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少年少女の人型機甲戦闘機戦記 - Strong Armys of GigAntes  作者: ニコライ
第1部

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第30話「8年」前編

 



「次が来るぞ!空けろ空けろ!」

「ガントリーが足りん?んなわけあるか!さっさと出せ!」

「3番格納庫へ向かえ。人手が足りないらしい」

「エアロの補修パーツ持ってこい!」

「そっちのSAGA(サーガ)を動かせ!無理矢理こじ開けるぞ!」

「無茶言うな!くそ、パイロットどこだよ」


 スパイダー艦内は非常に慌ただしく、整備兵たちの怒声が響き渡っていた。

 作戦は成功と言って良いだろう。明けの明星のSAGA(サーガ)を何機も落とし、損傷機はさらに多い。

 だが、極東特務軍団の被害も大きかった。


「酷いようだね」

「艦長!」

「良いよ、作業を続けな。状況はどうだい?」

「正直に言えば、最悪に近いです。損失機だけでなく、損傷機も多数存在します。艦は無傷とはいえ、整備兵が足りるかどうか……」

「また、指揮官機の被害が多すぎます。再編成は困難かと」

「そうかい……やってくれたね、あいつらも」


 帰ってきた機体に無傷のものはほとんど無く、大破が4割を超えている。戦死と戦傷によりパイロットは半分以上も減り、艦艇も含めた戦力評価は3割以下という大損害。壊滅としか言えない状態だった。

 そもそも、中隊長や大隊長が優先的に落とされたことにより、このまま再編成をしても元の1割あれば良いところだろう。

 そして損傷機の修理は始まっているが、数が多すぎて手が回らない状況だった。ガントリーの自動修理機能では直せない機体が多く、重整備装置の数は少ない。そして自動化が進んだとはいえ、修理には完璧なマニュアルが存在しないため整備兵が何人も必要だ。ここまで大損害を受けては、艦内でやれることなどかなり少なくなってしまう。


「あいつも、あいつも、あの子も……」

「いったい何人死んだんだ……!」

「囲んで叩くだけじゃなかったの……」

「ちくしょう!魔王め!」


 だからこそ、悪態や恨み節も多くなるものだ。特に最前線で戦ったパイロット達は目の前で戦友が散ったのもあり、一部では元から持っていた他国人への蔑視と合わさり、怨念に近い感情が形成されつつあった。

 しかし、同じ感情を共有できる整備兵は忙しく、他の者では完全な共感はできないため、パイロット達へかけられる言葉は少ない。

 それがどれだけ問題となるか、誰にも分からないが。


「はぁ……この損耗具合、潮時かもね」

「艦長?」

「上がどう言うと思う?たった数十機に100機以上も落とされた無能、消極的過ぎる作戦目標すら十分に達成できなかった……閑職で済めば良い方かもしれないよ。軍団の初戦だとしてもね」

「そう、かもしれませんが……」

「しかし、戦闘詳報を見れば分かるのでは?」

「そういう上司が多ければ苦労はしないよ。整備長、エンジェルシリーズを先に直してやりな。あの子らの方が戦力になるし、直しやすい方だろう?」

「交換だけで良い場所が多いようですからな。確かにそうでしょう……子どもに任せるのは気分が良くありませんが」

「安心しな、わたしもだよ。せめて綺麗にして帰したい、その程度さ」


 エンジェルシリーズの被害も大きく、ガブリエル、ウリエル、レミエルは中破判定を受けた。残りの4機も損傷箇所が多く、小破判定となっている。

 しかし、コックピットやジェネレーター周りの損傷がほぼ無いため、整備兵としては楽な仕事だ。損傷部位を丸ごと交換して動作確認をするだけで良いのだから。

 というより、エンジェルシリーズ最大の被害は機体ではない。


「しかし艦長、ハイシェルト少尉は……」

「ああ、そうだったね。けど、嬢ちゃんも軍人なんだ。時間で解決させるしかないよ」

「そうでしょう。しかし、アレはいくらかおかしいとも思いますが」

「確かに。初めてというには過剰反応かと」

「なるほど、他にも何かあったのか……」


 パイロット、特にメイの様子がおかしかった。

 スパイダーに乗ったばかりの頃と似た、それでいてまた少し違う、そんな雰囲気を纏っている。


「あの子にとっては、これも試練なのかもしれないね」


 バーグナー艦長はそう呟き、少女への采配を考えていた。






「私、私は……」

「メイちゃん……?」

「ちょっとメイ、しっかりしなさい!」

「いや、もう嫌なの……」


 自分のベッドの上でうずくまり、呟き続けるメイ。

 彼女の目は虚ろで、すぐそばにいる3人すら視界に入っていない。


「ねえ、メイ。何かあった?」

「ダメ、いや、いやぁ……」

「ほんと、どうしたの?」


 この惨状にクリス、シア、ニーネは思わず頭を抱えた。自分達が悲しむ暇も無いほどに。

 凛斗が死んだと思っていた時もそうだが、メイが落ち込んだ時の面倒臭さは折り紙付きだ。3人とも、これには笑うしかない。

 そしてそこには、こんな面倒臭い友人を見捨てられない自分への苦笑も含まれている。


「だって、私……レイカさん、が……」

「分かるけどさ、ねぇメイ!」

「ダメなの、私は、ダメ……」

「もう……!」


 もっとも、友達であっても心理学者ではない彼女達には、どうすれば良いのかは分からない。

 前回とは違うようで、残念ながら打つ手が無かった。


「これ、どうする?」

「シアちゃん!」

「仕方なくない?無理でしょ、これ」

「でも……」

「シア、言い過ぎ。クリスも、そんなに噛みつかない。メイもわざとやってるんじゃないんだから」

「はーい」

「はいはい。けどニーネって、メイのことよく見てるね。そういう趣味なら描いてあげるけど?」

「なに?喧嘩売ってるの?」

「シアちゃん、ダメだよ。ニーネちゃんも」


 しかしそれでも、見放しはしない。

 溜まった若干の鬱憤を軽い口論で晴らしてから、また対策を考える。


「また……今度は本当に……もう喪わないって決めてたのに……」


 そのやり取りが当人に届かなかったとしても。


「なんで、どうして……んぅ……」


 そんなことをしばらくしているうちに、メイはベッドの上に倒れてしまった。

 疲れていたのだろう。彼女はすぐに寝息を立て始める。


「あれ、寝ちゃった?」

「みたい。このまま寝かせておく?」

「そうしよ。無理矢理起こしたら機嫌悪くなりそうだし、面倒でしょ?」

「面倒って……」

「本当のことだから」


 なのでそっとしておこうと、3人は部屋を出て、扉が閉まる。


「……リント……」


 そのため、メイの瞳から流れる涙は見つけられることなく、布に吸われて消えていった。


「はぁー……」

「どうしよっか」

「どうしようもなくない?あれ」


 それを知らずとも、彼女達が心配していることは変わらない。


「よう、お疲れさん」

「こっちの雑用は終わったぞ」

「……どうだった?」


 一方、デリカシーが無さそうだからと追い出された男3人。

 心配していたのは彼らも同じだが、メイの相手は女性陣の方が上手い。それに、戦闘後の報告書等も作らなければならず、そちらに従事していた。

 なお、デリカシーが無いのは1人だけとか言ってはいけない。


「無理無理。アレを立ち直らせるなんてさ」

「んなこと言うなよ。オレらがやらねぇで誰がやるんだ?」

「でもね……」

「ん?」

「……なるほど」


 全員が心配しているのは本当だし、どうにかして解決したいと思っているのは事実だ。

 だが同時に、それが簡単に終わらない理由も察しが付いてしまう。


「なるほど、リントが原因だからか。しかも作った側の」

「うん、多分。でも、メイちゃんにも何かあるんじゃないかな?」

「私達が知らない昔の話に、ね」

「あたし達より前だと……マイリアだけか」

「連絡するのか?」

「……できるか?」

「試しても良いが、期待は薄そうだ。皇女の仕事が本格的に始まり、忙しくなったらしい」

「そっか……どうしよう?」

「とりあえず、起きるまで待ちましょ。話ができなかったらまた考えるけど」

「だな」

「……分かった」


 メイの悲しみと共に、彼らの苦悩も続く。















「ジェネレーター緊急停止完了。親爺さん!」

「こじ開けるぞ。1、2、3!」

「さっさと処理しろ!火吹くぞ!」

「よし、こっちは終わりだ。次行くぞ次!」


 スパイダーは非常に慌ただしかった。それに対し、蒼龍の格納庫は地獄もかくやという状況だ。損傷機がそこかしこに並び、全ての機体に整備士が何人も取り付いていた。

 攻撃隊は伯父貴が追加派遣したハクゲイ隊の援護のおかげで蒼龍まで撤退できたが、損害は大きかった。


「急げ急げ!」

「搬入はこっちだ。モタモタするな!」

「輸血するよ!早く!」

「死ぬんじゃない!おい!」

「よし、大丈夫だよ。連れてきな」


 コクロウは出撃した24機中、大破11機、中破3機、小破2機。そして、損失が8機。

 ハクゲイも8機が出撃して大破2機、中破3機、小破3機。

 大破機のパイロットのうち8人は深い傷を負っており、今も懸命な救命活動が行われている。


「何ヶ所か装甲の交換を頼みます。あとライフルが寿命超えたんで、新品ください」

「ごめんなさい。ビーム砲何基か潰れました。交換してください」

「装甲交換、お願いします。あとサブスラスターも。関節は多分大丈夫です」

「あ、こっちも頼みたいです」

「あの、アスモデウスの狙撃銃、は?」

「ミサイルの補充が終わればすぐに出れます。他の武器を使えば良いので。はい、僕は大丈夫です」


 それと比べれば、デーモンシリーズは良い方なのだろう。

 退却時にアスモデウスが中破し、ルシファー以外の5機は小破となった。ルシファーも全体に傷を付けられ、ビームボーゲンとサブスラスターがいくつか稼動していない。

 しかし、それだけだ。大破はしていないし、死にかけたパイロットもいない。アスモデウスもメイン武装を破壊された程度。他と比べればマシで、緊急用の戦力として整備が優先されていた。

 働いていないとダメになってしまいそうな状況がマシと言えるのか、定かではないが。


「凛斗」

「伯父貴……ごめん」

「いや、俺こそすまなかった。お前の忠告を聞いていれば良かったのだろう」

「そんなこと言っても……俺だって証拠なんて無かったんだから、伯父貴に責任なんて無いだろ」

「それでもだ。本来であれば、前線に出すべきでは無かったが……」

「伯父貴、ストップ。あの時はああするしか無かったんだし、今さらそんなこと言っても変わらない。それに、兄貴の次は俺なんだろ?」

「ああ。だが凛斗、無理はするな」

「分かってる」


 凛斗も辛いし悲しい。兄代わりの人を喪ったのだから、苦しくないわけが無い。

 しかし、その割には冷静だった。直ぐ近くに暑苦しいくらい悔やんでいる面々がいるためだが。


「ちくしょう……!」

「クソッタレが!」

「何で、こんな……」

「またなのね……」


 明けの明星としての久しぶりの大敗に、部隊長たる兄貴を失ったことに、パイロット達は悲壮感を強めずにはいられなかった。8年前のようにまた失い続けるのではないかと、そう思ってしまっていた。

 負のスパイラルと呼べば良いのだろう。そこまで酷い状況ではないと理性で理解していても、感情と経験が悪いものを想像させている。

 だが、その思考は止められた。それを直接は知らない者によって。


「何やってるんだ、みんな」

「……何だよ」

「凛斗?」

「落ち込んでる暇なんて無いだろ。今は修理と補給が要るし、その後はまた帝国軍を攻撃する。それが俺達だろ。今日の失敗を生かさないと何にもならない」

「けどね……」

「それともアレか?やる気がなくなったのか?だったら、明けの明星SAGA(サーガ)部隊長は俺が引き継ぐ。文句は無いよな?」

「お前なぁ!」

「生きているなら戦い続ける。そう教えてくれたのは誰だ!」


 教えてくれた相手が腑抜けたなら、生徒が教師を叱ることも必要だ。蒼龍の、明けの明星のモチベーションを考えても、立ち直らせるしかない。

 だからこそ、そして自分自身のためにも、凛斗は声を荒げた。


「俺達はまだ生きてる。意志はある。力もある。だったら俺は戦い続ける。道?そんなものは自分で作る。時間?そんなものはいくらでもある。機体?重要なのは俺達だ!機体なんて何でも良い。戦争だけじゃない。困難に負けずに争い続ける。そう教えてくれただろ。ここで諦めて、いったい何のためになるんだ!誰のために!」


 それは凛斗の想いであり願い、信念であり心情。何をしようと、例えメイが敵になろうと、曲げない意志。

 それは大人達全員の心に響くほど強いものだった。


「俺は止まらない。止まりたくない。死んだのは俺達じゃない。みんなで誓っただろ!最期に託されたんだ!だから……!」

「そこまでで良い。一度落ち着け、凛斗」

「機体は何でも良い、なんて悲しいこと言うんじゃねぇぞ、凛斗」

「伯父貴、親爺さん」

「お前達はいつまでそうしているつもりだ?いつまで負け犬でいるつもりだ?お前達の覚悟はその程度か?今生きている者達も、死んでいった仲間とも、全員で誓っただろう。しっかりしろ」

「伯父貴……」

「ああ、そうだな」

「分かったら自分でやれることをやれ。子どもの手を煩わせるな」

「子どもって。伯父貴?」

「事実だ」


 その強さ故か、ある程度成功したらしい。大人達の悲壮感は薄くなり、各自で出来ることをやり始めた。

 ちなみに凛斗でなくても、伯父貴でも同じことはできただろう。しかし、忙しさが違う。


「だが凛斗。お前が上手く言ったおかげで、あいつらも立ち直った。それと、不甲斐無くて悪い」

「伯父貴も仕事があるだろ?というか今もやってるみたいだし、ここの残りは俺が……」

「いや。もう休め、凛斗。無理をするなと言ったはずだ」

「……了解。じゃあ、部屋に戻る」

「そうしろ」


 伯父貴は凛斗と話しながらも、端末を使って各部署の調整をしていた。しかし、それを手伝わせるつもりは無いらしい。

 それに実際疲れているため、凛斗はその言葉に従った。


「はぁ……」


 扉を開けると真っ暗だった自室に光が灯り、その中で凛斗はベッドに腰掛ける。

 彼はそのまま倒れ込もうとした……が、扉が閉まる前にもう1人が入り込んだ。


「ん?」

「凛斗」

「繭か。どうした?」

「その……泣いても良いんだよ、凛斗」

「繭?何言って……」

「だって、凛斗も辛そうだから。ううん、わたしより凛斗の方が辛いよね?苦しいよね?」


 繭はそう言い、凛斗の隣に座った。だが、凛斗の表情に変化はない。

 そこまで思い詰めているのであれば、あの場にいる誰よりも酷い状態になっていただろう。あんな話が出来るわけがないので、繭の考えは間違っているように見える。

 しかし……


「そんなことないぞ。さっきだって……」

「無理してるの、分かるよ。そんな悲しそうな目をしてるんだから」

「だから、だ。俺はこれから、兄貴の分まで……」

「でも、今は2人きりだし、わたしは秘密にするよ。これでもダメ?」

「俺は……」


 実は、冷静を装っていただけだった。

 心の中のドロドロしたものを仮面の下に押し込め、理性で動いているだけの人形。今の凛斗はそんな状態であり、壊れないように耐えていた。

 とはいえ、それはいつまでも続けられるものではない。もう限界だった。


「俺は、俺は……また、失って……!」

「大丈夫、大丈夫だから。わたしはここにいるよ」


 抱きしめられ、頭を撫でられ、優しく声をかけられる。

 そんな風に年下の女の子に慰められている、ということは凛斗の頭の中にはなかった。

 あるのはただ、悲しいという感情のみ。それが決壊するのに時間は必要ない。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 凛斗はまだ少年だ。楽しいことも辛いことも、全て豊かな感受性が受け止めてしまう。

 そして、それによる苦しみが何を生み出すのか分からぬまま、夢の世界へ旅立っていった。
















「追跡は受けていないようです。これからどうされますか、閣下?」

「情報部の予定通りで構わない。だが少佐、他の脱出部隊との連絡線を構築して欲しい」

「それは、パルチザン活動も辞さない、ということでしょうか」

「無論だ。最悪の場合は……いや、後だ。連絡線を先にやれ」

「了解しました」


 8年前、帝国軍によって東京最終防衛ラインが抜かれた後のこと。情報部との関わりが深い潜水艦の中に、秋山少将(伯父貴)仁王少佐(メガネさん)がいた。

 忙しくしている元軍人や元官僚の人達もいたから、逃走中って言葉が1番似合ってたな。

 あと、俺達もこの中にいる。


「では、彼らはどうされますか?」

「ただの避難民、であれば良かったが……おい、君」

「は、はい!」

「あの子ども達のことをしばらく任せる。無理に何かをする必要は無いが、自暴自棄になったら止めてやれ」

「はい、って、えぇ⁉︎」

「レンジャー徽章持ち一等軍曹ですか。良いかと思います。名前は?」

「第402空機兵師団第2大隊所属、原田宗弥です。少佐殿!」

「そう固くならなくて良いですよ。似たような歳でしょうし」

「む?そうなのか」

「はい。自分、スカウト組なものですか」


 東京で起きた殺戮。その中から救い出された戦災孤児がこの船だけでも50人以上いた。この時は大人しくしてたけど、保護された直後は半分くらいが錯乱してたよな。俺だってそうだった。

 で、そんな子ども達を受け持つことになった原田一等軍曹(兄貴)は、気が気じゃなかったらしい。まだ24歳の青年でしかなくて、荷が重かったって言ってたな。


「任せるって言われても……」

「おい原田、手伝うか?」

「助かる。にしても、子どものお守りなんて……いや、他にやれること無いけどな?」

「機体の無いパイロットなんてそんなものじゃねぇの?つーかこの後どうなんだ」

「さあ?それが分かったら苦労しないだろ。というか、壊した奴が言えた義理じゃないよなぁ」

「2人揃ってぶっ壊してるもんな」

「「あっはっは」」


 兄貴達は笑ってたけど、空笑いに近かったな。

 まあ、当然か。この時は余裕なんて無かったんだから。

 俺達だって、ほとんどはそうだ。沢山の人が死ぬ光景が脳裏から離れず、生きた屍のような姿をしていた。

 けど、1人の少年だけは目が違った。


「軍人さん、僕にも戦わせて」

「は?」

「いや、君……」

「あいつら、お父さんとお母さんを殺したんだ。何もしてないのに……絶対許さない。僕が殺してやる」

「つってもよ……」

「なあ君、名前は?俺は何て呼べばいい?」

「おい、原田」

「良いだろ、別に。で、名前は?」


 彼の目は憎悪に染まっていた。兄貴もそれが分かったんだろう。否定しないで聞いてくれた。

 だから、名前を告げた。覚悟と一緒に。


「凛斗……剣崎、凛斗」


 この時の俺が先の運命を知っていたら、どうしていたか分からない。

 けど……戦うことだけは止めなかっただろうな。多分。












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