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日常のカラディシア  作者: 空港ヨハンナ


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2/5

ベッド売り場

Oic Marketにベッドを買いに来たヨハンナ。

選ばれたのは…。

 Oic Marketの家具売り場は、食品売り場からずいぶん離れた建物の奥にあった。


 天井が高い。


 白い梁から吊るされた照明が、広い床を昼間のように照らしている。床には灰色のカーペットが敷かれ、その上にベッドが規則正しく並んでいた。


 S、M、L、LL、XL。


 食品容器と同じような調子で札が立っている。


 最も安いものは、金属製の脚に板を載せ、その上に薄いマットレスを置いただけだった。飾りらしい飾りはない。隣には少し厚いマットレス。その隣には木製のフレーム。さらに進めば、引き出し付き、照明付き、棚付きと、値段に応じて少しずつ何かが生えてくる。


 壁際にはマットレスが立てて並べられていた。


『硬い』


『やや硬い』


『普通』


『やや柔らかい』


『柔らかい』


 ずいぶん率直だった。


 枕も山積みになっている。


 羽毛。綿。低反発。蕎麦殻。


 蕎麦殻だけ妙に種類が多い。


 売り場のところどころには、小さな札が立っていた。


『どうぞ横になってお試しください』


 実際、横になっている人がいた。


 若い女が仰向けになってRowenaを眺めている。老夫婦が二人並んで寝返りを打っている。少し離れたところでは、子どもがベッドからベッドへ飛び移ろうとして母親に捕獲されていた。


 さらに奥には、高級寝具の一角がある。


 照明が暖色に変わった。


 カーペットが厚くなった。


 ベッドとベッドの間隔も広くなった。


 値札の桁も増えた。


 その境界を越えたところで、なぜか棺桶が一つ置かれていた。


『Oic PB 木製棺 L』


 寝具ではない。


 その隣には普通のベッドがあった。


 さらに隣にはソファ。


 そのまた隣にはベンチがあった。


 ヨハンナは立ち止まった。


「……へぇ」


 どういうわけか、ベッドより先にベンチを見た。


「こちらにベッドがありますが」


「良いねぇ。ところで、これのXLサイズはあるかい?」ヨハンナは棺桶を指差した。


「……こちらに」


「待ちなよ」


「はい」


「あれ、ベンチかい」


「はい」


「売ってるんだねぇ」


「ベンチを好むお客様もいらっしゃいますので」


「試しても?」


「どうぞ」


 ヨハンナはベンチに腰掛けた。


 両手を座面につき、何度か体重を預ける。


「なるほどねぇ」


 横になった。


「…………」


「…………」


 仰向けになる。


 寝返りを打つ。


 横向きになる。


 腕を枕にした。


「…………」


「いかがでしょうか」


「良いねぇ」


「ありがとうございます」


「硬い」


「ベンチですので」


「そこがいい」


「左様ですか」


 ヨハンナは目を閉じた。


「…………」


「お客様」


「試してるよ」


「はい」


     *


 二十分後。


「お客様」


「ん」


「ご購入なさいますか」


「もう少し試すよ」


「左様ですか」


     *


 一時間後。


 店員は売り場主任を連れてきた。


「こちらのお客様です」


「どうされました?」


「ベンチを試されています」


「一時間ほど」


「なるほど」


 三人でヨハンナを見る。


 寝ていた。


「…………」


「…………」


「……寝具売り場に移動していただいては?」


「先ほどベッドをご案内しました」


「断られた?」


「ベンチのほうが良いそうです」


「なるほど……」


 主任は商品札を見る。


『Oic PB 屋内外兼用ベンチ 4,800レフ』


「まあ、耐久試験にはなるか」


「主任」


「起きたら感想聞いといて」


「はい」


     *


 三時間後。


「よく眠れたよ」


「ありがとうございます」


「これを一つ」


「お買い上げですか?」


「うん」


 店員の顔が、ほんの少し明るくなった。


「配送先はいかがいたしましょう」


「外務省」


「…………」


「執務室に置こうと思ってねぇ」


「用途は?」


「昼寝」


「ベッドでは?」


「それじゃ仕事中に寝てるみたいだろう?」


「ベンチでも寝ておりますが」


「ふっふっふ」


 店員は黙って配送票を出した。

ちなみに、ここにはハンモックやお布団、テントもあります。


 Oic Market一号店。開店数日前。

 まだ値札の付いていない商品も多く、店員たちが棚と棚の間を慌ただしく行き来していた。

「おや、寝具コーナーかい」

「左様で」

 ヨハンナは両手を後ろに組み、売り場を歩く。

「いいねぇ。ベッド、お布団、ハンモック、テント……」

 足を止める。

「……棺桶」

「はい」

「なるほどねぇ」

 さらに歩く。

 そして、振り返った。

「あれ?」

「いかがなさいましたか」

「ベンチがないねぇ」

「…………」

「ここにベンチを置こうよ。カタログもね」

「……承知しました」

     *

 数年後。

「ベンチを好むお客様もいらっしゃいますので」

「試しても?」

「どうぞ」

 ヨハンナは満足そうに腰掛けた。

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