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少年少女の人型機甲戦闘機戦記 - Strong Armys of GigAntes  作者: ニコライ
第1部

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第25話「南の風」前編

 



「あれ、凛斗?」

「香織か。こっちに来るなんて珍しいな」

「え、そう?ちょいちょい来てるんだけど」

「あー、じゃあ時間が合わなかっただけか」

「だね。凛斗ってこの時間はいつも格納庫にいるし。というかどうしたの?」

「いや、あそこに向かう理由なんて1つだろ。読み終わったから交換だ」

「あー、意外とはまったんだ。珍しい」

「まあな」


 2人が向かう先にあるのは書庫。そこは図書室、のような部屋だ。

 凛斗がキッカケというわけではないが、本の貸し借りで本人同士が顔を合わせないといけないというのは非効率だと指摘され、前回の補給とほぼ同時に拡充された。

 ここには各人が提供した書物、および共有品として入れられた本が並んでおり、好きに読んだり借りたりできる。凛斗も既に何冊か借りているし、30冊ほど納めていた。


「あれ、凛斗?」

「繭も何か借りに来たのか?」

「ううん、わたしは勉強。宿題渡されちゃって。静かだから、ここ」

「あー、姉御達が言ってたね。図書館では静かに、とか」

「学校のルールらしいな。低学年だと行ったことなんて無かったんだけど」

「わたしはほとんど覚えてないよ。1年も無いし」

「ま、仕方ないよね」


 1番年上の香織ですら当時10歳、繭はまだ7歳だった。その後が波乱に満ち溢れていたというのもあり、幼い頃の記憶は多くない。

 しかし、それが当たり前である彼らに悲壮感というものは無かった。悲壮感が無いことを悲しいと思うことさえも。


「さてと、次は何を借りるか……」

「そっちに推理モノがあるけど、同じのばっかじゃつまらないでしょ。別のにしたら?」

「確かに。伝記にするか?あれは確か……」

「あ、ちょっと待って、ここ教えて」

「いや、宿題で手助けは……」

「ヒントくらいは良いでしょ」

「それもそうか。繭、良いな?」

「うん、ありがとう」


 しかし、自覚が無ければそれが普通だ。気にすることなく、日々を過ごす。

 そして、彼らには図書室では静かにするという常識が薄いため、大声ではないが雑談も始めた。内容は色々だが……


「で、次の作戦とか聞いてる?」

「全く。ただ、午後の会議で言うらしい。また大規模になりそうだ」

「え、また?」

「噂だけどな。ま、後で分かるから気にするな」

「そう言われると逆に気になる」

「うんうん」

「いや、俺も知らないぞ?」


 やはりというか、こういった話題が出やすい。

 命をかける場所のことが気にならない方が少ないだろうが、他の話題になることは多くなかった。

 そういったことも、大人達から心配そうに見られる一部分だ。


「凛斗、本当に何も無いわけ?」

「まあ、予想でいいならあるにはあるけど……」

「あるんだ。どんなの?」

「ただの予想だぞ?それにありきたりだし」

「良いよ良いよ。言ってごらん」

「何でそんなに偉そうなんだ、まったく」


 呆れつつ、また本を探しながら、凛斗は自身の予想を話す。

 それは意外……でもないかもしないが、メイの勘に近かった。


「考えられるのは樺太、もしくはグアムかオセアニアの基地、それと那覇だな。多分、どこかに仕掛けるはずだ」

「へえ、大きいところばっかりなんだ」

「でも、この間やったばっかりだよ?」

「だからだろ。今までは連続でやってなかったから、不意をつける」

「ふーん。あ、忘れてた。凛斗、食べる?」

「クッキーか。美味そうだな」

「わたしの手作り。どうかな?」

「繭の?そういえば時々作ってたな……うん、美味い」

「良かった」

「美味しいでしょ。繭、私も貰うよ」

「どうぞ」


 しかし、まだ凛斗の個人的な予想でしかない。

 次の作戦がいつ実施されるか分からず、警戒しつつ待機している段階だ。3人とも、緊張はしていない。

 と、ここで慌てたように香織は立ち上がった。


「あ、やっば忘れてた。姉御のところに行かないと。残り教えといて」

「ん?ああ、分かった」

「香織!」

「ん?」

「その、ありがと」

「いいよいいよ。どうしてもっていうなら、報酬はそれ(クッキー)で。また焼いといて。凛斗、ちゃんと教えてあげてよ」

「ヒントだけな」


 香織が出ていった後、図書室にはペンが走る音と2人の息遣いが響く。会話は最小限だが、繭の機嫌は良さそうだ。

 そして……


「終わったー!」

「間違いは……無いな。お疲れ」

「ありがと、凛斗。この後はどうする?食堂に行く?」

「その前に本を選ばせろ。誰のせいで止められたのか覚えてるか?」

「あ、そうだったね。ごめん」

「ああいや、落ち込むな。ちなみに繭、おススメは?」

「え、わたし?んー……少女漫画」

「聞いた俺が馬鹿だった」

「馬鹿ってなに!」


 口を閉じさせていたものが無くなれば当然、話し始める。機嫌が良ければなおさらだ。

 凛斗もそれに応じる程度には気分が良く、冗談を言う程度には楽しんでいた。


「まあ、冗談はここまでにして」

「冗談って」

「実際そうだろ。趣味を知ってる相手におススメ聞いて、それ以外出るか?普通」

「あ、それもそうだね」

「だから、俺は自分で探さないと……ん?呼び出し?」

「呼び出し?誰から?」

「伯父貴から……会議の前倒しって、おいおい」

「あー、そうなんだ……」


 しかし、そんな時に端末が震えた。凛斗は内容を確認し、呆れる。

 なお、繭は顔にこそ出さないものの、どうやら不満そうだ。


「凛斗、時間は?」

「そんなに無いな。行ってくる」

「うん。じゃあ、後で良い?」

「分かった。作戦まで時間があったらな」

「それで良いよ」


 凛斗は走らないように気をつけつつ、急ぐ。

 そして数分後、会議室の扉を開けた。どうやら全員揃っているようだ。


「来たか」

「ごめん伯父貴、遅れた」

「いや、早めたのはこちらだ。構わん」

「そっか。で、要件は?」

「これから話す。まずは座れ」

「了解」


 明けの明星において階級で差を付けることはしていないが、20人ほどの幹部クラスが決められている。

 会議室はそこまで広いわけではないため、20人が入ると若干狭く感じるが、全員慣れたものだ。


「おい、凛斗。こっち空いてるぞ」

「あら、むさ苦しいのの隣なんてやめて、お姉さんの方に来ない?」

「東雲さん、わざとらしいのはやめろよ」

「フラれたな」

「そもそも告白すらしてないんだけど?」

「時間だ。静かにしろ」


 雑談していても、そう言われた瞬間に全員が伯父貴へ注目を移す。この辺りは流石だ。

 凛斗もそんな彼らの中で過ごしていたため、そこに疑問は持っていない。


「従来通りの補給基地および輸送船への攻撃、および先日の大規模襲撃により、帝国軍の目は北に向いている。今がチャンスだ。かねてより温めてきた那覇基地攻略作戦を実行する」


 そしていつも通り、蒼龍の会議室に伯父貴の声が響いた。既に様々な手はずは整っており、作戦決行は目前だ。

 偶然ではあるが、メイの言った通りになろうとしていた。本人がどう思うかはさておき。


「なお、那覇基地には多数の戦力が配備されている。アラスカ方面への派遣で多少減ったが、未だにSAGA(サーガ)2000機、飛行艦50隻、海上艦100隻以上が存在する。警戒態勢は通常程度、完全な奇襲は難しいだろう」

「はっ、強襲でもぶっ潰してやるよ!」

「けどよ、帝国軍の防備は分厚いぞ?」

「じゃ、深海から行ったら?」

「どれでも変わらん。そのままではな」


 帝国軍が東洋一と(うた)う那覇基地。その規模は非常に大きく、超大型とはいえ潜水艦1隻で攻め落とせるような場所ではない。

 しかし、既に彼らは1ヶ所落としている。そして、何度でもやる気だった。


「よって、部隊を2つに分ける」

「あー、なるほど」

「片方を囮として戦力を引きつけさせ、その間に本隊が基地を強襲する。ありきたりな方法だが、有効だろう」

「その方がいっかぁ……」

「で、囮の方は?」

「囮役はデーモンシリーズの7機だ。凛斗、哨戒部隊を片っ端から落としつつ、東から接近して敵戦力を誘引し、可能な限り落とせ。無論、無理をする必要はない」

「了解。基地から離した方が良いよな?十分に誘引できたら少しずつ北へ移動する」

「それで良い。もう片方はコクロウとハクゲイの混合部隊だ。海中から那覇基地西部に接近、敵がデーモンシリーズに目を向けた隙を突き、基地を破壊しろ。こちらは原田に任せる」

「了解、ぶっ壊してやるか」


 機動性と火力からデーモンシリーズは囮に使える。数は少ないが有名なため、過剰反応も期待できる。

 とはいえ、策は1つでは駄目だ。予備も必要となる。


「でも伯父貴、凛斗達へ向かった敵が少なかったら、兄貴の方も危険になるんじゃ?」

「確かにそうか……原田、その場合は敵部隊を引きつけて南に退け。凛斗、敵部隊を殲滅後、お前達が基地を攻撃しろ。お前達の機体なら7機でも十分なはずだ」

「まあ、確かに……けど、余裕があったら兄貴達にも来て欲しい。流石に7機は少なすぎだろ」

「ああ、任せとけ。だが凛斗、無理はするなよ」

「分かってる。もう怒られるのはゴメンだし」


 なお、ルシファーの損傷は全て直されている。説教の後に行われた、突貫工事の結果だ。どうやら、今回の作戦に間に合わせるためだったらしい。

 ちなみにリミッターが計画されたこともあったが、必要性はほとんど無いと判断された結果載せられていない。まあ凛斗の方も、数時間の説教はゴメンだった。


「じゃあ伯父貴、飛行経路は……こんな感じで良いか?」

「ふむ、悪くない。上手くできるようになったな」

「散々教えられたし、できないとマズイだろ。で、修正点は?」

「この範囲は那覇基地からのレーダー集中走査エリアだ。20m落とせ」

「高度10mを飛べって?いやまあ、できるけど」

「ならばやれ。囮とはいえ、目標地点より前で見つかるのは良くない」

「了解。じゃあ、残りのいくつかも直しておく」

「そうしとけ。伯父貴、こっちはどうだ?」

「原田は見るまでもない。それで行け」

「ちっ、兄弟子は放任かよ」

「他には無いな?発艦開始は6時間後、作戦開始は日暮れと同時に行う。SAGA(サーガ)の準備は終わっているが、各員確認しておけ」


 そして会議は解散。各部隊へ作戦を伝えるため、艦内各所へ散っていく。

 凛斗も部下に相当する6人へ伝える業務があるが、その前に別の人へ声をかける。


「兄貴!」

「ん?凛斗か。どうした?」

「これ、兄貴にも見てもらいたかったのと、兄貴の方もちゃんと確認しておきたい。良いよな?」

「当然だ。どれどれ……」


 兄貴は凛斗にとって先人の1人であり、教師役の1人だ。まだ作戦指揮について不安があるため、確認したがるのも当たり前のことだ。

 といっても、これは2人共通の師匠から訂正された後。兄弟子の指摘できることはほとんど無い。


「ま、これなら問題無いだろ。伯父貴はしっかりしてるからな」

「それなら良かった。2人のお墨付きは貰ったし、あとは俺達がやるだけか」

「お前達の実力は全員認めてんだ。安心して行ってこい」

「ちょ、兄貴」

「偶には弟分を可愛がらせろよ」

「兄貴は半分師匠だろ」


 基礎訓練では兄貴から厳しくしごかれたため、凛斗にとってはそういう認識だ。まあ、頼れる兄貴分ということに間違いは無いが。

 そんなこんなで兄貴との打ち合わせも行ってから、凛斗は図書室へ戻った。


「あ、凛斗。終わった?」

「聡と智子も来たのか。ああ、終わった。次の作戦はすぐだぞ」

「あ、やっぱり」

「そうなった、んだ」

「はい、分かりました。作戦は何ですか?」

「詳しいことはブリーフィングで言う。作戦開始は8時間後だからな、まだ急がなくていい」

「そうなんだ。香織、それと剛毅と潤人には?」

「俺からメッセージを送っておく。集合は……とりあえず2時間前にするか」


 SAGA(サーガ)の整備と点検は伯父貴の命令で既に終わらせている。蒼龍も移動済みで、今は潜伏中だ。

 2時間は短いように感じられるが、ブリーフィングと機体確認を合わせればちょうど良い時間になるだろう。

 しかし、残り約4時間というのは、彼女にとっては少なかった。


「4時間……凛斗、それまでどうする?」

「まあ、昼食と軽いトレーニングだ。本は……これとこれで良いな」

「じゃあ、ここも教えてくれる?お昼までで良いから」

「まだ残ってたのか?」

「こっちは復習。良いかな?」

「まあ、昼までなら時間はあるし。2人はどうする?何か教えるか?」

「う、ううん、大丈夫。もう行く、ね」

「えっと、僕は……」

「聡君、も、こっち」

「え、あ、ちょっと」

「あー、作戦前に少しは寝ておけよ。開始は夕方だ」

「う、うん。分かった、から」

「は、はい!」


 それを察したのか、智子が聡を半ば引きずるように連れて行き、また繭の機嫌が良くなる。

 そんなこのんなでしばらく時間を潰すように、昼食までは一緒にいた。


「でよ、凛斗。あの時は思わず笑っちまったな」

「ったく、何やってるんだお前は。馬鹿だろ」

「けどなぁ」

「剛毅だからでしょ」

「うんうん。筋トレしかしてないし」

「おい繭、それどういう意味だよ」

「え、そのまんまだけど?」

「そいつは酷すぎだろ。なぁ?」

「確かにそうですね」

「その通り、だよね?」

「うん、多分」

「味方がいねぇ……」


 その後、食堂で7人が揃ったのは偶然だが、どうやら満足したようだ。機嫌が悪くなることは無かった。

 なお、剛毅弄りに発展したことに対して、凛斗は一切関係無い。


「だってさ、1日何時間筋トレしてる?」

「6時間超えてるよね?」

「何になる気なんだか」

「ゴリラじゃないの?」

「おい、繭も香織も言い過ぎだ。そこまでにしておけ」

「はーい」

「ま、もう止めておきますか」

「凛斗、助かった」

「まったく。ああそうだ、ついでにミーティングも終わらせるぞ」


 夕方から始まる作戦。それに対する士気は十分に高かった。












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