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少年少女の人型機甲戦闘機戦記 - Strong Armys of GigAntes  作者: ニコライ
第1部

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第18話「嵐の空」前編

 



「やぁぁぁぁぁ!!」


 2機の専用機型ジャッジメントは撤退し、戦場全体でも戦闘は終息し始めている。

 だが、ミカエルは戦闘を止めない。あの2人が撤退した以上、この場で性能的に優勢なのはミカエルなどのエンジェルシリーズのみ。

 そして他のエンジェルシリーズが撤退を初めている以上、ミカエルが殿の役割を果たすため、戦うしかなかった。


「また防がれて……このっ!」


 それに、メイには他の目的もある。戦い続けるのは都合が良い。

 だがそのためには、ルシファーを落としてしまうのは都合が悪い。


「まだまだやれる……」


 確かに3対1から1対1となり、数的な戦況は悪くなった。

 だが上手く連携ができない先ほどまでと違い、ミカエルは、メイは本気を出すことができる。


「これくらい!」


 牽制射のビームボーゲンは、プラズマスラスターも使った高速機動で避ける。牽制と言うには射撃精度が高いが、この程度でミカエルがやられることはない。

 例えマニュアル射撃でも狙いをつける必要がある以上、回避運動は有効な手段だ。

 10発程度まとめて撃たれても、ショルダーシールドを使えば防ぎきれる。装甲を掠めさせることもあるが、サブスラスターに当たらなければ戦闘継続に問題はない。

 そして、逃げるルシファーを全力で追った。


「はぁぁぁぁ!!」


 そのままの勢いで行った突進は右手のビームソードで払われたが、勢いで押し切り、ビームソードを弾き飛ばす。


「通じてる……行ける!」


 今までの3回は3回とも、蹂躙されていたような状態だった。だが今回は互角、ミカエルの装備はいくつか破壊されているが、ルシファーの装備も破壊できている。

 ミカエルの目の前でルシファーは左のビームソードを戻し、高出力ビームライフルを手に取った。だが、その程度で怯むメイではないし、それはルシファーの側も理解している。


「このっ、これくらい!」


 十数門のビームボーゲンと高出力ビームライフルが斉射され、ミカエルへ襲いかかった。

 それに対しミカエルは高出力ビームライフルを優先して避け、ビームボーゲンは致命傷のみ避ける。

 多少は装甲を削っていくが、サブスラスターへの被弾は無い。


「当たって!」


 そして反撃としてビームガトリング放つ。

 だがこれは軽く避けられ、ビームボーゲンがさらに放たれる。しかしルシファーも回避行動をとっているため狙いは甘く、避けやすかった。


「もうそろそろ限界だよね……でも、まだ!」


 戦闘は終息に向かい、帝国軍はほとんどの機体が戦線を離脱している。明けの明星側もほとんど残っておらず、撤退したようだ。

 だが2機は、ミカエルとルシファーは戦い続けた。殿という役目もあるが、それぞれのパイロットに目的がある故に。


「行くよ、ミカエル!」


 その想いを込め、ミカエルはプラズマスラスターを全開にし、突撃する。

 だが、ミカエルの戦法は一撃離脱だけでは無い。


「このままぁぁ!」


 ミカエルのマニュピレーターの出力は高く、同じエンジェルシリーズで長剣型クルセイダーを使うガブリエルや兄弟機のルシファーより強力だ。

 それでも片手では扱えないが……各種サブスラスターを使えば高速の連撃を放てる。


「ふっ!はぁ!」


 振り下ろし、逆袈裟、横薙ぎ、袈裟斬り、突き。技ではなく機体性能で、無理矢理連撃を繰り出した。

 それは凛斗に教えてもらった剣術。当人は手慰み程度だと言っていたが、無理を言って教えてもらったもの。実は憧れていたということは、凛斗にも内緒だった。


「上手いっ、けど!」


 そんなミカエルの斬撃に対し、ルシファーは自身もスラスターを全開にして退避行動を行いながら、盾を使って捌いていく。

 途中で左の高出力ビームライフルを斬り裂いたが、本体には届いていない。

 だがメイは諦めない。斬撃の(たび)に、盾が受け流す度に、ルシファーの体勢は崩れる。ルシファーはパイロットの卓越した技量で修正しているが、隙であることに変わりは無い。

 そして、ついに見つけた。修正しきれない隙を。


「斬り裂けぇぇぇ!!」


 そこで最後の一撃、プラズマスラスターまで使った全力の袈裟斬りを放つ……が、これも盾で受け流されてしまう。


「えっ!?」


 そのままルシファーに反撃された。高出力ビームライフルを捨てたルシファーに背後に回られ、ビームソードで両翼の付け根を貫かれる。

 そこはルシファーも同様に持つ弱点、メインスラスターへのエネルギー伝導ラインを正確に切断される。コックピットに損傷は無いが、メインスラスターは沈黙した。


「制御不能⁉︎そんな!」


 もちろんメインの回路がやられてもサブがある。切り替えれば大丈夫、なのだが……この時は間に合わなかった。


「キャァァァー‼︎‼︎」


 ミカエルは嵐の海へ落ち、波に揉まれたメイの意識はそこで途切れた。
















「う、ん……?」


 揺れは感じず、安定している。

 そんなミカエルのコックピットの中で、メイの意識は暗闇から戻ってきた。


「あ、れ?ここは……」


 だが、暗闇なのは変わらない。メインモニターは完全に停止し、非常照明もついていなかった。


「そうだ、海に落ちゃって……ミカエル?」


 そして暗闇の中でサブモニター、および座席後部の操作盤を手探りで弄る。

 このあたりは訓練で何回もやっていた。


「動かない……壊れちゃったんだ」


 だがジェネレーターどころか予備電源すら動かず、通信や発信機どころか、非常照明もつかない。


「えっと、こっちは……やった、開いた!」


 だから座席下方のスイッチを操作し、コックピットを緊急解放させた。

 こちらはちゃんと動いたことに喜び、メイはコックピットから出るが……


「え……ここ、どこ?」


 亜熱帯植物の生い茂る島、その岩場にミカエルは打ち上げられていた。仰向けなのは幸いだ。

 空の様子は相変わらずで、今は風も雨も弱めだが、またすぐに強くなるだろう。


「と、とりあえず、上がった方が良いよね。雨も降ってるし」


 コックピットの中から非常用サバイバルキット、および拳銃とナイフを取り出し、装備する。邪魔になりそうなヘルメットはコックピットに残す。

 そして岩場を進み、森の中へ入った。


「不思議な感じ……ハワイともなんか違う……」


 過去の過疎化の影響で日本および西太平洋の諸島の多くは無人島となっており、人が住んでいた形跡はほとんど消えている。

 今は人の手の入っていない原生林といった感じで、こんな状況にも関わらず、メイは見とれていた。


「でも、どうしよう……?」


 だがそんな中でも、彼女の顔には不安が映っている。

 忘れがちかもしれないが、メイはれっきとしたお嬢様だ。サバイバルの経験なんて高等士官学校の訓練でしか無いし、その時も凛斗にかなり助けられていた。そのため他の面々よりはマシだったが、代わりに苦労も多くはなかった。

 そんな彼女の内心を正直に言うと、一晩過ごす自信すら無かった。


「えっと、雨風を凌げて、火を焚けて……」


 深い森の中、と言っても人が歩ける場所はあったが、そんな所なので風雨はかなり抑えられている。

 だが、こんな雨の降る森の中で火を使えるわけがない。


「洞窟が良いんだっけ?でも、あるかな……?」


 だからある程度の大きさの洞窟を探すべきだと凛斗に言われていたことを思い出し、それがありそうな場所を探しながら歩く。

 洞窟にもコウモリやネズミやヘビ、土砂崩れなどの問題がないわけではないが……素人が雨の中、外で寝るよりはマシだ。


「それに、救助が来ても分からなかったら……」


 それに、嵐が去った後の問題もある。

 左右にある木に傷をつけ、歩いた道を示していたが、救助に来たSAGA(サーガ)を見落とす可能性はゼロではない。


「ううん、暗くなっちゃダメ。リントのためにも……まずは寝床、だよね」


 だが、諦めたりはしなかった。クリス達の説得が功を奏したのもあるが、根本には凛斗への想いがあった。彼の狙い通りと言えばそれまでだが、それによって良い方向へ向いているのは確かだ。

 サバイバルキットがあるため、寝床さえ確保できれば寝ることには困らない。

 食事についてはレーションがある。不味いが、無いよりはマシだ。


「あ、道が……えっと、こっちかな?ナイフで切って……」


 下草で道が途切れることもよくあったが、別の道を探して、時には切り開いて、少しずつ島の中央へ向けて進んでいく。


「傾斜が、強い……!」


 だがいくら気力を振り絞っても、いくら訓練を受けていても、辛いものは辛い。サバイバル訓練ではもっと平坦、かつある程度人の手が入った場所だったため、今はより辛く感じていた。

 レンジャー並の訓練が必要なパイロットは稀なため、それで良かったのだが……そんなことは今のメイには無意味だ。


「嵐も強くなってきてるし……」


 嵐は次第に強くなり、森の上からの風の音が聞こえていた。

 木々の下への影響はまだ無いが、豪雨となれば体が濡れ、体温低下は免れられない。今さらだが、メイはヘルメットを置いてきたことを後悔した。


「ひっ⁉︎」


 さらに雷が鳴り、悲鳴をあげる。


「ちょ、ちょっとくらいなら休憩しても大丈夫……だよね?」


 たまらずメイは巨木の(うろ)に入り、ついでに休息を取る。

 慣れない森の中を、しかもかなりの勾配の中をずっと歩き続けていたため、彼女の予想以上に疲労が溜まっていたためだ。

 軍人らしく体力に自信はあったが、無理は良くない。


「怖いよ……リント……!」


 そして未だ精神状況は不安定と言っていい状態で、どうにか立ち直ってこそいるがバランスは悪い。

 苦手な雷が鳴る中で弱気になるのも仕方がなかった。


「大丈夫、大丈夫……うん、大丈夫」


 だが、それで終わらないのもまたメイだ。

 自らを勇気付け、鼓舞する。そういったことも出来る。


「よし、行こっ」


 幸いにして雷が長く続くことはなく、風も少しだけ弱くなっていた。

 歩みを再開するのに問題はない。


「慌てないで……ゆっくり、少しずつ」


 そして再度歩き始めたメイ。辛い道のりだが、泣き言は言わない。

 不安定な精神状況だとしても、一度決めたことを曲げない程度には芯が強かった。


「だけど、あまり離れすぎちゃうのも……あれ?」


 そうして歩き始めてしばらくした時、視界に漆黒の巨体が映る。


「あれって……」


 背の高い木々に囲われ見づらいが、それはメイが何度も見た機体。


「ルシファー?でも嵐の中でも飛べるはずだし……何かの故障?」


 ルシファーは、というより今のSAGA(サーガ)は、この程度の嵐の中なら普通に飛行できる。海の中も同様だ。むしろより酷くなる前に去った方が良い。

 だからこのメイの考えも間違いではなく、実際正しい。


「でもチャンスかも。捕まえればリントを……」


 そしてメイは拳銃を両手で構え、少しずつ近づいていく。


「でも何で……っ⁉︎」


 だが次の瞬間、メイは横に飛んで木の幹に隠れる。一瞬遅れて着弾、銃弾が木の根を砕く。


「……あいつ」


 メイが視線を向けた先、100mほど離れた場所には、パイロットスーツ姿の人物がいた。

 背格好からして男だろう。拳銃を構えた男のそれは、メイの知っているデーモンシリーズ用パイロットスーツに似ていた。

 確認できる武器は拳銃がもう1つと大ぶりのナイフが2つ。射撃精度を高めるためだろうか、2丁あるにも関わらず両手撃ちだ。


「奇襲はできなかったけど、チャンスだよね」


 なので男が撃ってくるのも構わず、メイは飛び出す。銃口から射線を割り出して避け、木の幹を盾にし、撃ち返して牽制する。

 だがメイの射撃も避けられ、直撃はない。同じように銃口の向きから避けられているようだ。動くのが早いため、殺気も読んでいるかもしれない。


「ふぅ……」


 メイが持ってきたマガジンは16発入りが3つ、相手の男も同じくらいだろう。

 あの技量を相手にする場合、この残弾で仕留められる可能性は低いが……その場合は近接戦闘に持ち込むつもりだった。


「弾、足りるかな?それならそれで……」


 そして相手が男でも、メイは近接戦闘を忌避しない。

 ナイフ戦にも格闘戦にも自信があった。それより問題は……


「でも、この撃ち方……どこかで……?」


 とはいえ、そんなことを考えていても仕方がない。男は接近してきており、射撃精度は高いまま。いつ命中してもおかしくない。

 メイも隠れながら反撃しているが、当たった気配はなかった。


「もうあんな近くに……私も」


 そうして両者は次第に接近し、銃弾が掠めることも多くなる。

 そして……


「あっ!」

「ちっ」


 残り5m程になったところで、両者の残弾はゼロになる。

 だが、もう相手は至近距離だ。これならリロードするより走った方が速い。


「はぁぁ!」


 メイは腰にあったナイフを右手で逆手に抜くと、一気に駆けて切りかかった。

 だが男も左手で逆手にナイフを抜き、メイの一撃を防ぐ。


「っ!」


 俺はさらにもう1つのナイフを右手で抜くと、順手で突きを放ってきた。

 メイは上体をそらして避ける。


「リントと同じ……だけど!」

「……」


 そして反撃。メイは男の腕をかいくぐると、肩から体当たりをしかける。


「ふっ!」

「ひぐっ⁉︎」


 だがそれは読まれていたようで、男は横に動いて避ける。

 さらに男の放った回し蹴りにより、メイは腹部を蹴り飛ばされた。


「かはっ……」


 木の幹に背中を打ち付け、呼吸が一瞬止まる。


「この……まだまだ!」


 だが、メイは諦めない。体を転がして男の2発目の蹴りを避けると、飛び跳ねるような動きで首を狙う。

 それは防がれたものの、男は下がらざるをえなかった。


「逃さない!」


 そこをメイは逃さない。


「やっ!」


 下がられた分だけ前進し、ナイフを振るう。


「はぁ!」


 ナイフは防がれたもののメイは止まらず、さらに左腕を振るった。


「っ⁉︎」


 それはフック気味のパンチとなり、防御した男の右腕を(したた)かに打ち付ける。


「くっ!」

「やぁぁ!!」


 一気に勝負を決めようと、メイはさらに鋭く踏み込み……視界から男が消え、地面の感覚がなくなる。


「えっ?」


 男はかがみ、メイの足を払っていた。

 さらに男は両者のナイフを投げ捨てるとメイの右手を掴み、ナイフを奪い取る。


「う、そ……」


 そのまま背中を押されて、メイは地面に叩きつけられる。


「かっ、はっ……」


 どうにか顔だけは守ったが、胸を強く打ち付けたせいですぐには動けない。

 そしてメイの腕は後ろ手に拘束され、手錠をかけられた。さらに後頭部にもう1つの拳銃を突きつけられる。


「けほっ、こほっ、はぁ、はぁ……どういう、つもり?」


 だが、それ以上のことがない。男はメイに手錠をかけただけで、それ以外に何もしようとしなかった。

 というか、手錠以外の拘束すらない。


「私を捕虜にしても意味ない。リントを返して」


 だから、というわけではないが、メイはまだ強気だった。

 だが……


「まったく、攻撃する時にフェイントに弱い癖は……」


 男はヘルメットを取り、メイに顔を見せる。


「変わってないんだな、メイ」

「え、嘘、そんな……」


 その顔は……


「……リント!」

「ああ」


 メイが求め焦がれた相手と同じものだった。












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