第35話「舞い降りた天女」前編
「え?そうなの?」
「そうそう。だからこうなったってわけ」
「シアって物知りだね」
「受け売りだって、受け売り」
さらに約2週間後、年が明けて少しした頃。メイとシアの姿は月の帝都にある武装法務隊本部のとある部屋の中にあった。
しかし、仕事はしていない。
「まあ、メイのお見合い話の方が面白いけど」
「私が面白くない」
「聞いてる方は面白いの。で?昨日の相手はどうだった?」
「もう忘れた」
「え?」
「だってどうでも良いんだもん。覚えるのも面倒だし」
「あー……まあ、メイならそうなるか」
というか、仕事が割り振られることがほとんど無かった。
時々シミュレーター訓練がある程度で、後は雑談くらいしかやることがない。メイ用の新型機がそろそろ出来るという話も聞いたが……正直、彼女にとってはどうでもいいことだ。
と、そこへトランとアクトが駆け込んできた。
「おい!メイ!」
「……シアも、いたか……はぁはぁ、聞け」
「え、どうしたの?」
「ちょっと、何してんの。ほら、水飲んで」
「んな場合じゃねぇんだよ!」
「……反乱だ」
「はん、らん?」
焦った様子で息を切らした2人の言葉。だがあまりに実感が薄く、最初は2人とも分かっていなかった。
その後、ようやく言葉の意味を理解し……
「って、えぇ⁉︎」
驚いた。
「は?え……どういうこと?」
「……つい先ほど、皇帝陛下が崩御された……そして、それと同時に反乱が起きた」
「でよ、その声明を出したのが……」
情報はまだ少ないようだが、トランとアクトは集められる限りの情報を集めてきたらしい。
「え⁉︎」
「ウソでしょ……」
「マジに決まってんだろ!」
「……断じて、嘘では無い」
そしてその中には、メイが最も驚くことも含まれていた。
「くぅ……こ、のぉ!」
同じ頃、凛斗はSAGAに乗り海上を飛んでいた。完成した新型機の試験飛行だ。
そして現在行なっているのは最大出力での機動制御訓練、というより耐G訓練に近い。これはそういう機体だった。
「はぁ、はぁ……やっぱりヤバイな、これ」
『だから言ったんだけど。そんなに載せたらいっぱいいっぱいになるに決まってるんだから、使えるまで減らさないとダメだよ』
「いや、Gの方だ。耐えれるけど、予想以上にキツい。これと射撃を同時にやるのは厳しいか……?」
『操縦に問題があるならOS変えとく?それとも、もう1人乗せたらどう?繭とか、使えたんでしょ?』
「まあ、そうだな……」
また駿はこの新型機の開発、というより前段階の新型ジェネレーターと新型フレームの開発に深く携わっており、そのまま技術試験監督に任命された形だ。
つまり、凛斗の無茶に付き合わされた中で上から3番目の被害者ということになる。2番目は親爺さん、1番目は……まだ分からない。
『戦力化の期限は1ヶ月だって凛斗が決めたんだからさ、自分でどうにかしてよ。こっちだって迷惑なんだからね?』
「分かってる。だから練習してるんだろ」
『そうだけど、ん?はい、今ちょうど……え?』
「ん?駿、どうした?」
しかしどうやら、そんなことをしている場合では無いようだ。
『凛斗、すぐ戻ってきて』
「は?どうして……」
『伯父貴が召集した。早く戻って!』
「りょ、了解!」
慌てた駿にそう言われたため、凛斗は機体を動かして蒼龍へ帰還した。そしてそのまま会議室へ向かい……姉御に捕まって着替えるように言われる。
なので着替えた後、凛斗はその報告を聞いた。
「帝国で反乱⁉︎」
そしてメイと同様、凛斗も驚く。もちろん、凛斗以外で会議室に集められた面々も同じだ。
例外はそれを伝えた伯父貴、大元のメガネだけだった。
「そうだ。皇帝の崩御と同時に声明が出された。帝国も混乱しているらしい」
「なっ……」
「あの国が?」
「ああいや……けど、反乱なんてすぐに鎮圧されて終わりじゃ……」
「それが、そうじゃなさそうだから議題に上がっているんですよ」
「メガネさん?」
とはいえ、驚いた凛斗も少し冷静になると、それの重要度が低いのではないかと考えた。体制がひっくり返るような反乱が簡単に起こるのであれば、自分達はこんなに苦労していないということだ。
しかし、今回は例外だ。だからこそ議題に挙がったと言える。
「少なく見積もっても、帝国軍の3割が反乱に加わっています。もしかしたら過半数を超えるかもしれません」
「そんなに……?」
「歪になった体制への反発という面もあります。しかしそれ以上に、旗頭とその周囲が優秀なのですよ」
「一体誰が?」
「マイリア皇女です」
「えっ……」
「誰だ?それ」
「確か皇帝の娘で、第1皇女だっけ?」
「その人物だ。そして……」
そして、あまりに身近にいた人物の名前が聞こえ、凛斗の思考は止まってしまった。想定外すぎたからだ。
しかし彼は戦士であり指揮官、説明を求められれば答えないという選択肢は無い。思考が再度動き始め、口を動かす。
「凛斗、マイリア皇女についてはよく知っているな?どんな人物か話せ」
「あ、ああ。一応、友人だったし……けど、まさかこんなことを計画してたなんて……」
「俺達への敵意は?」
「いや、無い。俺に対しても最初から友好的だった。というより、帝国の変な差別感情を嫌っていた感じだ。多分、感性は俺達と変わらない。けど……」
「けど?」
3年の付き合いのある友人のことだ。凛斗は良く知っている。
だが同時に、今は敵か味方か分からない相手でもある。そのため、警戒するべき点を前に出すことにした。驚きが継続する中でも言葉を選び、伯父貴達へ説明する。
「マイリアを良いように利用する、なんて無理だ。策士ってわけじゃないけど、気付いたら彼女の思う通りに動いてたことがあった。関わるなら、普通の協力関係を結んだ方が良い」
「カリスマか?」
「恐らくは。俺にも利益があったから、逆らう必要性も感じなかったな」
「確かに、それなら説明がつきますね。アメリカにいた強硬派が急遽立場を変えた、なんて話もありますから。人柄が大きく変わったわけではないにも関わらず、対パルチザン作戦を控えるようになったと」
「日本本土でも何人かいると聞いたぞ」
「はい。既にマイリア皇女に従う人々……皇女派とでも呼びましょうか。皇女派帝国軍はユーラシア大陸から全て撤退しているようです。残っているのは皇太子派帝国軍だけだとか」
「ってちょっと待て、何でそんなに情報があるんだ?声明が出たのはさっきだよな?なのに何で部隊の特定まで……」
とはいえ驚いていても、この話を聞き逃すことはできない。本来であれば、分かった時点で共有されるべきものだからだ。
「それは簡単ですよ。事前に接触があったからです」
「え……そんな話、俺は何も……」
「伯父貴が止めましたからね。向こうからの要請もありましたが、それ以上にこちらの混乱を避けるためには必要でした。小出しにしていては間違った判断を下す可能性がありましたからね」
「そういうこと……」
「まあ、そりゃな」
「暴走しそうな奴がいるからな。な、凛斗」
「何だよ、古谷さん」
「そういうのは管理下に置いとけよ」
「管理下言うな」
しかし、こう言われては反論できない。そもそも、混乱しそうな面々を纏めているのが凛斗だからだ。
もちろん、それは大人のパイロット達ではない。感情で暴走しそうなのは未成年組くらいだ。というか、凛斗達が知らないだけで既に1名暴走済みだったりする。
もう終わったことだが。
「話を戻すぞ。マイリア皇女達の目的はこれ、戦争の終結だ。そして、そのための協力を各地のパルチザンに求めている」
「利害は一致してるか……」
「対価は?」
「日本をはじめとした占領地の返還、正確には占拠する皇太子派帝国軍の共同排除だ。主攻は我々が行うため、悪くない条件だろう。日本奪還後も皇女派勝利のために協力する必要はあるが、皇太子派を残していては同じことの繰り返しでしかない」
「日本奪還後の臨時政府には解放軍と独立党が保護している元閣僚達を使う予定です。そちらについて、皇女派からの要求は一切ありません」
「悪くないね」
「けど、雑すぎん?」
「細かいことは今後の会談で決める予定だ。これは向こうから裏ルートで伝えられた条件でしかない。利害の一致があるとはいえ、事前折衝が難しいためだ」
「なるほど」
協力するか敵対するかはその会談で決まる。今決まっていることは簡単な合意と会談場所くらいだ。
そして、その場所へ向かえる人間は限られる。
「また、日本系パルチザンの代表は俺が務めることとなった。というより、俺以外にマイリア皇女と直接会談できる将官がいない」
「確かに」
「ま、伯父貴なら安心か」
「今は利害が優先ね」
「感情は……後々、かな」
「そうしておけ。マイリア皇女との会談は明日の予定だ。凛斗、お前は護衛として同行しろ。相当職とはいえ、士官の責務だ」
「了解」
だからこそ明けの明星が選ばれ、伯父貴と共に凛斗も加わる。SAGA部隊長として。
「それともう1つ。ハイディスタン准尉を解放し、マイリア皇女へ引き渡す」
「良いと思う。戦力になるし、クリスはマイリア側だ。交換条件としても……って伯父貴、まさか」
「その通りだ。初めから交換条件とするため、待遇を良くしておいた。ただし、この件についてはお前が伝えろ」
「分かった」
また、クリスについても解決した。最後は彼女次第ではあるものの、凛斗が満足できる結果だ。
それについて伝えるため、クリスのいる部屋へ向かう。
「あれ?リント君、早いね。1時間後だって言ってたのに」
「ちょっと状況が変わったからな」
「そうなの?」
「ああ。クリス、マイリアのことを信じてるか?」
「え?うん、当たり前だよ?」
「あいつが反乱してもか?」
「へ?」
「マイリアが反乱を起こした。目的は占領地域の返還と戦争の終結らしい。都合が良いから、俺達明けの明星もこれに乗るつもりだ」
「そうなんだ……」
「ああ。それで本題だが、クリスはマイリアの側に付くか?それなら、ここから出せる。違うなら……」
「ねえ、リント君」
「ん?」
「ボクは友達を見捨てないよ」
「そう言うと思った」
そして鍵を開け、クリスは久しぶりに自由の身となった。
その後凛斗はクリスを連れ、格納庫の方へ向かう。
「ボク、これからどうしたら良いの?」
「とりあえず、空き部屋を使えるようにしておく。その前に伯父貴と顔合わせか。一応、捕虜から客に変わったからな。それで良いか?」
「良いけど……伯父貴って誰?」
「秋山努元少将。明けの明星のリーダーで、この蒼龍の艦長だ。伯父貴はニックネームみたいなものだな」
「そうなんだ。でも、ボクが会って大丈夫?」
「問題無い。公平で優しい人だからな。ただし、真面目な場面でふざけたら怒られるから、そこは注意しろよ」
「はーい。やらないけど。じゃあ……ウリエルは?」
「直してそのままだ。すぐに使える。あ、俺が使った時の設定も残ってるけど、消して良いぞ」
「え、そうなの?」
「クリスを説得できたら使わせるつもりだったからな。まあ、こんな形は予想外だけど」
「それはボクもだよ」
クリスが皇女派に加わるのであれば、伯父貴に挨拶させるのが適当だろうと凛斗は考えた。もちろん、それは間違いではない。
だがその前に、2人はある人物と遭遇した。
「あれ?クリス?」
「あ、マユちゃん!」
「……は?」
そして、それについて知らなかったがために、そもそも予想すらしていなかったため、凛斗の驚きは大きい。
「え、何で出て来れたの?手錠も無いなんて」
「あれ?マユちゃんは聞いてないの?」
「そういえば、凛斗や伯父貴達が会議してるって……」
「多分それかな?ボクの友達のために出してもらったんだ」
「詳しく聞かせて。重要、なんだよね?」
「うん、良いよ。リント君にとっても友達の事だから」
「ちょっと待て」
そもそも凛斗にとって、この組み合わせは予想外だった。
繭の帝国嫌いは明けの明星の中でもトップクラスに強かった。相手がクリスとはいえ反発は必至だと考えていた、というか悩んでいたのだが……
「お前ら、何でそんなに仲良くなってるんだ」
「「え?」」
「2人してそんな顔をするな!」
実はこんな状態になっていたと判明し、頭を抱えた。
しかも、いつの間にか2人ともお揃いのイヤリングまで付けている。
「とりあえず、いつ知り合った?」
「えっとね、捕まった日にマユちゃんから銃を向けられて、泣いちゃったから慰めたら友達になったよ」
「……は?」
「クリス⁉︎」
「合ってるでしょ?」
「合ってるけど……」
「合ってるのか……」
そしてこの説明、混乱しないわけがない。流石の凛斗もキャパシティオーバーだ。
だが状況を変える人物が来たため、どうにか場を収めるに成功する。
「凛斗」
「ん?……あ、伯父貴、来たのか。今行こうとしてたのに」
「他の仕事のついでだ。それで彼女が?」
「ああ。クリス」
「初めまして、クリスティーナ・ハイディスタン准尉です」
「秋山だ。元日本国防軍少将、今は明けの明星のリーダーと蒼龍の艦長を務めている。ここにいるということは、君もマイリア皇女殿下の旗下に加わるということで良いか?」
「はい。殿下は友達ですから」
「そうか。友達のためか」
「クリスはこういう奴なんだよ。下手な信念より信用できるだろ?」
「そうだな。君を知ろうとせず、2ヶ月以上も閉じ込めていてすまなかった」
「い、いえ、当然のことだと思います。むしろ良くしてもらいました」
「そうだ伯父貴、ウリエルはクリスに返して良いか?設定はそのままだから、すぐに使えるし」
「もちろんだ。だが凛斗、返すために設定を変えなかったのだろう?」
「まあ、そうだけど」
そして、挨拶は平和に始まった。皇女派との取り引き材料であることは伝えられなかったが、クリスも多少は察しているようだ。
なお、真面目な応答をするクリスに違和感を覚えてしまった凛斗だが、下手なことは言わない。むしろ変に話を逸らすと矛先を向けられるため、思考の制御に力を費やしている。
「では凛斗、および繭、ハイディスタン准尉の世話は任せる。まずは部屋だな。案内してやれ」
「了解」
「了解です」
挨拶回りは伯父貴以外にもした方が良いだろうが、とりあえずの分は終わった。これ以上はひとまず置いておけば良いだろう。
というより、明日の会談の準備がいる。クリスの相手ばかりしている余裕はなかった。
「さて、じゃあまずは部屋に案内するけど……」
ただし……
「部屋に着いたら経緯を話せ。最初から、順番に、俺が分かるように。良いな?」
「「はーい」」
これについては忘れない。2人の少女は逃げられないと悟り、諦めて凛斗の後ろをついて行った。




