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少年少女の人型機甲戦闘機戦記 - Strong Armys of GigAntes  作者: ニコライ
第1部

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第7話「天使の想念」後編

 



「大丈夫、か?ハイシェルト」

「はい、大丈夫です」


 そして翌日の午後。フーバー教官の言葉に対し、呼び出されたメイはそう答える。しかし彼女の目を見れば、おかしいことはすぐに分かった。

 落ち着いてはいるだろう。だが、折り合いをつけたというわけではない。むしろ……


「そうか……では、今後のことを告げる。いいな?」

「はい」

「メイルディーア・ハイシェルト候補生。貴官は本日付でハワイ高等士官学校を早期卒業とし、少尉として任官せよ。配属部隊が到着するまで、ハワイ基地所属とする」

「了解しました」

「本当にいいのか?お前なら軍に残らなくても……」

「大丈夫です」


 だが、心を決めた者を説得するのは並大抵の苦労ではない。


「私はリントのために戦います。仇を討ちます」

「あいつは望まないぞ」

「それでもです。これは……私のための方が強いんですから」

「そうか……」


 なので、フーバー教官もこれ以上言葉を出せなかった。仕方なく、話題を別のものに変える。


「それと辛いかもしれないが、一昨日の被害について話しておく。大丈夫か?」

「はい」

SAGA(サーガ)は3642機中、喪失383、大破1168、中破185。被害の8割はハンガーの中にあった機体で、基地中央部は特に被害が大きい。パイロットは2935人中、死亡837、重体924名、軽傷615名だ。整備兵などにも大きな被害が出ている。また港の空母と飛行戦艦、および各護衛艦、合計60隻はそのほぼ全てが行動前に艦橋を破壊された。その後、武装や推進器にも被害を受けている。基地施設、および各種物資への被害も甚大だ。これだけでもハワイ基地の機能は完全に崩壊、今は太平洋艦隊が代行している。知っているな?」

「はい、それは聞いています」

「それに対して、敵機の撃墜はゼロだ。中破はあったみたいだが、逃げられた」

「そうですか」

「加えて、敵歩兵の潜入による被害も大きい。重要施設内部での破壊活動、および要人殺害。そして……コンピューターウィルスによる基地システムの壊滅だ」

「ウィルス……?って、もしかして」

「ルシファーが強奪される前の通信障害が前兆だったようだ。ルシファーが飛び立った後、本格的に行動を開始した。基地システムの大半が破壊され、スタンドアローンの機器以外は動作を完全に停止した。そのせいで追跡どころか、SAGA(サーガ)の修理すらままならない」

「そんな……そのウィルスはどうなったんですか?」

「どうやら自壊したらしい。証拠は全て消えた」

「そうなんですか……」


 損害だけは大きく、挙げた功績はほぼゼロ。油断していたとはいえ、惨敗という言葉がこれほど似合う戦いも少ないだろう。

 また、あまりにも的確な攻撃だったため、中枢部にスパイがいるのではないかとも疑われていたが……見つかるわけがない。そのスパイがいたのは中枢部ではなく、またもういないのだから。


「それでこの件により、ハワイ基地およびハワイ高等士官学校の人事が大幅に変更になった」

「……え?」

「簡単に言えば、予備役編入(クビ)か左遷だな。減俸になった者も多い。基地司令は銃殺刑に処されたらしい」

「それは……」

「武装法務隊の判断だ。どうすることもできない。俺も、次はラグランジュ1の港湾管理員だそうだ」

「そんな、教官には!」

「言っても仕方のないことだ。第1皇女殿下がいるという事実だけで、上の連中は決めたんだろう」

「でも、マイリアが聞いたら……」

「既に決定事項で、命令は下っている。ハイシェルト、気にするな」


 確かに終わってしまったことだが、メイの性格上気にしない方が難しい。

 今はそれどころではないため、騒いだりはしなかったが。


「それと、もう1つ話がある。デーモンシリーズについてだが、全機開発が中止された。月にもある一部武装以外は全てのデータが消失したためだ」

「え、それじゃあ」

「だがエンジェルシリーズはデータが残っているから、開発はするそうだ。そしてハイシェルト、正式にお前がミカエルのパイロットになる」

「軍に早期配属というのは、このためなんですか?」

「その通りだ。上層部は恐らく、敵がデーモンシリーズを製造することを恐れているんだろう。多少データを見ただけだが、あの性能はむしろ帝国軍より敵に向いている」

「数が少ない、ってことですよね」

「そうだ。対多戦闘にすぐれたルシファーを、その兄弟機を使いこなせたら……そのカウンター機として、エンジェルシリーズは期待されているんだろう」

「分かりました」

「それと、他の機体のパイロット予定者はこの6名だ。確認しろ」

「はい……え?」

「元々ハワイ高等士官学校から出す予定だった人員をそのまま回すそうだ。このような状況になった以上、他から呼び寄せるのは不適切だと判断されたらしい」

「いえ、でも……こんなことになったのに、卒業前の人からパイロットを決めるって……」

「試験機として扱うのであれば問題はないんだがな……上はこの件を甘く見過ぎているのかもしれん。もしくは、エンジェルシリーズへの期待が薄いか」

「期待している、っていうのは……ないんですよね」

「無いだろう。期待していれば、もっと大部隊になっていたはずだ」


 そう言ってため息を吐くフーバー教官。メイも心の中は似たようなものだ。

 いくら経験がないと自覚していても、期待していないと言われれば、落ち込むのも当然なのだから。


「配属部隊は来週到着予定だ。明日で俺はいなくなるが……頑張れよ」

「はい……教官もお元気で」


 そしてメイは退出すると寮の方へ歩き、とある部屋に入った。


「また、来ちゃった……」


 そこは凛斗が使っていた部屋だ。鍵はメイも登録されている。

 あれから2日経った。だが基地のゴタゴタでまだ整理がされておらず、凛斗がいた時のまま。


「リント……」


 そしてメイはベッドの上へ寝転がった。枕を抱きしめ、目をつむる。


「リント、ごめんね……」




「仇討ち、なんて……無意味なのに」




「でも、私は、前に進まないと……」




「リントに教えてもらったもんね……」




「そうしないと、無駄になっちゃう……」




「リントと一緒に練習したんだもん。大丈夫だよ」




「大丈夫。きっと、大丈夫……」
















「ん……あれ?」


 気付くと、窓の外がオレンジ色に染まっていた。


「寝ちゃってた、のかな……リント……」


 目を覚ました彼女は上体を上げ、部屋の中を見渡す。

 だが、そこに求めた姿はない。


「全部夢だったらよかったのに……ずっと一緒にいたかったのに……」


 メイは感情の向きを変えることで、どうにか耐えていた。凛斗を失った悲しみを、戦いへ向けることで。

 仇討ちも、戦うことも、彼女の本心ではない。それを望む心もあることにはあるが、本当はただ悲しさを紛らわしたいだけ。


「ねえ、リント……私って、酷い女だよね……利用するだけ利用しちゃって……」


 だからスイッチが切れるとこうなる。悲しみに明け暮れ、自己嫌悪に陥る。今朝も落ち着くまではこんな感じだった。

 そんな状態にメイがなっていた時、スピーカーから声が流れてきた。


『メイちゃん、ここ?』

「クリス?いるよ」

『よかった』

「ごめん、寝ちゃってて……あ、みんなを集めてもらってもいい?話があるんだけど」

『分かった』


 多少身なりを整え、メイは部屋を出る。

 するといきなり、クリスが心配そうにメイの顔を覗き込んだ。


「メイちゃん、今朝もここにいたよね?」

「うん、だけど……」

「もう。ダメだって言っても聞かないんでしょ?でも、ボク達がいることだって忘れちゃダメだからね?」

「そう、だよね……」

「それと、ちゃんとみんなを呼んでおいたよ。向こうの談話室に来てくれるから」

「……ありがと、クリス」


 年下に励まされているが、メイにもクリスにも特に思うことはない。友人、仲間なのだから。

 なのでそのまま2人で談話室へ向かう。


「ようメイ、大丈夫か?」

「レックス……昨日はありがと」

「気にすんな」

「そーそー、いつもはオレらが助けられてばっかだったもんなぁ」

「だから、気にしないで良いよ」

「……大したことじゃない」

「トラン、シア、アクト……」

「遅くなりましたか?」

「ううん。マイリア、私も来たばっかりだから」

「えっと、間に合った?」

「呼ばれたのはさっきなんだから、そこまで慌てる必要は無いんじゃないかな、ニーネ」


 メイとクリスが歩いている間にも他の面々が合流し、9人全員が揃ったのは割と早かった。

 なので各々ソファや椅子に座り、話を始める。


「みんな……とりあえず、心配させちゃってごめんね」

「大丈夫ですよ、メイ。皆、信じていましたから」

「そうそう。メイちゃんなら大丈夫だって思ってたよ?」

「だから、それも予想通りかな」

「メイは分かりやすいもんな」

「つーか、オレらだってまだ割り切れてねぇっての」

「それは、ね……仕方のないことなんだけど」

「……メイだけじゃない。恐れるな」

「1回も勝てなかったのに、って思ったりもしてるよ。格闘戦だけでも僕の方が強くないといけないのに、ってね」

「みんな……ありがとう。それで話なんだけど……マイリアとレグルト以外の6人と私は、早期卒業に決まっちゃったから。今日からなんだって」


 いきなり言われれば驚く話、のはずなのだが……


「知ってるよー」

「もう聞いてるよ」

「え?」

「先ほど、フーバー教官からお聞きしました」

「僕達は違うけど」

「ま、仕方ないな」

「メイを支えるためにも、だからね」

「え、えぇ……遅かったんだ……」


 6人+2人はメイが寝ている間にその話を聞いていた。

 むしろ8人がその前に聞いていなかったため、メイの捜索が行われたのだが。


「でもよ、具体的なことは何も聞いてねぇ。教えてくれねぇか?」

「……聞けた方が助かる」

「あー、もしかして機密なのかな?マイリアは何か聞いてる?」

「彼らよりはもう少しだけ詳しく知っていますよ。部隊に入るのなら、話しても問題はありませんね」

「僕も確認したけど、大丈夫なはずだから」

「そっか。じゃあ言うね」


 談話室で話す内容ではない気もするが、今の基地のゴタゴタ具合では防諜を気にしていられる状態ではない。

 そういうわけで、問題はあるが問題はなかった。


「みんなにはミカエルの兄弟機、エンジェルシリーズに乗ってもらうことになるよ。ミカエルよりは扱いやすいはずだけど、癖が強いかもしれないから気をつけてね。いつ乗れるのかとか、それと誰がどの機体に乗るのかとかは聞いてないよ」

「おう、了解だ」

「まあ、乗れるのだってラッキーなんだし」

「それで、私達は配属先の部隊が来るまでは暫定的にハワイ基地に所属、正式に配属されたらその部隊に従うから。それで配属先の部隊が来るのは1週間後らしいんだけど……私が個人的に知ってることで、配属先は技術試験隊の1つらしいよ。その後は分からないけど……多分、西に行くと思う」

「西?」


 ハワイの西。そこはエンジェルシリーズにとって、縁の強い敵がいるかもしれない場所。


「日本に。襲ってきた機体、多分日本の機体が元になってるはずだから」

「それは……リントが言ったこと、なんだね?」

「うん。それにルシファーも、リントの仇も、そこにいる。だから私は……!」

「メイちゃん?」

「大丈夫?」

「ごめん……大丈夫」


 そして、それはメイにとっても。

 真実を知らず、心が弱った彼女にとって、そこは代わりの目的があるかもしれない場所。意気込み、また感情が表に出るのは当然だった。

 とはいえまだ出発できないので、今は今やるべきことを進める。


「マイリア。そういうわけだから、多分総代は……」

「分かっています。メイ、貴女は自分のために頑張ってください」

「えへへ……ありがと。優しいね、マイリアは」

「幼馴染とは違いますが、長い付き合いなんですから。貴女のことはよく知っていますよ」

「そっか。じゃあ、もっと知ってみる?」

「あら、良いかもしれませんね。メイは可愛いですから。この後、(わたくし)の部屋に来ていただけますか?今晩は寝かせてあげませんので」

「え、あ、いや、そんなつもりじゃ……」

「ふふふ、冗談です」

「マイリアにもやられた⁉」


 そして普段より注意力が減っているところを狙われた。全員爆笑、メイも怒りつつ笑っている。

 ただまあ、やるべきこと……というよりは気になることならまだあるのだが。


「そういえばメイちゃん。これって、ボク達7人って部隊を作るってこと?」

「多分……あ、隊長ってどうなるのかな?みんな少尉って」

「ん?オレらは准尉だぜ?」

「え?」

「ということは、メイが隊長みたいね」

「……それに、先任だ」

「それで良いと思うよ。メイにはリーダーシップもあるから」

「え、でも、こういうのは……」

「あいつの代わりはおめぇがやれっての。オレらには出来ねぇよ」

「……うん、分かった。でも、威張ったりはしないからね?」

「出来ないよね」

「それも出来ねぇよな」

「……無理だ」

「出来ないでしょ」

「僕もそう思うね」

「無理だろ」

「無理でしょう」

「メイ、変に気合を入れないように」

「うわ、みんな酷い!」


 ある意味信頼されているということだが。それに全員笑っているので、これも友人同士のたわいのないやり取りに過ぎない。

 やられた当人はともかく。


「もう!それで、もう無いの?」

「そのようですね」

「大丈夫なんじゃないかな」

「じゃあ隊長命令。明日の朝食のデザートを私に渡すように」

「横暴だ!

「酷ぇ!」

「暴政はんたーい!」

「ストライキ!ストライキ!」

「色々と酷いよ、もう」

「……まったく」

「罪に罰は当然。それからニーネとアクト!何で呆れてるの!」

「それはまあ……」

「……ああ」

「ふふ。まったく、メイはいつもそうですね」

「マイリアまで!」


 そんな感じで煽ったり煽られたりしたため、冗談の言い合いはしばらく続いていた。

 そしてほぼずっと叫んでいたメイだが、これは彼女にとっても良い結果になったようだ。












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