第27話「英雄=悪魔」後編
「「「「おおーー!!」」」」
「わっ⁉︎」
「え、なに?」
「あー……そういうことか」
帝国軍の1ヶ大隊を殲滅し、街へ帰還した凛斗達は、盛大な歓声に迎えられた。しかし、これは当然のことだ。
7人が救援に来た時は劣勢下、観察していられる状況では無かったため、最初に降りた時は違った。
しかし未来を担う少年少女の技量を知った今、歓声をあげない理由はない。凛斗達はそれを実感することとなった。
「良くやった!坊主ども!」
「強いなお前ら!」
「ちょっと!?」
「ほらほら、遠慮すんなよ」
「うおっ⁉︎ちょ、まっ、うわっ⁉︎」
「最高!もうマジ最高!」
「ま、まって、きゃっ⁉︎」
揉みくちゃにされる6人と、上手いこと避けて上官へ挨拶に向かう凛斗。
恨めしそうな目線を向けられたが、努めて無視した。これくらいは容認されてしかるべきだろう。
「良くやってくれた、剣崎君。私は日本解放軍南九州支部参謀部の柳堂章雄だ」
「明けの明星SAGA隊次席指揮官、剣崎凛斗です。それで柳堂中佐、市民の移送については?」
「秋山閣下との話は終わった。20分以内に車両が到着、1時間以内に移送を開始する。君達にはその護衛を頼みたい」
「了解です。こちらはコクロウも回すとして……そちらは?」
「1ヶ大隊強、50機が精々だ。やられすぎた」
「仕方ありません。では、敵に対する攻勢防御は我々が務めます」
「頼む」
「了解」
上官側との話も伯父貴が上手くまとめていたため、問題無く交渉を終える。その結果、攻勢防御というか、初期迎撃というか、機動部隊としての任務を任されることとなった。
とはいえ、気が抜けるわけではない。護衛対象が近くにいない分、全ての敵機を防がなければならないというわけでは無いが、苛烈な攻撃に晒されることも事実。重要な任務になる。
とはいえ、報連相も重要だ。確認を取るため、こちら側の責任者に話を通しておく。
「凛斗」
「伯父貴、さっき柳堂中佐から聞いたけど、その通りに?」
「そうだ。その指揮は全てお前に任せる。俺は先に蒼龍へ戻るとしよう」
「全てって……あと足は?」
「連絡艇を呼んである。あと5分もすれば来るはずだ」
「何で連絡機じゃ……連絡艇の方が見つけにくいからか」
「そういうことだ。凛斗、任せたぞ」
「了解。じゃ、好きにやってくる」
通さなくても問題は無かったかもしれないが……まあ、礼儀というやつだ。
またついでに、凛斗は未だに囲まれている6人の方を指差し……
「で、アレは?」
「しばらくそのままで良いだろう。慣れるべきだ」
「え?こんな機会なんてそんなに……なるほど」
端末に書かれた文で理解した。確かに、それをするなら必要だろう。自分も同じ役目を負うことになる、それを理解しつつ。
とはいえ、あのまま放置するわけにもいかない。説明をしなければ、作戦を実行できない。
「はい、解散してください。次の動きがあるので」
「おうおう、仕方ねぇ」
「じゃあな」
「頑張れよー」
「ぜぇ、はぁ……」
「何あれ……」
「お疲れ様」
そうして解放された6人は慣れないことをされた結果、疲れ果て、座り込んでいた。
それを見て、凛斗は若干の罪悪感を覚えていたが、告げる言葉を変えるつもりは無い。
「さて、次の任務だ。ここから市民を移送する際、俺達も護衛を行う。攻勢防御をな」
「ってことは」
「やるんですね」
「ああ。いつでも良いように準備しておけ」
「了解。じゃ、また北かな」
「え、同じかな?」
「さあな。けどまあ、来たら対処するだけだ」
「そうだね」
護衛が必要な時間は短く、敵機の予想出現数は少ない。そして全員、士気は高い。任務の達成に支障は無いだろう。
もっとも、時間になるまでは待機だが。
「そういえば繭、姉御から何か聞いてないか?」
「え?何を?」
「確か、哨戒や休憩の順番の変更だったな」
「ううん、何にも聞いてないよ。何か頼んでたの?」
「いや、姉御が言ってきた」
「それを?珍しいね、何でかな?」
「あ、私それ知ってるよ」
「香織?」
「え、何で?」
「だって私が言い始めだし。凛斗も、そっちの方が良いんじゃないの?」
「まあ、俺がいない時のままだしな。変えてもらった方が都合は良いか」
「なら、そっちの方が良いですよね、凛斗さん。それと水もどうぞ」
「助かる。ああ聡、何か聞いてるか?」
「僕も何も。剛毅さんは?」
「俺か?俺もだ」
「その……わたしは、少しだけ」
「ってことは、まだ何も決まってないんだな」
なのでこんな風に、しばらく雑談が続いた。
しかし、運命が与えてくれる時間は短いらしい。準備が整う前に、彼らの耳へオペレーターからの一報が届いた。
「データリンクより敵を確認!」
「来たか!」
「ちっ、早いな」
「乗れ乗れ!」
日本解放軍もそれを聞き、慌ただしくSAGAを起動させていく。
凛斗達も愛機に乗り込み、簡易司令部とコンタクトを取った。
「予想より早い……司令部、こちらレオ1、明けの明星派遣部隊隊長機ルシファー。どこから来ますか?」
『こちら司令部。先ほど確認したのは北九州方面から約70機、恐らく2ヶ大隊が……』
『待ってください!四国方面からも約50機が接近、増強大隊の可能性あり!』
「ちっ、2方向から……準備は?」
『できでるよ』
『こ、こっちも』
「了解。司令部、市民の移送はどうですか?」
『現在車両へ搭乗中、まもなく終わります』
「なら早く出してください。この7機で四国の方の敵を先に蹴散らしてきます。北はその後に。コクロウは護衛に使ってください。もしくは遅滞戦闘に」
『了解です。お願いします』
他人任せではあるが、仕方がない。日本解放軍のエース部隊は近くにおらず、市民に被害を出さないためには凛斗達だけが頼りだ。
当然ながら、それは凛斗達も分かっており、一層気合が入った。
「聞いてたな?東の敵から片付ける。スピードが命だ、追い返せればそれで良い」
『了解!』
『はい!』
「ただし、雑にやり過ぎるなよ。戻って来たらもっと面倒だからな」
7機は魚鱗型の隊形を組み、レーダーに見つからないよう低空を飛ぶ。
そして海岸線からしばらく飛んだところで、同程度の高度にいる敵機を見つけた。
『見つけた!ジャッジメントが47機!』
「潤人と智子はここで待機、北へ向かいつつ射程に入ったら撃て。他はこのまま……」
『敵機がミサイルを発射!』
「回避と迎撃!近くに来たら俺が撃ち落とす。それと、敵機にミサイルを残り全部くれてやれ!」
『了解!』
『やるぞ!』
陣形の後端にいたベルゼブブとアスモデウスを分離、今度はルシファーが先頭になって突撃する。
速度を上げつつ、敵ミサイルをビームボーゲンで撃ち落とし、突撃を継続。その間に200発を超えるミサイルが敵機に迫り、炸裂。4機が落ちた。
「蹴散らすぞ。ぶちかませ!」
流石に、武装法務隊に配置される精鋭をミサイルだけで落とすことはできなかった。
だが武装法務隊と言っても、スパイダーに乗っていた連中には劣る。この程度の敵なら何度も戦ってきた。
『撃ちます』
『や、やります』
ベルゼブブの砲撃とアスモデウスの狙撃が放たれる。相手が相手なため、砲撃と狙撃を集中させたことで数は減るが、4機を落とす。
さらに、ルシファーは一足先に高出力ビームライフルで射撃、2機を落とした。
『行くぞ!』
『射撃用意良し。行くよ』
サタンとリヴィアタンも撃ち始め、何機かを撃破する。
ジャッジメントも撃ってくるが、射撃精度はデーモンシリーズの方が上だ。それは回避と防御の技術でも同じ、これにより一方的に削る結果が生まれた。
『聡、行こう!』
『分かった!』
「俺も行く」
『凛斗、過保護だよ?』
「さあ、どうかな」
左翼側のベルフェゴールとマモンも行動を開始。ビームサブマシンガンおよびビームカービンライフルを構え、メインスラスターの出力を上げる。
ルシファーも固定式ビームソード4基を発振し、それに追随した。
「繭と聡は左からだ。俺は右からやる」
『了解』
『はい』
「ミスするなよ。3、2、1、散開!」
そして合図のタイミングで左右に分かれると、その間をベルゼブブの砲撃とアスモデウスの狙撃が通過する。
それでさらに4機が落ち、残りは30機。通常の1ヶ大隊を下回った。
ちなみに悪名が広がっているのか、敵機からのの攻撃はルシファーに集中している。
「はぁぁ!」
だが、当たらない。
その高い機動性をもって敵からの射撃は避け、高出力ビームライフルでの反撃は的確に敵機を撃ち抜く。
また、射程距離に入ると同時にビームボーゲンを斉射、10条以上を1機に集中させることで、4機を撃墜した。
そしてそのまま、敵の隊列中へ吶喊する。
「遅いな。はっ!」
先頭の敵の下を潜り抜け、翼のハイビームボーゲンで撃ち落とす。
続いて接近してきた敵機の右腕を切り落とし、返す刀でジェネレーターが半壊するよう斬り裂く。さらに、真下にいる敵機を高出力ビームライフルで脳天から撃ち抜いた。
また、敵機が振りかぶったビームソードは右手の盾で防いだ後、左足のビームソードでコックピットを貫く。
盾を構えて接近してきた敵にはプラズマ収束砲を至近距離から発射、アンチビームコーティングを融解させてジェネレーターごと消し飛ばした。
左右からタイミングを合わせてきた敵にはビームソードで鍔迫り合いを行い、ビームボーゲンで蜂の巣にする。
『やぁぁ!』
『次!』
「隊長機から落としていけ。分かるな?」
『うん、分かってる!』
繭と聡も負けてはいない。
ベルフェゴールがビームサブマシンガンで追い込んだところを、マモンの高出力ビーム砲や小口径プラズマ収束砲が狙い撃つ。
もしくはマモンのビームカービンライフルを避けたところ、ベルフェゴールのビームソードで真っ二つにされる。
サタンとリヴィアタンも近接戦闘に参戦し、戦場は狩りの様子を見せ始めた。
『落ちろ落ちろ!』
『このままぁ!』
「ちっ、崩れないか。予定変更、全機落とせ!」
『了解!』
しかし、崩れない。既に半数を切っているのだが、ジャッジメントは撤退しなかった。
もちろん、今退くなら激しく追撃するつもりだが、撤退されないのも困りごとだった。
殲滅も視野に入れつつ、凛斗達は戦闘を継続する。
『凛斗、まだ大丈夫⁉︎』
『見えたりしません?』
「時間は大丈夫なはずだ。潤人、何か見えるか?」
『山で視線が切れていて、何も見えません。多分、向こうも同じだと思います』
「なら、多分大丈夫だ。向こうからも連絡は無い……ちっ、いい加減落ちろ!」
ルシファーは被弾無く、次々と敵機を落としていく。それは他の6機も同じで、ジャッジメントは部隊としての機能を失っていく。
そして、最後に残った6機のジャッジメントは反転、撤退した。
『よっしゃ!』
『落としますか?』
「いや、退くなら撃つな。それより次だ。北へ向かうぞ!」
『了解』
撤退した6機も小破から中破の損傷を負っているため、再度攻めてくることはないだろう。
そう判断した凛斗は北側へ向かわせつつ、司令部とコンタクトを取る。
「司令部、こちらルシファー。東からの敵は撃退に成功。残存6機は撤退、現在北へ移動中」
『こちら司令部、感謝します』
「問題ありません。それより、北の様子は?」
『接敵は推定で20分後、そちらの方が早そうです。コクロウ隊はどうしますか?』
「他に敵部隊が来たら使ってください。2ヶ大隊なら行けます」
『了解しました』
2ヶ大隊の殲滅は簡単ではないが、足止めならそこまで難しくない。
それに当然ながら、必要になればコクロウも呼び寄せる。負ける心配は誰もしていない。
1番問題となるのは、多方面から多数の部隊による波状攻撃だが……
「連絡艇、伯父貴に繋いでくれ」
『凛斗か。どうした?』
「一応聞いとく。波状攻撃の可能性は?」
『恐らくは無い。それだけの部隊を用意する時間が無いことに加え……』
「それだけの大部隊を動員したら、嘘がバレる可能性がある、か?」
『そうだ。その結論に達しているなら、聞く必要は無かっただろう?』
「一応って言っただろ?保険だよ、念のための」
『そうか。それで敵は?』
「もう少しで見える」
凛斗も伯父貴もこのように、波状攻撃は無いと考えている。それに、今心配するべきことは波状攻撃ではない。
2機と5機に分かれてはいるが、どちらも陸地の上に到達している。そして5機の方は山脈を越えるために高度を上げ、その稜線に隠れていた敵機を発見した。
「攻撃開始!」
上方からの奇襲。それは帝国軍へ大きな被害を与えた。
レーダーで捉えたのは同時だろうが、接敵のタイミングを把握出来ていたか出来ていなかったかの違いは大きい。
『よっしゃやるぞ!』
『撃ちます!』
「やれ、鴨撃ちだ」
その結果がこれだ。帝国軍が判断を下す前にデーモンシリーズ各機は攻撃を仕掛け、一斉射で10機以上を撃墜した。
『次やるぞ!』
『撃って撃って!』
『突っ込むよ!』
『行きます!』
デーモンシリーズの5機は奇襲効果が消えない内に一通り射撃した後、全機がビームソードを構えて突っ込んだ。
その、奇襲攻撃からの唐突な近接格闘戦に対応できる帝国軍機は少なく、次々と斬り裂かれ、爆発の花を咲かせていく。
しかし、数はまだ帝国軍の方が圧倒的だ。後方の大隊は混乱に巻き込まれていない。
「今だ。潤人、智子、やれ」
そのため、次の手を打つ。
ここにいない2機は山脈の陰に隠れ、凛斗達が接敵する前から帝国軍を射程に捉えていた。
『了解です』
『う、うん』
ベルゼブブの砲撃が中隊を丸ごと飲み込み、アスモデウスの狙撃で指揮系統がほぼ全滅する。
残りは30機程度、指揮系統が壊滅した部隊。負けるわけがないと確信していた。
『ナイス!』
『良いぜ、今の!』
「よし、下がって待ってろ。後でもう1回頼む」
『はい、分かりました』
「残りはこっちでやるぞ」
そのため、掃討を急ぐことにした。
前部分の敵はベルフェゴールとマモンに任せ、ルシファー、サタン、リヴィアタンは後方の大隊に突撃する。
「繭、聡、そっちは頼む」
『うん、任せて』
『少ないから大丈夫です』
「なら競争だ。良いか?」
『おう!』
『私達も競争する?』
「良いかもな。けど、逃すなよ」
『当然!』
近接格闘の技量は凛斗達の方が上、機体性能でも上回る。デーモンシリーズのビームソードは次々と敵機を斬り裂き、帝国軍機のビームソードは空を切るか防がれる。
また、ルシファーはビームソードを発振したまま高出力ビームライフルを撃ち、サタンやリヴィアタンは固定タイプのビーム砲を撃ち、離れた敵機も落としていく。
そして……
「やれ!」
『了解です』
逃げようとした最後の4機はベルゼブブの砲撃に飲み込まれ、消え去った。
「ふう、終わりだな」
『他にはいないよね』
『移送は?』
「問題無いらしい。来たのは歩兵だけみたいだ」
『良かった』
『ですね』
「被害無し、移送も順調、大丈夫そうだ」
『なら、安心』
周囲に敵機は無く、移送車両の方にも接近する敵はいない。警戒網は十分で、破られた様子も無かった。
そのためだろう。凛斗が移動中の簡易司令部へ連絡した時、その返答に少し驚いた。
「許可は貰った。蒼龍に戻るぞ」
『了解』
『大丈夫なの?』
「もう拠点へのゲートらしい。俺達がやれることはもう無い」
『なら、帰れるな』
「ああ」
しかし状況を考えれば妥当であり、遊撃部隊たる明けの明星の戦力が捕捉されて集中攻撃を受けることこそ避けるべきだ。
そのため7機は隊形を組み、蒼龍との合流地点へ飛んでいった。




