第44話「強襲」後編
「くっ、この!」
『こいつは……!』
『おい!避けろ!』
「分かってる!」
皇女派連合軍防衛線中央上部。そこではアメリカ軍のSAGA部隊が大きく押し込まれていた。
アメリカ軍のSAGAは基本的に遠距離射撃戦用に調整されており、防衛戦における安定性は高い。だが1ヶ連隊ものジャッジメント、しかもパーソナルマーク持ちのエースが10人以上も混ざっている部隊に強襲され、健闘虚しく防衛線に穴が開いてしまった。
その上、敵機は他にもいる。
『この新型……!』
ジャッジメント部隊を率いてきた新型機が3機おり、そっちの方が問題だった。
『速えぇし硬てぇ、あぶねっ⁉︎』
『無事か!』
『受け止めれねぇってヤベェだろ!知らなきゃマズかった!』
『こっちも、火力が……』
大型のクルセイダーを振るう敵機とはオリバーのイーグルⅢ試作8号機が剣を交え、多数の銃器を備えた敵機にはキースのイーグルⅢ試作7号機が対面して撃ち合っている。
アリアのイーグルⅢ試作9号機は残った1機を相手にしているのだが、3人の中で最も不利な戦況だった。
「このっ、こいつ……!」
イーグルⅢ試作9号機は大量のブリューナクに追い回され、反撃の糸口を掴めないでいる。それどころか既に何発もビームが当たっており、戦闘能力が何割か落ちていた。
イーグルⅢが悪いわけではない。キース達が弱いわけでもない。これも良い機体で、3人の腕も相手のパイロットとほぼ互角だろう。
しかし、敵機の方が基本性能は上だった。
『時間を稼ぐ!援軍が来るまで耐えろ!』
「いつ来るの!」
『分かるかそんなもん!』
アメリカ系パルチザンも不利な戦場で戦ったことはある。しかしその相手は一般部隊が大半で、大陸戦線への影響が大きい故に多数のエースが配置されている日本とは異なっていた。
そんな経験の差から、徐々に追い詰められていくイーグルⅢ試作9号機。パイロットのアリアも追い詰められていることを理解しているが、対応策が何も無い。
「この、きゃっ⁉︎」
『『アリア!』』
「あっ……」
そして、その時が訪れる。突撃してきた銃剣型ブリューナクを受け止めた時、反動で体勢が崩れた。その隙を4機のジャッジメントに狙われてしまう。
救援は間に合わない……元々ここにいた面々だけでは。
『間に合ったか』
「え……?」
次の瞬間には、4機のジャッジメント全てが爆散した。
そして、嵐神に率いられた天使と悪魔の部隊が乱入する。
「バーサーカーにブラッドブロッサム、それにコブラか。あんな連中に新型が……」
「知ってるの?」
「武装法務隊の中でも有名なエースだ。確かに、新型機を使わせるには良い相手だろうけど……」
「大丈夫だよね?」
「ああ、勝てる。任せてもな」
どうにか救援が間に合いホッとした凛斗だが、その表情は硬い。相手が相手だからだ。
オリバーが相手をしていたシヴァX2には交差した突撃槍が、キースと撃ち合っていたシヴァX3には岩に突き刺さった剣と桜吹雪が、アリアを追い詰めていたシヴァX4にはウロボロスの中央でトグロを巻く双頭の蛇が描かれている。
それらのパーソナルマークを持つのは武装法務隊の中でもアルマ・キュルトに次いで危険とされるエース達で、地球各地のパルチザンが多大な被害を受けていた。他にもいるが、今回は出てきていないだけだろう。
「レックス、トラン、アーサー2と交代!行け!」
『了解』
『おう!』
だがそんな連中が相手だとしても、連隊に大隊で挑むとしても、凛斗達の顔に悲壮感は無い。勝てると信じているからだ。
まず、シヴァX2へガブリエルとラファエルが突撃し、クルセイダーで押さえ込む。
「香織と剛毅はアーサー1と交代!繭とクリスはアーサー3と変われ!残りはジャッジメントを押さえ込め!」
『了解』
『分かった』
『任せて』
『やるよ!』
『コールサインを使え、アサルトリーダー』
「分かってる!」
牽制射を行いつつ、指示を出していく凛斗。しかし咄嗟に名前が出てしまうのは、元々こう呼んでいたという慣れのせいと言える。そういう意味では、凛斗もまだ戦場に慣れていなかった。
そんな中、周囲では激しい戦闘が開始される。
『トラン!やれ!』
『おうよ!』
ガブリエルは長剣型クルセイダーを使ってシヴァX2と鍔迫り合いを行い、ラファエルは斧槍型クルセイダーを振るって両断しようと試みる。
しかしシヴァX2は巨大な大剣型クルセイダーを時に細かく、時に大きく振るうため、上手く斬り込むことができなかった。
『上手くやれよ、香織』
『任せて』
シヴァX3とはリヴィアタンが撃ち合いながら引きつけ、その隙にサタンがビームを放ちながら接近する。
高火力兵装をいくつも持つシヴァX3の弾幕は脅威だが、リヴィアタンの火力も高い。そこにサタンが混ざることで、互角かそれ以上の戦闘を繰り広げていた。
『やるよ、クリス!』
『うん、マユちゃん!』
ベルフェゴールとウリエルはシヴァX4へ向けて突貫するが、多数のブリューナクに足止めされてしまう。
しかし2機はビームソードを振りまくり、ビームを撃ち、少しずつブリューナクを減らしていく。シヴァX4本体からの攻撃もあるが、それは2機が協力して捌き、防いだ。
『……無茶を言う』
『そういう人です、凛斗は』
『否定できないけど……』
『けどまあ、敵来てるし?』
『やる、よね?』
『当然!』
ベルフェゴール、ラグエル、ゼラキエルら前衛はベルゼブブ、アスモデウス、レミエルの後衛を守るように展開、近寄ろうとするジャッジメントを追い払い、撃ち抜き、斬り捨てる。
後衛はジャッジメントへ砲撃・狙撃を浴びせ、襲撃を散らし、3機で集中的に狙った機体は次々と破壊していった。
いくらエースや準エースが揃っていようと、高い火力と彼らの技量から逃げ切るのは簡単ではない。
『まったく、あいつは』
『良いんじゃない?まだ強制する段階じゃないでしょ』
『まあそうだな。イーグル隊、襲撃戦だ』
『シャーク隊、イーグル隊の援護に回るよ』
『『『『了解!』』』』
コクロウは小隊もしくはエレメント単位で飛び回り、ジャッジメントへ襲撃を繰り返す。
派手さはデーモンシリーズやエンジェルシリーズに劣るものの、その高速機動性や一撃離脱の技量はジャッジメントを翻弄し、着実に数を減らしていった。
そんな中、当のスサノオはというと……
「俺達はこのまま……ん?」
「リント?」
「メイ、上の資源衛星エリアに行くぞ」
「え、それって……」
「嫌な予感がする。良いか?」
「分かった」
外から近寄ってきたバトラーなどを蹴散らしていたのだが、コックピット内で交わされた会話から、戦場の上に位置する資源衛星エリアへ向かう。
そこで、彼は目にした。
「黒騎士っ、お前はぁぁぁ!!」
「リント⁉︎」
資源衛星の間に敵機が見えた瞬間、凛斗は動く。メイが反応する前にOSのメインを切り替えた。
そんなことがコックピット内で行われたスサノオは瞬時にビームソードを手に取ると、プラズマスラスターへ大量のエネルギーを投入、敵機へ向けて突っ込んだ。
『やれやれ、激しいんですね』
しかしその斬撃は前腕に固定された小型の実体剣に受け止められた。それを知覚した瞬間に凛斗は右足の固定式ビームソードを振るい、防がれるのを見届けつつ反動で距離を取る。
黒騎士と呼ばれた機体、それはフェルシア・フィリア中佐が操るシヴァX1だ。肩には星を貫く黒いレイピアのパーソナルマークがあり、凛斗はそれを覚えていた。
「どの口が言う!この殺戮者が!」
『それは貴方も同様でしょう?魔王』
「黙れ!」
『この程度でしかないと?』
「ちっ」
スサノオはビームボーゲンを一斉に放つものの、エネルギーシールドと回避機動で全て避けられてしまう。
このレベルのエースにこの程度の攻撃は効かない。それを確認した凛斗は舌打ちをしつつ、次のプランを練る。シヴァX1から放たれた反撃のビームボーゲンは数が少なく、誘導が稚拙なこともあり、考慮する必要すらなかった。
しかし、それはもう1人の言葉により中断させられる。
「リント、リント!」
「メイ?」
「落ち着いて、リント。負けるよ」
「あ……ふぅ、そうだな」
「知ってる相手?」
「同期の、1つ歳が上だった仲間の仇だ。やっぱり抑えるのは無理か」
「そっか。でも、無理しちゃダメだよ」
「ああ。OSは返す、ユーハブ」
「うん、アイハブ。それで、あっちはどうするの?」
「ブリューナクを使う」
そもそも、ここにいる敵機はシヴァX1だけではない。下の戦場と同様にジャッジメントが36機おり、エースの割合は下以上だ。油断はできない。
スサノオはビームソードから大太刀型クルセイダーに持ち変えると、同時にブリューナクを全て射出し、戦闘態勢を整える。
『話は終わりましたか?』
「ああ、お前を殺す準備がな」
『戯言を』
「なら、お前が試してみるか?」
『ふふっ、面白い冗談です。なす術なく見逃すしかなかった貴方が言うのですから』
「お前……!」
「リント」
「分かってる」
『覚悟も決まったようですね。では、死になさい』
「やれるものならやってみろ!」
メインパイロットをメイに戻したスサノオは再度突撃を敢行した。
合わせるかのように左右のジャッジメントがミサイルを放ってきたが、それは回避機動とビームボーゲンで無力化する。
「やぁぁぁ!」
『これは……なるほど』
上段から振り下ろした大太刀型クルセイダー。しかしそれは2振りの直刀型クルセイダーに防がれ、有効打にはならなかった。
本来であればここから追撃に繋げたい。しかしジャッジメントが包囲網を作り始めていたため、近くの小惑星を蹴って離脱する。
『素晴らしい太刀筋ですね、ハイシェルト嬢』
「っ!貴女は……」
『知っていますよ。だからこそ勿体なく思ってしまいます』
「え……?」
『皇太子殿下は貴女を大変評価されていました。何故そのようなところにいるのか、今からでも……』
「黙れ。メイは俺のものだ。誰がやるか」
『醜い嫉妬ですか?』
「はっ、メイを戦力としか見てないような男のどこが良いんだ?顔だけか?」
『なっ……貴様、よくも殿下のことを』
「図星か?当てずっぽうに?」
『殺してやる……!』
「やれるならやってみろ。メイはもう気にするな。やるぞ」
「うん」
ここのジャッジメントにもエースや準エースが揃っている。そのためビームボーゲンやブリューナクを使おうと、生半可な攻撃では簡単に避けられてしまう。
その隙を突こうとしたのか、ちょうど4機のジャッジメントが連携してビームソードやビームランスを振るってきたためこれを避け、1機に集中してビームボーゲンを放つことで撃墜したが、敵機はまだまだいる。
「くそっ、周りが邪魔だな。メイ、動きは?」
「小惑星を足場にできるから楽だよ。でも気をつけて」
「左右か?」
「ううん、奥」
「奥?……マジか」
凛斗が確認すると、敵陣の方角から皇太子派のSAGA部隊が向かってきていた。数は500以上、推定3ヶ師団。スターズやストームがかなりの割合を占めているようだ。
ある程度は下の戦場にも行くだろうが、それでも相当数がこの資源衛星エリアを通るだろう。当然ながら、スサノオ1機だけでは足止めすらできない。
「あの数、こいつらでこじ開けた所に投入するつもりだったか……」
「みたいだね。全体からしたら少ないけど」
「俺達からすれば脅威だ。抑えきれない」
「どうするの?あっちに向かう?」
「いや、こいつは放置できない。けど……」
『ならば任せろ』
「え?」
「この声、まさか」
そんな声が聞こえるのと同時に、スサノオの左側にいたジャッジメント3機が爆散した。その小隊の中で生き残った1機も急接近してきた機体にコックピットを貫かれ、反応が無くなる。
声に聞き覚えがあった凛斗はそれを為した2機、その片方に目をやると、通信を繋いだ。
「イーグルⅢの試作1号機……サンダース中佐ですか?」
『ほう、オレを知っているのか、魔王』
「魔王はやめてください。剣崎凛斗です」
『分かっている、ケンザキ大佐殿』
「……ワザとですか?」
『む、バレたか』
『だから言ったんですよ中佐、そんなことはやめるべきだと』
『しかし……』
「もしかして、そちらにはキャンベル少佐が?」
『そうよ。知ってるみたいだけど、私はマディソン・キャンベル、そっちはジェームズ・サンダース、よろしくね』
「はい、よろしくお願いします」
現れたのはイーグルⅢの試作1号機と試作2号機。それに乗っているのはアメリカ空軍のトップエース、ジェームズ・サンダース中佐とマディソン・キャンベル少佐。
キース達を大幅に上回る戦力の投入は、アメリカ軍がそれだけ本気という証だ。日本国防軍だけに任せるつもりは無いらしい。
『それで?君以外にも、可愛い子が乗ってるって聞いたけど』
「分かりました。メイ」
「は、初めまして。メイルディーア・ハイシェルトです。階級は少佐です」
『ハイシェルト?ならば君が例の……』
『皇女殿下のお気に入り、ね』
「は、はい、そうです」
そんな会話を、4人はジャッジメントとの戦闘を繰り広げながら行う。いくらエースを揃えたとはいえ、この4人・3機の技量はそれ以上だ。ジワジワとジャッジメント部隊は数が少なくなっている。
その指揮官たるシヴァX1は後方の部隊と交信しているのか、後ろに下がったまま動かない。凛斗はこれ幸いと戦果を拡大していった。
「それで、どうしますか?後方に防衛線は?」
『緊急展開できたのは臨時編成の1ヶ師団だけだ。だが、少し待てばもう3ヶ師団は展開できる』
「流石アメリカ、凄まじい物量ですね」
『貶しているのか?』
「いえ、褒め言葉です。日本では1ヶ旅団抽出できれば良い方ですから」
『ふーん、そう』
『なるほど。作戦はあるか?』
「敵の新型は俺達が抑えます。ついでに周囲の敵機の撹乱も。そちらには指揮官機狩りをお願いできますか?」
『分かった、任せろ。コールサインはファルコン1だ』
『暴れてあげる。ファルコン2よ』
「お願いします、アサルトリーダーです。メイ」
「うん!」
スサノオはプラズマスラスターを用いた高速機動を見せると、大太刀型クルセイダーでジャッジメントをビームランスごと叩き切り、ビームボーゲンで他の機体を蜂の巣にする。
イーグルⅢ試作1号機は実体盾を前腕から肩へ移すとビームガトリングを放ちながら突撃、両腕から発振した固定式ビームソードでジャッジメントのジェネレーターを貫く。
イーグルⅢ試作2号機は射撃モードにした左腕の小型可変式シールドから牽制射を行いつつ突撃、右腕の可変式シールドを格闘モードにしてビームソードでジャッジメントを斬り裂いた。
「行け、メイ!」
「うん、はぁぁぁ!」
『甘いですよ』
ジャッジメントの群れの中を駆け抜けると、ビームボーゲンとブリューナクで包囲網を敷きつつ、スサノオはシヴァX1へ向けて突撃する。
横振りはまた防がれたものの、クルセイダーの勢いでシヴァX1を横に弾き、姿勢を崩させる。攻撃のチャンスだ。
『いえ、なかなか……』
「ちっ」
だがそれも読まれていたようで、追撃のビームボーゲンとブリューナクは避けられてしまった。
さらに追撃を繰り返したいところだったが、周囲からのビームを避けるため、後方へ飛び退く。
「勝てそう、だけど……」
「やっぱり周りか」
「うん。どうにかできない?」
「無理だ。多すぎる」
技量はほぼ互角、若干凛斗とメイの方が優位といったところか。だが周囲にいるジャッジメント、この後来るスターズやストームのせいで2人は全力をこいつに注げない。
そんな状況では力量差が逆転したようにも思える。特に、敵が追加された場合には。
「増援が入ってきたよ。リント」
「ちっ、早いな。イーグル1、イーグル2」
『了解した』
『任せて。そっちもよろしく』
「了解」
それに対応するため、イーグルⅢ試作1号機と2号機は背部のスラスターを最大出力で吹かし、ジャッジメントを突き放す勢いで加速していった。
指揮官機、といってもこの規模なら大隊の集合だろうが、大隊長や中隊長を狩っていけば戦闘能力は低下する。それはごく少数の例外を除き、変わることのない原則だ。
「さて、こいつとジャッジメント、流れてくる敵機を押さえるぞ」
「大変だけどね」
「それができる機体だからな。まあ、あの2人も多分戻ってくる。少しの我慢だ」
「そうなの?」
「いつまでも同じ所にいたら敵に置いていかれるだろ?」
「あ、そっか」
この防衛線屈指の激戦区を担当することになった2人だが、もう気負ったりしない。
互いに支え合うことができているのだから。
『ちっ、うぜぇ』
「そんなに保たないぞ。早くしろ」
『分かってらぁ!』
敵増援部隊の影響を受けているのは凛斗達だけではなかった。元々の戦場で戦っている剛毅やレックス達の所にも増援部隊が出現し、混戦模様を強めている。
そんな中でガブリエルとラファエルはシヴァX2の苛烈な斬撃を防ぎつつ、各々のクルセイダーを振るう。
『ちぃ!』
しかし周囲からの援護射撃に邪魔され、攻めきれない。
ガブリエルは長剣型クルセイダーを使い、シヴァX2の大剣型クルセイダーをどうにか押さえ込んでいるが、武器の重さは厄介だ。姿勢を崩しかけることも少なくない。
ラファエルは防御に不向きな斧槍型クルセイダーであるため攻撃に回ったものの、シヴァX2パイロットも上手く、的が絞れなかった。
そして周囲にいるジャッジメント等の敵機からの攻撃もある。アクト達やコクロウ隊が懸命に戦っているが、これだけ大量にいては押さえ切ることなどできない。
「やれるか?」
『おうよ!』
だとしても、諦める理由は無い。
周囲の敵機へミサイルを乱れ打ち隙を作ると、2機は攻撃を敢行する。
「落ちろ!」
『オラァァァ!』
長剣型クルセイダーの斬り上げと、斧槍型クルセイダーの振り下ろし。前後左右だけでなく上下も加えた2方位同時攻撃は練度も高く、並の敵は反応もできずに撃破されるだろう。
しかし、ジャッジメントX2は大剣型クルセイダーを斜めに構えると、2つのクルセイダーを同時に受け止めた。さらにビームボーゲンを放ち、ガブリエルとラファエルを後退させる。
「ちっ」
『次やんぞ、次』
「当然だ」
「っと」
『おい香織、大丈夫か?』
「大丈夫。けど、キツいかな」
『こっちもだ。ここより先は無理だろこれ』
「だよね……」
近くの戦場では、サタンとリヴィアタンがシヴァX2に対し、多数所有するビーム砲を撃ち放っていた。射撃が苛烈なだけでなく、シヴァX3もクルセイダーを持っていたため、接近戦は諦めざるを得なかったためだ。
ジャッジメントなどからの影響を最小限とすることができる、という利点はあるものの、決定打は作りにくい。特に、多数の敵に囲まれている場合は。
「何か作戦ない?」
『あるわけないだろ。凛斗じゃあるまいし』
「そう」
サタンが前で盾を構えつつ、ビームライフルと砲型ブリューナクを連射する。そしてリヴィアタンは後方でビームライフル、ビーム砲、高出力ビーム砲を絶えず撃ち続けていた。この距離ならスサノオより弾幕は厚い。
ただし、この2機に搭載されている大量のミサイルはまだ使っていなかった。使う機会が無いと言って良い。
『1発1発が重い……!』
「ルシファーと同じでしょ、それ」
『アレよりはマシだよな?』
「そうかも」
シヴァX3の長距離射撃兵装は高出力ビームライフル2丁とプラズマ収束砲4門、数と連射性能はリヴィアタンの方が上だ。
しかし中近距離になるとビームボーゲンとライフル型ブリューナクが加わるため、容易いというわけではない。援護があるからいいものの、サタン単独では押し負けかねない。
その上、シヴァX3はちゃんとミサイルの警戒もしているようで、敵味方を問わず他の機体を使って射線を切っていた。その程度で誘導が外れるようなミサイルではないが、警戒していることは分かる。迎撃態勢も万全だろう。
牽制にすらならない弾を撃つ趣味はこの2人には無かった。
「さてと……ジャッジメントから倒す?」
『撃ち負けるだろ?』
「剛毅の方は余裕無い?」
『あるわけない』
それ故に、少しずつ敵機を撃ち落としていくしかない。
「じゃ、地道に減らすしかないか」
『ああ』
「クリス!右から回り込んで!」
『分かった、合わせよ!』
「良いよ。3、2、1、今!」
『やぁぁ!』
「はぁぁ!」
ベルフェゴールとウリエルがシヴァX4と戦っているここは、この戦域で最も戦闘が変化している場所と言えた。
2人の奮戦により、シヴァX4のブリューナクは7割以上が破壊されており、本体に攻撃が届くようになっている。
とはいえ、届くだけでは意味が無い。
「ダメ、か……」
『マユちゃん、大丈夫?』
「大丈夫。それより次、行ける?」
『うん』
周囲からの攻撃で突撃コースが限られる現状、2人の攻撃はどうしても防ぎやすくなっている。この攻撃も防がれた上、反撃のビームはベルフェゴールを掠めていた。
さらに、シヴァX4の武装はブリューナク以外も豊富だ。ブリューナク無しでも十分過ぎる戦闘能力を持っており、気を抜けばコックピットを貫かれるだろう。
「きゃっ!」
『ひっ⁉︎』
特に大鎌型クルセイダーは脅威だ。先端に重量が集まっている影響で直撃した際の威力が非常に高く、クルセイダー以外では捌くことなどできないだろう。
さらに言えば、パイロットの技量も高い。変則的な武器である以上に軌道は分かりにくく、防御も回避も難しい。そのためか、ベテランであるコクロウ隊の1機がマトモな反応すらできずに左腕を刈り取られていた。
なので繭もクリスも絶対回避の方針を立てており、それが振られると分かった瞬間に全力で退避している。それでも何回かギリギリになってしまうのが恐ろしいところだ。
「危なかった……」
『アレ怖いよね』
「けど、慣れてきたかな。クリスは?」
『ボクも。癖もあるよね?』
「え、本当?次やれる?」
『できるよ』
とはいえ、何回も見れば特徴は覚える。雑に近寄ってきたストームを切り刻みつつ、繭とクリスは会話を続けた。
そもそも、この2人は負けないという気持ちでは戦っていない。勝つ気だ、ここで。
「その意気。じゃあ、行くよ」
『うん』
「ハァァァァ!!」
付近で激戦が繰り広げられている中、スサノオもビームとプラズマの応酬に身を投じていた。
激しい戦闘だが戦果は一方的で、ジャッジメントはエース2機を残して全滅し、増援部隊も指揮官の半分以上が狩られたことで戦闘能力がかなり下がっている。
だがそれでも、戦闘はまだ続いていた。
「これも、ダメッ!」
「右から3、左から4、避けろ!」
「っ、もう!」
「大丈夫だ。迎撃は任せろ」
「うん!」
シヴァX1が残っているから、だけではない。ジャッジメントのエース2人が増援部隊を吸収、無理矢理ながら指揮系統を繋いだためだ。
そのため、凛斗とメイは未だに気が抜けない。
「リント、戦況は?」
「悪くないみたいだ。少しずつ押し始めてる。それと、敵艦隊が艦砲の射程内に入ったらしい」
「勝てる?」
「微妙だな。大和やアラエル級を使いすぎると手札が減るし……引き分けが良いところか」
また、そうしている間にも全体の戦況は動く。
データリンクによると左翼の日本国防軍および中央下部の皇女派帝国軍が積極的に攻勢をかけ、敵陣の防衛線を次々と打ち破っているらしい。
右翼のヨーロッパ連合軍は敵左翼を半包囲しており、突出こそしていないが有利な態勢だ。アメリカ軍はシヴァX1などの攻勢によって穴が空きかけたが、スサノオ等が戦っているエリアを迂回するように防衛線を再構築、他の戦線に負けないほどの攻勢をかけているようだ。
しかし、皇太子派は崩れていない。被害を出しつつではあるが後退しており、逃げ切るのも時間の問題だろう。
「リント、上から来るよ」
「ちっ、上手くいかないな。イーグル1、イーグル2、そちらは?」
『変わらないな、アサルトリーダー。抵抗は受けているが、そちらへ多くの注意を払っているのは変わらないようだ』
『ただ狩り尽くすのは難しそうね』
「分かりました……後のために、少しでも多く落としておきましょう」
『了解した』
『了解』
イーグルⅢの試作1号機および2号機に乗るサンダース中佐、キャンベル少佐も奮戦しているが、殲滅には至らない可能性が高い。
とはいえ、先のことを考える必要もあった。頭部方向から攻め寄せてきたストーム12機をボコボコにしつつ、凛斗はそう提案する。
『なかなかやりますね。しかし、そろそろ終わりとしましょうか』
「確かに逃げ腰だからな、お前ら」
『ふっ、己の無力を悔いなさい』
「させない!」
さらにプラズマスラスターの出力を上げて突撃し、シヴァX1へ向けて突っ込んだ。大太刀型クルセイダーの振り下ろし、さらに斬り返しの逆袈裟。どちらも防がれたが、シヴァX1の姿勢を崩すには十分な攻撃だ。
しかしそこで凛斗が介入、メインOSを奪って強制的に下がらせた。
「リント、何で……」
「メイ、落ち着け」
「え?」
実は、エースとしての働きが出来ていないのではないかと、メイは自分を疑っていた。戦場を考えれば十分なのだが、経験の少ない彼女は理解できていない。
そのため、少し勇足となりかけていた。まあ、凛斗にはバレバレだったが。
「こいつらを追い払えるならそれで良い。損得勘定は二の次だからな」
「あ、うん……危ない!」
「くっ⁉︎」
しかし、そんな凛斗の考えを余所に、戦場は動く。シヴァ1 X1との戦闘を繰り広げているスサノオ目掛け、全く異なる方向から光線が降り注いだ。
その内の2本はプラズマ収束砲だ。
「あれは……」
「ミーフェル……」
射点にいたのはヘル、ミーフェルの駆る機体。
東京でも剣を交えた相手だ。
『……先輩?』
「ミーフェル、また来たの?」
『先輩こそ、まだそんな所にいるんですか?ダメですよ、それ』
「でもミーフェルだって、戦場にいるでしょ。変わらないよ」
『違いますよぉ?』
通信してきたミーフェルは相変わらずこんな状態だった。
そして、凛斗とメイが引くくらいなのも。
『私は殿下のためにいます。けど、先輩はそこにいちゃダメなんですから』
「えぇ……」
「壊れてるな、こいつ……」
『あ、ケンザキ?』
「げっ」
また、凛斗が睨まれるのも前回と同じだった。
『ハハハ、あなたがいなければ先輩はそこになんでいないんです。私がいるんです。私が!』
「いや、俺がいなくてもマイリアがどうにかしただろ」
『いいえ、違います。私が、私の!』
「何なんだお前は」
しかし、凛斗も黙っているわけではない。恐れているわけではないため、メイの代わりに口を開く。
というか……少し喧嘩腰になる程度にはイラついていた。
『私は私です!』
「だったらメイもそうだ。部外者は黙ってろ!」
『私がそうなんです!お前は黙れ!』
「はっ、だからメイは俺を選んだんだよ。分かってるか?」
「え、あの、リント?」
「何となく、こいつには負けたくない」
『このぉ……殺してやりたいですけど、時間ですか。今日は帰ります。また会いましょう、先輩』
だが、2機はここで剣を交えることなく、ヘルはシヴァX1や生き残りの機体と共に去っていく。下の戦場ではシヴァX2〜4も戦場から下がっていた。
どうやら、撤退支援のためだけに来たらしい。
「まったく、傍迷惑な後輩だな」
「そうだね。でも私……」
「けど、今はこれで終わりだ。戻るぞ」
「うん。終わったから……あれ?」
「っと、メイ?」
戦闘の終結が確認され、安堵した2人。しかしスサノオがコントロールを失ったため、凛斗は急いでメインOSを掌握する。
そして前の席を見ると……メイの手は震えていた。彼女はそんな様子を見て、混乱している。
「あ、あれ?私、私は……」
無理もない。地上で経験した戦い、あの東京決戦すら霞む数と数のぶつかり合い。戦闘経験が少ないメイはそれに呑まれ、怯えてしまったようだ。覚悟を決めていたとしても、これは仕方がない。
そもそも、彼女は東京決戦ですら疲れ果てて寝てしまうほどだった。今回は起きている分、成長したと言える。
「メイ、メイ!」
「えっ、あ、なに?」
「終わったぞ。肩の力を抜け」
凛斗はそれを理解し、安心させるように声をかける。もちろん、スサノオの操縦を行いつつだ。
メイのことをちゃんと理解しているため、出てくる言葉は彼女の中に響く。
「大丈夫だ。俺もメイも生きてる。もう怖くなんてない」
「う、うん……けど、私……」
「それが普通だ。殺し合いだからな。それでも……」
「忘れて、忘れるな。でしょ?」
「ああ」
「そっか……ありがと、リント」
慣れることが幸せか、慣れないことが幸せか、彼女には分からない。凛斗も理解しきれてはいない。
しかし、迷い足を止めることだけはしないということは、2人とも決めていた。
「さて、帰るか」
「うん」
放熱、システムチェック、簡易整備、デブリーフィングなどなど。帰艦してからもやることは多い。
なので、早く戻るに越したことはなかった。
・シヴァX1
XSG74-T02H-X1
全高12.1m。皇太子派ムーゼリア帝国軍が開発した量産型第12世代SAGAの最初の試作機。パイロットに合ったチューニングと武装構成がなされている。
シヴァX1は万能型で、量産機の原型とも言われる。
武装
___ビームライフル×2
___ビームソード×2
___迎撃ビームバルカン×2
___プラズマ収束砲×2
___直刀型クルセイダー×2
___エネルギーシールド発生器×2
___ビームボーゲン×16
___ハイビームボーゲン×6
___銃剣型ブリューナク×12
・シヴァX2
XSG74-T02H-X2
全高12.1m。皇太子派ムーゼリア帝国軍が開発した量産型第12世代SAGAの2番目の試作機。パイロットに合ったチューニングと武装構成がなされている。
シヴァX2は格闘戦仕様。
武装
___ビームカービンライフル×2
___ビームソード×2
___迎撃ビームバルカン×2
___プラズマ収束砲×2
___大剣型クルセイダー×1
___大型ショルダーシールド×1
___エネルギーシールド発生器×2
___ビームボーゲン×8
___ハイビームボーゲン×4
___突撃槍型ブリューナク×4
・シヴァX3
XSG74-T02H-X3
全高12.1m。皇太子派ムーゼリア帝国軍が開発した量産型第12世代SAGAの3番目の試作機。パイロットに合ったチューニングと武装構成がなされている。
シヴァX3は射撃戦向けの機体。
武装
___高出力ビームライフル×2
___ビームソード×2
___迎撃ビームバルカン×2
___プラズマ収束砲×4
___長刀型クルセイダー×1
___エネルギーシールド発生器×2
___ビームボーゲン×16
___ハイビームボーゲン×10
___盾型ブリューナク×6
___ライフル型ブリューナク×4
・シヴァX4
XSG74-T02H-X4
全高12.1m。皇太子派ムーゼリア帝国軍が開発した量産型第12世代SAGAの4番目の試作機。パイロットに合ったチューニングと武装構成がなされている。
シヴァX4はブリューナクを多数載せた機体。
武装
___ビームマシンガン×2
___ビームソード×2
___迎撃ビームバルカン×2
___プラズマ収束砲×2
___大鎌型クルセイダー×1
___エネルギーシールド発生器×2
___ビームボーゲン×8
___ハイビームボーゲン×4
___6連装小型ミサイル発射管×4
___銃剣型ブリューナク×10
___砲型ブリューナク×6
___盾型ブリューナク×10
・イーグルⅢ試作1号機
XSF-34C-1
全長11.1m。アメリカ軍の第10.5〜11世代主力量産SAGAの試作機。1号機はジェームズ・サンダース用。
基本的な武装はホーネットⅢとほぼ同じだが、各パイロット用にカスタマイズされている。1号機は射撃戦形態と格闘戦形態を変更が可能なようにされた。
武装
___ビームライフル×2
___実体盾×2
___小型実体盾×2
___ビームガトリング×4
___迎撃ビームバルカン×2
___手持ち式ビームソード×2
___固定式ビームソード×2
___4連装小型ミサイル発射管×4
___8連装小型ミサイル発射管×2
___可変式高出力スラスター×6
・イーグルⅢ試作2号機
XSF-34C-2
全長11.1m。アメリカ軍の第10.5〜11世代主力量産SAGAの試作機。2号機はマディソン・キャンベル用。
基本的な武装はホーネットⅢとほぼ同じだが、各パイロット用にカスタマイズされている。2号機は盾型可変武器の使用試験機 兼 高速移動近接射撃両立機。
武装
___ビームライフル×1
___ビームカービンライフル×1
___可変式シールド×1
___可変式小型シールド×1
___迎撃ビームバルカン×2
___ビームマシンガン×2
___ビームサブマシンガン×2
___手持ち式ビームソード×2
___固定式ビームソード×5
___4連装小型ミサイル発射管×4
___大型スラスター×4




