娘は転生者-百物語五話-2
「百花、今日も幼稚園楽しかった?」
「うん、楽しかったー」
幼稚園にお迎えに行くと、百花が促されなくてもスタスタと出てくる。
前はもっと遊びたいと駄々をこねたりしたのに。
「百花ちゃん、ずっと退屈そうに元気なさそうにしてました。好きな絵本も興味がなくなったみたいですし」
担任の先生が出てきて申し訳なさそうに耳打ちする。前と違って自分のせいでもあるかもしれない、と思っているのだろうか。
「百花ちゃんと色々コミュニケーションとってあげてください」
あ、やっぱり私が悪いのか。
私は下を向いたままうなづいてみせた。
横目で見ると、百花は薄い笑顔できちんと立っていた。
+++
「あなた、百花じゃないでしょ?」
家に帰ってきて、百花にお茶とお菓子を出した。
ううん、百花じゃない。偽物だ。
幸い夫は今日は残業だ。話し合いには最適だった。
「何言ってるの、ママ。私は百花よ」
百花がびっくりしたような顔をしてみせる。
まるで大人が表情を作ってるみたいな。
正直、ソレは気持ち悪かった。
「百花なら分からなくて急に泣き出すわね。百花ならお友達と元気いっぱい遊ぶし、私にこまっしゃくれた事言いながら私に甘えてくるし。百花なら絵本に退屈しないし。百花ならまるでヒマワリみたいな笑顔だし。百花なら時々可愛い駄々こねをして私を困らすし。百花、百花!!」
もう限界だった。
私の頬を涙が伝う。
私の子は何処へ行ったのか。こんな可愛げのない大人みたいな子は私の子じゃない。
しばらく私は泣いていた。
私の子がいないと思うと胸が張り裂けそうだった。
「ごめんなさい」
偽物がポツリと呟いた。
「どういうことか教えてくれる?」
私は涙を急いで吹きながら偽物に向き直った。
「落ち着いて聞いてね。私は前世の記憶が蘇ったの。前にOLだった時に交通事故で死んで、この子に生まれ変わったの」
少しずつ偽物が語る。
「でもね、私は百花ちゃんと別人というわけではないわ。百花ちゃんと融合したの」
トンデモナイことだ。
平気な顔で喋っている偽物が許せなかった。
私の百花を乗っ取ったのだ。
私は顔が怒りで歪むのが分かった。
「だから、私は百花よ」
偽物がそう言った瞬間、私はテーブルを強く叩いていた。百花の体に危害を加える訳にはいかない。
「いつ、その体を出ていってくれるの?OLさん」
私の剣幕に偽物は驚いたようだった。
だけど、私が百花に暴力を振るうはずはないと思ったのか薄く笑う。
「この世界は乙女ゲームの世界で高校生になったらゲームがスタートするわ。私はそれを無事に過ごさないと退学になっちゃうの」
頭がおかしい。
偽物は頭がおかしかった。会話が噛み合わない。
退学なんて百花に合わない学校、こっちから願い下げだ。
「乙女ゲームは私が好きだったゲームでね。私に任せてくれれば無事な高校生活を送れるわ」
馬鹿じゃないんだろうか。
いくらゲームと酷似していても、ここは現実だ。高校までにも生活はある。
それまで私はこの偽物と生活しなければならないのだろうか。
「百花を返して」
端的に用件を言う。握った拳が震えていた。
百花の体が人質に取られている。他人のOLに。
「だから、私は百花よ」
その薄い笑顔に、私の中の何かが切れた。
頭の中でブツンという音がする。
頭の髪の毛を鬱陶しくて思い切り引きちぎる。痛くない。
血も出るが次々と引きちぎる。
ここは何処?
ゲームの世界?
だから百花はいないの?
自分の長い髪の毛で、自分の首を思い切りしめた。苦しくない。
百花が側にいない苦しみに比べたら、苦しくない。
「ぁああああ〝あ〝!!百花!大好きよ愛してるの!いやぁー!」
誰か助けて欲しい。
私の百花を返して欲しい。
健康な子に産まれて。
私が死ぬ思いして産んで。
乙女ゲームとか馬鹿にしてる。
馬鹿ばっかり。私も馬鹿だわ。
自分の首を絞めながら苦しい息の中笑った。
そして視界が徐々に暗くなっていった。
+++
それで、あっ。
この頭はカツラです。お恥ずかしい。
百花は帰ってきたんです。
気絶して起きたら、「ママぁ、大丈夫?」ってちょっと舌足らずな可愛い百花が居たんです。
私の額には濡らしたタオルが載ってて。
しかも百花が自分のポケットタオルを水で濡らして、不完全に絞ったからビチャっとしててね。
可愛いでしょ?優しい子なんです。
幼稚園でも楽しく遊んでるって先生も言ってるし。私の読む絵本もヒマワリみたいな笑顔で聞いてくれるし。
時々、長靴履きたいって困らせたり、新しいおもちゃおねだりしてくるけど。
夫も私に疲れただろうからゆっくりしておいでってこの会にも送り出してくれて。
私、幸せです。
皆さんも気をつけてくださいね。
子供が偽物になんて変わらないように。
百花可愛いんですよ?
写真見ますか?




