第37話「明星輝く」後編
『こちらザック6、被弾するも損傷軽微。戦闘続行可能!』
『ライト5被弾』
『ランス6、ランス11、右から回り込め!』
『エルシア2が落とされた!』
『こちらブレイク8、ジェネレーター出力低下。戦闘継続困難!』
『メーデー!メーデー!メーデー!』
「ちっ、ライト5とブレイク8は下がれ!コール中隊、ザック中隊、エルシア中隊と交代!」
『了解!』
『数が多い!』
「他の戦域はどうなんだ?クソ……メイ、向こうの連隊を蹴散らせ」
「うん!」
スサノオ率いるSAGA部隊の戦闘は激しさを増していた。スサノオがかなりの攻撃を吸い、半分以上の敵機を落としているが、味方にも損害が出るほどだ。
今も、スサノオは新たに現れた連隊規模の中に飛び込み、大太刀型クルセイダーとビームボーゲンで蹂躙している最中である。ブリューナクは味方機の援護に使いながら。
「ちっ、まだこんなに……!」
「マズいよ、リント。またやられてる」
「剛毅とレックスも連れてこれば良かったな……」
そう呟く凛斗。しかし、凛斗自身もそれが無理なことは分かっている。剛毅とレックスが向かった先も非常に抵抗が激しいエリアで、サタンとガブリエルの突破能力が無ければ敗北の可能性すらあった。
もちろん、凛斗達が怠惰というわけではない。既に、敵司令部のあるエリアまではあと少しの場所まで来ている。
「また敵機だ。3時方向に大隊、10時方向に連隊規模」
「あと少しなのに……!」
「どうにかしてケチらせれば……」
だが、その少しが遠い。敵が多い。スサノオが単機で突貫すれば潰せるだろうが、ここにいる面々は確実に殲滅されるだろう。
それは凛斗の信念にもメイの願いにも、そして戦略にも反する。どうにかこじ開ける手段を作る必要があった。
『リント、メイ、聞こえますか?』
「マイリア?」
「どうしたの?」
『苦戦しているようですね』
「ああ。流石に、この数を突破するのはキツい。精鋭が集まってるんだ。失うのは戦略的にもマズいだろ」
『貴方達2人もですよ』
「うん。でも、私達は大丈夫だよ。リントが逃してくれるから」
「そんなことを言ってる場合か!」
『敵機の位置データがあれば攻撃可能です。どうしますか?』
「頼む!」
「お願い!」
『分かりました。レグルト』
『了解。この範囲からは退避して』
「了解、全機に通達」
その会話から約10秒後、射線データ通り危険範囲にいた敵機群が薙ぎ払われた。それは周辺にいる敵機の半数以上にあたり、密集していたことが仇になったようだ。
その攻撃の射点方向でも戦闘が起きており、SAGAのセンサーでは発射位置までは分からない。だが、非常に射程が長く強力な砲撃が行われたことは分かった。そして、それは……
「今のは……」
「だよね?リント」
「ああ……」
『後で教えますから。なので、今は』
「分かった。メイ」
「うん。ありがとう、マイリア」
おそらく、スサノオの情報を元に間接照準で艦砲射撃を行ったのだろう。射程距離は既存艦砲よりもかなり長いと予想でき、新型の可能性が高い。
しかし、今は方法について考える必要はなかった。重要なのは、これで道が開けたということだ。
「やるぞ、メイ!」
「うん!」
スサノオは進路上に残存する敵部隊へ向け、プラズマ収束砲を発射する。ベルゼブブのような照射はできなくとも、部隊単位で薙ぎ払うことは可能だ。
続いて、砲撃直後に急速展開を行う敵部隊へはブリューナクを差し向け、撹乱・蹂躙する。射撃型ブリューナクは先端方向の高出力ビーム砲でコックピットやジェネレーターを貫きつつ、ビームボーゲンで他の機体の四肢を破壊することができるため、こういった乱戦では強い。もちろん、小型高速を活かして次々と撃破できる短剣型ブリューナクも非常に強力だった。
他の皇太子派帝国軍は混乱の中、スサノオ配下連合部隊に次々と討たれており、包囲網は完全に崩壊している。
「全機突撃!一気に敵司令部を叩き潰す!」
『了解!』
『やったるぞ!』
『行け行け行け!』
その崩壊した包囲網から連合部隊は飛び出し、的司令部方向へ進撃を再開した。
「ランス中隊は右翼、コール中隊は左翼を固めろ!メイ、中央突破だ。指揮官機は俺がやる」
「うん。ハァァァ!」
『こちらバックス2!ボギー0835Cの抵抗強固!』
「ぐぅ、ロイド中隊、低空から攻撃しろ。バックス中隊とクロスファイアだ!」
連合部隊は凛斗の指揮で陣形変更などを行いつつ、スサノオを先頭に突撃を敢行している。
先頭のスサノオはブリューナクを乱舞させながら、ビームボーゲンの雨霰で敵部隊に穴を開け、クルセイダーで小隊長機や動きの良い機体を両断していた。
スサノオが貫いた穴を広げる部隊は若干苦労しつつも、局所的な火力の差を活かしてこじ開けていく。後衛は後方からの襲撃に警戒しつつ、前線部隊への射撃支援を行なっていた。
「リント、前!」
「ジャッジメント、しかも大隊規模か……ん?」
そんな風に進んでいき、ようやく司令部施設が肉眼でも見えてきた。しかし、その前に障害が立ち塞がる。
36機のジャッジメント、しかもその中には……
「ツインズに、赤鬼まで?西門さん!」
ツインズと呼ばれたのは2機のジャッジメント。左右の色が逆なピエロのパーソナルマークを持つ、武装法務隊のエース。
もう一方は黒い六芒星と八芒星が右肩に描かれた、真っ赤なジャッジメント。こちらは赤鬼と呼ばれている。
どちらも強敵ということは、凛斗もよく知っていた。
『アレか?凛斗』
「はい。エース機は俺達がやります。他をしばらく抑えてください」
『よーし、任せとけ。抑えるだけじゃなくて、全滅させても良いよな?』
「それは死亡フラグです」
『ワザとだ、ワザと。それより凛斗、そっちはやれるか?』
「大丈夫です。メイ、良いな?」
「もちろん!」
ツインズと呼ばれた方。正確にはファルスト兄弟という名前で、武装法務隊に入る前は対アメリカ戦の最前線で戦っていたことが知られている。また、兄が左利きで弟は右利きらしい。
何故そんなことが知られているかというと……
『ここまで来るとは見事なものよ』
『しかし、我ら兄弟に勝てるとは思わぬことだ』
オープンチャンネルで宣言するほど自己主張が激しいためだ。赤鬼機の方はそれに呆れているのか、少し下がった位置にいる。
しかし実力は確か、この2人に相当数のパルチザンパイロットが討たれてきた。凛斗とメイがやるしかないだろう。
「メイ、先にツインズの方を落とす。良いな?」
「分かった。でもこれって?」
「いつものことみたいだ。気にしなくて良いし、答えなくていい」
『来るか』
『威勢の良いことだな』
『なれば』
『行くぞ兄者!』
『もちろんだ弟よ!』
ツインズはビームライフル、両肩の高出力ビーム砲、盾の下のビームサブマシンガンを連射しながら突っ込んでくる。
スサノオはそれらをエネルギーシールドで防ぎつつ、真っ直ぐ突き進む。途中で放たれたミサイルは全てビームボーゲンで撃ち落とし、クルセイダーを振りかぶった。
『なに⁉︎』
『兄者、』
『もちろんだ!』
「メイ、良いな?」
「うん!」
『くらぇぇ!』
『落ちよ!』
ツインズは2機同時にビームライフルを捨てると、その腕から固定式ビームソードを2本発振させる。そしてメインスラスターを吹かし、挟み撃ちにするように軌道を調整しつつ突っ込んできた。
それに対してメイは一瞬プラズマスラスターの出力を上げて撹乱すると、クルセイダーを兄の方へ振り下ろす。だが上手く避けられ、右腕を盾ごと切り落とすだけに終わった。
しかし、これは見せ札。
「遅い!」
斬り返しの逆袈裟にコックピットを両断され、兄の方のジャッジメントは落ちる。
『あ、あにっ』
さらに次の瞬間、弟の方はハイビームボーゲンで蜂の巣にされ、爆散した。
「あれ、終わり?」
「聞いてたより弱かったな」
ツインズも弱くはないのだが、この2人の比較対象がアルマ・キュルトなため、どうしても弱く感じてしまった。凛斗とメイの実力が高まったというのもある。
そして、その感想はもう1機も似たようなものらしい。
『見事。あやつらも腕は悪くないのだが』
「この声、赤鬼か。通信を繋いでくるなんて予想外だけど……」
「リント?」
『その紋様、魔王と呼ばれている者か。機体は違うようだが、相手にとって不足無し』
「メイ、俺の方が相性は良さそうだ。貸せ」
「うん、ユーハブ」
『このラーサ・ブレン専用機の力、とくと見よ!』
「アイハブ、行くぞ!」
メインの操縦を凛斗に移したスサノオは、クルセイダーをラックに戻すと手持ち式ビームソードを手に取る。
それを見た赤鬼のジャッジメントは大型ビームアックスを両手で構え、真正面から突っ込んできた。この武器はビーム刃を形成しているだけなのでクルセイダーほどの切断能力はないが、遠心力も合わさることで非常に高い威力を持つ。
『良い覚悟だ!』
「はっ、その程度で!」
スサノオは大型ビームアックスを手持ち式ビームソードで逸らし、逆の手の手持ち式ビームソードで斬りつける。
だがそれは、大型ビームアックスの柄で防がれた。どうやら、アンチビームコーティングがされているらしい。
その直後の斬撃に対してスサノオはビームボーゲンを放ち、回避を強要する。
『ふん!猪口才な!』
「聞いてた通り……」
もう一度行われたビームボーゲンの斉射を避けると、赤鬼はビームアックスを上段に構え、振り下ろした。
『斬り捨て御免!』
「予想通りだな!」
ビームアックスの振り下ろしに対し、スサノオは両手の手持ち式ビームソードを逆袈裟に斬り上げる。
『なに⁉︎こいつが力負けだと!』
結果、スラスターと駆動系の出力差からビームアックスが弾かれた。
「これで、終わりだ!」
そしてそのまま、袈裟斬りでジャッジメントの胴体をX字に斬り裂く。
赤鬼の機体もコックピットを潰されたため爆発することなく、ツインズと同様に落ちていく。
「お疲れ様、リント」
「この程度なら何とかな。ユーハブ」
「アイハブ。あと少しだね」
「ああ」
その後コクロウ隊が抑えていた、というか半分近くに減っているジャッジメント隊含め周囲の敵部隊を殲滅し……
「目標視認。全機、攻撃開始!」
基地司令本部、師団統合指揮所、防空本部、通信本部、艦隊司令部。それらの目標を護衛する戦力はもう無い。
目標間の距離はそこそこ離れているが、SAGAにとっては近距離でしかない。周囲の敵機を一掃できた以上、まとめて破壊することも可能だ。
連合部隊は温存していたミサイルを全弾投射、地上にある司令部施設を破壊し尽くす。地下の予備司令部3ヶ所はスサノオのプラズマ収束砲やコクロウ等の高出力ビーム砲を使って貫き、爆炎で染めていく。
しかし……
「これで終わり?」
「ああ。情報通りならこれで……ん?」
「どうしたの?」
「追加情報だ。敵の予備司令部が他に3ヶ所、司令部用シェルターが4つある。隠蔽された防衛施設もあるらしい。発見したのは少し前か……そっちにも逃げた可能性が高いな。迎撃に注意しつつ、各個に破壊しろ!」
『了解!』
『了解だ!』
「メイ、俺達はこれを潰すぞ。8時方向、7800m」
「うん!……あれ?」
どうやら、皇女派帝国軍すら把握していない司令部施設があったらしい。明けの明星をはじめとした元日本国防軍情報部の面々が全力でハッキングした結果、残り全ても見つけられた。というか、ハッキング勝負を繰り広げていた相手が物理的に消滅したため、進めなかった範囲に進めた、という形だ。
そんな情報を得て、動こうとする凛斗達。だが、その前に機影が見えた。
「リント、敵が来るよ。色んな所から」
「全部で……16部隊、大きくても大隊規模か」
『おい凛斗、どうする?』
「西門さんはボギー1032Aの大隊を叩いてください。もう1つの大隊は俺達が叩きます。残りは中隊以下だ、中隊単位で対応しろ!」
『了解だ』
『おうとも!』
『任せとけ!』
各戦域でも皇太子派帝国軍は押されているのか、司令部防衛の増援にしては色々と悪い。これなら各個撃破も可能だ。
そしてそれはスサノオでも同じ。というより、たった1ヶ大隊で挑んできた敵が不幸を知る前に倒してやるべきなのかもしれない。
2人とも、そんな感傷など一切感じていないが。
「ブリューナクで蹴散らすぞ。メイ」
「分かった。じゃあ、機体はこのままシェルターの方に向かわせるね」
「それで良い。場所は把握してるか?」
「大丈夫。これでしょ?」
「ああ。なら任せる」
乱舞する短剣型ブリューナクと射撃型ブリューナクにより、敵増援は大した抵抗もできずに全滅する。
そして、地下のシェルターはプラズマ収束砲によって防御を貫かれ、そのまま崩壊した。
「これで……ちゃんと壊れたよ」
「E1目標破壊完了。全機、状況報告」
『E2目標およびE3目標は破壊しました』
『E4目標、崩壊を確認』
『全てのF目標の破壊を達成』
「よし、敵司令部の破壊は完了した。撤退す……」
これで全ての作戦目標を破壊した。データリンクでも、敵の指揮系統に混乱が生じている可能性が指摘されている。
このままここから撤退すれば任務終了だ。凛斗とメイは無理だが、他の面々は早めにSAGAから降りられるだろう。
しかし、現在はそこまで甘くない。
『大気圏外から降下してくる機影を確認!SAGA単機、速い!』
『何だと!』
『単機で⁉︎』
「リント!」
「そんな予定は聞いてない。敵だ!迎撃用意!」
『りょ、了解!』
『降下してくるなんて、ぎゃあ⁉︎』
『な、なん、がっ!』
スサノオと同様に大気圏突入を行う機体が確認され、連合部隊は警戒態勢を取る。
だがその前に、見慣れた閃光によってシルフィードとハヤブサが数機ずつ薙ぎ払われた。
「これって⁉︎」
「プラズマ収束砲か……!」
見慣れているが故、即座に原因を突き止める凛斗とメイ。
だが、悠長に観察している余裕は無い。
『見ーつーけーたー!!』
その大気圏から降下してきた機体が斜め上から長剣型クルセイダーを振り下ろしたためだ。
暗号化されていない平文の、指向性無線通信で送られてきた声と共に。
「ぐっ⁉︎」
「きゃあ⁉︎」
スサノオは大太刀型クルセイダーを掲げて防御するも、スピードを殺すことができずに地上へ叩きつけられる。脚から着陸することはできたが、そのまま地面をスライドし、背中からビルに衝突した。
凛斗の要望通り関節部が強化されていなければ、腕部か脚部が壊れてしまっただろう。
『先輩ですか?先輩です。先輩ですよね!』
「おい、ちょっと待て……」
「この声、ミーフェル⁉︎」
スサノオと真正面から対峙しているのは皇太子派が作った新型機、ヘルだ。
武装はスサノオと似ているが、全高は12m程度と普通だった。それにより、大人と子どものような体格差が生じている。
だが、出力はあまり変わらないらしい。スサノオが全力で駆動系を動かしても鍔迫り合いはほとんど動かない。ヘルがサブスラスターを使っているからかもしれないが、力で押しきれないのは想定外だった。
そして、右肩には盾と剣を構えた天使のパーソナルマークが入っている。
「ミーフェル、何で……」
『先輩、帰りましょう。わたしがいます。わたしと!』
「こいつは向こうの考え方だ。知ってるだろ」
「でも、そんな……」
『その声、ケンザキ……貴方のせいで先輩は、先輩はー!』
そんな声をあげながら、ヘルはクルセイダーを振り回す。
メイが混乱しかけていることに気付いた凛斗は、咄嗟にメインOSを自分へ移すと、プラズマスラスターを全力で吹かして回避した。
だが、混乱しているのは凛斗も同じだ。
「ちょっと待て!これ本当にあいつか⁉︎」
「で、でも、声はミーフェルだよ。パーソナルマークも」
「言動が違いすぎるだろ!」
確かに、ミーフェルは以前から凛斗を侮蔑するような態度を見せていたが、ここまでメイに執着していなかった。混乱するのも仕方ないだろう。
しかし、2人は軍人だ。敵であり攻撃してくるのであれば、対応しないという選択肢は無い。そして、凛斗は指揮官としての思考も同時に行っている。
「全機、中隊ごとに撤退!指揮権は全て委任!こいつの相手は俺達でやる!」
『いや、それでは!』
『1機だけなら……』
「こいつはスサノオと同世代機だ!蹂躙されるぞ!」
『凛斗、ちゃんと帰ってこいよ』
「西門さんこそ。メイ!」
「うん……相手が、ミーフェルでも!」
メイはそう意気込み、大太刀型クルセイダーをヘルへ叩きつける。ヘルもそれを長剣型クルセイダーで受け止めた。
『先輩、やるんですね。やるんですか!でもね先輩、わたしは!』
「ハァァ!」
「ぐぅ……」
クルセイダーでの鍔迫り合い、さらに弾き合って斬撃の応酬。
双方ともにプラズマスラスターを全開で使用しているため、ルシファーとミカエルの戦闘以上に高速で推移し、コックピットにも激しい振動を伝えていた。
耐G能力がこの2人ほど高くない凛斗はGに耐えながら、ヘルの動きを観察する。
「速い……でも、こっちの方が!」
『押されてる……?流石先輩、でも!』
「ミーフェル!こんなことして何になるの!」
『先輩のためです!だから先輩!わたしと一緒に!』
スサノオの横薙ぎをヘルは斜めにした長剣型クルセイダーで逸らし、袈裟斬りを返す。
それを下がって避けたスサノオは突きを放つも、回転して避けられる。
ヘルがその勢いを利用して放った横薙ぎの一閃は、スサノオが縦に持った大太刀型クルセイダーで受け止めた。
「ヤァァァ!」
『はぁぁぁ!』
空中での鍔迫り合いはスサノオの方が得意だ。プラズマスラスターの出力差を生かし、スサノオが徐々に押していく。
だがヘルも負けていない。長剣型クルセイダーにかかる力をいなしてからワザと体勢を崩し、そこから腕の力だけで斬撃を放つ。
不意は突いたもののスピードは無かったため、スサノオはショルダーシールドにエネルギーシールドを展開して防いだ。
『先輩先輩!帰りましょう!』
「嫌!私はリントが良いの!」
『そんなのダメです!だって先輩は、わたしは!』
「ビーム⁉︎リント!」
「任せろ!」
ヘルからのビームボーゲンに対し、ビームボーゲンを真正面から当てることで迎撃しながら、凛斗は観察を継続した。
ヘルの動きはミカエルと似ているが、細部が微妙に異なる。内骨格の構造が若干違うようだ。武装の質はスサノオとほぼ同じ、数はスサノオに大きく劣っている。
最高速度とパワーでスサノオ有利、サイズと機動性ではヘル有利といったところか。
「こんなの……甘いよ!」
『流石です!先輩!』
「えぇ……」
「狂ったか?完全に」
『ケンザキ、お前は……ジャマダーー!!』
そんな声と同時に、ヘルはブリューナクを射出した。
小型クルセイダーのような見た目の長剣型ブリューナクと円形のビーム刃に囲まれた円剣型ブリューナク。どちらも見ただけで近接タイプだと分かる。
「ブリューナクは俺が潰す。貸せ!」
「う、うん!」
そのため凛斗は射撃型ブリューナクと短剣型ブリューナクを操り、ヘルのブリューナクへ対処する。
数だけなら短剣型ブリューナクだけでも上回っているが、相手は未知のタイプだ。ヘルの方が威力は高い可能性もある。
なので油断はしない。全力で封じ込める構えだ。
「ちっ、厄介な」
『そんなものですよ!新型でも、わたし達の優位性は……!』
「けどな、この程度!」
『なぁぁぁー⁉︎』
最初の一当ての結果を受け、凛斗は戦力評価を正確に行った。
長剣型ブリューナクは見た目と同じく、クルセイダーのようなものらしい。正面から迎撃した短剣型ブリューナクが1基、真っ二つに斬り裂かれていた。
しかし対処法を覚えれば簡単だ。後ろのスラスター部分を射撃型ブリューナクで破壊すればすぐに撃破できる。
どちらかというと、盾にもなる円剣型ブリューナクの方が厄介だった。
『この……!』
「はっ、その程度か?メイの方が強いぞ」
『先輩と比べるな!先輩は特別なんです!』
「そうだな。なら、お前はそこがお似合いだ」
『バカにしてぇ!』
だがこちらも、火力を集中させれば破壊は可能だ。円剣型ブリューナク2基が射撃型ブリューナクの高出力ビーム砲集中射撃を受け、爆散する。
スサノオが損失したブリューナクは最初に犠牲にした短剣型のみ。それに対し、ヘルの損失は半分以上に及ぶ。
『先輩はわたしの!わたしの先輩!だからわたしは!』
「人は誰のものでもない。自分で居場所を決めるんだ。そうだろ?メイ」
「滅茶苦茶だけど……でも、私はここが良い!」
『っ……ケンザキー!!』
もちろん、白熱しているのはブリューナクだけではない。
スサノオとヘルの間をビームが乱舞し、2機のクルセイダーが火花を散らした。
「ぐぅ……」
「リント!」
「大丈夫だ。全力でやれ!」
「うん!」
ヘルが長剣型クルセイダーで突きを繰り出すが、スサノオは斜めに振り下ろした大太刀型クルセイダーで弾く。
その刀身を反転させると、スサノオは逆袈裟の斬撃を放った。ヘルはショルダーウェポンシールドを上手く使って逸らし、それで生じた回転エネルギーを使って蹴りを放つ。
その蹴りはスサノオが瞬間的に下がったことで不発となり、右足の固定式ビームソードを発振させて蹴った。だが、それはヘルが左手から発振したエネルギーシールドに防がれる。
弾き合った直後、ヘルは長剣型クルセイダーを振り上げ、上段から斬撃を放つ。それはスサノオの袈裟懸けと正面衝突し、火花を散らした。
また、その間にも射撃は繰り返されている。
「ハァァァ!!」
『ヤァァァ!!』
ヘルのビームボーゲンは凛斗の放つビームボーゲンに相殺され、スサノオへは届かない。スサノオのビームボーゲンは相殺されないが、プラズマスラスター全開で乱数回避運動を繰り返すヘルには当たらない。
凛斗の射撃は正確だが、人読みに近いものだ。機械的な回避運動を全て読み切ることは難しい。いくつかはヘルへの直撃コースを取るが、その程度はミーフェルも防げるし避けられる。有効打にはならなかった。
『いい加減、落ちろぉぉ!』
「殺気が強いな。メイが死んでも良いのか?」
『ケンザキは死ね!死んで詫びろ!』
「やらせない。リントは私が守る!」
『先輩ー!!』
ヘルがビームブーメランを投げるが、ハイビームボーゲンで即刻撃ち落とされる。スサノオが投げたビームスローイングダガーは避けられるかクルセイダーで斬り払われた。
その隙にスサノオは急速接近し、上段から大太刀型クルセイダーを振り下ろすものの、ヘルが放った横薙ぎと衝突する。出力差でスサノオが勝ったが、押し切ることはできていない。
「こ、のぉ!」
『クゥゥ!』
「押し切れ、メイ」
このまま鍔迫り合いを続けるか、勢いを逸らして逆襲するか。それがヘルの最適解だ。
『あれ?え、もう……』
しかし、ヘルは下がった。格闘戦の範囲外まで、大幅に。
その行為に何かあるのかと警戒し、スサノオは近寄らない。
『先輩』
「なに?」
『今日はもう帰りますでも……』
だが、次の瞬間にはその理由が分かった。
スサノオにも情報が入ったためだ。
『絶対、先輩を連れて帰ります。これは殿下が先輩のために用意した機体なんですよ』
皇太子派帝国軍の臨時司令官が降伏。残存部隊も大半が戦闘能力を失い、降伏した。降伏を受け入れず、頑強に抵抗した部隊もいたが、数と火力の差に押し潰されて消滅している。
しかし、スサノオと戦い続けていたヘルはそれとは違う。ヘルは未だに全力発揮が可能であり、皇女派は残存抵抗部隊を囲むように展開されているため、ここから逃げるだけならば接触も無いだろう。
「嫌。私はリントが良い。それに、マイリアも好きだから」
そうした理由でヘルが去っていく中、メイの言葉は空に溶けていった。
ヘルを追撃するような余裕は、2人のパイロットには無いがために。
「終わった、か……」
「うん……」
スサノオは夕陽に照らされ、8年前に続き戦場となった東京を見渡す。
「生き延びたな、俺達」
「うん……」
「メイ」
「ん?」
「これからも2人一緒だ。絶対に」
「うん……!」
凛斗もメイも、今日失われた命の数を知らない。最前線で戦っていた2人には、後から集計で知るしか方法が無い。
だからこそ、2人揃って生き延びたことが何よりも嬉しかった。
「メイ、疲れたなら休んで良いぞ。もう終わったからな」
「良いの?」
「飛ぶくらい1人でもできる。戦うには少し辛いだけだ」
「じゃあ、そうする。ユーハブ」
「アイハブ。それとも寝るか?それなら俺が寝顔を堪能できる」
「もう」
メイが休んだ後も、凛斗はスサノオを飛ばし続ける。
夕陽に染まった、廃墟となったエリア。それは大半が基地のあった場所だが、一部には流れ弾で破壊された市街地もある。その中を私服で走り回る、凛斗と同程度の年齢らしき青年も見える。
しかし、今は何よりも思うことがあった。
「勝ったんだな、俺達」
これだけなら短い言葉だ。しかし、その言葉に込められた想いは大きく、強い。8年間の、まもなく9年目になる想いが込められた音がコックピットに響く。
だが、返事は無かった。
「ん?……ああ、寝たのか。まったく……」
本当に疲れ切っているらしい。メイは可愛らしい寝顔を見せている。
「ありがとな、メイ」
その言葉は1人の耳にしか残らず、反響はすぐに消え去った。
・ファルスト兄弟専用ジャッジメント
双子エースということで、左右反転しただけのそっくりな万能機となったジャッジメント。左右反転した理由は、それは兄が左利き、弟が右利きなため。
パーソナルマークは「右半身が赤、左半身が青のピエロ」と「右半身が青、左半身が赤のピエロ」。日本系パルチザンからは「ツインズ」と呼ばれている。
武装
___ビームライフル×1
___ビームサブマシンガン×1
___固定式ビームソード×2
___実体盾×1
___高出力ビーム砲×2
___4連装ミサイル発射管×6
・ラーサ・ブレン専用ジャッジメント
対艦対機近接格闘戦向けのチューニングとカスタマイズを受けたジャッジメント。巨大な近接用兵器を複数搭載している上、パワー重視のチューニングがされている。また、機体全体が真っ赤に塗装されている。
パーソナルマークは「黒い六芒星と八芒星」。日本系パルチザンからは「赤鬼」と呼ばれている。
武装
___大型ビームアックス×1
___高出力ビームソード×4
___小型実体盾×2
___ビームサブマシンガン×2
___ビームスローイングダガー×8
・ヘル
EXSG74-T01H
全高11.7m。本来であれば当機にはメイが乗る予定だったが、彼女が脱走したため、テストパイロットだったミーフェル・シュタットフェルトがそのまま乗ることになった。ただし、ミーフェルの耐G能力はメイほど高くないため、本来の仕様よりプラズマスラスターは減らされている。「盾と剣を構えた天使」のパーソナルマークが右肩に描かれている。
翼は1対2枚。エンジェルシリーズとデーモンシリーズを合わせ、さらに性能を高めた高性能万能型。スサノオと近いコンセプトだが、スサノオほど欲張っていないため、高性能かつ小型化に成功した。操縦性も、武装山盛りかつOS切り替えという特殊機構を持つスサノオに比べるとかなり楽。各部の最大出力はスサノオに劣るものの、ヘルの方が小型なため機動性・運動性に優れる。残念ながら総合性能はスサノオより低いが、パイロットの技量次第で互角の勝負ができる。
なお、元々は量産試験機として作られたため、フレームは完全な内骨格ではなく、外骨格を併用している。
武装
___ビームライフル×2
___ビームソード×2
___迎撃ビームバルカン×4
___ビームブーメラン×4
___エネルギーシールド発生器×4
___長剣型クルセイダー×1
___プラズマ収束砲×2
___ショルダーウェポンシールド×2
___ビームボーゲン×24
___ハイビームボーゲン×6
___長剣型ブリューナク×6
___円剣型ブリューナク×4
___プラズマスラスター×8




