化け物
「お嬢様、お夕食の時間でございます。」
「…分かりました。」
読んでた本を閉じ、椅子から立ち上がる。
ふんわりと広がるスカートに目を奪われながら廊下を進む。
長くなった前髪は世界を遮断し、最小限の情報しか入れない。
この生活、慣れないなぁ…
毎日執事さんに起こして頂いて、堅苦しい食事マナーで食事して、礼儀作法を叩き込まれて…
庶民だった私にとっては辛い。
勉強は執事さんが教えてくれるからいいけど…
「遅かったな。」
「すみません…」
目の前にどっかりと座る叔父様に一礼して席に着く。
目の前に並ぶ食事を機械のように口に運ぶ。
…美味しく、ない。
柔らかい何かをただただ咀嚼する。
味はしない。
食べていて吐き気がする。でも、残すのは勿体無いので頑張って食べる。
一番苦痛な時間だ。
「どうだ?生活には慣れたか?」
「はい。お陰様で。」
教え込まれた礼儀作法を使って機嫌を損ねないように返答する。
作り笑顔を貼り付けて、穏やかな声音で話す。背筋は伸ばして、目を逸らさない。
…相手が一番喜ぶ返答を。
「そうか。それは良かった。」
「…はい。」
それ以降会話が途切れる。
カチャカチャとお皿とナイフが触れ合う音以外何も聞こえない。
早く部屋に帰りたい。ここに居たくない。
「御馳走様でした。お先に失礼致します。」
「今夜、部屋に来なさい。話がある。」
「…分かりました。」
席から立ち上がり、早足で部屋に戻ろうとすると声をかけられる。
部屋で話…?嫌な予感しかしない。二人っきりで話した事なんてないのに。
行きたくないけど…行かなくちゃ。
部屋に戻り、お風呂に入る。
急いで髪を乾かして、パジャマの上からカーディガンを羽織る。
コンコン
「失礼いたします。紫音です。」
「入れ。」
初めてここに来た日と変わらぬ景色。
どっかりと椅子に腰かけ、私を見下ろす叔父様。
「お話とは…何でございましょう。」
「この国の昔話は知ってるか?」
「…いいえ。」
何で昔話…?全く意図が掴めない。
「そうか。この本なのだが…」
トン、と机に置かれた薄い絵本は見覚えのない題名だ。《不幸の子》…?
ぱらぱらとページをめくってお話を読む。
『昔々、あるところに左右の目の色が違う女の子が居ました。その子が生まれた年、その国で大飢饉が起こりました。その子が大きくなっていくにつれて大地震、大洪水、大火事、病の流行…など沢山のことが起こりました。その子の親は女の子を産んだ直後に亡くなり、その子は孤児でした。国を転々とし、その子が国に訪れるたびに訪れた国が滅びました。初めはただの不幸と思われていましたが、この子が訪れた国…全てが滅んだ事からこの子は12歳で危険と見なされ処刑されました。それからと言うもの不幸は起こらなくなりました』
…左右の目の色が違う。これってオッドアイ…?
「このお話からオッドアイの子は不幸の子と呼ばれる。」
「…ッ!」
まさか…呼ばれた理由って…
「お前、オッドアイだろ?」
「ち、違います。」
「じゃあ前髪を上げてみろ。」
「…嫌です。」
「何故だ。オッドアイじゃ無いのなら上げても別に構わんだろう。」
「……。」
ギュッと前髪を撫で付けて部屋から出ようとするが、時既に遅し。
叔父様は私の手首を掴み、強引に前髪を上げようとする。
「やめて下さい!離して!」
「お前が来たからうちの家の収入がガタ落ちしたんだ!どうせお前のせいだろ!」
「ぁ…」
非力な私では叔父様の腕力に勝てなくて…
前髪が叔父様の手によってあげられる。
光が直接目に入ってきて眩しい。
叔父様の瞳に私が映る。
「…化け物が。」
「…。」
「おい、コイツを地下に閉じ込めておけ。」
背後にある扉が開き、私の執事さんが出てくる。
「かしこまりました。ご主人様…」
「執、事さん…」
ギリギリと締め上げられた首が苦しい。
だんだん息が、苦し…く…
最後に見えたのは悲しげな顔をした執事さんの顔だった。
オッドアイって素敵だよね
私は好きだなぁ…




