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少年少女の人型機甲戦闘機戦記 - Strong Armys of GigAntes  作者: ニコライ
第1部

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第11話「黄昏の時」前編

 



「それで……どうだったんだい?」


 中破相当の損傷を負い、ハワイへ戻ってきたスパイダー。痛々しい姿だが、まだ沈むには程遠い。数週間ほどの修理で復帰できる予定だ。

 そしてそんな艦が入った修理ドック、その一角に設けられた会議室では、2人の人間が相対していた。バーグナー艦長とスパイダーの医官長だ。


「それは軍人としてですか?それとも医者として?」

「両方に決まってるじゃないかい。わたし達の立場からすれば、そんなもんだろう。気に入らないけどね」

「そうですか。では医者として言うのであれば、すぐさま艦から降ろす……いえ、退役させてあげるべきです。彼女の心はそこまで追い込まれています」


 医学、特に心理学的には、そんな感じだった。軍役に耐えられるような状態ではない。

 だが……


「でも軍としては、あの子を離すわけにはいかないねぇ。あの才能は貴重なんだ。上は多分、逃がさないよ」

「それは、理解しています。ですが……」

「残念だけど、わたしは人事には関われないんだよ。どうにかしてやりたいところだけどねぇ……」

「艦長……」

「だから今は、同期の仲間に頼るしかないってところだよ。大人が、子どもに……情けないねぇ、わたし達も」


 悲嘆と同情、そんな感情が室内を覆っている。初陣を迎えた兵士とは違う、彼女特有の、厄介すぎる問題。

 2人とも以前から兆候には気づいてはいたが、ここまでとは考えていなかった。そのツケが来たのだと思うと、自らにも責任があるように思えてしまう。

 一方街の中では、数人の人影が走り回っていた。慌ただしく、焦りながら。


「いたか⁉︎」

「ううん、こっちにもいないよ」

「いったいどこに……」

「ちっ、あいつどこ行って……」

「……不明だ」

「探すしかないけど……どこを探せば……」

「でも今は走り回るしかないぞ。クリス、ニーネ、シアの3人は向こうだ。俺達はこっちに行くぞ」

「うん、見つけたらお願い」

「任せとけ」

「頼んだよ!」

「急げ急げ!」


 そのように時々合流し、また6人で手分けして探す。付き合いが長いため、今の状態がマズいことは分かっていた。

 そして、探されている当人は……
















「……負けちゃった……」


 断崖絶壁の崖のすぐそばに、メイは(たたず)んでいた。

 ここはメイが凛斗と共に訪れた、寂れてしまった灯台。周囲に人影は1つもない。


「ずっと練習したのに……リントと一緒に練習したのに……」


 メイにとって、2人で練習していた時間は何より貴重なものだった。そしてあの敗北により、その思い出を汚されたように感じられた。

 真実を知らないからこそ、よりそう考えてしまう。彼女にとって、彼女達にとって、残酷すぎる真実を知らないが故に。


「仇も討てなくて、負けちゃって……」


 ルシファーに対して有利なミカエル、そんな機体に乗って全力で戦ったにも関わらず、一方的にやられて敗退した。


「誰も守れなくて、たくさん死んじゃって……」


 犠牲となったのは SAGA(サーガ)パイロットだけではない。2隻のジャガー級とスパイダーも加えれば、余裕で3ケタを超えている。


「リント、会いたいよ……慰めてよ……」


 そんな事実を自覚しているが故の、この状態だ。自責の念に囚われ、思考は同じところを巡っている。

 彼女は崖のそばに移動して、座り込んだ。


「ここであんなこと言ったの、私だっけ……リントに……」


 今のメイの目は澱んでいる。己の願いが破れ、建前すら破れた状態では、気力など湧くはずもない。

 そんな彼女は……崖の下を、覗き込んだ。そして……


「ねえ……ここから飛び降りたら、リントに会えるのかな?……会いに行けるかな?」


 そんなことを考えてしまうほど、メイは追い詰められていた。


「私、リントに会いたい……今すぐにでも、会いに行きたい……一緒にいたいもん、私……リントの、こと……」


 隣に居てほしい、共に歩みたい人の名前を呟きながら、メイは海を見つめ続ける。

 だが……


「……駄目、だよね……こんなことしたら……リント、怒っちゃうよね……」


 そうする気力も、勇気もなかった。

 思い出だけで終わらせるような強さは、彼女には無かった。


「リント……」


 崖っぷちに座り、海を眺め続ける。このまま思い出に浸り、全てを忘却できたのなら、今のメイにとってこれ以上の幸せはないだろう。

 だが彼女が作った縁は、彼も入っていた縁は、それを許さない。絶望に囚われ続けることを、良しとはしない。


「メイちゃん!」

「あ……クリス?」


 探していた1人、クリスがメイを見つけ、走ってきていた。


「駄目だよ!こんなことをしたって!」

「大丈夫……こんな風に会いに行っちゃったら、リントに怒られるから……」


 自殺しようとしているように見えたのだろう。クリスはメイの手を引っ張り、崖から引き離す。実際、間違いとは言い切れない状態だった。

 そして、振り返ったことで見えた彼女の目は……死んでいる。あまりの惨状に、クリスは絶句した。


「と、とりあえず帰ろ?みんなも心配してるから、ね?」

「……うん」

「ほ、ほら、メイちゃんも着替えたいでしょ?」

「……うん」

「シャワーも、ベッドもあるよ?そ、それに、ご飯もあるから!」

「……うん」

「だから……メイちゃん!」


 そう説得されつつ、クリスに引き連れられたメイの姿は、とても弱々しいものだった。
















「メイは?」

「眠ってる。かなり疲れてたみたい」

「ベッドに入ったらすぐに寝ちゃってたもんね」

「時々涙を流してるけどね……」


 クリスがメイを見つけてから約1時間後。軍の官舎の中にある談話室のような場所に、メイ以外の6人が集まっていた。

 その全員の顔は……とても暗い。とはいえ、それも仕方ない状態だった。


「仕方ねぇよなぁ。アレ、何時間もずっと泣いてたってことだんだろ?」

「……そのはずだ。根が弱いことは知っていたが……」

「これで何日目だっけ?」

「3日目、5回目だぜ。異常だろこれは」

「戻せる、かなぁ……?」

「戻すしかないでしょ。あのままなんて……」

「……自分達が耐えられない」

「そうだけどなぁ……どうするよ?」


 前回はメイが変わろうとしていたこともあり、あれだけでもどうにかできた。

 だが、今回の状況は前回より悪化している。悩んでも、答えはほとんど出なかった。


「どうする、って言われても……」

「難しすぎんだろ、メイは……本当に」

「今は、だけど……メイが変なことをしないように見張るしかないんじゃない?」

「まーた対処療法かよ」

「でも、それしか無いよね……」

「だよなぁ……とりあえず、何か思いついたら報告しろよ?逆効果なんてオレは嫌だぜ」

「……当然」

「分かってるよ」


 とはいえ、見捨てるという考えはない。見捨てられない。

 1つだけ欠けた仲間の輪。それをもう1つ欠けさせるつもりは、誰にもなかった。


「それと、あたし達が交代でメイの様子を見るから、男子どもは何かやってなさいよ」

「酷いことを言うなっての。けどまあ、やるしかないか」


 しかし……
















「ん……あ……」


 夕日が差す頃合いになり、ようやくメイは目を覚ました。


「えっと……ここは……」


 なおスパイダーは修理中なので、ここは官舎に用意されたメイの部屋だ。

 そんな部屋の中を見渡して、ため息をつく。


「私って……ダメダメだよね……みんなにも心配させて……でも、リント……」

「入るよ……あ、起きてるね」

「ニーネ……私……」

「今はいいから。それより夕食、持ってきたよ」

「うん、ありがと……」

「ねえ、メイ」

「何……?」

「大丈夫?」

「大丈夫だよ……」

「そんな無理しないで……」

「ううん……私は、大丈夫……大丈夫、だから……」

「ああもう!」


 じれったくなったのだろう。ニーネはメイの頬を手で挟み、目を覗き込んだ。

 死人のものと間違えそうなくらい弱々しい目を、生者の強い目で。


「大丈夫じゃないのを分かってるから言ってるの!メイも分かってるでしょ!」

「ニーネ……でも……」

「でもじゃない!そんな顔で、そんな目で、大丈夫なわけがない!」

「ニーネちゃん?どうしたの?」

「クリス……メイがね」

「あ、そっか。ねえメイちゃん、何で無理しちゃうの?もう……限界、なんだよね?」

「……ごめん」

「辛かったらやめても良いんだよ?誰も責めないから」

「……ごめん」

「それだと分からないよ、メイちゃん」

「……ごめん」

「メイちゃん……」

「今はそっとしておこう」

「うん……じゃあメイちゃん、ご飯はちゃんと食べてね。それと、勝手に出てっちゃダメだよ!」

「うん……」


 そう言ったクリスに続き、ニーネも出ていく。

 この部屋にはメイと、ニーネが持ってきたトレーだけが残された。


「ごめん……ごめんね……ごめんね、みんな……」


 メイにも罪悪感はある。心配をかけてすまないと、謝りたい気持ちはある。だが、気にしていられるような余裕はない。

 とはいえ、空腹には逆らえなかった。運ばれていた料理、手巻き寿司に手をつける。


「あ、美味しい……これって、リントが……リント……」


 みんなでワイワイ騒ぎながら食べれるものが欲しいと訴えたメイに対し、凛斗が笑いながら9人全員に教えた料理。

 手軽で、そして思い出の味。楽しかった思い出の。


「どうしよう、私……このままだと、ダメ、なのに……私……」


 だからこそ、思い出してしまう。彼との、優しい思い出を。

 そして苦い記憶も。


「私、負けちゃったのに……勝てなかったのに……リント……」


 どうしても、どう考えていても、汚されたと、そう感じてしまう。

 努力と、記憶と、想いを……


「何で、生きてるのかな?私……負けて、それで……私は……」


 だから勝敗よりも強く、感じてしまっている。


「リントが、いない、のに……私、だけ、なのに……」


 凛斗がいないということを……誰よりも、強く。


「私、だけ、残って……何で……」


 そして、自分が生き残っているということを。


「太陽も、月も、海も……みんな見てるのに……リントだけ、いない、なんて……耐えられないよ……!」


 寄り添っていたからこそ、隣り合っていたからこそ、想っていたからこそ。

 強く思い、そして心が沈んでいく。


「あ、灯り、街に……リントと、一緒に、私が……ねえ……」


 そのせいで、なのかもしれない。まるで光に誘われる虫のように、メイは……


「ねえ、リント……私、どうしたら、いいの……?」


 暗くなりつつある街へと出ていった。
















「またいなくなったぞ……」

「メイちゃん……何をやってるのかな?」

「今はもう夜なんだぜ?無茶してねぇといいんだけどなぁ……」

「歩いてるだけなら良いけど……」

「でも少なくとも、メイが危なくなるわけはないよね。強いから。あの様子なら自殺はしないだろうけど」

「確かに。けどよ……」


 メイがいなくなったことは心配だ。それは全員の共通事項として存在する。

 だが幸い、メイのことは艦長も気にかけてくれているため、今の時間は連絡すれば捜索人員を手配してもらえる。


「それより、誰か案出せた?どうにかしないと……」

「……仮説、のようなものならある。だが……」

「聞かせろよ。今は些細なもんでも必要なんだからよ」

「話してくれれば、問題点も分かるわけだしね?」

「……分かった」


 そういう訳で時間的余裕はあるため、6人はアクトの推論に耳を傾けた。

 彼が語ったその方法は健全ではあるが、過激でもあり……


「それはまた……」

「凄いね……」

「……だが、自分にはこれ以外思い浮かばなかった……許してほしい」

「んなこと言ったらオレらの立場がねぇよ。で、どうすんだ?」

「これで良いんじゃないかな?でも……タイミングってどうするの?」

「そこが、ね……どうする?」

「……いつにするべきだ?」

「すぐだろ」

「そんな感じかな」

「まあ、そこは同意するけどよ……」


 良い案というか、他に方法が無いと全員が理解していた。理解してしまっていた。

 ただしこの策にも、唯一にして最大の悩みが1つある。


「絶対怒るよな、これやっちまうとよ」

「だな」

「うん」

「でも、逃げられないし……」

「いくら6対1でも、ね。ちょっと……」

「……死ぬ気でやるとしよう」


 それは確実にメイの怒りを買う、ということだ。
















「よう嬢ちゃん、こんな夜に1人でどうしたんだ?」

「おいおい、危ねぇぜぇ?」

「不用心だなぁ。俺達が守ってやるよ」

「……退いて」


 夜に街、それも繁華街に近い所を歩いていれば、こういう連中に声をかけられるのも当然だった。

 ただしメイの目はこの場を、ここにいる誰のことも見てはいない。


「そういうこと言うなよ。ほら、オレらと……」

「触らないで」

「うおっ⁉︎」


 だが肩に手を置かれそうになった瞬間、その手を取って壁に投げつけた。


「てめっ!」

「やろ!」

「……邪魔」


 残る2人が左右から殴りかかってきたが、片方はハイキックで蹴り飛ばし、もう一方は足払いの後上から踏んで地面に叩きつける。


「……もう行こ」


 確かに凛斗に負けてはいたが、メイもハワイ高等士官学校の次席、並みの首席より成績と実力も高い。

 この程度のことは簡単だ。


「リント……ねえ、私、どうしたら良いの……?」


 だがそれでも、メイの心が晴れることはなかった。


「ねえ、リント……」


 メイは夜の街から、海の方へ足を向ける。それがいつ止まるのかは、誰も知らない。












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