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少年少女の人型機甲戦闘機戦記 - Strong Armys of GigAntes  作者: ニコライ
第1部

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第39話「想いと願い」後編

 



「リント、待った?」

「いや、さっき来たばかりだ。心配するな」

「そう言ってるけど、10分くらい前からいたよね?」

「何で知ってる」

「勘」

「それで何で当たる……」

「分かんない。けど、リントのことだもん」


 そんないつぞやに似たやり取りをしつつ、待ち合わせをしていた2人は合流する。

 もちろん私服だ。軍施設内でも休暇中の面々は私服が可能なため問題無い。というか、日本国防軍全体に軍服が配られきったわけではなかったりする。


「それよりこれ、どうかな?」

「可愛い。似合う服を選ぶのも上手いな、メイは」

「ありがと。リントもカッコいいよ」

「ただ……服を買う時間なんてあったか?」

「マイリアが用意してくれてたんだ。サイズとか、マイリアも知ってるから。月にあったのは処分されちゃったし……」


 そういうメイの服装は、冬服に慣れていないためマイリア等からアドバイスを受けつつ選んだものだ。膝上のミニスカートにオーバーニーソックスを合わせ、上はカーディガンの上からボタンを留めずにオーバーコートを羽織っている。

 男からしたら暑いのか寒いのかよく分からないように思う服装だが、可愛いので問題無い。メイが日本の寒さに慣れていないという点では問題があるが。


「うぅ、ちょっと寒い」

「まったく。その格好は防寒性低いだろ」

「ダメ?」

「いや、好きだ」

「う、うん……えへ」


 もっとも、その問題を気にしなければ支障は無い。凛斗は可愛いメイが見られるから、メイは褒められた格好でいたいという想いから、気にしなかった。

 また、寒さ対策としては場所を移るのも可だ。同じデザインの指輪をはめる手を繋ぎ、歩き始める。


「早く行くぞ。ここだと風が強い」

「うん。それで、どこに行くの?」

「一応、何ヶ所か候補は決めてある。まずは街中へ向かえば良いよな?」

「良いよ。寒いもん」


 そして、軍が運転する臨時バス(軍用トラック)に乗った。行先は都心方面だ。大和などが泊まっているは東京都圏内なので、そこまで時間はかからない。

 若干揺れる車の中、凛斗とメイは隣同士に座っている。ただ、メイは窓の外を見つめ、口を閉じていた。


「……」

「何か気になるか?」

「えっと、その……寂しいね、ここ」

「ああ。まあ、昔はこの辺りにも色々あったんだけどな。全部無くなった」

「壊れたの?」

「壊された。帝国軍、というか武装法務隊が基地にするためにな。確かに軍事基地としては便利だろうけど、俺達にはこんなにいらない。民間にどれだけ戻すか、というかどれだけ戻せるか……その辺りは伯父貴達の仕事だな」

「そうなんだ……ねえリント、寂しい?」

「まあな。俺もこの辺りには何回か来てた。色々、思い出もあったのに……」

「リント……」


 喪った家族との思い出。二度と戻らない記憶に浸る凛斗は、それ以降口を開くことなく外の景色を見つめる。

 メイは記憶を共有できないながら凛斗の手を握り、同じように窓の外を見た。

 2人の間に言葉は無かったが、感情は伝わっている。バスが停まるまで、それは続いた。


「っと、降りるぞ」

「うん、そうだね」


 凛斗とメイが降りた場所は都心に近い繁華街。非常に人が多く、人々の興味が移ろい続ける場所。

 軍用トラックから軍人とは思えない男女が降りてきたため注目されたが、それもすぐに人混みの中へ消えた。


「じゃあリント、どこに行く?」

「まずは……冬服を買わないか?メイも欲しいだろ」

「そうだね。マイリアがくれたのだと足りないもん」

「確か5セットは用意したって言ってたような……」

「良いでしょ?それに、リントだって可愛い私を見れるんだし」

「おいおい、自分で可愛いなんて言うか?普通」

「違う?」

「いや、合ってる」


 苦言を(てい)されたとしても、メイからしたら足りないのだから間違ったことではない。凛斗へのご褒美もあるのだから、と、メイの理論武装は完璧だった。

 そもそも、足りないというのも建前でしかないことは凛斗も分かっていたが、そこはあえて言わなかった。


「うーん、どれが良いかな?」

「いつもみたいに適当に選んで着れば良いだろ」

「私、こういう服は初めてだよ」

「流石にコーディネートはできないぞ。俺も冬服は初めてだからな?」

「そうだよね。じゃあ、どうしよう……」

「そうだな……とりあえず、ネットを参考にするか?それなら俺達でもどうにかなる」

「うん、そうする」


 こういうデートらしいデートを、自身の気持ちを本当の意味で自覚した後に行えることが、何よりも幸せだから。


「これとこれ、あとこれも……リント、持って」

「おいおい、試着するには多くないか?

「だって着たいんだもん。あ、これどうかな?」

「ゴスロリはメイには似合わないだろ。けど、シアへの土産にちょうど良いかもな」

「シアに着せるの?」

「いや、もっと似合うやつがいるだろ?」

「えっと……もしかしてマユちゃん?」

「ニーネやクリスもだな。まあ、この前のを再現する気は無い」

「じゃあ戻してくるね」


 そんなやり取りをしつつ、試着を繰り返し、メイは気に入ったものを購入していく。そして、メイの部屋への配送を頼んだ。

 配送先が軍事基地、それも激戦が繰り広げられたばかりの東京湾港湾基地だったため店員が驚いていたが、2人は気にしない。ハワイの時も最初はよくあったことだ。


「これで良し、と。たくさん買ったね」

「お前がな?遠慮無しに買っただろ」

「だって、全部リントが払うって言ってくれたんだもん。でも、良いの?」

「8年間働いてたって扱いだからな、俺は。日本円なら結構な量がある。というか、今はメイの方が貧乏だろ」

「うっ……その、マイリアに頼めば……」

「人の金だな、それは」

「うぅ……リントがいじめる……」


 パルチザンであっても元は軍事組織、給与はちゃんとあった。もちろん生き残ることが最優先だったため薄給もいいところだが……使わなければ貯まっていく。

 その結果がこれだ。約半年前とは違い、養う側が逆転していた。


「そろそろ機嫌を直せ。今日は俺が全部奢るから、な」

「じゃあ……今私が食べたいのは何でしょう」

「は?」

「クイズだよ。分かる?」

「それなら……パスタ、あっさり系か?」

「あ、正解。凄いね」

「メイのことだからな」

「ふふん、リントは私のことよく見てるもんね」

「ああ。さて、確か向こうに海鮮パスタの店があったはず……ここだな。行くか?」

「うん」


 とはいえ、それを深刻に思うような関係であれば、この2人のようにはならない。凛斗とメイだからこそ、こういった関係が成り立っていた。

 もっとも、2人の世界に入り過ぎたため、後ろにいる者達に一切気付いていなかったが。






『こちらA班、どうぞ』

『こちらB班。報告を』

『荷物は配送、対象は昼食に入る模様。海鮮パスタ、良いな……』

『欲望漏らしてんじゃねぇよ、おい』

『あそこなら……良し、予約取れたよ』

『ちょっと待て』

『良いでしょ。明日だけど、行く人は?』

『行くよ』

『もちろん』

『ボクも!』

『う、うん……』

『おいおい……』

『……こちらもどこか行くか?』

『肉行こうぜ、肉』

『僕もお肉食べたいです』






「どれにしようかな……」

「そんなに悩むか?」

「だって、こんなにあるんだよ?」

「それなら分け合えば良いだろ。メイが2つ、俺が3つくらいなら……」

「リント、4つ食べて」

「ワガママを言うな」

「食べれるよね?」

「食べれるけどな……まったく」


 レストランに入った2人は注文で少しゴタゴタしたものの、凛斗が折れて決着がついた。

 こういうところで甘いのが凛斗で、それはメイもよく知っている。


「これも美味しい。こっちも」

「やっぱりお嬢様なんだな……」

「どうしたの?」

「食べる姿が綺麗なんだよな、メイは。品があるというか、何というか……」

「ふふん、そうでしょ?もっと褒めて」

「調子に乗るなら全部貰うぞ?」

「あ、待って待って!」


 そして、結果は良い方に転んだ。凛斗は心の中でほくそ笑みながらメイをからかい、顔でも笑う。

 メイも多少は凛斗の心中を理解しつつ、イタズラに抵抗しながら笑う。

 どちらにもまだ話していないことがあるものの、心の底から笑える。そんな日々を得られたことが2人とも嬉しかった。


「美味かったな」

「うん。ありがと、リント」

「次はどこに行きたい?」

「じゃあ……本が欲しい。言ったっけ?」

「無人島でな。端末でも良いけど……日本語の勉強にもなるか」

「そういうこと。私、まだ上手にできないから。オススメってある?」

「とりあえず、古本街は無しだな。あそこは俺もよく分からないし。そうなるとデパートの本屋か?」

「良いよ。私はもっと分からないもん」


 そんな2人は続いてデパートに向かい、宣言通り本屋に入った。


「本だけじゃないんだ」

「簡単な雑貨だけだ。本屋だからな。それで……こっちか」

「どこ行くの?」

「少女漫画だろ?欲しいのは」

「ちがっ、わないけど……」

「だろ?」

「うぅ……でも、他のも買うからね!」

「分かった分かった」


 デートと称する買い物はまだ続く。

 いつ終わるのか、いつ止めるのか、それは凛斗とメイにも分からないが。






『緊急連絡、緊急連絡。マユちゃんが怖い』

『いやに具体的だな』

『でも、それで分かるから……』

『分かるよね、分かるでしょ。ボクを助けて!』

『物凄くしょうもないSOSじゃねぇか』

『トラン君、リント君にもっと証拠をあげるよ?』

『うげっ⁉︎クリスまで黒くなるのかよ!』

『まったく……で、クリス、どんな状況?』

『テーブルから変な音がしてるし、さっき椅子からメキッて音がしたよ。コップを持ってるけど凄い力が入ってて、ガラスだったら割れてるかも。アクリルだから大丈夫だけど』

『えっと……繭ってそんなに力持ちでしたっけ?』

『ち、違う、よね……?』

『普段は違います。火事場の馬鹿力というものでは?』

『……ことわざ、か?それは』

『はい。英語なら……fight or flight responseなどの言い方があるようです』

『……そうか。助かる』

『変な状況だが、間違いではないか』

『ねぇ!みんな聞いてる⁉︎そうじゃなくて!』

『あ、ごめん。とりあえず、C班はもう戻って良いよ。残りはわたし達が続けるから』

『りょうかーい』






「今度はどこ?」

「少し先だ。時間は……大丈夫だな」

「ふーん、リントがどこに行くか言わないなんて珍しいね」

「これの後ももう1箇所あるって言っただろ?」

「それも含めて、だよ」


 本も買い終え、街を散策する2人。凛斗は行き先を告げていなかったが、メイはそれだけでも楽しげだ。

 しかしある交差点に差し掛かったところで、急に凛斗が指示を出した。


「そろそろか。メイ、フードを被れ」

「え?って、リント……!」


 それにすぐ従わなかったため、凛斗はメイを抱き寄せてまでフードを被せ、彼女の髪を隠す。

 ほぼ同時に、街頭の巨大ディスプレイがそれまでとは全く別の映像を映し始めた。


『日本国民の諸君。私は日本国防軍臨時最高司令官、近藤正宗大将だ』


 それは日本国防軍による日本全土への一斉放送。今後の行動を行う上で必須な業務。

 そして、凛斗やメイの周囲にいる人々は突発的に始まった放送に騒然としつつも、全員がディスプレイに注目している。


『我々が先日、日本国防軍を再興させたことは諸君もよく知っているだろう。我々の目的は8年前と同じ、日本を守ることだ』

「リント?」

「公式発表だ。一昨日にも記者会見はしたけど、本命はこっちらしい。生贄もあるしな」

「あ、もしかして……」

「ああ」

『そのため、諸君らが不安に感じていることも知っている。我々は武力で政権を取った、いわば反乱勢力だ。それによる不透明感が困惑と不安を誘発していることは分かる』


 注目する理由はこれだ。困惑と不安が恐れに変わる前の段階だからこそ、注目は非常に高い。

 そしてそれを取り除くために、この放送は行われている。


『しかし、我々は諸君らの、日本国民の味方だ。我々は日本国民のために立ち、助力を受けつつも日本国民のために戦った』

「でもこれ、軍がやって良いの?」

「軍だから言うんだろ、多分。こういう言い方は悪いけど、今の臨時政府の人達は解放軍や独立党に保護されてただけだからな。開戦時に閣僚か次官っていう理由だけで。臨時政府と一緒に政治家としても終わる人達だ」

「そうなんだ」

『これをご覧いただこう』


 近藤大将がそう言うと、ディスプレイに別の画面が映される。

 それは隠し撮りされた映像で、見るものが見れば内容を理解できるものだ。今は解説文が入っているため、誰でも理解できる。


『これは武装法務隊に所属する士官とテロリストの上層部が交渉を行なっている状況を捉えた映像だ。このやり取りが示すようにレジスタンスは全て武装法務隊の下部組織であり、目的は日本人の敵愾心をテロリストに向けることだ。レジスタンスの上層部はそれを知りながら、同胞たる日本人を殺すようにテロを起こさせたのだ。つまり、武装法務隊は自作自演で戦力を増強し、テロリストをのさばらせ、そして……SAGAを用いて街を攻撃した』

「って……あれ?それだと次はどうなるの?」

「次?臨時政府の次か?」

「うん。その人達が引退したら人がいないよね?」

「いや、武装法務隊から隠れて、パルチザンと連絡を取り合っていた政治家の人がいる。才能も十分あるって判断されたから、次はその人達が主流だ。その後は上手く民主主義に戻れば良い」

「できるの?」

「国を直接守るのが俺達の仕事、その人達の仕事は国を支えて動かすことだ。クーデターなんてする気はないから、信じて選ぶしかない」

『パルチザンが襲った、大規模な事故が起きたなどという理由で壊滅した都市は全て、武装法務隊が行った。迎撃に我々パルチザンが出動し、人々を守ったが……苛烈な攻撃により、どの都市も生き残りは少なかった』


 だが、詳しく理解している凛斗やメイとは違い、周囲の人々は困惑していた。

 今まで考えていたこととは正反対の事実を証拠付きで突きつけられたのだ。それも当然だろう。


『その映像は倫理的に問題があるため、他の証拠と共にホームページに載せる。覚悟がある者は見てほしい。それが隠されていた真実だ』

「大変だね」

「大変なのはマイリアもだろ。多分、上手くやるんだろうけど」

「うん。だから大丈夫だよ」

『なお、テロリストの上層部は全て逮捕している。実行犯も8割以上を既に捕らえた。武装法務隊の隊員も日本国内に潜伏している者はおらず、逃走済みか捕虜にした。日本国民の諸君、もうテロを恐る必要は無い』


 なお、この放送が行われたのは既に対処が終わったから、テロの脅威が無くなったからだ。

 そうでなければ、次の言葉も告げられなかっただろう。


『再度言おう。我々は日本を守るため、日本人を守るために戦い、再び立ち上がった。そして、これを違えることは無い』


 戦い続け、再びその位に立った。二度と失うことが無いよう、守護者であることを貫く。

 その宣言が日本中に響き渡った。


「そんなこと言われても……」

「勝手なこと言うなよ、まったく」

「けど、変なテロだってみんな言ってたよな?」

「日本人しか死んでないって、犯行声明と違ったって」

「そんなのどうとでもなるよな?」

「うげぇ……」

「マジ?これって」


 とはいえ、いきなり告げられたことだ。何も知らない人々は上手く理解することができず、混乱が広がっていく。

 それは悪くないことだ。無秩序な思考が広がっている状況、それに方向性を付けることは容易い。


「嘘に見えないだろ、アレ。だったら全部本当じゃないか?なあ!」


 そのために、凛斗は声を上げた。


「え、リント……?」

「逃げるぞ」


 直後に凛斗はメイの手を引き、注目される前に逃げ出す。混雑していたのが幸いし、近くにいた人々から逃げ切れば追いかけられることは無かった。

 その間にも人々の声は高まり、次第に熱が高まっていく。


「そうだ、アレは本物だろ」

「偽物には見えないよ」

「映像は本物だろ!だったらアレも本当だ!」

「本物だ!俺が証明する!」

「私は家族を殺されて、パルチザンの人達に助けられたのよ!」

「俺も見たぞ!街の中に来たんだ、あいつらは!銃を持って!」


 そして、それらの言葉が火を付けた。


「それだったら……」

「そういうこと、だよね」

「チクショウ、ふざけんな!」

「戦争もそいつらのせいか?」

「そうだろ、間違いなく!」

「おい、皇女様の声明もあるぞ」

「連中を許すな!」

「月にいる奴らも叩いちまえ!」

「正しいのはこっちだ!」

「皇太子なんて引きずり下ろせ!オレらは皇女様の味方だ!」


 人々は熱狂し、次々と言葉を叫ぶ。

 その様子を、凛斗とメイは少し冷めた目で見ていた。


「どうしたの?あんなこと言って。それにこれって……」

「サクラだ」

「サクラ?」

「演者が仕込んだ観客、演者に好ましい意見を上げる観客って感じだ。俺みたいな国防軍人や、パルチザンが助けた人達がやってる。方向性を決定付けるにはこの方が楽だからな。1000人近い人がネットへ一気に書き込めば、日本中の意見がまとまる可能性もある」

「そうかもしれないけど、それって……」

「必要だ」


 できれば、この方法は使わない方が良かったのかもしれない。理解させるためとはいえ、あまり上等な手段ではないことは知っている。

 しかし、手段を制限する余裕は無かった。上等な手段を選ぶような贅沢は、彼らにはできない。


「俺達は1回、逃げ出したんだ。この国から。いや……国を、守るものを奪われるしかなかった伯父貴達の方がキツかったかもしれない。だから早く認めてもらうために、こんな手段も使わないといけない」

「リント……」

「それに、マイリア達を敵視させるわけにはいかないからな。武装法務隊だけを悪にした。そうなるようにサクラも置いた」


 とはいえ、それを嫌悪しないわけでもない。


「汚い方法だよな。軽蔑するか?メイ」

「ううん。本当のことを言ってるだけだもん」

「そうか、ありがとな」

「良いよ。これだけだもん」


 そう言うと、凛斗とメイは手を繋いで民衆から離れていく。






『ヤバイ、いないんだけど!』

『ちっ、どこ行った!』

『凄い人でしたから……』

『……バレたか?』

『そんな感じはなかったけど……』

『どうすんだよ』

『勘でいきましょう。班ごとに分かれて、捜索します』

『それしかないか』

『ちっ、仕方ねぇ』

『はい、分かりました』

『行くよ』






「少し荒れてるね」

「管理してる人がいないか、回数が少ないのか……変わったな、ここも」


 1日の最後に凛斗とメイがやってきたのは都心から離れた場所にある、少し低めの山。

 そこの登山道を2人は歩いている。草木が生い茂っており、見通しはあまり良くない。


「来たことあるの?」

「ああ、何回も……っと」


 しかし凛斗が呟いた瞬間、視界が開けた。


「着いたぞ」

「ちょっと広くなってるんだね。ここって?」

「アレが、俺が育った街だ」

「……え?」


 山頂にある展望台のような場所、ここから見えるのは瓦礫の街でしかない。

 瓦礫は8年前と変わらず、植物だけが存在を増やしていた。


「雑草だらけの空き地はスーパーがあった場所だな。駐車場が凄いことになってるけど、間違いないはずだ。向こうの川の近くにあるのは俺が通ってた小学校だけど、こっちも分かりにくいか。俺の家はあの辺りだ。父さんと母さん、俺、妹と弟、5人家族で住んでいて……」

「でも、全部……」

「ああ、8年前に壊された。家族も、友達も、全員……もう少しで9回忌だな……」


 凛斗は大木の根本に座ると、瓦礫の街を見つめつつ物思いにふける。

 メイは何か声をかけることができず、とりあえずその隣に座った。


「リント、その……」

「俺は、というより俺達は、8年前に全部失った。それより前の俺を知ってる人は誰もいないし、3歳より前は俺も知らない。メイにとっての、マイリアみたいな幼馴染も全員死んだ。大人にとっての家族、それが俺には分からない」


 凛斗の独白。それは凛斗の根源的な部分であり、メイには分からないもの。

 聞かせるわけではなく、ただ言いたいがために始めた凛斗の話に、メイは聞き入っている。


「なあ、メイはどうだ?分かるか?そういうの」

「え、私は……」

「いや、辛いなら言わなくていい。聞いてみただけだ。まあ、いつかは教えてほしいけど」


 この質問も、凛斗の独り言にすぎない。

 教えてほしいというのも本心だが、重要なのは違う。


「俺達は兵士だ。けど、1人の人間が平和のために出来ることなんてほとんどない。平和を享受する資格があるのか、それすら分からない」

「あると思うよ。だってみんな、平和のために戦ってるんだから」

「そうか、ありがとう」

「だって、そうじゃないと私が困るもん」

「私欲かよ」

「うん」

「まったく……けど、だからかもな」


 しかし、これらの全てに意味がない、というわけではない。


「俺は1人の人間だ。経験が違っても、それが在り方を全部決めるわけじゃない。自分で願って、自分で選んで、自分で決めたことが、俺を作ってる」

「リントだけじゃなくて、私も……ううん、みんなそうなんだよね」

「ああ。だから俺は、こうなったことを後悔してない。辛いことや悲しいことは沢山あった。逃げ出したくなった時もあった。けど、それが今の俺を作ってる。過去を否定するなんてこと、俺はしたくない」


 兵士である前に……凛斗は1人の人間で、1人の男なのだから。


「それに……選んだから、俺はメイに会えた。メイを好きになれた」

「あ、う……」


 そう、ハッキリ言った凛斗の言葉を聞き、メイは顔を真っ赤にしながら(うつむ)く。

 それがおかしくて、凛斗から笑みが溢れた。


「今さらだろ。恥ずかしがるな」

「でも、色々あったから……」

「あー……そうか。正直、俺もここまで長くなるなんて思ってなかった。ごめんな」

「それは大丈夫だけど……リント……」

「だから、だ。今まで色々あったし、今後も色々ある。ただ、これからずっと……メイには一緒にいてほしい」


 しかし、これは一世一代の大勝負。いつまでも笑い続ける気はない。

 メイは顔だけでなく耳も真っ赤にしながら、凛斗の言葉を聞き続ける。


「改めて、メイ。いや、メイルディーア・ハイシェルトさん」

「は、はひっ!」

「俺と……結婚を前提に、付き合ってほしい」


 そう言って、凛斗は懐から小さな箱を取り出した。

 その中に入っていたのは、メイから貰ったシルバーリングと対になるようなデザインの、小さなダイヤモンドがいくつか取り付けられたプラチナリング。既製品をさらに加工する形で模様を入れ、半月でどうにか完成させた逸品。かなり高い買い物だったが、ギリギリ貯蓄の半分に収まった。

 メイはそれを受け取り……


「うん……私もリントが好きです。不束者(ふつつかもの)だけど、よろしくお願いします」


 そう答えた。


「ねえ、通して」

「もちろん。これで良いな。あとは俺が……」

「ダメ、私がやる」

「まったく」


 そして、凛斗はプラチナリングをメイの左手の薬指に通す。なお、シルバーリングは右手の薬指に移動させた。

 また、メイが駄々をこねた結果、凛斗の指輪は彼女が通すことになった。


「綺麗……」

「頑張って良い店を探したからな。サイズもぴったりで良かった」

「でも、私の方が負債は大きくなっちゃったかも」

「確かに少しだけ高いか」

「だから、借金のカタで私を貰ってください」

「残念ながら、俺は誘拐犯だ。最初から逃す気なんてない」

「うわぁ……私、誘拐されてたんだ。もう逃げられないね」

「ああ」


 その後、夕日が照らす中そんなことを言い合い、そして……


「っく、ハハハ」

「っぷ、あはは」


 同時に笑った。


「何で誘拐犯なんて言うの?リント」

「最初に冗談を言ったのはお前だろ。借金のカタなんて普通言わないぞ」

「だって、本当のことだもん」

「結婚したら共有財産だろ。けど、しばらくは恋人が良いな。段階を踏んだ方が楽しい」

「うん、私も。こういうのも楽しいよ」


 凛斗とメイは3年の付き合いだ。それ以上に、互いのことをよく分かっている。

 だから、


「リント、大好き。絶対、もう離さないで」

「メイ、愛してる。ずっと一緒にいてくれ」


 2人は顔を近づけ、そして……
















「星も沢山見えるね」

「壊れて灯りが無いからな。復旧したらまた見えなくなるはずだ」

「じゃあ、今だけ?」

「ああ」


 あの後、2人は真っ直ぐ戻ってきて、今は大和の中にいる。

 今日から部屋が与えられるためだ。とりあえず、場所だけ確認しようとやってきた。


「あ、やっと帰ってきた」

「香織?」

「あれ、シア達も?」


 しかし食堂の横を通り過ぎようとした時、部屋の中から声をかけられる。

 開いている扉から覗くと、香織やシアをはじめとした面々が全員揃っていた。さらに、大和のクルーも相当数が集まっているようだ。

 いや、集まっているというより……


「どうしたんだ?こんな所で」

「待ってたの?もしかして」

「ま、待ってたと言えば待ってたね」

「でも、先にこっちかな」

「ほら、行こうよ」

「繭?」


 香織とクリスに背中を押され、繭が2人の前に出てくる。

 そんな彼女はしばらく黙っていたが……決心がついたのか、メイの目を見て、ようやく口を開いた。


「凛斗を不幸にしたら許さないから」


 その意味を理解できない凛斗ではないし、その言葉から想像できないメイではない。


「繭、その……っておい!」

「マユちゃん⁉︎」


 だが、彼女の言葉はそれで終わりだ。繭は凛斗の横を抜けて走り出し、クリスもそれを追いかける。

 そして、凛斗の手は空を切った。捕まえようと伸ばしたが、途中で止まってしまったためだ。


「リント、もしかして?」

「ああ……謝った方が良いのか?」

「いや凛斗、それ逆効果だから。そっとしておいてあげてよ」

「そうか?分かった」

それより(・・・・)、凛斗はどうやって覚悟を決めたのかな?」

「は?」

「メイ、どんな風だったか詳しく聞かせてよ?」

「え?」


 さらに、悩む前に香織とシアから畳み掛けられる。他の面々も興味津々といった様子で聞き耳を立てている。

 それらの言葉と様子で何となく察した凛斗とメイ。


「なあ、メイ」

「ねえ、リント」


 2人は素早くアイコンタクトを交わし……


「逃げるぞ!」

「うん!」


 一目散に逃げ出した。


「逃すな!追えー!!」


 なお、この大捕物は数分後、姉御の手によって鎮められた。双方とも。












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