Oic Marketの片隅にて
カラディシアには、スーパーマーケットがある。
Oic Marketだ。
今日はそこのライ麦パン売り場を見てみよう。
「この高級ライ麦パンを」
「少々お待ちください」
深いテノールだった。
白い手袋をはめた燕尾服の店員が、ガラスケースへ向き直る。
厳かに。慎重に。しかし優雅で、淀みのない動きだった。
鍵を開ける。
そして、ライ麦パンの塊を両手で取り出した。
「こちらでお間違いないでしょうか」
「は、はい……」
「状態をご確認ください」
銀色のトレーの上に載せられたライ麦パンを、客は緊張した面持ちで覗き込む。
「触れても?」
「生憎ですが、それは」
「あっ、はい」
店員はパンを持ち上げた。
底面。
側面。
反対側。
そして上面。
ゆっくりと一周させ、三百六十度、全方位からコンディションを提示する。
「……わたし、これ買うの初めてで。目利きが……」
「私から見ても、素晴らしい一品かと」
「そうなんですか」
「はい。本日の入荷品では、特に焼き上がりの均整が取れております」
「……こちらのライ麦パンを見ても?」
「少々お待ちください」
最初のパンがガラスケースへ戻された。
次のパンが出てきた。
*
数分後。
「ありがとうございました」
燕尾服の店員が深々と一礼する。
客は両腕で箱を抱えていた。
中身はライ麦パンである。
店を出る。
その真正面にOic Marketがあった。
『ライ麦パン 500g 70レフ』
山積みだった。
客は自分の箱を見る。
もう一度、70レフを見る。
「…………」
箱を抱き直した。
「違うから」
誰も何も言っていなかった。




