第40話「共同戦線」後半
「行くぞ!」
「うん!」
シミュレーターで再現された星の海。そこで1対13の戦いを行うことになった凛斗とメイだが、その顔は普段と変わらない。
そして訓練が開始された瞬間、スサノオはクルセイダーを構え、プラズマスラスターを全開にする。
『え、そんなっ』
速度そのままに、ゼラキエルを盾ごと両断した。
さらにブリューナクを全機射出。
『ひっ、やっ』
『……くっ』
短剣型ブリューナクがアスモデウスを何度も貫き、射撃型ブリューナクがビームの雨でレミエルを蜂の巣にする。
さらにスサノオ本体のビームボーゲンを斉射、特性が分かっていないウェンティへ全弾叩きつけた。
『っと、あぶ⁉︎』
ウェンティは変形し急加速することでビームを避けたが、何発か掠める。それを把握したレグルトは機体の左右に移動した武装スラスターを噴かし、全力で逃げた。
しかし、プラズマスラスターを使うスサノオの加速力はそれ以上だ。多少離れても、すぐに追いつける。
『今だ!撃て撃て!』
『落としちまえ!』
『逃さないで!』
「メイ、行けるか?」
「うん、大丈夫」
『ちょっ、待っ……!』
「待たない!」
もちろん、それでは直線的な軌道となり、攻撃を浴びてしまう。追いつけなくともデブリすらない宇宙、射撃するには十分だ。ウェンティも高出力ビーム砲を後方に指向させ、弾幕に加わる。
しかし、スサノオは反撃のビームを回避し、避けきれないものも盾型ブリューナクもしくはエネルギーシールドで防いでいく。そして、クルセイダーを振り上げ……
「ハァァァ!」
『うっそぉ……』
ビームソードで逸らされつつも、ウェンティの左腕を肩から叩き切った。
『今』
「アイハブ!」
「リン、きゃっ⁉︎」
『避けないでください』
「無茶を言うな。行け!」
残心を狙ったベルゼブブの大口径プラズマ収束砲をギリギリのところで避けると、短剣型ブリューナクと射撃型ブリューナクを向かわせる。
ベルゼブブは自衛用のビームマシンガンやビームガトリングを放つが、呆気なく撃破された。
『全機ミサイル斉射!弾幕を!』
『了解!』
『ぶっ放せ!』
『全弾投射用意、行って!』
『いっけぇ!』
それを見た生き残りの9機はミサイルを全力投射、合計614発のミサイルは宙域を埋め尽くすかのような弾幕が張られた。
さらにサタンの砲型ブリューナク、ガブリエルの銃剣型ブリューナクと突撃槍型ブリューナクが襲い掛かる。
「メイ、やるぞ!」
「うん!」
だが、スサノオはそれすら潜り抜けた。
プラズマ収束砲でなぎ払い、プラズマスラスターで避け、ビームボーゲンの檻で片っ端から叩き落とす。10発程度はどうにか接近できたが、全てクルセイダーに斬り裂かれる。
また、サタンとガブリエルのブリューナクは同じブリューナクに迎撃され、何機か道連れにしただけで全滅した。
『ヤァァァ!』
『このっ!』
しかし、ベルフェゴールとウリエルはミサイル弾幕で生じた隙へ飛び込み、ビームソードを振るった。
スサノオはウリエルのものをクルセイダーで、ベルフェゴールのものを右のショルダーシールドで防いだが、機体が固定された。
『やれ!』
『ぶっ潰せ!』
案の定、ガブリエルとラファエルがクルセイダーを振りかぶって接近してくる。
左面と背面、ビームボーゲンを使っても追い払えない可能性が高い。やらないとは思うが、特攻も可能な距離だ。
「この……」
「リント、掴まって!」
「うおっ⁉︎」
『ひっ、やっ!』
だからメイはスサノオを前進させた。プラズマスラスター全開でウリエルごと加速し、他3機を振り切る。
そして適当な所でウリエルに蹴りを加え、弾き飛ばした。これはシミュレーターなので安全装置がかかったが、実戦であればクリスは衝撃で失神していただろう。
その判定により、ウリエルはしばらく動けない。
『けほっ、メイちゃん……』
「ごめん、っ⁉︎」
『やらせない!』
そこを狙うメイだったが、その前に繭が動いた。ベルフェゴールが横から突撃し、スサノオに対応を強要させる。
『メイさん。決闘、良い?』
「やるの?」
『もちろん!凛斗を盗ったんだから!』
「おい、私怨入れるな!」
『凛斗は黙ってて!』
「おいおい……メイ」
「大丈夫。これくらいはやらないと」
スサノオはクルセイダーをラックに戻すと、対等になるためにビームソードを2振り構え、ベルフェゴールと刃を交える。
駆動系の出力はスサノオの方が上だが、小柄なベルフェゴールは小回りが効く。
「ヤァァァ!」
『ハァァァ!』
それ故に、互いの長所を生かした近接格闘戦が繰り広げられた。
才能はメイの方が上だ。それは間違いない。しかし繭は凛斗より長く、最前線で戦ってきた。その経験は制限があるとはいえ、メイと互角に戦えるほどだ。
一方……
「おいこらお前ら!少しは遠慮しろ!」
『んなことするか!』
『好機だからな』
『1回ぶっ潰す』
「メイと繭の邪魔をするな!」
『それはそれ、これはこれ、でしょ!』
『そうそう!』
「お前らも!」
凛斗はビームボーゲンと3種のブリューナクを操り、他の7機が近づかないように弾幕を張る。ウリエルは繭の考えを尊重して遠巻きに見ていたが、他の面々は違う。
凛斗を倒す好機とばかりに、果敢に攻め立てていた。そして、凛斗はそれを必死に防いでいた。
『絶対勝つ!』
「私が勝つ」
『ここくらい!』
「ここでも!」
『譲ってよ、これくらい!』
「譲らない!絶対に!」
そんなことはつゆ知らず、というより意図的に無視し、ビームソードをぶつけ合う。数秒の間に何合もの剣戟が交わされ、閃光が弾ける。
ある意味では、繭がケジメをつけるための戦い。同類であるが故にメイもその意図を理解し、正面から受けて立った。
「くそ、数が……」
『良いよ!』
『行って!』
『叩き斬れ!』
『落ちろおらぁ!』
「うるさいお前ら!」
それを無視して接近してくる連中に対し、凛斗はキレた。
ビームボーゲンをガブリエルとラファエルに集中射撃を行い、ガブリエルの両腕と頭部、ラファエルの腹部を粉砕する。
さらに短剣型ブリューナクを乱舞させリヴィアタンを貫き、射撃型ブリューナクでサタンを撃破する。
だが、そこまでだ。
『このままぁ!』
「まずっ、メイ!」
「え、きゃあ!」
『ちょっと!きゃっ⁉︎』
変形したまま突っ込んで来たウェンティ。スサノオはハイビームボーゲンを集中させるが、少し遅かった。
下から回り込ませたビームで機体は爆散したものの、スラスターを吹かしたままの武装スラスターがスサノオに直撃し、直後に爆発する。
その影響で、スサノオとベルフェゴールのビームソードの軌道が逸れ、双方のコックピットが貫かれた。
「あー……」
「ごめん、メイ。止めれなかった」
「ううん、良いよ。リントのせいじゃないもん。でも……残って良い?」
「は?」
「マユちゃんともう少しやってくるから」
「ああ、分かった」
そう言われたため、凛斗だけがスサノオのコックピットから降りる。
全員の行動が似たようなタイミングだったため、下には繭以外が揃っていた。
「あれ、メイは?」
「お前らのせいでもう1回やってる。まったく、決着つくまで手加減しろ」
「もう1回って、繭と?」
「ああ。中断されたからな、当たり前だろ?」
「そうかもしれませんけど……」
「少し程度が低すぎる気がしませんか?」
「まあ、確かに……彼女と妹の喧嘩か?これ」
「妹って」
「それって、ダメ、かな……」
「仕方ないだろ。似てるんだから」
「似てる?」
「何がだ?」
「レックス達には言ってなかったか。俺には妹と弟もいたんだ。8年前に死んだけど」
「……そうか……」
「その、ごめん……」
「もう割り切ったから気にするな。それで……繭と妹の性格が少し似てたから、つい妹扱いした。戻ってきてからも同じだった。繭の気持ちが変わったことなんて、本当は気付いてたのに……」
「凛斗、そんなこと言うんだったら、最初から断れば良かったでしょ」
「メイのことを諦めようとして、諦めきれなかった男だぞ?俺は。そんな気の利いたことなんてできるか」
「……自分で言うか?それを」
「当たり前だろ。これを隠しても良いことなんてない。というか、メイに怒られる」
「ったく、面倒くせぇな。そんなんだったらさっさとハッキリ言っちまえば良かったんだよ」
互いに半分程度気付きながらも、その上で崩れないようにバランスを保ち続けるという綱渡りを行ってきた凛斗と繭。
そんな関係を理解できていないトランの発言は不用心すぎた。
「あーあ」
「あーあ」
「あーあ」
「は?」
「トラン、お前、どう死にたい?」
「は?」
また地雷を踏み抜いたことに気付いたトランだが、もう遅い。
アイアンクローかチョークスリーパーか、それとも背負い投げか。凛斗は既に技の選択に入っている。
しかし、それは実行直前に止められた。
「リントー!」
「終わ、っておい!」
シミュレーションを終えたメイがガントリーを降りる階段の途中でジャンプしてきたためだ。凛斗は焦ったものの、上手く勢いを殺し、お姫様抱っこで受け止める。
それでメイは笑顔になったが、凛斗は呆れた。
「勝ったよ」
「まったく、急に飛び出すのはやめろ。危ないだろ」
「ごめん、重かった?」
「いや。ただ、俺がいなかったら他の人に迷惑がかかるだろ。それはやめろ」
「あ、う……ごめんなさい」
「気持ちは分かるけどな?ただ、っと」
「ぐへっ⁉︎」
しかも直後、中身が入ったままのスチール缶が飛んできたため、凛斗は頭をそらして避ける。スチール缶はトランの額に直撃したが、気にしない。制裁の手間が省けたと思った程度だ。
そのため呻き声を無視し、缶が飛んできた方を向くと……
「怒るよ?凛斗」
「繭、俺が悪いのか?」
「うん」
「ぐっ……」
「リント?」
「メイ、降ろすぞ」
「う、うん……」
そんな忠告をされたため、メイは降ろされる。
すると、繭はその正面に立った。
「メイさん。わたし、ちゃんと諦めるね。でも、別れたらわたしが貰うから」
「え、嫌」
「即答?」
「うん、当たり前でしょ?」
「そうかも。だったら……幸せになって、凛斗と」
「もちろん」
そんな話を交わしつつ、笑みを浮かべる2人。区切りは昨日つけていたが、本当の意味で繭は諦めることができた。
しかし、凛斗には不満がある。
「俺は景品か何かか?」
「そうだよ?」
「そうだけど?」
「おい!」
即答されてしまい、反射的に叫んだ。しかし、この扱いはしばらく変わらないだろう。
理由が理由なために。そして、見られているが故に。
「そう言った方が面白そうだったんだもん」
「まったく……今度何か奢れよ?」
「はーい。じゃあリント、この後は何する?」
「射撃訓練でもするか?メイもこっちの自動小銃使いたいって言ってただろ」
「うん、やりたい」
「決まりだな。射撃室は大和に無いし、蒼龍に行くか」
「え、潜水艦に?」
「あるぞ。外の方が良いか?」
「ううん、行ってみたい」
それらの視線から逃げるように凛斗は別の場所を提案し、メイはそれを受け入れる。
そして2人はは他の面々と分かれ、蒼龍へやってきた。
「わぁ、広いね」
「100mくらいしかないけどな」
「広いよ。だって潜水艦の中だもん」
「確かに。それに撃つだけなら十分か」
「うん」
蒼龍艦内の射撃室。凛斗は何回も使った場所だが、メイは初めてだ。そもそも、スサノオのある格納庫と凛斗の部屋以外を訪れたことがほとんどない。
そして当然、メイが日本国防軍の銃を使ったことはない。彼女は銃マニアではないため、見ただけでは細かい構造は分からない。
「これが三二式5.56mm自動小銃、こっちが三六式16mm自動小銃、それと三六式の長銃身タイプ。どっちも弾は沢山ある。1万発くらいなら撃てるぞ」
「そんなに撃たないよ。えっと、さんふた式?5.56mmの方はブルパップ方式なんだね」
「閉所戦闘用だからな。取り回しは楽だぞ。まあ、帝国軍だとサブマシンガンで統一されてたけど」
「だって、コロニーだとアサルトライフルでも強すぎるもん。代わりにサブマシンガンとしては少し大きいけど」
「分かってる。俺も使ったからな。まあ、バトルライフルも13mmだし、そういう国か」
「そうだね」
そもそも、国によって小銃などの口径はバラバラだ。体格、技術、ドクトリンなどによって異なり、訓練方法も当然違う。
そして情報部特殊部隊の訓練も受けた凛斗としては、メイにも近いものを受けて欲しいと思っていた。もちろん、実力が足りていることは確認済みだ。
「弾倉はどっちもボックスマガジン、三二式が120発、三六式が50発だ。三二式は銃床部分、三六式は引き金の前に取り付ける。チャージングハンドルは左右どっちからも引けて、ケースレス弾だから廃莢は無し。ジャムが起きたらもう1回チャージングハンドルを引けば、銃身の上にある一時保管庫に送られる。とりあえず、必須はこれくらいか。質問は?」
「えっと、16mmって立ったまま使えるの?」
「当たり前だろ。自動小銃なんだからな。反動もアメリカの18mmに比べればマシだ」
「そっか。じゃあ、先に5.56mmの方か、で良い?」
「分かった」
ケースレス弾およびテレスコープ弾については珍しくもないためスルー。
整備方法についてはまた今度教えることとして、今回は射撃のみやらせることに決まる。
「よいしょ。こんな感じかな?」
「構えが少し違うな」
「え、こう?」
「いや、こっちをこうで、頭はこうだ」
「あ、そっか。ありがと」
「気にするな」
三二式5.56mm自動小銃はブルパップ方式なので、通常のアサルトライフルとは構えが若干異なる。基本は変わらないが、その若干の部分で大きな誤差が生じる場合もあるのだ。
そういう口実で、凛斗は手取り足取り教えていた。
「うん、良い感じ。撃つね」
「ああ、良いぞ」
そして行われた射撃。
だがメイにとって初めての銃なため若干ズレ、50m先にある的の中心から3cm程度の位置に着弾した。
「おおー」
「初めて使ったのに上手いな」
「だって反動小さいもん」
「メイ、13mmのバトルライフルと比べたら小さいのは当たり前だぞ?」
「あ、バレた?だってこのサイズのライフルって撃ったことないもん」
「知ってるに決まってるだろ。まあ、この2つは好きなだけ撃てば良い。慣れるまでな」
「うん、ありがと」
その後メイは約1時間、800発ほど撃ち続けた。凛斗も見本として100発ほど撃ち、20個以上の的が砕け散った。
しかし、それは必要経費だ。誰も気にしていない。感想の方が重要だ。
「結構音小さかったね」
「三二式の方か?」
「そっちもだけど、サンロク式も。バトルライフルなのに」
「まあ、消炎機構が付いてるからな。サプレッサーほどじゃないけど、煩くはない。三二式は機関部を密閉してるし、インテグラルサプレッサーも付いているから、静かだっただろ?」
「うん。サブマシンガンより静かだったよ」
「流石に拳銃弾よりは煩くないか?」
「うーん、どうかな?」
「絶対に違う」
「えー」
そんな風に言葉を交わしつつ、凛斗とメイは蒼龍の外へ出る。
寒い時期だが、メイもかなり慣れてきた。そして、今彼女の隣には凛斗がいる。
「まあ良いや。えっと、もう少しで夜ご飯だよね?」
「あと1時間だな。どうする?」
「スサノオの調整は?もう少しやれるよね?」
「まあ確かに……行くか?」
「うん。リントと一緒だもん」
「っ……正直だな」
「だって……」
それが何よりも嬉しかった。
「本当は諦めてたから、こういうの。私は……」
「俺も同じだ。本当のことを隠して、ずっとぬるま湯に浸かって……未来を考えないようにしてたな、あの時は」
それは凛斗も同じだ。
そんな2人の心が通じ、指が絡まる。
「だからね、今が凄く楽しい。リントと一緒にいられるの、凄く嬉しいの」
「俺も楽しい。メイがどうしようもなく愛おしくて、隣にいてくれることが凄く嬉しい」
「う、うん……私もリントのこと大好きだよ」
「俺も好きだ。ずっとな」
繋がった2人の影は夕日の中で伸びていた。




