第10話「嘘と思惑」前編
「よくやった、凛斗」
「伯父貴、ありがとう。でも、兄貴がいなかったら指揮も何もできなかったし……」
「最初は誰しもそんなものだ。気にするな」
「そうだぞ凛斗、初めてで戦死者ゼロってのを誇れよ」
「ちょ、兄貴、重いって」
「おい、それ女には言うなよ?」
「男だから言ってんだよ!」
蒼龍の艦長室にて、凛斗は報告と評価を受けていた。
そのついでに、背中に乗りかかっていた兄貴を押しのける。
「はぁ、ったく……それで伯父貴、詳細は?」
「前半は問題ない。ルシファーを操りつつ、指揮も上手くできていた。多少まだ甘い部分はあるが、経験不足で片付けられる」
「SAGAの扱いも上手くなったよな。シルフィード4機をあっさり撃墜してるし」
「あんなのまだまだだって。機体性能のおかげだ」
「あの機体を使えるだけでも大したものだぞ」
「いや、格闘戦闘だけなら明けの明星のパイロット全員できる。俺だけなのは射撃の方だから」
「いいや、違うな」
「あれは凄かった」
「兄貴も伯父貴も……それより、出てっていいか?少し親爺さんと話しときたい」
「そうか、それなら行ってこい」
「ちっ、いいオモチャが」
「おい兄貴!」
そしてからかう大人達から逃げるように、凛斗は通路を早足に歩いていった。
だが、蒼龍の乗員は少ないとはいえ、誰にも会わないわけではない。
「はぁ……」
「や、凛斗。お疲れ?」
「香織か。まあ、疲れたと言えば疲れたかな」
「あれだけ暴れれば疲れるよね」
「見てたのか」
「当然。それで、どこに行くつもり?」
「格納庫。親爺さんと少し話とかないと」
「そう、じゃあまた後でね。呼ばれてるから」
「呼ばれてる?……ってもう行ったのか」
返事を返す前に去っていった香織に呆れつつ、凛斗は予定通り格納庫へ向かう。
そして、ちょうどルシファーの所にいた人物へ声をかけた。
「親爺さん」
「おう凛斗、どうだ?」
「ビームボーゲンはマニュアルの方でいけるから、そっちにしてほしい。それで……それ何?」
「これか?ルシファーの改造案だな」
「改造案?」
「ま、そう難しいことじゃねぇ。駆動部の本格改造と、スラスターとジェネレーターの簡単な改造だ。性能向上よりも、パーツをこっちのにする方が主目的だなぁ」
「あ、今はまだ大半が帝国基準だからか……分かった、よろしく」
「おうよ。性能もしっかり上げとくぞ」
「やっぱりか」
予想通りの親爺さんに苦笑しつつ、凛斗はもう1つの質問をした。
「そんなことより親爺さん、アレは?」
「クルセイダー、だったか……使うのか?」
「無理無理。あんなの振り回せる気がしないし。それに、マニュピレーターの性能足りないんじゃ?」
「だなぁ。交換にも手間かかっちまうから……新型になるか」
「そんなポンポン出さなくていいから。それより、対抗策があるなら作って欲しい」
「対抗策?今でも十分対処できてるんだろう?」
「今の方法は割と綱渡りだからだよ。盾で受け止められるならそうしたい」
「まあ、求められるんだったらやるだけだな。研究は進めとこうか」
「助かる」
ミカエルから奪い取った大刀型クルセイダー、およびプラズマスラスター付きの翼は親爺さんの預かりとなっていて、研究熱心な技術者は既にデータを取り始めている。
それを見て格納庫を出ようとしたところで、今度は凛斗が呼び止められた。
「あ、凛斗」
「繭、今日は飛びつかないのか?」
「アレはあの日だけだから……それで凛斗、もう聞いた?」
「いや、それだけで分かったら凄いだろ」
「あ、そっか。何というか……祝勝会、かな?」
「祝勝会って……誰の発案だ?」
「えっと、伯父貴と兄貴と親爺さんと姉御と、如月さんと修哉さんと紅さんと桜さんと、冬香さんと朱音さんと、剛毅と香織と聡と潤人と智子……それとわたし」
「言ってない人も含めるとほぼ全員なんだろうなぁ……」
「うん」
「ったく」
そんな話を聞いて凛斗は呆れつつも……喜んでいる。
凛斗もまた、仲間達のことが好きなのだから。
「時間は?」
「数時間後って聞いたよ。姉御達が準備してるし、多分早くなると思うけど」
「そっか、なら暇つぶしが……」
「何する?」
「そうだなぁ……コクロウとハクゲイのシミュレーターって使えるか?」
「大丈夫だよ。向こうとあっちに4基ずつだけど……向こうの2基を使おっか」
「繭も?」
「教師役が必要でしょ?」
「まあそうだけど……」
「大丈夫、今は暇だから」
「なら頼む。っと、その前に着替えないと」
そして2人揃ってパイロットスーツに身を包み、シミュレーターへ入る。
内部はルシファーとは違い、平面状のメインモニターが各方向へ張られた形をしていて、若干の圧迫感を感じていた。
「……狭い」
『ルシファーが広いだけだよね?それより、上手く繋がってる?』
「それは……大丈夫だ。ちゃんと繋がってる」
『それの受信機ってほとんど向こうのままなんだよね?』
「親爺さんが良い仕事をしてくれたからな。日本と帝国の規格は違うのに、それを上手く共通化させたんだから」
まあコックピットの方はその程度だが、受信機とも呼ばれる脳波計測装置の方は簡単ではない。
いくら技術が発展していても、規格が違えば問題が起きないわけがないからだ。そこを合わせられる程の腕があるからこそ、親爺さんは技術屋のトップにいる。
『操縦特性はイヌワシやミズグモと同じ感じかな。少し大変だったけど、すぐ使えるようになるよ』
「了解。ブランクはあるけど、どうにかなるか」
『あ、帝国のに乗ってたから……』
「慣れは必要だったけど、システム周りが多少違うだけ。大元は変わらない。むしろ実力を隠す方が大変だった」
『隠してたの?首席だって聞いたけど』
「半分は、な」
凛斗は自身に制限をかけ、その範囲内で動くようにしていたため、実力を上げつつ実力を隠すことに成功していた。それでも圧倒的だったが。
制限をかけていたのは認識から行動までの時間や、いくつかの機動法、足技など。それらも生身の訓練などにより落ちることはなかったが……制限の限界ギリギリまで発揮せざるを得ないことは何度かあった。
具体的にはメイの相手に。
『まあいいや。それで凛斗、どっちから?』
「まずはコクロウ、その後ハクゲイだな。繭、戦場の設定ってできるのか?」
『うん、大丈夫。どんな風にする?』
「戦場は海の上、敵機は……シルフィード8機」
『え?多くない?』
「実戦だとこんな感じの方が多いだろ。というか」
『というか?』
「正直言って、2桁いないと物足りない」
ただし、この辺りは完全にルシファーの感覚で話している。
実力制限のない今なら、有人機100機が相手でも小破以下で勝てるだろうが……当然ながら、基準が違いすぎる。
『……凛斗』
「分かってる。実戦なら無理はしない。けど、これはシミュレーターだから……」
『凛斗がこんな戦闘狂になってたなんて思ってなかったよぅ……』
「おい、繭?」
『冗談はここまで?』
「最初から無い」
『はーい。じゃあ設定で……できたよ』
「ありがとう。繭はどうする?」
『最初は見てる。加勢してほしいならするよ?』
「いや、待っててくれ」
『了解。じゃあ、始めるね』
次の瞬間、そこは海原の上を飛ぶ航空機のコックピットになっていた。
「っと、久しぶりだと感覚が……」
『大丈夫だよね?もう敵いるよ?』
「ああ。何とか……よし」
可変型SAGAに乗るのは久しぶりだったため多少バランスを崩してはいたが、すぐに飛行を安定させる。
「あれか」
そうしてしばらく飛行した後、レーダーに敵が映った。4機で構成された菱形が2つ、敵だ。
また目を凝らせば、空に浮かぶ小さな黒いシミのようなものを見つけられた。
「先手必勝、行け!」
それを確認した凛斗はミサイルを放つ。一斉射できる48発の小型ミサイルが飛び、シルフィードへ襲いかかった。
ミサイルは迎撃されつつも敵機を絡め取り、1機がすぐに爆発、1機が大破し落伍、少ししてから爆発する。
「次!」
続いて背面の高出力ビーム砲を前面に展開、射撃を始めた。凛斗としては牽制射のつもりだったが、運の悪い1機がコックピットを貫かれ、海へ落ちて爆発する。
反撃のミサイルも飛んでくるが、これはコクロウの機動性を生かして全て避けた。
この時代は誘導方式の進化によってチャフやフレアの類は使えなくなっているが、ミサイルが一度見失った目標を再捕捉できないことは変わらない。そして SAGAの機動性は昔の戦闘機とは桁外れだ。度胸は必要だが、正面から突破するか追い抜かせるのが1番確実だった。
次点は迎撃だが、こちらは数が多いと対処しきれなくなるため優先度は低い。
「さてと、ここから……」
ここまでで敵機の半数近くを仕留めた凛斗だが、まだ油断はできない。
性能的には良い方で取っても1対3、最も腕が良い兄貴でも確実に勝てるのは1対6程度だ。そしていくら腕が立つとはいえ、適性を除けば凛斗の技量はまだ兄貴に劣っている。
慣れを無くしているというのもあり、無人機でも油断できない。1対5というのは凛斗の限界に近かった。
「第2波、行け!」
数は少ないながらも残りの小型ミサイルを発射、16発の多くは外れるが、1機の右腕をもぎ取った。
「遅い!」
そしてビームライフルを連射し、右腕を失った機体ともう1機を撃ち落とす。
「はぁ!」
さらに近接戦を仕掛けてきたシルフィードを二刀流で返り討ちにし、逆方向の敵をビームマシンガンで蜂の巣にする。
だが、最後の1機は背後にいた。
「まずっ⁉︎」
慌てて振り返りつつスラスターの出力を上げるも……とっさにルシファーのイメージでサブスラスターを吹かしてしまい、コクロウの体勢が崩れる。
そして、ビームカービンライフルの銃口からビームの光が見え……
「負けたか」
メインモニターは暗くなり、サブモニターは撃墜されたことを知らせている。
『惜しかったね』
「負けは負けだ。にしても、性能良いな」
『そうなの?』
「帝国のシミュレーターの1.5倍くらいはある。有人機の8割ってところか」
『あ、そっち。コクロウの方は?』
「イヌワシと比べれば格段に良い機体だし、可変機構を除けばシルフィードよりも数段扱いやすい。ただ、慣れがどうしてもなぁ……」
『それは仕方ないよ』
慣れの問題も大きかった。
凛斗は帝国製SAGA、それも最新鋭機に乗っている。そして、機体特性は開発母体ごとに異なる。機体ごとに違う場合も多い。
旧式機の方に慣れていても、新型機の癖は違う。それが今回の敗因の1つだ。
「次も同じで……繭、手伝ってくれるか?」
『うん、良いよ』
そして凛斗は、さらに繭が、航空機のコックピットに入り込む。
『それで、どうする?』
「昔と同じ、だな。ただ、最大距離でのミサイル一斉射は無しにしたい」
『2対8なら……大丈夫かな。良いよ』
「助かる」
そうして空を飛び、また黒点を見つけた時、
「全力突撃!」
『了解!』
2機は揃って突撃した。
敵機から放たれた小型ミサイルは機動力に任せて大半をかわし、いくつかの避けられないものだけビームマシンガンで迎撃する。
「繭、好きにやれ」
『凛斗、後ろはお願い』
「もちろん」
そうしてミサイルの雨を突破した後、繭の機体はさらに加速、シルフィード編隊の中へ突入した。
『やぁぁ!』
そして変形、ビームソードを抜いて格闘戦を仕掛ける。
「相変わらず、か」
凛斗は編隊の手前で変形させると、ビームライフルと高出力ビーム砲、ビームマシンガンを放ち牽制射を開始した。
いや、牽制と言うには火力も命中率も高く、既に1機落としている。
『凛斗こそ』
繭の方は見た目だけなら8対1という不利な状況だが、実際はそうではない。
高機動性を生かし敵機を盾とするような上手い位置取り、そして凛斗の援護射撃を利用し、最大でも2対1程度になるよう立ち回っている。
「ミサイル斉射!」
『了解!』
さらに至近距離、近距離から放たれる無数のミサイル群。
流石に避けきれるものではなく、これで3機が爆発、2機が中破となる。
「これで……」
『最後!』
残りも1機ずつ削られていき、シルフィード編隊はなすすべ無く全滅した。
凛斗と繭の側にも多少の被弾はあったものの小破程度で、まだ戦闘可能な状態だ。
「お疲れ。上手くなってるな」
『だってずっと戦ってたからね。凛斗ほど危険じゃないけど』
「俺はある意味安全圏だ。バレなければ良いだけだからな」
『それでも、気は抜けなかったんでしょ?』
「けどな……」
『まあいいや。それで凛斗、まだやるよね?』
「当然。次はハクゲイを」
『うん、切り替えるよ』
その後もしばらくの間、2人はシミュレーターの中で訓練を重ねる。
なお、その途中で兄貴もやってきた。
『お、面白いことやってるな』
「兄貴?」
『凛斗、戦ってみないか?』
「コクロウで?」
『いや、ルシファーで良いぞ』
「ならやる」
『え、凛斗?』
「ごめんな、繭。急に決めて」
『うん……』
そういうわけで、凛斗のルシファーと兄貴のコクロウのシミュレーション戦闘が行われることになったのだが……
「クソっ、何で当たらないんだよ!」
『この弾幕……敵になるとヤバいな、ヤバっ』
一進一退、というか互いに互いの攻撃が当たらないという状況になり、それが時間切れまで続いた。
「では、凛斗の帰還後の各種戦果を祝し、乾杯」
「「「「カンパーイ!」」」」
その後、食堂にはくじ引きでハズレを引いた者以外の全員が集まっていた。
長机の上には大量の食べ物や飲み物が置かれ、お立ち台まで用意されている。
「でも今さら祝勝会ってのも……」
「そう言うな、凛斗」
「伯父貴?」
「これはお前の帰還記念パーティーも兼ねている。というよりも、食料品が足りなくて今まで出来ていなかっただけだ。祝勝会が合わさったのは偶然だな」
「それならいいけど」
「そうだよ。それに凛斗が主役なんだから、早く行かないと」
「は?」
「次はお前の番だ、凛斗」
「ちょ、え?」
急に言われて困惑する凛斗だがそれは無視され、何人かに背中を物理的に押されて、お立ち台の上に立たされる。
「えー、あー、うん。こんな会を開いてくれてありがとう。帰ってこれて本当によかったと思う」
とはいえここに立ち注目されたら、何か話さないわけにはいかない。
とりあえず話を始めていった、のだが……
「俺の目的は昔から変わらない。それに、助けてもらった恩も返せてない。だから……ってそこ!話くらい聞けよ!」
全体の3割近くは料理に夢中で話を聞いていなかった。
というか、大半の人は目を凛斗の方に向けつつも、手と口は別行動をしていた。
「いーじゃねぇか凛斗、宴会なんだからよ」
「そうだそうだ。美人のメシを無視するなんて男じゃねぇぞ」
「美人のメシなら毎日食ってるけどね」
「そりゃあ、いきなり言われたらこうなるよー」
「いきなり言われたのはこっちだっての……」
そんなことを言われ、凛斗もヤケになった。
「だったらもう勝手に食え!俺も好きにする!」
「いいぞー!」
「やれやれー!」
「よっ、日本一!」
「期待の星!」
「うるさい!」
そしてどんちゃん騒ぎが始まる。凛斗も半分はこれに参加してるようなもので、お互い様だった。
またこれだけ騒いでも、外には一切漏れない。対策された部分では、蒼龍の防音性は完璧だ。
「はぁ、もう……」
「えっと……凛斗、ごめん」
「繭は悪くない。ただ、あの人達はいい歳して……」
「そう言うなよ。お前が帰ってきたのを喜んでるんだぞ」
「そうです。そう悪く言うのは……」
「剛毅、聡、アレを見ても同じことが言えるのか?」
「アレ?……げっ」
凛斗が示した場所、そこには何故かアルコール類、それも数十パーセントの濃いものばかりが大量に置かれていた。
呑んでいるのは警戒任務がしばらく無い面々だが……既に一部は醜態を晒し始めている。
未成年に呑ませるようなバカはいないが。
「繭と智子は特に近寄るなよ。巻き込まれたらエライ目に遭う」
「そうだね……」
「う、うん」
「あれ、私のことは心配してくれないんだ」
「香織は言わなくても分かってるだろ。とにかく、アレは兄貴達に押し付けて近寄るな」
「潤人が注意しに行ってるけど?」
「あのバカ!」
ワザワザそんな場所へ向かう未成年がいると知った凛斗は慌てて追いかける。
その甲斐あって、どうにか接触前に追いついた。
「あの……」
「おい潤人、戻るぞ」
「凛斗、やめてください。流石にこれは……」
「酔っ払いに理論が通用するか。巻き込まれないよう避難しておけ」
「……何かありましたか?」
「まあ……街中でタチの悪い酔っ払いに絡まれたことは何度かある」
「ご愁傷様です」
「軍人扱いになってたから、制圧しても問題にはならなかったけどな……」
ただし、その時はメイがいたから良かったものの、凛斗1人だったらダメだったかもしれない。
法律以外の意味で。
「おい潤人、この中で1番大変なのは凛斗だろ。手間かけさせるなよ」
「すみません。ですが、見逃すのは……」
「まったく、生真面目なんだから」
「それも潤人の良さだ。注意はしてほしいけど、変える必要はない」
戻った直後はこんな感じだったが、当然ながら険悪な雰囲気はなかった。
7人は各人好きに食べ物や飲み物を手に取りながら、色々なことを話す。
「にしても、凄い戦闘だったよな、アレ」
「っ……」
「だね。スペックは見てたけど、予想以上というか何というか」
「あんなのの相手はしたくないですよ……」
「その時は凛斗に任せます」
「わ、私も、そうなる、かな」
「つーか、凛斗しか相手できないっての」
「凛斗、お願い……」
「……」
だが流石に、凛斗が沈黙したことは心配になった。
「凛斗?」
「おい、どうした?」
「ん?ああいや、何でもない」
「えっと、疲れた?」
「あー、多分……伯父貴、もう部屋に戻ってもいいか?少し疲れた」
「そうか、すまないな」
「俺こそごめん。せっかく開いてくれたのに、途中で抜けるようなことをして」
「気にするな。子どもの面倒を見るのは大人の仕事だ」
「また子どもって……まあいいや。ありがと」
そう言って、凛斗は部屋に戻る。
そして……
「クソ!!」
思いっきり壁を殴った。
「ああクソ!何やってんだよ俺は!!」
自身の苛立ちを、不甲斐なさを、ぶつけるように。
「はぁ、はぁ、はぁ……何やってるんだよ、俺は……」
それを終えると、今度はベッドに腰掛けた。
「覚悟は決めたはずだろ……手加減して失敗したら本末転倒なのに……」
そして頭を抱える。
「メイ、絶対落ち込むよな……」
理解しているが故に。
「落ち込むだけならいいけど……」
信頼しているが故に。
「変なこと考えるなよ……」
そして……しているが故に。
「俺が……無理矢理連れ去るしかないよな……」
今は誰にも話せない計画を進めるほかに道は無かった。
「けど、このままだと……」
だが、それが容易いと言える状況ではない。
「今度は……」
だから……




