第20話「揺らぐ世界」前編
「はぁ……」
無人島からスパイダーへ帰還したメイは、すぐさま各種検査を受けさせられた。それも半日近くだ。
パイロットスーツを着ているとはいえ、ジャングルの中には何があるか分からない。そういう理由だった。
「何だろう……」
その結果……メイの体には何の問題も無く、病原菌の繁殖も毒物の侵入もない。そう認められ、彼女は部屋に戻った。
だが実は、彼女は病を患っている。
「でも、ね……」
治ることのない病を。
「それに、私……」
凛斗が生きていたことを喜び、騙されていたことに憤り、関係が1歩進んだことに幸福を感じる。
心の一部では、救いようがないとも思っていた。しかし、それすら嬉しいと感じている。
「……えへへへ」
そんなわけで、だらしのない顔もしてしまう。だが、これはマズいことだ。
メイは自分1人だと思っていた。しかし、この部屋にはもう2人。
「メイちゃん、何やってるの?」
「女の子がやっちゃいけない顔してるよね、メイ」
「うわぁ⁉︎」
メイが目を開いた先、そこにはクリスとシアがいた。ニヤニヤと、面白そうな笑みを浮かべて。
それを知覚した瞬間、メイは跳ね起き、シーツを掴み、丸くなる。この間、1秒以下。世界記録かもしれない……必要なさすぎる記録だがが。
「さーてクリス、ひっぺがすよ」
「ごめんね、メイちゃん」
「やーめーてー!」
そして流石のメイも、相手が2人いるじゃれ合いでは分が悪い。
シーツは剥がされ、椅子に座らせられた。
「さて、話しなさい」
「うぅ……」
「何も言わないなら、このまま剥いちゃいたいけど……」
「シアちゃん、流石にやめようよ」
「こんなこと言われるからね。やめとく。でもその代わり、断ったら……」
「こ、断ったら?」
「アレ、ばら撒くよ?」
「分かった!分かったから!言うから!」
シアが握っている、脅しにも使えたり使えなかったりするネタは多い。からかうためとはいえ、結構な数を握られていたりする。
バラされてもメイが恥ずかしい思いをするだけだが、嫌なものは嫌だった。ただし、凛斗はそれを散々見ていたりする。
「けどその前に、みんなを呼んでくれる?」
「レックスとトランも?」
「うん。一緒に言っちゃった方が良いから」
「そっか。じゃあ、ミーフェルちゃんは?」
「ミーフェルは……やめとく。それに、今はダメじゃないかな?」
「そ。なら、呼んでくるよ」
「お願い」
そういうわけでクリスとシアはレックスとトランを呼びに行き、格納庫にいた2人を連れて戻る最中。
やはり話題はメイのことになった。
「メイのやつ、大丈夫か?」
「元気そうだけど、まだ何かあったかな。悩んでるっていうか……」
「悩んでる?何でだよ」
「分かんない」
「やっぱりアレじゃない?ルシファーのパイロット。だってさ……」
「リントの仇、か……メイが1番気にしてるからな」
「それも、生身でも負けて生かされたんだろ?オレだったら耐えられねぇぜ」
「でも、それも変じゃないかな?」
「え?」
「だってメイちゃん、楽しそうだったよ」
だが分からないことも多く、道中はほぼ悩んでいる。仕方のないことだろう。
そんな4人がメイの部屋で見たのは……
「あ、おかえり」
特注品の端末を片手に何かを探すメイの姿だった。
「何やってんだ?」
「え?盗聴器探し」
「盗聴器?」
「うん。だって聞かれたくないもん」
「おいおい……」
「こっちは何かされてねぇか心配したってのに……」
「ううん、親切だったよ」
「おい、もう1回医務室に連れていくぞ。やっぱりヤバイ」
「え?大丈夫だよ」
「大丈夫じゃねぇだろ」
「だって……」
そして、案の定頭がおかしいと思われた。ある程度予想していたとはいえ、気持ちの良いことではない。
そのため、メイは告げる。
「リントだもん」
爆弾を。
「は?」
「あ?」
「え?」
「へ?」
「だから、リント。ねぇ、聞いてる?」
それを受け、思考が停止する4人。まあ仕方のないことだが。
そして、理解されていないと思い繰り返そうとするメイ。こちらは確信犯だ。
「いやいやいやいや、ちょっと待て!おいメイそれマジか⁉︎」
「とんでもねぇ爆弾出すんじゃねぇよ!んなもん嘘でもヤベェだろ!」
「ちゃんとホントだよ」
「そういう意味じゃねぇ!」
真っ先に再起動したのはレックスとトランだった。
とはいえ、まだ混乱の最中にあるのだが……それはクリスとシアも変わらない。
「……え?いやいや、え?メイ、何言ってるの?」
「その……どういうこと?」
「そのまんまだよ。リントは生きてて、スパイで、ルシファーのパイロットを続けてる。最初からそうだったんだって」
「てことは……あいつ、騙してたのか!」
「あ、嘘なのは昔のことだけだって言ってたよ。友情は本物だって」
「んなこと、口なら好きなだけ……」
「分かるもん」
しかし相手がそうであってもメイは手加減をしない。彼女の目は真剣で、とても強いものだ。
レックスもトランも、反論できなかった。
「私には分かるよ。リントは嘘なんて言ってない。本当なんだから」
「そう言われてもな……」
「じゃあ、またシミュレーターやる?それとも実機の方が良い?」
「げっ、アレは……」
「分かってるよ。だからメイちゃん、脅すのはもうやめて。お願い」
「あっ……ごめん、クリス」
シミュレーターを脅しに使うのはアレだが、メイは真面目だ。気持ちも本物だ。
そのため、クリスは止めた。メイだったら本当にやってしまうだろうから。
「じゃあさ、メイ。リントと何を話したか聞かせてくれない?気になるから」
「うん、良いよ」
「やった」
「あいつの話は聞きたいな。再会したら1発殴りたいが」
「おう、一緒に殴ってやろうぜ」
そんなわけで、メイは無人島でのことをいくつも話した。リントと行った久しぶりの会話は密度が濃く、ネタはそう簡単には尽きない。
ちなみに、1番重要なことは一切口に出さなかった。そこは恥ずかしいのか、言いたくないようだ。
「え?リントって両親いないの⁉︎」
「うん。本気で悲しそうだったから、本当だと思う。そこだけは嘘を吐いてたんだって」
「そういえば、思い出しか言ってなかったな……だが、帝国軍の流れ弾が?」
「流れ弾じゃないかもしれないけど……でも、そう言ってたから」
「けどよ、そんなことがあったなんて聞いてねぇぞ?」
「本当にあったらボク達も知ってるよね?」
「あー……もしかしてこれ?東京決戦の後半に、民間人がいる市街地上空で戦闘があったって」
シアがネットで見つけた記事は民間のもので、軍機については書かれていない。しかし、全体像が分かりやすいようになっていた。
それによると……
「逃走した日本国防軍の一部の部隊を帝国軍が追撃、日本国防軍が市街地上空で反転したため戦闘が開始された……民間人がいる地域だったため最大限の注意が払われたが、日本国防軍は民間人を無視して戦闘を続行、結果として市街地は壊滅状態に陥った……どう?」
「変じゃない……よね?」
「戦いの最中に流れ弾が市街地に着弾した可能性はあるぞ?だが……」
「リントだったら帝国軍の攻撃とは言わねぇな。明言してるんだぜ?」
「あ、それと、向こうに来ないかって誘われたりもしたよ。ちゃんと断ったんだけど……その時、リントがじじつって呟いたのが聞こえた気がするんだよね」
「じじつ、って……事実?」
「うん、多分」
「それが理由か?」
「リント、何考えてるんだろ?」
「さあな。けど、聞かねぇと分からねぇだろ」
「見つかんないけど……」
「じゃあ、調べたら?」
「え、どこで?」
「確か、東京港湾基地で休暇が貰えるはずだぞ」
「なら、その時に調べてみようぜ。その事実ってやつをよ」
「さんせー!」
「そうだね。あたしも、リントとは戦いたくないし」
そんな感じで行動方針を決めた5人。戻ってきたらニーナとアクトにも伝えるだろう。
そしてガブリエルとラファエルのパイロットが必要な整備が始まるため、レックスとトランは先に部屋を出た。
残ったのは女子3人のみ。
「で、メイ。まだ何かあるんでしょ?」
「……え?」
つまり、そういう追求がされる時間だ。
「やっぱり何か隠してる。言いなさい」
「話してよ。何かあったんでしょ?」
「え、いや……他には何もなかったよ?」
「嘘つき」
「う、嘘じゃないけど……」
「そ。じゃあ体に聞こうかな。大丈夫、痛くはしないから」
「ひっ、やーめーてー!」
まあ、1つだけ言えることは……ギリギリ毒牙とまではならなかった。
「終わりましたか?」
「お、嬢ちゃんか。元気そうで何よりだ。にしてもこいつ、綺麗に壊されてたな」
「鹵獲するつもりだったみたいで……やっぱり強かったです」
「相性が悪くともここまで……そのパイロット、凄腕か」
その数日後。損傷したミカエルの修理が終わった。そしてフィッテング等の作業のため、メイもパイロットスーツを着て格納庫にやってきた。
整備兵の言う通り、ミカエルは翼根元の重要部分が綺麗に壊されており、その1撃だけで機能が停止した。だがそのおかげで修理時間が少なく、数日で戦線復帰ができるようになった。
なお、メイは何故そこまで綺麗にやったのか、本当の理由を知っている。言わないが。
「ってことで嬢ちゃん、フィッテングの準備はできてるか?」
「あとはコックピットでシステムを変えるだけのはずです。確認してもらえますか?」
「確認できたな。こっちも始めるぞ、乗ってくれ」
「はい」
SAGAは脳波をメインにしているため、定期的に調整する必要がある。やらなくても戦闘はできるが、やった方が扱いやすい。
通常時の整備程度なら前の設定を引き継ぐことができるが、今回は戦闘中に機能が停止したため調整することになった。
『用意はできたぞ、嬢ちゃん。頼む』
「分かりました」
まあ、フィッテング作業は何度もやってきたことで、メイ1人でもできる。
苦労することはなかった。
「こっちは終わりました。どうですか?」
『問題は無さそうだな。お疲れさん』
「はい、お疲れ様でした」
そして、今は警戒任務も演習も入っていない。待機警戒状態ではあるが、暇だった。
そんなわけで、メイは格納庫に据え付けられたサーバーのドリンクを飲んでいたところ、シアがやってくる。
パイロットスーツではなく軍服姿だ。
「あ、メイ、来てたんだ」
「え、どういうこと?シア」
「あれ、知らない感じ?ニーネとアクトが戻ってくるんだけど」
「そうなの?……あ、連絡来てた」
「ちゃんと確認しないと。あ、新型機については知ってる?」
「知ってるよ」
連絡には気づかなかったが、機体データ自体は前から見たことがある。
残る2機は特殊機という扱いで、他の5機とは様子の異なる機体なため、強く記憶に残っていた。
「ゼラキエルとレミエル、だっけ?」
「そうそう。盾のゼラキエルと狙撃のレミエルって感じ」
「アクト君にはぴったりだよね。でも、ニーネちゃんは?」
「クリスも来たんだ」
「うん。だって気になるから」
「だよね。あたしもそうだし、メイもそうでしょ?知らなかったけど」
「他にやることがあっただけだもん」
「あ、その、メイ……怒った?」
「そんなことないよ?」
「うっ……」
「メイちゃん……あ、来たよ」
そうこうしている間に、新たな2機が格納庫へやってきた。
片方は巨大な盾を2つも構え、各所に武器を備え、かなりマッシブな見た目の機体。なお、メインスラスターを備えた翼は大きいため、鈍重な印象は無い。
もう片方は細身ながら各所にスラスターを備え、全高に匹敵する長さの銃を所持する機体。他の武装は少なく、適正距離以外での火力は低いだろう。
「どうしよう……」
「メイちゃん?」
「今までのと違いすぎて、連携が難しいかも。考えないと……」
「ニーネとアクトなら大丈夫。ちゃんと考えてくれるから」
「メイちゃん、心配しすぎだよ」
「そっか、そうだよね」
「そんな風なら……もうちょっと素直にさせた方が良かったかな?」
「シアちゃん?」
「あはは、うそうそ」
もっとも、連携については頭を悩ませることになるが。今までのエンジェルシリーズが全機高速格闘戦向けだったため、一筋縄ではいかないかもしれない。
と、メイがそんなことを考えている間に、ゼラキエルからニーネが、レミエルからアクトが降りてきた。
「おかえり、ニーネ、アクト」
「ただいま、メイ。でも元気?」
「……話は聞いた。大丈夫か?」
「うん。そうだ、2人にも説明しないとね」
「……説明?」
「何のこと?」
「色々だよ」
「ここだとちょっと説明しづらいけど」
「終わったら私の部屋に来て。ちょうど良いから」
そして、あのことはニーネとアクトにも伝える。
2人にとっても、凛斗は友人であるのだから。
・ゼラキエル
EXSG73-T06A
全高13.0m、第12世代SAGA。エンジェルシリーズの6番機。大きな盾を持ち、いくらかの射撃・格闘用武器を持った機体。
単機での戦闘能力もある程度あるが、チーム・集団となった時の方が強みを発揮する。
白地に黄緑のカラーリング。
武装
___ビームライフル×2
___ビームソード×4
___可動式ショルダーシールド×2
___迎撃ビームバルカン×4
___8連装小型ミサイル発射管×4
___高出力ビームランチャー×2
___砲塔型連装ビーム砲×2
___隠し腕×4
___大剣型ブリューナク×4
・レミエル
EXSG73-T07A
全高11.0m、第12世代SAGA。エンジェルシリーズの7番機。狙撃機で、シリーズ唯一の遠距離戦用機。
機動狙撃戦に向いており、ある程度の近接武器も所持している。
白地に薄い青のカラーリング。
武装
___大型狙撃銃×1
___ビームライフル×1
___ビームサブマシンガン×1
___固定式ビームソード×2
___小型ショルダーシールド×2
___迎撃ビームバルカン×1




