第20話「揺らぐ世界」後編
「え、リントが⁉︎」
「……なるほど」
そして、例の話を2人は聞いた。どちらも驚いているが、反応は微妙に異なる。ニーネは純粋に驚いているが、アクトには納得のようなものもあった。
ちなみに、5人で部屋へ向かう途中にレックスとアクトも合流しており、今は久しぶりに7人で集まっている。7機集まったエンジェルシリーズとともに、揃って運用されることも決まっていた。
「アクトは知ってたのか?」
「……知るわけがない。だが……あいつが簡単に死ぬわけがないとは思っていた。捕虜というのも違和感を感じていたが……」
「そうなんだ。言ってくれれば良いのに」
「……勘ですらないことをどう言えと?」
「だよなぁ」
「そこまで分かったのも凄くない?」
とはいえ、それは凛斗が真実を伝えたというわけではない。メイに明かさなければ、帝国軍の誰も知らなかっただろう。
それがメイにとって良かったのかは置いておいて。
「メイ、それで良いの?」
「ニーネ?」
「本当は行きたかったでしょ?良かったの?」
「良いよ、これで。私は軍人だから、それを曲げるのはリントも好きじゃないから。それに、みんなも一緒だし」
「そっか。なら良いけど」
そして本当の本音がどうなのかは置いておいて。
まあ、それについて追求ばかりする面々ではない。興味はすぐに新機体の方に移った。データは見ているとはいえ、生の話を聞きたいのは同じパイロットだからだろう。
それに、今回の2機は今までと毛色が大きく違う。
「それよりアクト、レミエルって機体は狙撃用だよな?」
「……ああ、機動狙撃戦に向いている」
「機動狙撃戦?」
「何だそりゃ?」
「……動きながら狙撃する、ということだ……この距離は、ミカエルやルシファーのプラズマ収束砲なら届くが、精度は出ない……独壇場にできる」
「リント君ならできるかも」
「……無理だと、信じたい、が……」
「やっちゃいそうだね……」
凛斗ならやりかねない。相対した者としては、そう思ってしまう。大昔の地上戦に例えるならば榴弾砲で狙撃するような馬鹿げたことだが、凛斗ならそれをやってしまいそうな感じがした。
ルシファーが強奪されてからというものの、ミカエルの戦闘データについては全員が閲覧している。そしてルシファーの戦いぶりを見て、凛斗が士官学校で手加減をしていたことに全員が気づいた。その尋常ならざる戦闘技術に身震いしたことも1度や2度ではない。
だがそれでも、本気の凛斗がどれだけ強いかは誰も分かっていない。アレが限界なのか、それ以上があるのか、どこまで対策すれば良いのか分からない状態だ。メイは薄々察しているが、それでも確証は無かった。
「じゃあ、ニーネちゃんの方は?」
「わたしは盾役。盾が大きいから結構守れるよ。けど、他はあんまり得意じゃないかな」
「へえ、随分と違うのね。でも見た目通りか。習熟訓練は?」
「終わってるよ。個別に、だけど」
「だったら、シミュレーターで訓練しようよ。全員でも連携訓練も必要だし」
「良いぜ」
「……分かった」
そんなわけで7人そろって格納庫へ移動。更衣室でパイロットスーツに着替えると、それぞれの機体に乗り込んだ。
シミュレーターについては申請が終わっているため、機体の側から起動できる。
「シミュレーター接続完了っと。終わった?」
『終わったよ』
『良い感じね』
『全員出来たぞ』
「了解。最初はニーネとアクトに動いてもらう感じで良い?」
『はいはい、見たいんでしょ』
「うん」
『……任せろ』
「お願い」
そう言うと、メイはサブディスプレイを操作して設定を変更。ゼラキエルおよびレミエルと相対するようにエアロに乗ったバトラーを12機出し、攻撃を始めさせる。
それに対する2機の動きは対照的だ。
ゼラキエルは盾を前に出して吶喊。攻撃を防ぎつつビームライフル、ビームランチャー、連装ビーム砲からビームをばら撒き、囮となる。
レミエルはその後方、というか50km以上離れた場所に待機している。そして狙撃銃を構え、撃った。
「わっ」
『おお!』
『すごっ……』
『……2機、撃破』
そのビームはバトラーのコックピットに命中。胴体を真っ二つにした上、ほとんど減衰することなく、その後ろにいたバトラーのジェネレーターも貫いた。
狙撃が得意なアクトだが、SAGAを使ってもこの距離で成功させたことはなかった。レミエルの射撃管制システムも、それだけで狙撃を成功させるほど高性能ではない。
それがいきなり2機撃破。レミエルの機体特性とアクトの腕が合わさった結果だ。
『なら、私も!』
そしてレミエルの戦果を見て、ゼラキエルも大きく動いた。
1機のバトラーに盾ごと体当たりをして叩き落とすと、背後に回ってビームソードで両断する。
さらに大剣型ブリューナクで1機を撃墜しつつ編隊を崩し、逃げた先にミサイルを放って3機を撃ち落とした。
『やるじゃねぇか』
『凄く上手』
「アクトは知ってるけど、ニーネも慣れるのが早いよね。何かあったの?」
『普通に頑張っただけだけど?』
『……慣れればできる』
「無理だよ」
『うんうん』
そしてそんなことを言っている間に、レミエルによってさらに2機が落ちる。
ゼラキエルも盾での体当たりを交えつつ攻撃を加えていき、3分と経たずにバトラー編隊は全滅した。
「お疲れ様」
『……問題無い』
『これくらいは最初からやってたし』
「そっか。じゃあ、次は全員の連携訓練で良いよね?」
『おう』
『良いよー』
『……ああ』
「はーい。さて、どれにしようかな……あれ?」
続けて7人での訓練を行おうとして、メイの手が止まった。仮想敵機を選ぶ一覧、その中に含まれていた1つの単語に驚いたためだ。
まさかここで見るとは思っていなかった機体、それは……
「ルシファー?」
『え?』
『本当?』
「うん。ほらこれ」
『うわ、本当だ』
『でも何で……』
『ルシファーの戦闘データを参考に作ったらしいぞ』
「レックス?」
『俺も聞いただけだけどな?訓練用に艦長が作らせたらしい。まあ、リントには敵わないだろうし、出すだけ出そうぜ』
「え、でも……」
『良いじゃねぇか。オレらが実験台になれば良いんだよ』
『その言い方酷くない?でも、その通りかも』
「そっか……じゃあ、出してみるね」
そう結論を出すと、物は試しとばかりにルシファーを36機出す。
説明文によると、ルシファーとの戦闘データおよびハワイ基地に残っていた僅かなデータを元にシミュレーションデータを構築、訓練用の敵機として試験的に採用したらしい。
「けど……」
そして、メイがアイコンを押すとシミュレーションが開始され、ルシファーの一群がビームライフルを構えた。
しかし……
「遅すぎ」
ミカエルがフェイントをかける必要すらなく、1機をクルセイダーで両断した。
さらに続けて3機を叩き斬り、1機をビームスローイングダガーで貫く。
『待って、メイちゃん。何でそんな簡単に出来るの?』
『火力酷すぎ。当たらないけど』
『近寄るのは難しいぞ?』
『確かに難しいけどなぁ……』
『でも出来るから、ね!』
『……動きが単調だ』
他の面々も火力には苦労しているが、順調に対処していく。
ルシファーは火力が高いため撃破まで持っていくのは難しい。だが、攻撃を加える程度なら簡単だった。
少し前まで学生だったとはいえ、エンジェルシリーズのパイロットに選ばれるほどの腕前だ。これくらいなら問題は無い。
とはいえ、苦労することなく次々と斬り裂いていくミカエルも異常なのだが。
「これ、リントの1%も無いよね。だって狙いは単純だし、遅いし、罠無いし、受け流せないし」
『いや無理だろ』
『そんなの再現出来ねぇだろ』
『リント君の方がおかしいよ』
「え、何で?」
『何でって……』
『……それは変だ』
なお、この仮想ルシファー、パイロットがいるよりAlの方が強い場合が多い珍しい機体だ。
理由は当然ながらビームボーゲンで、オートであろうとアレを使いながら高速戦闘ができるパイロットはほとんどいない。ほとんどいないからこそ、凛斗がテストパイロットに選ばれたのだ。簡単に真似されたら苦労が無意味となる。
そんな仮想ルシファーだが、実際にルシファーと鎬を削っていたメイほどではない。結果として、36機中25機はミカエルが落とした。
『さてと、次はどうする?』
「んー、どうしよっか?」
『おいおい』
「だって考えてなかったし、こんなに弱いなんて思わなかったし」
『……アレを弱いと言い切れるのはメイだけだ』
『強いわけじゃないけど、厄介だったのに』
「そう?リントはもっと強いのに」
『リントが異常なんだよ』
一般的に見れば、凛斗とメイの方が異常だ。ただしそれに慣れた者にとっては、まったく自覚できない。
もっとも、半分くらいはワザとなのだが。
「なら、別のにする?普通の編成で、100機くらい」
『良いな、それ。ついでに全部シルフィードにしちまうか』
「うん、そうしよ。みんなも良い?」
『もちろん』
『全員飛べるんだぜ?問題ねぇよ』
『……狙い撃つだけだ』
「そっか。じゃあ、始めるね」
その後も3時間ほどぶっ続けでシミュレーション訓練を行い、連携を確かめた。エンジェルシリーズという新型機とはいえ、元々組むことが多かった面々だ。すぐに十分すぎるほどできるようになった。
なお、休憩ついでとは少し違うが、仮想ルシファーと他の機体を戦わせたりもしたが、キルレシオは10対1程度だった。メイ達が感じた通り、完全再現には程遠いらしい。
しかし、まとまると厄介な機体だ。仮想ルシファー6機を含んだ50機の編隊と戦った時、それぞれだけの時よりもはるかに高い戦闘能力を示していた。メイ以外はしばらく防戦一方だった程だ。ルシファーの火力と機動性を生かした後方支援は非常に強力だと、全員が改めて理解した。
同時に、そんな機体で接近戦特化機体のミカエルと正面からやりあえる凛斗の異常さも、メイ以外の6人は実感したのだが。
「ふぅ。みんな、そろそろ終わる?」
『……そう、だな……』
『流石に長すぎんだよ……』
『メイちゃん、何でそんなに元気なの……?』
『そこはほら、メイだから』
『そっか……』
「あはは、お疲れ様」
そうして訓練を続けていたが、これだけの長時間戦い続けるのは大変なことだ。同じようなことを何度も繰り返していたメイは涼しい顔だが、他の6人には疲労の色が見える。
そういうわけで、6人はしばらく動けないようだ。そして一足先にコックピットを出たメイは、とある人物に迎えられた。
「おうおう、凄いもんだね」
「あ、キリシマ大尉」
「よ。連携訓練かい?」
「はい。ニーネとアクトがゼラキエルとレミエルを持ってきたので、せっかくだからと」
「良いんじゃないかい、そういう理由も。にしても、すっごい戦い方してるなぁ。あたし達だとあんな風には動き回れないからね」
このシミュレーション訓練は外から観戦することもできる設定になっており、メイ達も他の人のシミュレーション訓練を見たことがある。しかし、どうやら今回はそれらの比ではないらしい。
メイがガントリーから身を乗り出して下を覗くと、50人以上の人が集まっていた。他の機体も含めれば、100人を超えているかもしれない。
「キリシマ大尉の方が凄いですよ。私なんて4回中3回は大破しちゃったのに」
「いやいや、あたしにはルシファーなんて化け物の相手はできないよ。足止めくらいしかできないだろうね」
「それ、私も化け物って言ってませんか?……確かにルシファーは化け物ですけど」
「だろう?」
キリシマ大尉達の中隊はこれまで3度にわたる明けの明星との戦闘で、1人の戦死者も出していない。
無論、機体が損傷を負うことはある。だがそれ以上の損害は無く、全機が行動可能な状態を保っていた。
それはひとえに、連携に優れるからだ。
戦力評価的に格上であるコクロウ1ヶ小隊を、小破や中破を出しつつも抑え込んだことすらあるほどで、連携についてはスパイダー艦載機のなかでも1,2を誇る。そしてその戦闘能力から、明けの明星にも目をつけられ始めていたりする。
「っと、本題は別だった。メイ、ちょっと女子会やらないかい?うちの部隊全員と、そっちの4人で」
「行きます!すぐ着替えて行きます!」
「おおう、食いつき良いなぁ。他の3人にも声かけるんだよ」
「はい!」
しかしどんな実力者でも、人間であることに変わりはない。息抜きは必要だった。ついでとばかりに艦長まで混ざる程度には。
なお、凛斗についてメイがターゲットにされたことは語るまでもないだろう。




