僕の豚さん-百物語四話-2
「ただいまー。お腹空いた!何か食べるものー!」
「おかえりなさい。お夕飯はまだなのよ」
学校から帰ってきた彼はさっそく食べるものを要求しました。食べるものはもらえないとわかっていても言わずにはいられなかった。
「くそっ」
厳重に鍵のかかっている冷蔵庫を蹴りました。
彼の母は暴力に体を縮こませました。
だけど、彼の為を思って絶対に食べ物は渡しません。
彼は舌打ちをして自分の部屋に向かいました。
ペットのミニ豚と遊んで気を紛らわせようと思ったのです。
ふふっ、豚が豚と遊んでるなんておかしいと思いませんか?
「おーい、豚。帰ったぞー」
彼は乱雑にバックを投げ捨て、部屋の隅で水を飲んでいる豚を呼びました。
豚は彼に呼ばれると嬉しそうに振り向きます。そして短い足でトコトコと歩いて彼の腕に飛び込みました。
彼は豚を抱き上げるとニコニコし始めました。さっきまでの不機嫌なんて消えてしまいました。
手に温かくて滑らかな豚がずっしりとします。
「豚はかわいいなぁ。なんてったって僕の仲間だもんなぁ。かわいいなぁ。食べちゃいたいくらい」
空腹が極限に達している彼は危ない目で豚を見ました。
豚を食べちゃいたい、豚を食べちゃいたい、豚を食べちゃいたい、食べたい、食べたい、食べたい、食べたい。
「ピギャアーー!!」
彼は豚に頭からかじりつきました。
がぶっとね。
部屋に血が飛び散り、肉の切れる嫌な音がしました。
共食いですよね。
彼の食べて食べて食べまくったアゴの力で豚が食いちぎられます。
あれ?皆さん。何変な顔をしてるんです?
怖い話じゃなくて残酷な話だ?
えっ?僕はまだ怖い話しをしていません。
まあ、豚の話はこれくらいにしましょうか。
それで豚は綺麗に頂かれたわけです。
「あー、美味しかった」
何ヶ月かぶりにお腹いっぱい食べた彼は笑いました。
晴れやかな気持ちでした。
まるで心も体も生まれ変わったような。
………そこで、彼はふと気付いたのです。
おかしい。
何だか本当に体が軽い。
そして、何だか眠い。
ベッドに倒れこむように寝る前、ちらっと見た自分の姿はとてもスリムで美しい姿でした。
………何かいい匂いがする。
次に彼が目を覚ますと大きな器に豚肉や牛肉の焼いたものが目の前にありました。
よっぽど嬉しかったのでしょうね。
すぐに鼻を突っ込んで食べていました………いたそうですよ。
「おいしいかい。僕の豚さん」
優しい声がして頭を撫でられますが、もう彼の頭には食べることしかありませんでした。
………そこまで食べたい人の気持ちはちょっと分かりませんね。
生きられる分だけ食べれば良いのです。
そうそう、それで怖い話ですね。
実は最近彼によく似た人を見かけるのです。
太っていて食べることが好きな彼に。
こう、焼肉とかジュースを食べながら、とりとめもない頭の悪い話しをする。
えっ、友達だから見かけておかしくないだろうって?
うーん、それが彼はもうこの前死んでしまったようなものなので。
それに、僕が見た彼はね首から下がないのですよ。
こう、ぼたぼたって首から食べたジュースとか食べ物は落ちているのです。
ふふっ、お腹一杯にならないって怖いですよね。餓鬼みたいで愛らしいですけどね。
………もしかしたら、頭から丸かじりされて首で食いちぎられた体を譲ったからなのかもしれない。
どことなく透けてるし。
豚になったんだか幽霊になったんだか、死んでも中途半端なやつだな。
あ、独り言です独り言。
あっ、ちょっと僕の椅子の周りなんかジュースみたいなので汚れているから掃除してもいいですか。
モップかりますね。
僕は綺麗好きなんです。
ふふっ。




