第31話「血戦」後編
『う、撃て撃て!』
『応答しろ!おい、キース!』
『来るな、来るなぁぁ!』
『ギャァァァアア!!』
バトラーとエアロ、およびシルフィードの編隊が戦うが、どう足掻こうと一方的にやられていく。
彼らの視界で舞っているのは、黒い堕天使。
『ほんとに魔王じゃねぇか!』
『チクショウ!何なんだこの化け物は!』
『誰か勇者様呼んでこいよ!』
『いねぇよンなもん!』
その相手に、地上のバトラー、サラマンダー、ノームも蹂躙されていた。
ビームライフル、ビーム砲、ミサイル、ビームガトリングなどで攻撃するが当たらず、上空から降り注ぐビームに貫かれ、撃破されていく。
『バックス!ジェイク!ライアン!クソがぁぁぁ!』
『待て、行くな!』
錯乱して飛び出したバトラーが一方的に狩られ、それを静止しようとした機体も次の瞬間には爆散した。
『ひぃ!何だよ、何なんだよ!』
『クソッタレ!』
『逃げるな!戦え!』
『勝てねぇだろ!』
ルシファーに抗おうにも、機動性と火力の差で蹂躙され、近寄ることすらできずに撃破される。どうにか接近できた機体も、ビームソードの一閃で両断された。
逃げ出したパイロット達はまだマシだろう。見ていなかったおかげで、死ぬ瞬間を自覚しなかったのだから。
『い、嫌だ!かあさっ』
『フリード!』
『またかよ!』
『ちくしょうが!』
抵抗した機体も、逃げようとした機体も、分け隔てなく撃破されていく。
管制塔、格納庫、防衛兵器などありとあらゆる場所で破滅が引き起こされている。
一方的に、容赦無く、虐殺が実行された。
『ぎゃあ⁉︎』
『た、たすけっ』
『死にたくない、死にたくない……』
『誰か!他に誰かいないのか!』
周囲の帝国軍機は次々と減っていき、基地は破壊されていく。
そして、偶然にも最後に残った1機のバトラー。そのパイロットが最期に見たのは、光を溜めた銃口。
『誰かっ、な、あ、あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!』
その直後、映像が真っ黒に染まり、止められた。
「これが5日前、壊滅したレイテ基地所属機から回収できた戦闘データだよ。見た通り、一方的に蹂躙された形だね。そしてこれを皮切りに、小規模基地が次々とルシファーに襲われてるよ」
バーグナー艦長の説明と同時にスクリーンへ地図が映し出される。その中には赤いバツ印が付けられた地点が8つ、ここが襲撃を受けた基地の場所だ。
また、単艦だったり小規模部隊が移動中のルシファーに捕捉され、全滅した場合もある。その数は数十に達しており、黒点で表示されていた。
「潰された小規模基地は8ヶ所、軍としてのダメージは多くないけど、少なくもない。そろそろ、こっちにも苦情が来そうだね」
まだ本気で狙っていなかったとはいえ、彼らは明けの明星の討伐を作戦目標に掲げていたのだ。無責任に騒ぐ者は出てくるだろう。
それを気にしすぎる必要は無いのだが。
「けど、警戒の不備なんてこっちの管轄外だ。わたし達にとっての問題は例の、ルシファーのビーコンがまた起動していること、だろうね」
とはいえ、無関係とも言い切れない。
こんな分かりやすい挑発を受けていては、動かないわけにもいかないだろう。
「場所は北マリアナ諸島パハロス島だよ。2日前から基地襲撃の前に1日1時間ずつ、9時から10時の間に発信されている。前と同じく、君達を呼んでいるんだろうね」
「……存在の確認は?」
「無理だったね。ビーコン作動中に近づいた偵察機は撃墜されたよ。作動してない時は何もいなかったらしいけど……間違いなく、いる」
「分かりました」
「メイちゃん?」
「メイ?」
「明日、襲撃します。できますか?艦長」
「できなくは無いね。本当に行くのかい?」
「はい。今しか無いと思います」
「そうかい。なら、整備兵連中に伝えとくんだね」
「了解です」
その後、退出するバーグナー艦長を敬礼で見送り……メイへ何人か詰め寄った。
「おいメイ、良いのかそれで」
「何が?」
「……戦いについてだ」
「お前、そのままやっちまうなんて……」
「だって軍人だもん。私はやるよ」
「だが……」
「ちょっと3人とも、やめなさいよ」
「ほら、下っ端は下っ端でやることあるんだから」
「メイちゃん、ミカエルの調整するんだよね?整備兵の人達にも話があるんだし、行ってきたら?」
「あ、うん。じゃあ、行ってくるね」
しかし残りの面々に引き離され、メイは格納庫へ向かう。
そして、部屋に残った6人は2つに分かれて言い合う。
「バカじゃないの?」
「この前決めたよね?メイの手助けをするって」
「けどよ、こんなのってのは……」
「それでもでしょ」
「うん、ボクもそう思う。それに、ボク達だと何もできないもん……」
「……そうだな……」
「どこか変だけど、どうしたら良いか、なんて分からないしね」
「あー、それもそうか……」
「どうしたら良いのかな?」
「分かれば苦労しないぜ、こんなことによ」
しかし、簡単に答えが出たりはしない。簡単に出るのであれば、メイが迷うことも無いのだから。
そして、そうだと知っていても、彼らが諦めることはない。戻って欲しい、そう願っている。
一方、格納庫に着いたメイは……
「ん?嬢ちゃん、どうかしたか?」
「明日の昼に出撃することになりました。その予定で整備をお願いできますか?」
「それくらいは簡単なことだ。任せておけ」
「ありがとうございます。それと、チューニングもお願いできますか?」
「チューニング?これ以上か?今のでもかなり……」
「今よりもっと、です。限界までお願いします」
「……どうかしたか?嬢ちゃん」
「勝ちたい……いえ、勝ちます、明日こそ。だからお願いします」
整備兵への無茶振りを行なっていた。今のチューニングもかなりギリギリで、人が扱える限界かもしれない。
だがメイは本気で、それ以上のものを求めていた。真剣に、真摯に思うその眼に、整備兵の方が折れる。
「……分かった。だったら限界までやってやろう」
「ありがとうございます」
「ただし、嬢ちゃんも手伝えよ?これ以上のチューニングはパイロット無しだと取っ掛かりも作れなさそうでな」
「はい、分かりました。いつしますか?」
「そうだな……すぐにやるとしよう」
「了解です」
そう言われ、メイは急ぐようにパイロットスーツに着替えて、ミカエルへ乗り込む。
ミカエルのハード面でのチューニングは既に限界までされており、まだ余裕があるのはソフト面の方だ。そして、ソフト面のチューニングにはパイロットが立ち会ったりもする。
特に、今回のような限界まで行う場合は脳波コントロールとの同期も含め、パイロットは必須だった。
『聞こえるか?嬢ちゃん』
「はい、大丈夫です」
『これからチューニングを始める。何か気付いたらそっちでも調節してくれ』
「分かりました」
『腕から始めるぞ』
「はい」
そして多少まごつきつつも、二人三脚でチューニングを進めていく。
ガントリーに収めたまま軽く動かしたりもし、満足のいく結果となった……整備兵にとっては。
『一通り終わったな。降りて良いぞ、嬢ちゃん』
「もっとお願いします」
『は?……いや、だが、これ以上は……』
「出来るんですよね?だったらお願いします」
『……それで良いのか?』
「はい」
だが、メイにとってはまだまだだ。整備兵が求める以上の要望を出し、困らせつつも達成させていく。
そんな無茶振りはしばらく続き、数時間後。
『これが限界だ。動かせるのか?』
「はい、大丈夫みたいです」
『そうか……満足したか?嬢ちゃん』
「はい、ありがとうございました」
『整備後に微調整でまた呼ぶ。嬢ちゃん、それまで休んでな』
「了解です」
そう言うと整備兵は機体から離れ、整備兵用休憩室へ向かっていった。流石に疲れたのだろう。
だが、メイはまだ降りない。コックピットの中で蹲り、呟く。
「レイカさん、ようやくです……だから……」
彼女の行く先、そこに何が待ち受けているのか。
それは彼女自身が決めることであり、まだ誰も知らなかった。
「ようやく手がかりを掴めましたか」
「はい、殿下。本格的な接触はまだですが、それも時間の問題でしょう」
「とはいえ、油断はしないように。また、利用相手というわけでもありません。誠意を忘れるな、と伝えてください」
「は!」
この日、マイリアは月の離宮で執務を行っていた。それと同時に、いくつかの計画も進めている。
隣には護衛としてレグルトがおり、端末でどこかと連絡を取り合っている。と、ちょうどそれが終わったようだ。
「マイリア」
「そちらはどうですか?」
「ダメみたいだよ。防諜網が厳重すぎて、何もできていないらしい。資材の消費量は多いみたいだけど」
「そうですか……はぁ」
「諦める?」
「いえ、続けさせてください。それが切り札である可能性もあります。それをどうにかしなければ、何もできなくなるでしょう」
「そこまで?」
「ええ。何か嫌な予感がします」
嫌な予感は予想以上に良く当たる。マイリアもそういう考えの人間なので、それの対処を行う。
もちろん、現状では限界があるため、他のことも行う必要があるのだが。
「しかし、見つかっていないのであれば仕方がありません。優先順位はそのまま、他のものをいくつか繰り上げましょう」
「具体的には?」
「この2つを1段階、これは1段階上げるように通達を。こちらの4つは1段階下げても良さそうですね」
「了解。通達しておくよ」
「お願いしますね」
情報管理は彼女達にとって最も重要な事項で、万全の保全・秘匿体制が敷かれている。
そして、それは常に更新されており……新しく入ってきた情報にマイリアは眉をひそめた。
「ふむ……この情報はあまりよろしくありませんね。少し予定を修正しますか」
「何かやることはある?」
「そうですね……C2B1グループの諜報員に連絡を。工作拠点を増やし、このエリアの監視を行わせてください」
「ああ、そうやるんだ。それなら他にも応用できそうだし、反対は少なそうだね」
「はい。今後、追加で指示を送りそうですね。それについても伝えてもらえますか?」
「分かった。行ってくるよ」
それらのことを行うためレグルトが部屋を出た後、マイリアは1人呟く。
「私は準備を進めていますよ。メイ、貴女はどうするつもりですか?」
彼女が思い描く未来にて、彼女が最も望むことを。
「ルシファーのビーコンはどうですか?」
『10分前から確認されています。位置は同じです』
「分かりました。5分以内に見えると思います。それと、戦闘になったら通信は出来ないと思うので、ここで切ります」
『了解、幸運を』
そして翌日、メイ達はエンジェルシリーズの各機に乗り、海の上を飛んでいた。
目的地のパハロス島はSAGAの足ですぐ近くにある。
「もうすぐだよ。みんな、良い?」
『ああ、問題無い』
『大丈夫、行けるよ』
「そっか。なら、作戦通り動けるね」
『もう1つじゃなくて良い?』
「うん、大丈夫」
『でも……』
『クリス』
『はーい』
そうして飛んでいると、視界に黒い点が映った。
『……見えたぞ』
「分かった。みんな、予定通り……え?」
それを見付け、戦う覚悟を決めた7人。
だがそれに反するように、ルシファー以外の6機は散開した。それも島から離れるように、かなりの高速で。
連携するつもりはない、そう言っているように思える。
『おいおい何だよ、何でワザワザ離れて……』
「行って」
『メイちゃん?』
「みんな、行ってくれる?6機の方に、同じ感じで」
『……良いのか?』
「うん。ルシファーの相手は私がするから」
『そっか……』
『頑張れ、メイ』
分かれた6機と違い、ミカエルは前進を続ける。
それを見つめるルシファーも、その場に留まり続けていた。
「さてと、私は……あれ?レーザー通信?」
目的は互いに同じ、しかし立場は違う。
いつもと同じレーザー通信も、その違いを荒立てるように思える。
『メイ、降伏しろ。今ならまだ助けてやる』
そう告げる凛斗の口調は固く、乗せられた感情は少ない。また彼の言葉と同時に、ミカエルはルシファーと対峙する。
どちらも、まだ指は引き金にかかっていない。
「リント……意味分かって言ってるの?」
『言葉通りだ。ミカエルを手土産にすれば、パイロットなんてどうでも良い』
「やっぱり。でも、私はそんなことしないよ」
『だよな。だからこの手を使ったんだ』
「この呼び出しのこと?」
『ああ。有効な手は何回も使わないとな?』
「そうかも。だから私も来たんだけど」
『この前の続きか?いや、違うな』
「うん。今度は勝つよ」
『いや、また俺が勝つ。そのために1対1にしたんだぞ?』
「へえ、自分から勝ちを捨てたの?」
『はっ、今まで負け続けでよくそんなことが言えるな。俺は勝ちを拾いに来ただけだ。それに、これなら思う存分暴れられる』
「そっか。じゃあ……」
『だから……』
ミカエルが大刀型クルセイダーを両手で構える。
ルシファーが2振りのビームソードを引き抜く。
「レイカさんの……」
『兄貴の……』
ミカエルはプラズマスラスターに投じるエネルギー量を増やす。
ルシファーは全スラスターをフル稼動一歩手前に持って行く。
「『仇!!』」
そして、閃光が煌めいた。




