?」

「は?」

「だって天然のダイヤモンドやサファイアだよ?むしろ安い方じゃないかな」

「そっちか……」


 そして感性の違いに絶句した。

 しかし……


「まったく、メイ」

「もう止めた方が良い?」

「ああ。流石に心臓に悪い気がする」

「リントの心臓、そんなに弱くないでしょ」

「だとしても、だ」

「はーい」


 非常に強い仲の2人だ。これもメイのお遊びだということは分かっている。

 メイも理解されている前提で話をしていたため、問題は無い。


「さて、そろそろ寝るか。明日も早いしな」

「うん、分かった。じゃあリント、どっちが良い?」

「メイのせいだろ」

「ううん、私も」

「まったく。まだしばらく起きてるか?」

「うん」


 2人にとって、これはただのじゃれ合いにすぎなかった。












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