第32話「決戦」後編
「はぁ、はぁ」
『はぁ、はぁ』
現状、ミカエルとルシファーの戦いは一進一退の攻防になっていた。
ミカエルはクルセイダー、ビームライフル2丁、左のショルダーシールド、左翼、左足の膝から下を失った。さらにサブスラスターを6割ほど破壊されている。
ルシファーは左腕、右翼、左腰の高出力ビームライフルを喪失している。さらにビームボーゲンとサブスラスターの約半数が破壊された。
「スラスターが、関節も……それに、何で遅いの……」
『システム再調整……クソ、遅い。まだか……』
両機とも損傷多数で、装甲は見るも無惨な状態だ。どれだけ調整しても、元以上のスペックは発揮できない。いや、そもそも……
また、パイロットの消耗も激しい。コックピット付近への直撃は無いとはいえ、ハイG機動を繰り返し、何度も何度も衝撃を受ければ、体力はすり減っていく。
「リント……」
『メイ……お前、何でここまでする。何でここまで戦う』
「自分で言うの?それ。リントだって同じなのに。私は……軍人だから!」
『ちぃ!』
しかし、戦意だけは変わっていない。ミカエルとルシファーは真正面から激突し、剣戟を交え、ビームの応酬を繰り返していた。
技量は凛斗の方が上だが、過負荷によるダメージがスラスターや関節部に溜まった現状では、単純にスラスター出力が高いミカエルの方が強い。
『嫌だったんじゃないのか!お前は!』
「そうだよ。それでも!」
『くっ』
鍔迫り合いのままスラスター出力差で押し切られ、ルシファーは姿勢を崩す。完全に押し負けることはなかったものの、徐々に後退させられていた。
「私は……私は戦う!決めたから!」
『そんなもののために……』
「それに!仇討ちだってする!だから……!」
『俺の邪魔をするな!』
「きゃあ⁉︎」
しかしその直後、ルシファーは姿勢を変えて左足で回し蹴りを放つ。固定式ビームソードはショルダーシールドで防いだミカエルだったが、衝撃は抑えきれず、吹き飛ばされた。
咄嗟にスラスターを吹かして逃げたミカエルを追うため、ルシファーのスラスター出力も上がる。
『邪魔をするな!立ちはだかるな!そこをどけ!』
「こ、の……リントの分からず屋!」
『はっ!理解しようとしない奴が言っても説得力無いな!ヒロイン気取りか?』
だが、ミカエルも負けてはいない。突撃してきたルシファーを迎え撃つため、ショルダーシールドからビームスローイングダガーを落とし、右足で蹴った。
それは狙いが甘く、簡単に避けられた。しかし命中など最初から期待していない。これによりルシファーの勢いが少し落ちたことを確認すると、ミカエルはすぐさまビームソードで鍔迫り合いに持ち込む。今度はルシファーが上手く動いたため、スラスターの出力差勝負にはできなかったが、問題は無い。
ミカエルはプラズマスラスターを全力起動。押し込むように見せかけて、別方向へ急旋回をした。
「そうかも、しれない……けど、それでも!」
『しまっ……!』
そして上を取ったミカエルはビームソードで牽制しつつ、ビームガトリングを連射する。
メインスラスターにこそ当たらなかったものの、左翼のプラズマ収束砲を破壊した。さらにビームボーゲンも何基か破壊する。
『くそっ!』
「火力が無くなったね、リント。私にはまだあるよ?」
『当たるのか?射撃の差を考えろ』
「分かった。じゃあ、当てる。覚悟してね」
『やれるならやってみろ!』
しかし、当然ながら反撃がある。ルシファーは急上昇すると右手の手持ち式ビームソードで左太腿のサブスラスターを破壊し、さらに左足の固定式ビームソードを振るって左肩に傷を1つ増やした。
ミカエルがビームソードを振るうも既にルシファーは範囲外、直後に放たれたビームボーゲンを避けるしかなく、また振り出しに戻る。
「このっ……!」
『不甲斐ないな。今度はスパイダーを沈めてやるか?』
「え⁉︎ダ、ダメ!」
『止めたかったら止めてみろ。できるなら、な』
「やらせない!絶対に!」
だが、この言葉は無視できないようだ。これを聞いた瞬間、ミカエルがプラズマスラスター全開で突っ込んできた。
もちろん正面から受け止めれば負けるだけだ。ルシファーは受け流し、突進を躱した。さらに反転、ミカエルを追いかける。
「何で!そんなこと!」
『分からせてやるためだ!俺の、俺を!』
「絶対止める!」
『こんな程度で……止まると思うな!』
「勝手なこと!」
追いかけられる側となったミカエルは、短時間だが神経を削られていた。
数は少ないがビームボーゲンが飛んできており、回避運動を止めるわけにはいかない。ルシファーは常に上手い角度を取っているため、ビームガトリングで反撃することもできない。
また、急減速をしたとしても背中からビームソードで貫かれるだけだと分かっている。そのため、選択肢は1つしかない。
『俺が生きてきた世界はこの程度じゃない。地獄はこんなものじゃない!』
「きゃっ!」
そしてミカエルが振り返った瞬間、ルシファーはビームボーゲンを放ちつつ右手のビームソード2つで斬りかかり、時間差で右足と左足の固定式ビームソードで斬撃を放った。
その作戦は上手くいき、ミカエルの右足を太腿から切断したものの、直後に両手のビームソードで止められる。
『どんな気分だ?このままダルマにしてやろうか?』
「……最低」
『それで結構。俺は殺すだけだ』
「殺人鬼?それ」
『そうかもな……けど!』
鍔迫り合い、何度も繰り返したこと。だが決着はつかず、終わらない戦闘。消耗だけが増えていく戦い。
しかしそれは止まらず、何度もビームソードをぶつけ合い、互いの意地をぶつけ合い、思いを叩きつける。その感情がどこから生まれているかも知らないまま。
『俺は戦う!未来のために!』
「リントがそうでも!」
『だから邪魔だ!そこをどけぇぇぇ!』
凛斗はそう叫び、左足の固定式ビームソードで斬りかかった。
しかも一撃だけでなく、何回も。他の攻撃を挟みつつも叩き込んだ。
「何があっても!」
だがミカエルは上手く対処し、斬撃を全て防ぐ。それどころか、ルシファーの左足を脛から斬り飛ばした。
慌てて飛び退くルシファー。クルクルと回りながら落ちていく左足。
『なっ⁉︎』
「私だってぇぇぇ!」
それを横目に見つつ、ミカエルはメインスラスターとプラズマスラスターの出力を最大にし、斬撃を放つ。
ビームソードは防いだものの、スラスター出力と気迫に押され、ルシファーは島の岸壁に叩きつけられた。
このせいで、ビームボーゲンが何基か機能不全に陥る。また両機とも間接に大きな負荷がかかり、何箇所かオレンジに変わる。
『がっ⁉︎』
「この!」
『ちっ!』
ミカエルは頭部を狙い、左手のビームソードで突きを放つが、ルシファーが頭を傾けたため崖に穴を開けただけだった。
蒸発した岩がプラズマになり、その爆発で土煙があがるが、そんなことを気にしていられる状況ではない。
『クソ、離れろ!』
もう一度やられては堪らないと、ルシファーは蹴りでミカエルを追い払う。
そして突撃の直前に急上昇、ミカエルのビームソードによってあげられた土煙の中へビームボーゲンを叩き込んだ。
「リントォォ!」
『ちっ、外れたか』
「当たったよ!2つ壊れたよ!」
『よし、それならこのまま削りきってやる』
「このっ!」
土煙の中から飛び出したミカエルはビームソードを構え、斬りかかる。ルシファーはサマーソルトで避け、右足の固定式ビームソードを発振しながら蹴りを放つ。
残念ながら直撃は避けられたが、ミカエルの装甲に一筋の傷を残した。サブスラスターは壊れていない。
「ヤァァァ!!」
『ハァァァ!!』
どちらが有利か、と言われればルシファーと答えられる。機体というより、パイロットの差だ。メイは疲労が溜まっており、限界が近い。
しかし、ミカエルが突撃し、ルシファーが迎撃する状況では、凛斗も気が抜けなかった。射撃兵装がほとんど使えなくなった現状では尚更だ。
ミカエルの両手のビームソード、ルシファーの右手にある手持ち式ビームソードと固定式ビームソード。その2つが何度も交差し、激しい閃光をあげる。
「このぉ!」
『ちぃ!』
そんな一閃の1つ。逸らしたビームソードが右腰にあった高出力ビームライフルに直撃し、ライフルは両断された。
爆発する前にパージしたため被害は少ないが、火力がさらに1つ減ったことは痛い。
「このまま!」
『この野郎!』
もちろん、戦いでは双方が被害を負っている。
双方のビームソードが装甲を掠め、サブスラスターやビームボーゲンが次々と破壊されていく。コックピットにこそ影響は出ていないが、断ち切られた装甲も多い。
『当たれぇぇぇ!』
「やばっ……!」
そんな近接戦の最中に放たれたビームボーゲン。
それはミカエルの右肩、ショルダーシールドの裏にあるビームガトリングへ直撃し、そのまま破壊した。
「あ、危なかった……」
『これで射撃が無くなったな』
「無くてもやるよ。だって、私は!」
『はっ!やれるものならやってみろ』
2機とも、射撃武器はほとんど残っていない。ミカエルはプラズマ収束砲が1門だけ、ルシファーはビームボーゲンが数門のみだ。プラズマ収束砲はこの状況では役に立たず、ビームボーゲンも数門だけで弾幕を張ることなんてできない。
だからこそ、ミカエルとルシファーはビームソードを構える。決め手となり得るものがそれしか無いために。
「私は負けない!レイカさんのためにも!」
『知らないな。1万人の中の誰だ?それは!』
「自分で殺した人のことを!」
『有象無象なんていちいち覚えていられるか!』
「ひとでなし!」
『殺戮者だ俺は!ずっと前からな!』
「この……!」
だからこそ、剣劇は激しくなる。乗せられる感情も強くなる。
「死ねぇぇぇ!」
ミカエルは両手のビームソードを振るってルシファーへ叩き込み、ビームボーゲンやサブスラスターを破壊する。
『それすら分からないお前が……偉そうに言うな!』
ルシファーは右手の手持ち式ビームソードと固定式ビームソードを切り替えつつ振るい、ミカエルのビームソードとの間で閃光を発していく。
また、要所では右足の固定式ビームソードを発振させながら蹴りを放ち、装甲を削った。
「このぉぉ!」
『ちゃんと狙ってみろ!やる気あるのか?』
「黙って!戦いでしょ!」
『甘ちゃんがよく叫ぶ。もっと言ってみろ。え?』
「リントッ!」
『はっ!また感情任せか?』
「私は違う!絶対に勝つ!」
『やってみろ!』
スラスターが減り、関節部にダメージが溜まり、戦闘スピードは開始直後より遅くなった。
しかし、その中に含まれる気迫は同じかそれ以上だ。だからこそ密度が濃く、激しい戦闘が繰り広げられている。
いや、気迫と言うよりも……
「何で殺すの!」
『は?』
「何で殺すの!何で、殺さなくたって!」
『……黙れ』
「殺すからダメなんだよ!だって……」
『黙れ!』
凛斗の叫びと共に、ミカエルの右肩をルシファーの右手の固定式ビームソードが貫通した。そのまま切断されたため、右肩がショルダーシールドごと根本から失われる。
『黙れ黙れ!偉そうなことを言うな!何も分かってないくせに!何も知らないくせに!』
「知らないよ、私は。けど!」
『けど何だ!殺さないで勝つ方法でもあるのか?あるんだったら言ってみろ!』
「コックピットを撃つからでしょ!」
『甘えたことを言うな!殺してくるなら殺し返すしかないんだよ!』
「そんなことをするから!」
『だからどうした!先にやってきたのはお前らだ!』
「殺さなくたって止められる!」
『殺さないと止まらないだろ!お前らは!だから、俺は!』
「でも!」
『黙れぇぇ!』
ルシファーがスラスター最大出力で斬撃を放ち、ミカエルを海面方向へ叩き落とす。ミカエルはそれに押され、海中に沈むことはなかったものの姿勢を崩す。
だが、どうにか崩れた瞬間を狙ったルシファーの一閃を躱し、水飛沫と水蒸気を使ってルシファーから離れた。そしてその間に体勢を立て直し、再び対峙する。
『口を開くな言葉を使うな音を出すな!お前は、お前は!』
「だったらなに!私に八つ当たりするの?かっこ悪いね、リント!」
『お前がいるからだ!お前がいなければ、あんなことにはならなかった!』
「そんなの……リントがいなければ良かったんだよ!全部リントのせいでしょ!」
『責任転嫁だ!それは!』
「リントこそ!勝手なこと言わないで!」
『ふざけるな……!』
「うるさい……!」
そして、両機ともに右手に持ったビームソードを振りかぶり、同時に袈裟懸けを放った。
『死ねぇぇぇぇ!!』
「ヤァァァァァ!!」
2機が放った斬撃は激しく衝突し、閃光を放った。
だがルシファーはビームソードが衝突した瞬間、反動を利用しつつスラスターを調整して背後へ回り、ミカエルの右翼を斬り落とす。これでプラズマスラスターは使えなくなった。
しかし同時に、振り返ったミカエルの一閃によって、ルシファーの右腕が肘から断ち切られる。これでビームソードは1本だけとなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
『はぁ、はぁ、はぁ……』
満身創痍の2機。辛うじて飛べているような状態の機体達は、今なお戦意を保っている。
翼を2つ失い、四肢も左腕しか残っていないミカエル。バックパック部分のメインスラスターは無事だが全身に損傷があり、サブスラスターの残りは2割も無い。
翼を片方と両腕、左足を失ったルシファー。全身傷だらけでビームボーゲンは90%以上が破壊され、残った物もケーブル断裂などによる機能不全で動かない。
そんな状態だというのに、忠実に主に従っている。
「リント、どうしてなの……」
『メイ、俺は……』
「私、何を間違えたの?何でこうなったの?」
『何も間違えてない。俺は、メイは……俺達は、何も間違ってない』
「じゃあ……」
そんな対峙をする2機の中で、凛斗とメイは口を開いた。
殺し合いではなく、競い合いでもなく、ただ話をするためだけに。
「どうして戦うの……あんなに殺して、争いばっかり生み出して……どうして!」
『最初に手を出してきたのは帝国だ!お前らだ!謀って、殺して!俺達がしていることは正当な抵抗だ!』
「殺すことに正当も何も無いよ!」
『なら……』
正義、悪、主義主張、偽善、絶対悪。明確な定義などなく、人が作り、人を操るもの。
そんなあやふやなものが2人の中で暴れていた。
『何で帝国の殺戮に手を貸す!お前も見ただろ!あれは悪以外の何物でもない!』
「こっちにだって、こっちの正義があるから!」
『俺だって、正義なんて人の数だけあるのは分かってる。けどな!奴らはその綺麗事すら守らない!口と手でやってることが全然違う!』
「それでも!」
『俺達は日本人が日本人らしく住める場所が欲しいだけだ!何でその邪魔をする!』
立場、地位、血統、所属。人を雁字搦めにするものが2人を縛り、引き離し、争わせている。
だが、この場にそれは無い。ただ人と人として、一個人として、相手にぶつかることができる。
『答えろ!メイルディーア・ハイシェルト!』
凛斗は、己の望みのため。心の奥底にあるドス黒い願望のため。
「私は!守りたいものを守るだけ!」
メイは、救われるため。救い出してくれる誰かを、待ち続けていたが故に。
「私が守りたいものを守る。ただそれだけ!それだけなのに!」
『それは俺も同じだ!守れなかったものを守りたいんだ!』
それを理解しているわけではない。理性で抑えこめていない。ただ己の感情に従い、声を上げる。
そんな2人、メイと凛斗の視界は霞みはじめる。
「私は、私は!」
『俺は……』
彼らは同じだ。同類だ。
彼らは違う。正反対だ。
『俺は、好きな女は自分で守る』
「私は、みんなを守りたい!」
理性が働き、感情を抑え込む。
感情に流され、理性が壊れる。
「私が好きなみんなを守りたい……!」
『本当は、メイを戦わせたくなんてない……』
本音は理性でもって制御する。
建前なんてものは感情の役に立たない。
「私がしっかりしてれば……あんなことにならなかったのに……でも」
『殺させたくなんてなかった……こんな道を選ばせたくなかった……』
そのため、メイと凛斗の口は勝手に動く。心が命じるままに。
「それでもリントを守りたい!」
『こんな、こんな壊れるだけの世界に来て欲しくなかった……!』
1人の男として、彼は叫ぶ。己の本心を、願いを、望みを。叶えられないのだと、理性では分かっていても。
1人の女として、彼女は叫ぶ。己の心を、想いを、懇願を。叶えてほしいと、他人任せなことを望みつつ。
「でも何で、何でなの……何でこんなことしてるの!」
『重い、辛い、苦しい……何で、どうして俺はこんな所にいるんだ……どれだけ殺せばいいんだ……!』
涙を流し、声を荒げ、2人は叫んだ。心の底から。
「私達は」
『俺達は』
「同じなのに」
『同じだろ』
未来へと続く道。それは2人とも分からない。今を生きることしかできないのだから。
しかし、今を生きる2人だからこそ、未来を選べる。道を歩き、先へ進むことができる。
だからこそ、今は終わらせることにした。
「私がちゃんとしてれば、リントに殺させたりしなかった……」
『メイに殺させた……それが俺の罪だ』
ミカエルは左手のビームソードを構え、胴体に残るスラスター全てを全力稼動させる。
ルシファーは右足の固定式ビームソードを発振、メインスラスターの出力を上げていく。
『何で、どうして……』
「なのに、どうして……」
残った1つだけの武器。それを使った全力の一撃。
ミカエルの突きとルシファーの薙ぎ払い。
『どうして、そこにいるんだ!』
「どうして、そこにいるの!」
その一閃で、決着はついた。
「あっ……」
『くっ……』
ミカエルのビームソードはルシファーの顔を貫き、機体から脱落させる。
ルシファーの固定式ビームソードはミカエルの腹部を真っ二つに斬り裂き、ジェネレーターを粉砕した。
「リン、ト……!」
メイが伸ばした手は届かず、凛斗が伸ばせなかった腕と繋がることはない。
そして上半身と下半身に分かれ、ミカエルは海へ落ちていった。




